■リーダーを支える人は、おしょりんのように美しく、全てを包み込む力を持っている
Contents
■オススメ度
鯖江の眼鏡に興味がある人(★★★)
努力の物語が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.11.6(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、120分、G
ジャンル:村おこしのために眼鏡工場を作った実話を基にしたヒューマンドラマ
監督:児玉宜久
脚本:関えり香&児玉宜久
原作:藤岡陽子『おしょりん(ポプラ社、2014年)』
キャスト:
北乃きい(久々津むめ/増永むめ:五左衛門に嫁ぐ娘)
(幼少期:三笠まひろ?)
小泉孝太郎(増永五左衛門:庄屋の息子、増永眼鏡工場の代表)
(幼少期:平野虎冴)
森崎ウィン(増永幸八:五左衛門の弟、明昌堂の商人)
(幼少期:巻奇晴)
駿河太郎(増永末吉:眼鏡工場の番頭、元宮大工)
高橋愛(増永小春:末吉の妻)
石森愛梨(増永つね:末吉の娘)
かたせ梨乃(増永せの:五左衛門と幸八の母)
内田陽奈乃(増永つい:むめの娘、長女)
演者不明(増永たかの:むめの娘、次女)
演者不明(増永みどり:むめの娘、三女)
古田耕子(増永家の女中?)
奧田明日香(眼鏡工場の女給)
佐野史郎(橋本清三郎:明昌堂の代表)
秋田汐梨(橋本千代:清三郎の姪)
外能久(米田:村に来る眼鏡職人)
磯野貴理子(米田ミツノ:米田の妻)
津田寛治(豊島松太郎:村に来る真鍮の職人)
榎木孝明(久々津五郎右衛門:むめの父)
東てる美(久々津きり:むめの母)
栗田愛巳(しま:むめの叔母)
中山卓也(沢田五郎吉:眼鏡工場の番頭、セルロイドに興味を持つ)
北和輝(山本為吉:五郎吉の部下)
松永尚瑠輝(増永三之助:眼鏡工場の番頭、元八郎の上司)
酒井友也(佐々木八郎:三之助の部下、のちの番頭)
山野莉來(八郎の妹)
川井つと(銀行の支店長)
■映画の舞台
明治37年、
福井県:足羽群麻生津村
https://maps.app.goo.gl/Pd4cTh1Voiz5bqjZ9?g_st=ic
ロケ地:
福井県:福井市
おさごえ民家園
https://maps.app.goo.gl/mhDLjUHuc4FnTDqd8?g_st=ic
五太子の滝
https://maps.app.goo.gl/YH7tshAV2xJgtcxS7?g_st=ic
福井県:敦賀市
気比の松原
https://maps.app.goo.gl/bFRPpoKU5vmhmNcT6?g_st=ic
福井県:若狭市
熊川宿
https://maps.app.goo.gl/rYPDo6CCsuWCFwSe8?g_st=ic
瓜割の滝
https://maps.app.goo.gl/qaFd2DC6hEoh13oh9?g_st=ic
福井県:越前町
旧萩野小学校笈松分校
https://maps.app.goo.gl/LQZVbJyWE2571AXW9?g_st=ic
福井県:坂井市
旧岸名家住宅
https://maps.app.goo.gl/BCtR8M658Dy6ccAZA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
明治28年のこと、福井県足羽郡麻生津村では、増永家と久々津家の結納の日が近づいていた
久々津家の娘・むめは相手の顔を見たことがなかったが、増永家は由緒ある名家で、嫁ぎ先としては申し分なかった
ある日、両親たちが出かけて留守を任されていたむめの元に、一人の青年がやってきた
彼の中は増永幸八で、むめは彼が許嫁であると思い込んでしまう
幸八もむめのことを気に入ったようだったが、彼女の結婚の相手は幸八の兄・五右衛門だった
それから数年後、すっかり主婦が板についたむめの元に、大坂で働いていた幸八が戻ってくる
彼は兄に話があるとして、これから需要が増える眼鏡をこの村の産業にしたいと言い出す
だが、幸八は6年前にも事業で失敗した過去があり、村の親方衆も兄も首を縦には振らない
そんな折、むめは娘ついの友達つねが目が悪いことに気づく
むめはその眼鏡をついに試してほしいと言い、幸八は彼女に度数の違う眼鏡を一つずつ試していく
そして、彼女の視力を矯正する眼鏡が見つかり、一同は眼鏡産業への手応えを感じていくのである
テーマ:使う人のことを考える眼鏡
裏テーマ:装飾品としての視点
■ひとこと感想
眼鏡を愛用しているわけではないのですが、当方眼鏡フェチのため、北乃きいが眼鏡をかけまくるのではと思っていました
残念ながら、彼女が着用するシーンはわずかでしたね
映画はこの地で眼鏡産業が発展してきた理由がわかる内容に噛み砕かれ、努力と発明の過程が綿密に描かれていました
映画は、いきなり福井県のPR映像から始まり、これは「誰かが見ているテレビのCMなのかな」と思っていましたが、まさかの公式風のガッツリCMになっていたのは驚きました
あの流れだと、最後に登場するのが鯖江の眼鏡で、そのまま本編に突入するのかと思ってしまいます
物語は、キーポイントでむめが登場しますが、彼女が眼鏡作りに携わるということはありません
あくまでもサポート役としてなのですが、彼女の視点とアドバイスが工場を大きく左右していく様は痛快でもありましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、どこまでが史実かは調べないとわかりませんが、眼鏡といっても枠の部分を作るという内容になっています
レンズに関しては別の工場で製作していると思うのですが、そのあたりは綺麗にスルーされていましたね
物語としては、むめが主人公ではあるものの、工場責任者としての五左衛門の胆力が試される内容になっていましたね
幸八もキーパーソンではありますが、彼は商人としての橋渡しと広い視野によるアイデアをもたらす人物として描写されています
また、冒頭の許嫁勘違い騒動から発展して、想いあっているけど夫婦になれないという感じなので、まさかのドロドロ三角関係に向かうのかとドキドキしてしまいました
そっち方面に転ぶと軸がブレてしまうので、ほのかな恋心とむめの知らぬ間に幸八の恋が終わるというのはよかったと思います
■鯖江の眼鏡について
鯖江の眼鏡とされている「福井県の眼鏡」ですが、そのルーツは映画で示されている通り、1905年に始まった村での眼鏡づくりとされています
大阪から眼鏡職人を招き、足羽群麻生津村(現在の福井市生野町)の農家の副業として始められました
帳場と呼ばれる職人ごとのグループを作り、競い合ったとされています
戦後になって、眼鏡の需要も急上昇し、産地としての成長を果たします
その先導者である増永五左衛門は、豪農の長男として生まれ、明治20年に家督を相続し、25歳で結婚をします
彼が村おこしを考えていた頃、弟の幸八が眼鏡作りを提案します
そして、明治38年6月1日、増永1期生が結成されることになりました
その中に、腕利の大工・増永末吉もいたとされています
眼鏡の技術を学ぶために呼び寄せた豊島松太郎は東京の名工と呼ばれている人物で、東京では「分業制」が敷かれ、メッキや赤銅の鉄製品、セルロイドなども作られていました
1911年(明治44年)に、福井県にて13の工場を設立します
その8月に、五左衛門の名前で内國共産品博覧会に出品し、「赤銅金継眼鏡」が有功一等賞金杯を受賞することになります
それは眼鏡製造から6年目のことでした
その後、1933には昭和天皇への献上品を作成、1970年位は「CUSTOM72」が大阪万博のタイムかプセルに収納されることになりました
これ以外にも様々な情報がウェブ上にたくさんありますので、「増永五左衛門」でググってみてはいかがでしょうか
■帳場制によって競わせる意味
劇中では、親方を3人選出し、帳場という体制にして競わせる様子が描かれていました
その理由として、「仲間意識が強すぎる」というもので、馴れ合いが技術向上を妨げていると考えていました
仲間意識は大事ですが、それが全体である必要はなく、チーム内での結束があれば十分だと思います
映画では、八郎は選ばれずに凹んでいましたが、あの流れで選出されることはなかったと思います
親方というのはチームをまとめ上げるリーダーで、技術が高いとかチームをまとめるなどの様々な要因で選ばれます
適材適所というものがあり、リーダーに向いている者、そうでないものもいて、補佐に回る方が向いている人もいます
時代によってリーダーの価値も変わりますが、映画内だと「優秀な作品を作るチームをまとめ上げる力」というものが必要で、眼鏡が売れなかった際に「あの部品を担当しているのは八郎だ」というように責任転嫁をするリーダーは最悪だと言えます
映画では、五左衛門というリーダーと親方とリーダーが登場し、その違いを明確に描き分けています
眼鏡の出来に一喜一憂する親方と、それを喜びながらも、金策に奔走し、自分の判断を信じるリーダーというのは、その質がまったく違います
五左衛門は「切磋琢磨できる環境」というものを作り、それを整備しながら、部下には微塵も経営の心配をさせない
これこそが真のリーダーたる胆力の違いと言えるでしょう
とは言え、帳場の親方が求められるものはまた違っていて、それは企業の理念をどれだけ部下に伝えられて実現できるかにかかっています
企業におけるミッション・ステートメント(企業理念)の浸透ほど難しいものはなく、金賞を受賞した八郎のリーダー資質でさえ、それを体現できているとは言えないのですね
彼はあくまでも個人的な背景によって自己鍛錬し、職人としての最大限の力を発揮したに過ぎません
でも、帳場という舞台で求められるのは、このような技術力が優先され、それによってチームがまとまっていくのも事実であると思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、地方復興の側面が強いお仕事系映画で、冒頭で5分ほど福井県のアピール動画が流れるという変わった構成をしていました
ここまではっきりとしたPR動画を流す映画は珍しいのですが、これはこれで新しい形なのかなと思ったりもします
個人的には、各名所を案内しつつ、最後を眼鏡の紹介にして回想に至った方が良かったと思いましたが、このあたりは他の紹介品とのバランスを取ることになったのでしょう
他の特産品が「前座」と捉えられる危惧が生まれないとは限らないからですね
映画は、福井県の偉人を紹介する内容ですが、主人公は五左衛門を支える妻でした
彼女は要所で物語を転換させる贈与者としての役割を担っていて、この贈与者が映画の主人公になるというパターンは極めて珍しいものだと思います
このあたりは、明治時代の価値観をそのまま採択しつつ、現在的に無理にアップデートはしていないのですね
それでも、むめ自身が封建社会で苦しんでいるという描写はなく、彼女の人生は彼女の覚悟で貫かれていることが描かれています
この時代の女性の強さというのは、他人事を我がごとのように考え、それを人生のライフワークにできることだと思います
戦争や貧困、家父長制のベースがあって、その中で家庭を守るという使命を持っていて、それでも男のいうことには逆らえない時代でした
そんな中、むめの提案はとても合理的で、かつ戦略的ではないところに好感が持てます
彼女は、あくまでつねの将来を思って行動するのですが、そこで判断を男性たちにさせるのですね
この一歩引きながらも場を支配するというのが、彼女の資質であると思います
時代の流れによって、様々なリーダーは生まれますが、そのリーダーの影には重要なサポート役がいるのも事実でしょう
功績としては五左衛門の名前だけが残りますが、この映画によって、彼が偉業を成し得たのは彼の判断だけではなく、むめの存在があったからであることが伝わったと思います
そう言った意味において、本作が作られたのは意義深いことのように思えました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://movies.kadokawa.co.jp/oshorin/#:~:text=%E3%80%8C%E3%81%8A%E3%81%97%E3%82%87%E3%82%8A%E3%82%93%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%82%92%E6%8C%87%E3%81%99%E7%A6%8F%E4%BA%95%E3%81%AE%E8%A8%80%E8%91%89%E3%80%82