■クリスティンが聖リタになれるかはわからないが、原題の意味を知ってからの方が良さそうな映画ですね
Contents
■オススメ度
移民問題に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.22(アップリンク京都)
■映画情報
原題:The Saint of the Impossible(不可能の聖人=聖リタ)
情報:2020年、スイス、97分、PG12
ジャンル:クロアチア移民の少女に恋をしたペルーからの不法滞在兄弟を描いたヒューマンドラマ
監督:マーク・ウィルキンス
脚本:ラニ=レイン・フェルタム
原作:アーノン・グランバーグ『De heilige Antonio(1998年)』
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キャスト:
アドリアーノ・デュラン・カストロ/Adriano Durand Castro(ポール・アンディーノ:ラファエラの息子)
マルチェロ・デュラン・カストロ/Marcelo Durand Castro(ティト・アンディーノ:ラファエラの息子)
タラ・サラー/Tara Thaller(クリスティン:兄弟が恋をするクロアチア移民の女性)
マガリ・ソリエル/Magaly Solier(ラファエラ・アンディーノ:ペルーからの不法移民、兄弟の母)
サイモン・ケザー/Simon Käser(エワルド・クレイグ:ラファエラにアプローチするスイス人官能小説作家)
Elizabeth Covarrubias(ルーチャ:ラファエラの友人、ダイナーのウェイトレス)
John F. Sarno(サイモン:ラファエラの雇い主、ダイナーの店主)
Vincent Chan(リウ:兄弟の雇い主)
Qurrat Ann Kadwani(ステイタム:移民局の女性職員)
Michael Raymond Fox(移民局の職員)
Juan Szilagyi(ニューヨーク市警の警官)
Chris Valenti(ニューヨーク市警の刑事)
Ralph Bracco(ニューヨーク市警の刑事)
Brian Dole(ジェイク:クリスティンの恋人)
John Palacio(ジョン・クライ:英語学校の先生)
Miss Sandra Mhlongo(ノムサ:英語学校の生徒)
Kiat-Sing Teo(ミン:英語学校の生徒)
Carla Carvalho(英語学校の生徒)
Pascal Yen-Pfister(コルトマン:高圧的なクリスティンの客)
Damian Muziani(帽子を被る客)
Peter Williams(耳垢の男)
Ratnesh Dubey(アダーシュ:銀行の送金係)
Jocelyne O’Toole(ラファエラに噛み付く母)
Kellen Tetlow(ジェイソン:パスタを吐く少年)
Kaori Eda(ラファエラを匿うコインランドリーの客)
Maxmillian Robinson(キスをするカップル)
Joseph Covino(ペルーにいる兄弟のおじ)
■映画の舞台
アメリカ:ニューヨーク
ペルー:
ロケ地:
アメリカ:ニューヨーク
ペルーのどこか
■簡単なあらすじ
ペルーからの不法滞在者であるポールとティトは、英語学校に通いながら、レストランの配達員をして過ごしていた
母ラファエラは時折男を引き込むが、それ以外は近くのダイナーで働いていた
ある日、ポールとティトの通う教室にクロアチア移民のクリスティンがやってきた
その美しさに心を奪われた二人は、何とか話す機会を作ろうと躍起になっていた
一方その頃、ラファエラに惚れ込んだスイス人の官能小説作家のエワルドは、その推しの強さで自宅まで訪れる
そして、その関係は長く続き、ラファエラに独立して事業を始めないか?と提案をするのであった
テーマ:優しくする理由
裏テーマ:移民の不遇
■ひとこと感想
邦題だけを見ると、ニューヨークの古いアパートに住んでいる人たちの恋愛映画か何かかなと思っていました
始まってみると、どうやら兄弟が入れ込んだ女性の話のようで、二人の母親が行方不明になった息子を探すという内容になっていました
母が自宅に帰ると、「移民福祉局」の張り紙があり、不法滞在の強制捜査が入ったように思えます
その後の展開は、現実パート(母が探す)と回想パート(兄弟が行方不明になるまで)を交互に描いていく構成になっていました
ある理由で体を売っているクリスティンに恋する二人ですが、その関係はピュアなものだったはずなのに、どんどんおかしな方向へと向かっていきます
そして、決定機によって事件が起き、それに巻き込まれていた、という真相が後半になって暴かれるという内容になっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、回想が主体の物語になっていて、その切り替わりが結構わかりづらい感じになっていました
兄弟の登場は回想で、母の場合は額の傷が見分け方のようになっていました
物語は、クリスティンに恋した兄弟がピュアな関係を築きながらも、クリスティン側の問題によって、童貞を捨てるに至っています
どちらも超淡白で、入れた瞬間に果てている感じになっていましたね
クリスティンは恋人のジェイクのために稼ぎ、弁護士に金を入れていたのですが、これはおそらくグルだったのでしょう
彼には妻子がいて騙されていたわけで、その報復は壮絶なものになっていました
警察に関係を聞かれるだけでなく、移民局によってあっさりと強制送還されてしまうのですが、その後、何とかニューヨークに戻ろうとするところで物語は終わっています
邦題は結構意味のわからない感じになっていて、原題は劇中で登場する「聖リタ」を意味する言葉になっていました
■聖リタについて
映画の原題の意味でもある「聖リタ」は「カッシアのリタ」と呼ばれる、15世紀のイタリア・ウンブリア地方にある聖アウグスチノ修道会の修道女のことを言います
1381年に生まれ、列聖したのは1900年のこと、守護する対象は「絶望的状況」「望みがない時」「不可能な願いを抱く人」などの他に、「病気、怪我、母、不妊、虐待」なども含んでいます
彼女は、敬虔な高齢の両親のもとで生まれ、地方の名士と結婚するものの、夫の暴力に晒された人生を送っていました
毎日のように暴力を受けていましたが、信仰を持って絶え抜き、それによって夫は改心するに至ります
それでも、夫に恨みを持つ者によって殺害され、二人の息子はその復讐を企てます
リタは祈るものの、息子たちは死んでしまいました
悲しみに暮れたリタは、カーシアにあるアウグスチノ修道院に入ります
年齢によって断られるものの、4度目の訪問で入会を許可され、自分よりも年下の「先輩」たちの下で修道生活を送ることになりました
ある日、聖堂で祈っていたリタは、十字架のイエス像の棘が飛んできて、それが額に命中してしまいます
その傷はやがて化膿し、その悪臭のために修道女内で隔離され、隠匿生活を送るようになりました
その噂を聞きつけた巡礼者は訪問を繰り返し、隠匿生活を送っていた彼女も高齢ながらにローマ巡礼を行うことになります
1457年に亡くなった際には、彼女の額や遺体から芳香が立ち込め、それによって聖女として認識され、死後557年後の1900に列聖されることになりました
映画では「不可能の聖人」と訳されるのですが、無理難題を克服した人物として認識されています
彼女の守護対象を見ていくと、兄弟と母の生き様が重なるように思えてくるのですね
それを思うと、ペルーからニューヨークに戻って、母と再会できたのではないかと思わせてくれます
■NYで料理屋を始めるには
映画でも言及がありましたが、アメリカで飲食を扱うビジネスをする際には「フードライセンス(食品衛生ライセンス)」というものを所得する必要があります
アルコールを扱う場合には販売許可証(リカーライセンス)」というものが必要で、さらに外国から行って行う場合には、セールスタックスの登録を行う必要があります
これらは食品医薬品局(FDA)の要件であり、連邦、州、地方の要件も満たす必要があります
FDAはアメリカ農務省(USDA)が規制する肉、家畜、および特定の卵加工品を除き、州際通商への導入または販売される食品、および食材を規制しています
食品安全応用栄養センター(CFSAN)は、FDA現地事務所と協力のもと、国内の食糧供給(農務省規定品を除く)が安全、衛生的、健康に対して誠実であるかどうかを確認する職務を担っています
FDAの規制を受けない食品ビジネスもありますが、それは州および地方自治体によって規制されている食品小売店(食料品店、レストラン、カフェテリア、キッチンなど)、ファーマーズマーケットなどのことを言います
家庭用食品ビジネスを始める際には、FDAと州および地方の保健局に届け出をする必要があり、保健機関は食品サービスおよび食品小売店を検査し、食品施設への技術支援の提供、安全性についての教育を施さなければなりません
とは言え、個人の家に関してはFDAへの登録が必要ではないのですね
それでも、営業許可、食品取扱許可、家庭用厨房許可などは必要になってくるし、売上に対する消費税の徴収のために販売者許可も必要になってくると思われます
さらに、何か起きた時の保険は必須で、これがないと訴訟問題に発展した時に大変なことになります
映画では、届け出関連は一切していなかったようですが、その詳細な理由はわかりませんでしたね
とりあえずチクられて捜査が入って営業停止あるいは法律違反というわかりやすさだけで語られていました
衛生状態も最悪なので、食中毒が出ていなくても、踏み込まれたらアウトだったように思えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ペルーからの移民の兄弟が突然現れた美女に恋をするというもので、ハードルが高いことを承知で玉砕していく様子が描かれていました
彼らの当初の目的がセックスとは思えず、ただ関係を繋げておきたいというものがあったのでしょう
他意のないプレゼントを機に「結局、セックスしたいだけか」と開き直られて、そこで否定できなかったことが悲劇につながっているようにも思えました
兄弟にはクリスティンの方で何が起きているか分からず、いきなり出てきた「条件のめばセックスOK」の流れというものは、通常なら怪しさ満点のフラグのように思えます
最後の思い出をあげると言われているようで、あの瞬間的なセックスで彼らが失ったものは大きかったように思いました
人は潜在的な欲望を隠しているものだと思いますが、それが意図しない状況で達成されそうになる時は、何らかの要因が働いていると考える方が良いと思います
映画の場合だと、クリスティンの恋人は詐欺師という問題があり、それは露見しないまま「条件」を突きつけられることになりました
この「条件」というのが「何を誰から聞かれても」という前提で、クリスティン自身を悪く言わないというものだったのですね
このフラグは大きすぎる釣り針のようなもので、これから悪いことをしてきますと告白しているようなものだと思います
ここで欲望に負けずにクリスティンの奥深くに寄り添うことができれば、彼らの人生も関係も変わっていたのでしょう
人の変化の裏側には激流があるもので、それは隠されたもののように見えるのですが、じっくり観察すると見えてくるものがあります
兄弟はクリスティンに彼氏がいることを知り、大金を稼ぐためにコールガールをして、それで得たお金をどこかに送金していることまでは知っていました
恋愛感情も目を曇らせるものですが、正しさというものも同じように視界不良を起こしてしまうものなのですね
ジェイクへの盲目が引き起こした事件も、クリスティンが正しいと思い込んでいるからで、それによって何でもできる、何をやっても間違ってはいないという感覚に陥っています
誰かの正しさというものほど危ういものはなくて、その行動動機を得ている確信というものはなかなか止まるものではありません
この時に、その人の人生に踏み込む勇気があれば、止める、見過ごす、加担するのいずれにせよ、対象者の覚悟というものが生まれます
映画では、そこまでの感情をクリスティンに抱いていないのですが、それが「回想録」として完結しているところにドライな部分として描かれていたのだと感じました
そう思うと、クリスティン目線ではかなり悲しい結末だった、のではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100521/review/03397988/
公式HP: