■映画祭の中で見た幻は、過去との決別を暗示しているのかもしれません
Contents
■オススメ度
クラシックムービーが好きな人(★★★)
ウディ・アレンのファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.20(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Rifkin‘s Festival(リフキンの映画祭)
情報:2020年、スペイン&アメリカ&イタリア、88分、G
ジャンル:映画祭に参加した関係のさめた夫婦を描いたラブロマンス映画
監督&脚本:ウディ・アレン
キャスト:
ウォーレンス・ショーン/Wallace Shawn(モート・リフキン:売れない作家)
(少年期:Cameron Hunter)
ジーナ・ガーション/Gina Gershon(スー:モートの妻、フィリップのプレスエージェント)
ルイ・ガレル/Louis Garrel(フィリップ:フランス人映画監督)
Enrique Arce(トマス・ラペス:モートの友人、スーの元同僚)
Andrea Trepat(ジョー・ロハス先生の診療所の受付)
Elena Anaya(ジョー・ロハス:モートが惚れ込む女医)
Douglas McGrath(ギル・ブレナー:トマスの友人、ロハス先生の元患者)
Ben Temple(クライン:スーの知り合いの皮膚科の先生)
セルジ・ロペス/Sergi López(パコ:ロハスの夫、画家)
Georgina Amorós(ドロレス:パコのモデル、不倫相手)
【現実パート:その他(登場順)】
Michael Garvey(モートの精神科医)
Damian Chapa(フェスティバルの参加者)
Bobby Slayton(フェスティバルの参加者)
Stephanie Figueira(ホテルの記者)
Luz Cipriota(ホテルの記者)
Godeliv Van den(ホテルの記者)
Manu Fullola(ホテルの記者)
Pablo Sevilla(会場のレポーター)
Brian Flanagan(会場のレポーター)
Elena Sanz(カクテルパーティーのゲスト)
Rick Zingale(カクテルパーティーのゲスト)
Ken Appledorn(カクテルパーティーのゲスト)
Sophie Sörensen(ロハス先生の電話相手)
Linnea Larsdotter(ロハス先生の電話相手)
【妄想に登場】
Richard Kind(モートの父)
Nathalie Poza(モートの母)
Itziar Castro(ガーデンの太った女)
Isabel García Lorca(ワインスタイン先生)
Richard Carlow(マインツ師)
Yuri D. Brown(神父)
Carmen Salta(マルシア・コーエン:モートの近所の女の子)
Steve Guttenberg(モートの弟)
Tammy Blanchard(ドリス:モートの弟の妻)
Nick Devlin(昼食会のゲスト)
Yan Tual(ポール:昼食会のゲスト)
Natalia Dicenta(昼食会のゲスト)
Karina Kolokolchykova(夕食会のゲスト)
クリストフ・ワルツ/Christoph Waltz(死神)
■映画の舞台
スペイン:
サン・セバスチャン/Donostia-san Sebastían
https://maps.app.goo.gl/3imbage3QKwUqFW3A?g_st=ic
サンテルモ博物館(カクテルパーティー)
https://maps.app.goo.gl/k9yrMZJ5d6egUuPBA?g_st=ic
ビクトリア・エウヘニア劇場(『勝手にしやがれ』鑑賞の映画館)
https://maps.app.goo.gl/2jMYnBEocCAYf8rn9?g_st=ic
マリア・クリスティーナ・ホテル(テラスの食事)
https://maps.app.goo.gl/gqtsVVzmUQFdozAT7?g_st=ic
ロケ地:
スペイン:
サン・セバスチャン
スマイア/Zumaia
https://maps.app.goo.gl/ZqAqoJTZrqpXbJvP6?g_st=ic
パサイア/Pasajes de San Juan
https://maps.app.goo.gl/ZsHDFuFct6daHmmh6?g_st=ic
Mirador de Ulía(レストラン)
https://maps.app.goo.gl/zGcNYF2U4jYJ9HgH9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
ニューヨーク在住の作家モートは、フランス人映画監督のフィリップのプレス・エージェントをしている妻スーと一緒に、スペインで行われるサン・セバスチャン映画祭を訪れていた
モートは妻がフィリップと不倫関係にあると思っていて、それを監視する目的で同行していた
モートはかつて映画を教えていた過去があり、妻の不倫を疑うまでは映画祭も楽しめていた
だが、今では映画祭に楽しみなどなく、妻とフィリップの動向だけを気にしていた
モートに胸の苦しみが出現するものの、妻は意にも介さずに、仕事優先で駆けずり回っていた
そんな折、友人のトマスに出会ったモートは、近くの診療所のジョー・ロハス医師を紹介される
予約を取って診療所に向かうと、そこには美しい女医がいて、モートは違う意味で鼓動が激しくなってしまう
その後も、どうでも良い症状で診療所に出向いていたモートだったが、ある夕方の診察後に彼女と夫の修羅場に遭遇してしまうのである
テーマ:人生を輝かせるもの
裏テーマ:リスタートの布石
■ひとこと感想
ウディ・アレンは世代ではなく、最近公開分ぐらいしか観ていないにわかなので、劇中のクラシカル映画は「名前しか聞いたことがなかった」ですね
なので、有名なシーンをそのまま再現していることはわかるのですが、元ネタが瞬時に思い浮かぶと言うものではありませんでした
映画は、冷め切った夫婦が映画祭に来ると言うもので、そこでは不倫相手とバレバレの映画監督まで登場します
表向きは仕事のクライアントのように見せかけていますが、友人が遠目に見て「恋人同士」と誤認するほどでしたね
決定機というよりは、お互いの気持ちを再確認する旅だったと思います
物語としては、すでに終わっている夫婦の距離感を描いていて、妻がしているなら夫もという感じに思えてきます
それなのに、気に入った相手には夫がいて、さらにヤバい奴だったというのは笑うに笑えない状況になっていたように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画を教えていた人と、映画を仕事にしてきた人たちなので、専門用語が飛び交い、古い映画の名前がところ狭しという感じに登場していました
ウディ・アレンの黎明期からのファンだと垂涎ものだと思うのですが、個人的には聞いたことがあるけど見たことないという映画がほとんどでしたね
どの映画も生まれる前のものばかりなので、機会を作って観ないとダメなんだろうなあと思います
映画は、終わっている夫婦の正しい終わり方といったところで、「正しい相手と恋愛すれば」というフィリップの宣戦布告も見られましたね
モートも恋をするものの、診察の途中でやんわりと防御線を引かれまくり、挙げ句の果てには爆弾を背負わされる感じになっていました
基本的にウィットな会話劇になっていて、詩的な言い回しの多い作品だったと思います
「お酒は体には悪いけど、心には良いの」みたいなものから、「僕にとっての最高の景色」を映画のワンシーンに準えるなど、マニア向けではありますが、相手の知的水準を探っているのかなと思いました
一般的なセリフ回しとしては最悪だと思いますが、この世界なら成り立っているように思えてきますね
■劇中引用映画について
【市民ケーン(Citizen Kane)】https://amzn.to/3SwU03b
1941年、監督:オーソン・ウェルズ
新聞王ケーンの生涯を、彼を追う新聞記者の視点で描いていく作品です
モデルがウィリアム・ランドルフ・ハーストだったことで上映妨害運動などが起きた作品でした
第14回アカデミー賞の作品賞他9部門にノミネートされ、脚本賞を受賞しています
【突然炎のごとく(Jules et Jim)】https://amzn.to/49a5Dm2
1961年、監督:フランソワ・トリュフォー
原作はアンリ=ピエール・ロシェの小説で、文学を通じて親友になった二人を描いています
二人は、幻燈会にて、女の彫像に魅入られ、その後カトリーヌという女性と出会って恋に落ちるという内容になっています
映画では、シーツを頭から被る映画として登場していました
【8 1/2(8 1/2)】https://amzn.to/3vQzemi
1963年、監督:フェデリコ・フェリーニ
別題『フェリーニの8 1/2』、フェリーニの8作目に当たる作品で、処女作を共同脚本として、2分の1が付け加えられた映画でした
映画監督のグイドが新作の構想のために温泉を訪れ、そこで現実逃避をしていくという内容になっています
1966年、監督:クロード・ルルーシュ
第19回カンヌ国際映画祭のグランプリ作品
スタントマンの夫を事故で亡くした映画監督のアシスタント女性の物語で、そんな彼女の元にジャン・ルイという男性が現れるという内容になっています
彼もまた、妻を自殺で亡くしていて、女性の娘と同じ寄宿学校に預けているという共通点がありました
映画では、雨の中でドライブするシーンが再現されていました
【勝手にしやがれ(À bout de souffle)】https://amzn.to/3vR0FfU
1960年、監督:ジャン=リュック・ゴダール
ハンフリー・ボガードを崇める主人公が犯罪を繰り返していく作品で、恋仲になった女性も警察に追われている人物でした
一緒に逃げることになるものの、逃げられないと断念した女が警察に通報してしまう、という内容になっています
映画では、賞を受賞したフィリップと一緒に鑑賞をつきあわされる映画として登場しています
【仮面/ペルソナ(Persona)】https://amzn.to/47YGnP2
1966年、監督:イングマール・ベルイマン
若い看護師が訳あり患者の世話をするという物語で、その患者は舞台女優で言葉を発しない人物だった
それは身体的な異常ではなく、彼女の意思によるものと診断されていて、主人公は患者に向き合うという内容になっています
【野いちご(Smultronstället)】https://amzn.to/3tZ5rYd
1957年、監督:イングマール・ベルイマン
名誉学位を受けることになった老教授は、授賞式前夜に悪夢を見てしまい、晴れない心のまま式典に向かうという内容になっています
当日に予定を変更し、小旅行に義理の娘を連れていく、という内容になっています
映画では、あるレストランで両親を見るというシーンで再現されていました
【皆殺しの天使(ángel exterminador)】https://amzn.to/499PmxK
1962年、監督:ルイス・ブリュネル
ある邸宅で行われる夜会にて、従業員が次々と辞めてしまい、執事のみが残ることになりました
邸宅の夫婦と一緒に晩餐の用意をしますが、翌日になると全員が邸宅から出られなくなり、やがてその中から死者が出てパニック状態になる、という内容になっています
映画では、弟夫婦、友人たちと食卓を囲む映画として再現されています
【第七の封印(Det sjunde inseglet)】https://amzn.to/48NSaRo
1957年、監督:イングマール・ベルイマン
十字軍の遠征後のスウェーデンを舞台に、騎士と従者が帰国するところから紡がれます
母国では黒死病が蔓延し、神に救いを求める民衆たちを目の当たりにする、という内容になっています
映画では、死神が登場するシーンが再現されていました
以上、パンフを元に作成しましたが、これらの作品を全部観ているわけでは無いので、映画内再現シーンの全てを明記することができませんでした
■人生を豊かにする恋愛とは何か
本作では、関係が冷め切った夫婦の破綻を描いていて、モートは妻の気持ちを確認するために映画祭を訪れることになりました
映画祭では仕事をしているように見せるスーですが、第三者的に見れば恋人同士に見えているという状態になっています
スーがモートに愛想を尽かしているのは、才能の枯渇というよりは、小説を書けない理由を自分以外に探していて、妄想だけが誇大で、何も生み出していないからだと言えます
スーがフィリップに惹かれるのは、現在進行形で作品を生み出しているからで、彼の作品を世にもっと広めるためのプレス活動に勢力を注いでいました
なので、才能ある人物をもっと観てほしいという願望があり、その前提として作品を生み出すというものが必要となります
モートも自分の理想を小説に落とし込んで作品を仕上げて行けば状況が変わったと思いますが、1ページ書いては破り捨ての繰り返しの末に「何も生み出していない」というのは魅力的に思える人の方が少ないと言えます
作家は自分の身近な出来事を作品に落とし込むのですが、スーもモートやフィリップの作品のどこかに登場しているのですね
直接的な描写がなくても、その中に自分がいると感じられるもので、スーが作家に恋をするのは、相手が自分をどのように観ているかを知ることができるからとも言えます
そして、その賞賛は作品の中に生きる自分への賞賛にも繋がっていくので、さらに広報活動に力が入り、さらに関係性を深めたいと考えることになります
この観点からすれば、モートがスーに対して行っていることは、「あなたが隣にいても作品の中に落とし込む魅力が無い」と言っているのも同然で、それを他人のせいにしている部分もありました
それはモートがスーとの結婚生活から何もインスピレーションを受けていないと言っているようなもので、そんな彼が動く理由になっているのが「スーの浮気」というところに限界点があったように思います
モート自身が自分の魅力を見失っているという部分はありますが、相手のために何かをしてあげたいという欲求すらスーには見出せないということになっています
これがモートだけの責任かどうかは何とも言えませんが、ロハス医師の出現で心がときめくように、彼自身が終わっているとは言えないところに軋轢の素があったように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、スーとの関係を終わらせるモートが描かれていますが、その予知夢的なものとして古典映画がたくさん登場していました
パンフレットに登場する映画は載っているのですが、世代が違いすぎて名前ぐらいしか知らないものが多かったですね
古典的な素養を深めるために観ておいた方が良い作品リストという感じになっていますが、「この映画のこのシーンが引用されているのにはこのような理由がある!」というところまでは正直なところわかりません
どんな映画なのかを調べてみても、ピンと来るのは数作品だけだったりします
本作では、終わっている夫婦がそれぞれの道を歩むという内容になっていましたが、女性は新しい男性を見つけ、男性は男女関係から自由になるという結論になっていました
このあたりが監督の味なのかもしれませんが、何歳になっても異性を欲する女性と、そう言ったものから解放されても良い男性という描き分けをしているようにも思えます
性的なシーンは映画ではあまり登場しませんが、男女の性的な快楽という点においては、女性の方が長続きするのかなという印象があります
逆に、男性の方は性的なものが枯れないとしても質が変わっていくように思うのですね
それがロハスとモートの関係にも現れていたように思えました
映画は、恋愛欲求を達観した世代に向けられたもので、相手に求めるものが変化して、最終的には交わらないという感じになっていたように思います
愛する女性を喜ばせるのが「自分ではなくても良い」という瞬間が訪れていて、スーを簡単に手放したのも、ロハスに固執しないのも、そう言ったモートの性格と年齢が影響していたのかなと思いました
そう言った意味では、監督自身の哲学がそこにあるような気がしますが、まだまだ現役だよと怒られるかもしれないので、このあたりでやめておくとしましょう
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100509/review/03386497/
公式HP: