■有事よりも先に国民に浸透するEXITピルって何だろうねえ
Contents
■オススメ度
暴露系会話劇が好きな人(★★★)
■公式予告編
https://youtu.be/qa5KEOFnzgo
鑑賞日:2022.11.22(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:Silent Night
情報:2021年、イギリス、90分、G
ジャンル:終末を迎えたあるクリスマスパーティを描いた社会風刺映画
監督&脚本:カミーユ・グリフィン
キャスト:
キーラ・ナイトレイ/Keira Knightley(ネル:サイモンの妻、アート、ハーティ&トーマスの母、クリスマス・パーティの主催者)
マシュー・グッド/Matthew Goode(サイモン:ネルの夫)
ローマン・グリフィン・デイヴィス/Roman Griffin Davis(アート:サイモンとニールの息子、ハーディとトーマスの兄、密かにネット情報をチェックしている)
ハーディ・グリフィン・デイヴィスHardy Griffin Davis(ハーディ:サイモンとネルの双子の弟)
ジルビー・グリフィン・デイヴィス/Gilby Griffin Davis(トーマス:サイモンとネルの双子の弟)
アナベル・ウォリアーズ/Annabelle Wallis(サンドラ:ド派手な衣装のトニーの妻、修学費で自分の服を買うキティの母)
ルーファス・ジョーンズ/Rufus Jones(トニー:サンドラの夫、キティの父)
ダヴィダ・マッケンジー/Davida McKenzie(キティ:トニーとサンドラのリボンをつけたワガママまな娘)
リリー=ローズ・デップ/Lily-Rose Depp(ソフィー:ジェームズの妻、妊婦)
ショペ・デリス/Sope Dirisu(ジェームズ:ソフィーの夫、医師)
カービー・ハウエル・バプティスト/Kirby Howell-Baptiste(アレックス:ベラのパートナー)
ルーシー・パンチ/Lucy Punch(ベラ:アレックスのパートナー、ネルたちの友人)
Trudie Styler(ニコル:オンラインで話す祖母、ネルの母)
Simon Prince(車の中の父)
Kate Prince(車の中の母)
Rosamund McManus(車の中の少年)
Amy McManus(車の中の少年)
■映画の舞台
人類滅亡のカウントダウンを迎えるイギリス
ロケ地:
イギリス:ロンドン
ハートフォードシャー
https://maps.app.goo.gl/BKefiVdAc77wnNgJA?g_st=ic
Serge Hill(リージェントハウスのある場所)
https://maps.app.goo.gl/1kMzqqeT7ZvFmcDz6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
あるクリスマスの夜、ネルとその夫サイモンは学生時代の仲間を集めてパーティーをすることになっていた
トニーとサンドラの夫婦とその娘キティ、ベラとアレックスのレズカップル、そして、医師のジェームズとソフィの夫婦には新しい命が宿っていた
ネルとサイモンにはアートと双子のルディ、トーマスがいて、そこに集まったのは12人
誰かが呼ぶと思っていたネルの母ニコラは呼ばれておらず、のちにオンラインで参加することになった
ネルが腕を振るった料理が豪勢に並べら、お酒が進んでくると学生時代の暴露話が始まってくる
女同士でヒソヒソ話をし、男同士も喫煙と称してプラントハウスで愚痴をこぼしたったりしていた
ベラのパートナーとして招かれたアレックスは蚊帳の外で、子どもたちは好き勝手にはしゃいでいる
そんな中、アートは親に内緒でネットから情報を得て、これから起ころうとしている恐ろしいことを観察し始めていたのである
テーマ:陰謀論と真実
裏テーマ:何を信じるかで人生は決まる
■ひとこと感想
終末ディザスター系なのかなと思っていましたが、内容は「終末を過ごす人々を描いた会話劇」になっていました
なので、期待するようなデゥザスター映像はほとんどなく、霧のようなものが迫ってくるだけになっていました
登場人物の関係性も分かりにくく、どうやら学生時代の仲間が7人いるという感じで盛り上がっていて、ベラのパートナーであるアレックスだけが置いてけぼりで一人で酒を煽っていました
その多飲が後半である出来事を生みますが、だからと言ってどう、というほどの展開には至りません
映画は会話劇が進む中、学生時代の暴露話が出てくるのですが、その背景で「一人ネット情報をググりまくるアート」が描かれていきます
分かりやすい「政府広報とネットの情報のどちらを信じるか」という内容になっていて、いわゆる「コロナ禍のワクチン騒動」を揶揄しているという内容になっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
やりたいことはわかるけどめっちゃ退屈という映画で、映画内の学生時代の暴露話にノレる人は良いでしょうが、そうでない観客の立場はほぼアレックス状態でしょう
なので、馬鹿なことをしている人たちを俯瞰して観るだけになっていて、面白みを感じるというのはなかなか難しいように思えます
映画は政府広報を信じてEXITピルを飲む人々を描き、それと同時に「飲まずに毒で死んだ人たち」というのも描いていきます
ニュース報道から始まって、近くに停まっていた車から家族の死体が発見されたりしますが、どこまで本当かわからない感じになっていましたね
アートの選択は「飲んだふりして死んだふりする」みたいな感じですが、このオチは読めてしまうので、それほど驚きはないように思えました
■終末をどう信じるか
この映画の本質は、「終末」という情報に対して、提示された情報をどう処理すべきか、というところに行き着きます
ディザスター系ムービーの多くは「科学者視点」「政府関係者視点」「偶然証人になった人の視点」「盲信者視点」になっていて、いわゆる「終末情報発信者」に定義されます
本作の家族は「終末情報受信者」として、その情報をどう捉えたかという「個人の背景による選択」という問題提起を与えています
ネル&サイモン夫妻は「メディア&政府発信」を信用している人たちで、「家族としてどう向き合うか」という積極性を見せます
この二人の子どもは対称的で、判断できない年齢のツインズと自我が明確なアートは、反抗期もあって、両親の言動に疑問を抱いています
トニー&サンドラ夫妻も盲信者ですが、キティは自分の世界に浸っています
世界のことなどよくわからないので、とにかく自分の欲求に忠実ですが、不安を隠しているのか、単純にバカなのかよくわからない感じになっていました
ジェームズ&ソフィ夫妻は新しい命を授かっていて、二人の見解は真っ二つに分かれています
ソフィは子どもに影響があるから薬を飲みたくないと考えていて、もし終末が嘘で子どもが生まれたときにどんな影響があるのかを考えていました
ベラ&アレックスは終末に関わらずノリは変わらない感じで、二人の関係性、ひいてはレズビアンであることを特別視しないことの方に注意が向けられています
アレックスはベラの友人たちに認めてもらう意味を感じていませんが、おそらくはアレックスはベラと二人きりで過ごしたかったのではないでしょうか
この4つのカップルは終末情報に対して無防備で、メディアを通じた政府情報を鵜呑みにしています
おそらくは諸外国で先発して亡くなっている映像などを見て信じていて、いずれ自分達もこうなるのではという固定観念があるのでしょう
彼らは自分達の頭で物事を考えておらず、その様子を見ているアートだけが異様さを感じています
アートは両親に隠れてネット情報を見ていて、安楽死をもたらすピルの存在に不審感を抱いています
彼もネットの情報を鵜呑みにしているという点では同じですが、情報をいくつか用意して「どちらを選択するか」という判断をしているところがまともに見えてしまいます
でも、情報の担保をできない立場であるのは明白で、最終的にアートがネット情報を信じた理由というのはよくわかりませんでした
■政府広報と陰謀論の違い
この映画はわかりやすいほどに「コロナ関連」をモチーフにしていて、「EXITピル」はどう考えても「コロナワクチン」にしか思えません
コロナの致死性が抜群で、それが空気感染を起こしながら、その空気を吸い込んだら、のたうち回って死ぬと言わんばかりの設定になっています
彼らが「EXITピル」に肯定的なのは、おそらくは致死に至る情報を比較して、こっちの方がマシというレベルではないかと思います
コロナに感染するより、副作用の方がマシ、というレベルですね
この情報がどのようにして彼らのもとに届いたのかはわからないのですが、彼らの環境だと「TVを通じたメディア情報」ぐらいしか浸透しないと推測できます
パンフレットの監督のインタビュー記事では、「EXITピル」は「イギリスのEU離脱を意味する『BREXIT』をもじったもの」とされています
これは「Britain(英国)」と「EXIT(離脱)」を掛け合わせた造語で、2012年頃から使われたものでした
この単語をもじって使用しているということは、アートの選択を含めると監督としては「EU離脱には否定的な立場だった」ということになると思うのですが、そこまでは明言されていません
EU離脱の影響に関しては本作では関連がないので言及しませんが、EU離脱に関しては国民世論は真っ二つに分かれたのに、今回の終末騒動に関しては意見が割れているとまでは言えません
映画内だと、アートとソフィぐらいが明確な反対派ですが、それが議論になっておらず、その価値がないほどにスルーされている現状が描かれていました
いわゆる「脳死」で「情報を鵜呑みにしている」というもので、もう少し考えた方が良いんじゃないの?という問題提起もできそうですが、本作では「情報操作を議論にはしない」のですね
あくまでも個人の置かれた状況によって、その薬を飲むかどうか程度で終わってしまっています
これらは政府発表の公式な見解と政策によって実行され、その周知はメディアを利用してのものだと推測されます
そんな中で、いわゆる陰謀論的な情報がネット上で動き出します
陰謀論というのはとても興味深くて、突拍子もないものから、事象を正確に分析したものまで様々なものがあります
このコロナ禍でもワクチン、ウイルスに関するありとあらゆる陰謀論が飛び交い、中には「コロナウイルスは検出されていない」というものまであります
コロナ騒動は遺伝子実験を行うために起きたとか、一部の人の利益のために演出されたものであるとか、様々なものが飛び交っています
これらの情報のどれが正解かは現時点ではわかりません
これまでは大本営発表というものがある程度は信頼されてきたのですが、今ではその情報がある種のプロパガンダであると認識されつつあります
特に日本でも、コロナ関連にまつわる政府発表の変遷を見ていくとひどいものがあります
担当者が変わればコロコロ変わるし、コロナ死の定義も、濃厚接触者の定義もコロコロ変わります
これらの情報発信に意図があるのは明白で、それは政府の公式見解も陰謀論も根は同じなのですね
自分以外の何者かの心理誘導をするという明確な目的があって、それがどの方向に向いているかによって、陰謀論の登場の度合いが変わってきます
各種の陰謀論が出回るのは、政府が国民の側を向いた発信をしていないと思われていることが原因で、その信頼を損い続けてきたために現在のような混沌に行き着いているのだと言えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
このような「よくわからない世界」の中で何を信じるかと言えば、最終的には自分を信じるしかないと言えます
また、他人が信じたものを変えられないという絶望は同居させておく方が良いと思います
人が何かを信じるとき、その多くは自分にとっての利益となると考えることが一般的で、この映画では「毒ガスのようなもので苦しんで死ぬ」よりは、「ピルを飲んで安らかに死にたい」と考えたということになります
この二択になっている時点で正常ではないのですが、それに気づいていないのが大半の人間だった、ということになります
このような選択肢がある場合、まずは「なぜ、この二択になったのか」というところを考える必要があります
また、「この二択に誘導しているのは誰か?」とか、「その目的は何か?」ということも併せて考える必要があります
この映画では「人類滅亡」というものは確定しているという前提情報に疑問を持たせないという明確な意図があります
ここで与えられた二択を分解すると、「パニックになるか、ならないか」ということなのですね
そこで政府はパッケージとして、「EXITピルを飲めば苦しまずに死ねるから、最後の時間は大切な家族と過ごしてくださいね」という提案を提示します
そして、この提案を拒否すると「地獄絵図の中で苦しんで死にますよ」というキャンペーンを張ることになります
映画の状況で政府の嘘を見破るとしたら、「EXITピル」はどのような過程で作られて配給されたか?、という流通に関する疑問を持つことでしょう
アベノマスク騒動でもありましたが、全国民分のマスクの生産、確保、流通には莫大な費用と時間がかかります
どこから発生したかわからない毒ガスのようなものが拡散されるスピード(映画内描写だと数キロ数秒レベル)を考えると、それを配布するまでに毒ガスの方が届くのは明白でしょう
なので、そのピルが彼らの元に行き渡っているということは、事前に用意されていたもの(備蓄されていたもの)を配布したということになります
ということは、あらかじめ「国民を安楽死させる必要がある事態」というものを政府が想定していた、ということになるのですね
英国政府は有事の際に国民を安楽死させるに十分な量のEXITピルを事前に用意し、有事よりも先に配布を終わらせている
これは「有事が起こることを知っている」という前提でないと難しく、これ以外に考えられるのは「ある特定の地域だけが対象になっている」という小規模なもの、という可能性が出てきます
このように考えてくいると、何かの壮大な実験のようにも思えてくるのですが、映画の場合だと「何らかの自然現象にしろ、ロシアの兵器にしろ、その効果というものが致死である」と政府が認識し、その拡散を防げないという決定が下されている、ということになります
ここまでくると、その特殊な分析能力というものを政府が有しているのかという疑問が湧き、その裏側に隠された意図というものがあるように思えます
どうして、そこまでして国民にEXITピルを飲ませたいのかという意図を探ることは難しいのですが、ある特定地域の人口を削減したいとか、そういった情報を鵜呑みにしない人を選別したいとか、安楽死効果の実験など、様々な憶測を考えることは可能でしょう
こうした意図探しの末にある思想誘導をするのが陰謀論というもので、それが踊っている時間の猶予があるという世界でもあります
本当に自然現象による人類滅亡ならば陰謀論を拡散している時間もなく、ロシアの兵器だとしても、最後の最後までインフラ(特にネット関連)が無事と言うところにおかしさがあります
これらの状況把握ができて、なおその情報が正しいと体感できるならば、EXITピルと飲むことは自由であると言えるでしょう
映画は、このような思考停止の愚かさを描いてはいますが、最後にアートが生き残るのは誰もが予測できることだったと言えます
なので、結論ありきの物語を眺めているだけなので、正直面白みがあるとは思えません
また、アートが見ていたサイトの情報というものが英語圏以外では瞬時にわかりにくい(字幕での表示は一切なし)ので、彼のとった行動の裏付けがわからないというのは微妙だったでしょう
映画は「ほぼ集まった人たちの内輪ネタ会話劇だった」ので、この会話劇にノれないと、アレックスのように深酒をするか、キティみたいに童心的自由行動を取るか、アートのように逃避行動を取るか見たいな選択肢しか生まれません
試みは興味深いけど、映画として面白くないのは致命的だと思うので、もう少し作り込みが必要だったのではないかと感じました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384259/review/ab2aab5b-a8b2-4292-800c-53ec9e8dba0d/
公式HP:
https://silent-night.jp/