■彼女が演じた来たものは、誰を欺こうとするものだったのか


■オススメ度

 

スパイ映画が好きな人(★★★)

太平洋戦争前夜に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

https://youtu.be/OjsvOfPe3Q8?si=fcWwynTVvmBugbI0

鑑賞日:2023.11.6(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:兰心大剧院、英題:Saturday Fiction

情報:2019年、中国、126分、G

ジャンル:太平洋戦争開幕直前の上海の7日間を描いたヒューマンドラマ)

 

監督:ロウ・イエ

脚本:マー・インリー

原作:虹影『上海之死』&横光利一『上海』

 

キャスト:

コン・リー/巩俐(ユー・ジン/于堇:有名な女優)

マーク・チャオ/赵又廷(タン・ナー/谭呐:舞台演出家、ユー・ジンと恋仲だった男)

 

オダギリジョー(古谷三郎:日本海軍の少佐、暗号の専門家)

中島歩(梶原:古谷のボディーガード)

渋谷天馬(細田大尉)

 

パスカル・グレゴリー/Pascal Greggory(フレデリック・ヒューバート:フランスの諜報部員、ユー・ジンの養父)

 

トム・ウラシア/Tom Wlaschiha(ソール・シュバイヤー:ホテル「キャセイ」の支配人、ユダヤ人)

アレクサンドル・ロビヤール/Alexandre Robillard(ホテルの受付)

 

ホアン・シャンリー/黄湘丽(バイ・ユンシャン/白云裳:ユー・ジンのファンを公言する女)

ワン・チュアンジュン/王傳君(モー・ジーイン/莫之因:タン・ナーの友人、製作者)

チャン・ソンウェン/張頌文(ニイ・ザーレン/倪則仁:ユー・ジンの元夫)

 


■映画の舞台

 

1941年、

中国:上海(英仏共同租界時代)

 

ロケ地:

中国:上海

蘭心大戯院(劇場)

https://maps.app.goo.gl/3mFbKf1D2Tde9aEL8?g_st=ic

 

国際飯店(パークホテル)

https://maps.app.goo.gl/o6NqPHNmKxgSmDZV7?g_st=ic

 

旧・サッスーンホテル/華懋飯店(キャセイホテル)

https://maps.app.goo.gl/pVka8ByYU8uiSpMUA?g_st=ic

 

礼査飯店(アスター・ハウス・ホテル)

https://maps.app.goo.gl/U5qZZ9aD5sXzuNmX8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

1942年の上海は英仏共同租界状態にあり、日本軍の暗躍も仄めかされていた

欧米諸国は日本軍の暗号解読に躍起になっていて、ある人物をターゲットに「マジックミラー作戦」を企てていた

そんな上海では、舞台演出家タン・ナーの主導のもと、大女優のユー・ジンが彼の舞台に出るために入国していた

 

ユー・ジンは劇場前のホテルに泊まり、そこに養父のフレデリックからの手紙が届く

中には「自分にそっくりな女性と日本の軍人の写真」が入っていて、それが彼女が入国した目的だった

その男の名は古谷三郎と言い、本国から暗号変更についての説明のために上海を訪れていて、暗号解読のために彼の知識が必要だった

 

ある日、古谷はユー・ジンを目撃し、それを行方不明の妻・美代子だと誤認する

そして事件は勃発する

街中で銃撃戦が展開され、古谷は銃弾に倒れてしまう

彼は即座にホテル内にある診療所に運ばれるのだが、そこにユー・ジンが現れる

 

古谷は薬を盛られ、そばに妻がいると勘違いして、変更された暗号と「ヤマザクラ」が示すものを伝えてしまう

そうして、その情報は欧米諸国へと流れていくのだが、そこには落とし穴があったのである

 

テーマ:愛が示す不確かな真実

裏テーマ:嘘を真にする演技

 


■ひとこと感想

 

少し前に制作され、コロナによって日本公開が延期になった作品で、全編モノクロの日中欧のスパイ映画となっています

時期として、真珠湾攻撃7日前ということになっていて、「ヤマザクラ」という言葉が示すものの意味を躍起になって探す様子が描かれていきます

 

日本でも馴染みの役者が登場し、租界時代の上海の無法っぷりが描かれていきます

メインはタン・ナーが演出する舞台の制作現場で、その裏側でスパイが暗躍するというもので、誰もが怪しく見える感じになっていますね

 

少しばかり説明が足りない部分もありますが、そこまで難しい物語ではありません

史実を知っていると、ラストで明かされる「ヤマザクラ」の正体に驚けるのではないでしょうか

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

史実ベースなので、どこまでがネタバレになるのかは分かりませんが、刻一刻と迫る「時」の先に何があるかを知っていると、ラストにユー・ジンがフレデリックに伝えたことの意味の大きさに気づけると思います

結局のところ、真珠湾攻撃は防げなかったということで、ユー・ジンは「ヤマザクラ」をシンガポールと嘘をついていたのですね

どうしてそれを行ったのかは想像の範疇になりますが、租界が解かれることの重みを重視したのかなと思いました

 

映画では、モノクロ映像で室内が多いので、思った以上に暗い映画になっています

なので、結構集中しないとダメなタイプで、中国語のテロップが左側に出るという慣れない仕様になっています

パンフレットは気合い十分に著名人のコラムが満載で、制作秘話から監督のインタビューなどで充実しています

 

個人的にはそこまで食い入るということはなかったのですが、暗躍するスパイの数が多すぎて、結局全員かい!という感じになっていましたね

タン・ナーだけは自分の舞台に全てを賭けていて、その想いにユー・ジンが応えたのかなと感じました

 


歴史背景について

 

舞台となる上海は、古くは周の時代から始まり、1292年頃に「上海県」と呼ばれるようになっています

清の時代、アヘン戦争終結の1842年の南京条約では、上海は条約港として開港することになりました

これによって、イギリス、フランス、アメリカなどの上海租界というものが形成され、日本も租界を開くことになります

その中でも「虹口区」は「小東京」と呼ばれるようになっています

 

1865年に香港上海銀行が設立され、欧米の金融機関が本格的に上海進出を推進します

1871年には、香港-上海-長崎(日本)を結ぶ海底電信ケーブルを大北電信会社が敷き、上海租界は北京よりも早く電信ネットワークに組み込まれ、国際電信が可能となりました

日清戦争が勃発し、それが終結するとともに、外国企業を中心とした投資ブームが起こります

下関条約の締結で、工業企業権が諸外国に与えられるようになると、工場建設が促進されていきます

1899年にはインドシナ銀行も進出を果たします

 

1920年代に入ってから、上海は中国最大の都市として発展し、イギリス系金融機関の香港上海銀行を中心として、中国金融の中心となります

上海は「魔都」「東洋のパリ」と呼ばれ、ナイトクラブやショービジネスが反映することになりました

こうした流れは財閥を産み、同時に階級闘争的な労働運動も盛んになってきます

1925年には五・三〇事件が起こり、中国への大規模な民族運動となっていきます

この状況を懸念した財閥は、蒋介石と提携し、反共クーデター(上海クーデター)を決行させ、1927年には「上海特別市」となり、1930年に「上海直轄市」が成立することになります

 

1932年には第一次上海事変が起こり、1035年に日本人が経営する店の衝撃事件などが起こります

そして、1937年、大山中尉殺害事件ののちに、第二次上海事変が勃発します

中国軍機の爆撃を受けた上海共同租界では多くの市民が犠牲となったが、日本軍によって中国軍の侵略は阻止されることになります

そして、1941年の太平洋戦争勃発と同時に、上海共同租界は日本軍により接収されることになりました

映画は、この日本軍による接収状態の上海が舞台となっています

 


租界とは何か

 

映画で登場する「租界」とは、「外国人居留地」のことで、アヘン戦争後の不平等条約によって、中国大陸の各地に「条約港」が設けられたことによって生まれました

この場所は行政自治権や治外法権を持っていて、中国が好きにはできない土地となっていました

アヘン戦争後の南京条約にて、清国政府は広州、厦門、福州、寧波、上海の5つの港を開港し、それを機にイギリスが上海に租界を置き、それに倣ってフランス、アメリカも租界を置くようになりました

その後のアロー戦争(第二次アヘン戦争)中の1858年に天津条約が締結され、漢口、九江、南京などの10港を開港し、そこにも租界が置かれるようになりました

 

日本は、日清戦争後の下関条約によって、蘇州と杭州、沙州、重慶などに租界を置きます

さらに日清通商航海条約締結後、上海、天津、漢口、厦門に租界を開設することになりました

1937年、日中戦争が勃発すると、イギリス、アメリカ、フランスなどの列強諸国は中立を保ち、租界は周囲から隔絶された地域となります

しかし、1941年の太平洋戦争勃発によって、租借地は日本の占領下に置かれることになります

 

租界は、中国側に主権があるが、その行政権の行使が全くないか極めて限定的という地域で、外国政府が長期間貸借している地域のことを言います

また、租借地とは、中国には潜在的な主権しかなく、租界よりも主権譲渡の色合いが濃い地域のことを言います

ちなみに上海は共同管理地域として、1943年まで続くことになりました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、この租界状態の上海の「太平洋戦争勃発直後、かつ真珠湾攻撃7日前からの一週間」を描いています

日本軍の暗号を解読するために様々な国のスパイが暗躍し、共同戦線を張る国もありました

暗号専門家の古谷は、上海における暗号の管理を任されていて、アップデートされたものを説明する業務を担っていました

そのボディガードとして梶原がつくことになり、ユダヤ資本とフランスが手を組み、中国もその秘密を探ろうとしていました

 

様々な思惑が重なっていて、上海と重慶での秘密の交換条件を提示するスパイもいて、重慶に関しては日本の情報という意味合いが強かったように思います

重慶が所有する日本の秘密を上海の共同租界の秘密と交換しようと考えていたのが舞台制作者に扮していた、モー・ジーインで、彼はその秘密を探るためにユー・ジンを上海に呼び寄せることになります

面目上は舞台出演ですが、裏取引として元夫の解放が取り沙汰され、さらに古谷から秘密を聞き出すための道具として扱われています

これらの思惑が一堂に介した状態になっていて、本当に意味がわからない感じに進んでいきます

 

最終的には「マジックミラー作戦」は失敗に終わるのですが、これはユー・ジンが裏切ったからなのですね

その真意は色々と考えられますが、彼女はタン・ナーとの愛を選んだということになるのでしょう

タン・ナーだけはユー・ジンが上海に来た目的とその役割について知らなかったのですが、真相を知っても信じたかどうかはわかりません

二人の関係は少しの間、途切れていて、その出会いが想いを再燃させたのだと思います

 

結局のところ、ユー・ジンは抵抗することを辞めますが、二人が助かったのかどうかは言及されていません

おそらくは、真珠湾攻撃によって、太平洋戦争は本格的に動き始めると思うので、その混乱に乗じた何かが起こった可能性は否定できません

それが脱獄を助けたかもしれませんし、恥をかかされたスパイ及び連合国によって処分されたかもしれません

でも、ユー・ジンが嘘をついたことを知っているのは養父のフレデリックだけなので、暗号を解読できなかったと結論づけられた可能性もあるのかもしれません

彼女の運命はフレデリックが報告するか否かにかかっていますが、例え報告したとしても真珠湾攻撃を防げなかった事実は変えられないので、あの流れだと胸にしまっておくのかなと思いました

 

ラストでは「愛する人に愛されたいと願うのは、愛ではなく虚栄心である」という言葉が引用されますが、これはユー・ジンの心情を表しているのだと思います

彼女の選択は、タン・ナーへの愛情へとシフトしますが、その想いはすれ違ったままだったように思います

抵抗を止め、二人してあの世に行くことがユー・ジンの選択になると思うのですが、それすらも虚栄心の現れなのかもしれません

また、タン・ナーも彼女を愛するがゆえに周りが見えていないのですが、そう言った二人だからこそ、愛の行き止まりに直面することになったのかなと思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

https://www.uplink.co.jp/saturdayfiction/

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA