■声以外に発せられるものの何かに、核心に迫るものが埋れているように思えてきますね
Contents
■オススメ度
女性の生きづらさに関心のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.9.7(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Tell It Like a Woman(女性のように語る)
情報:2022年、アメリカ&イタリア&インド&日本、112分、G
ジャンル:女性の生きづらさを描く7本のオムニバスからなるヒューマンドラマ
【Pepcy & Kim(ペプシとキム)】
監督:タラジ・P・ヘンソン
脚本:キャサリン・ハードウィック
モデル:Kim Carter(Time For Change Foundation)
キャスト:
ジェニファー・ハドソン/Jennifer Hudson(ペプシ/キム:解離性同一性障害を持つ囚人)
ポーレッタ・ワシントン/Pauletta Washington(ローリー:カウンセラー)
Ayesha Harris(フィリス:同室の囚人)
Katia Gomez(マリカ・ロペス:外出できて喜ぶ囚人)
Danielle Pinnock(デブラ:囚人)
Alex Bentley(ハビ:護衛)
Alex Alexander(ブロウズ:職員)
Nate’ Jones(エヴリン:迎えにくる友人)
Gabriel Ellis(レイ:迎えにくる友人)
【Elbows Deep(無限の思いやり)】
監督&脚本:キャサリン・ハードウィック
モデル:Dr. Susan Partovi
キャスト:
マーシャ・ゲイ・ハーデン/Marcia Gay Harden(パートヴィ:医師)
ジャスミン・ラヴ/Jasmine Luv(タミカ:看護師)
Jesse Garcia(ジョニー:受付)
Brandon Win(ジャック:受付)
Cara Delevingne(ヴァル/ヴァリテーション:利用者の女性)
【Lagonegro(帰郷)】
監督&脚本:ルシア・プエンゾ
協力:タティアナ・メレニューク
キャスト:
エバ・ロンゴリア/Eva Longoria(アナ:帰省するキャリアウーマン)
Eudora Toto(レナ:サラの娘)
Leonor Varela(タラ:アナの妹の面倒を見ていた女性)
Lewis De Pascalis(タラの息子)
Anna Klocznska Katarzyna(サラ:アナの妹)
(7歳時:Eudora Toto)
(16歳時:Chabeli Sastre)
Blas Roca-Rey(ジャンニ:アナの地元の友人、医師)
Antonello Fassari(司祭)
Holly Gilliam(ギャラリーのマネージャーの声)
Sergio Pierce(アナの同僚の声)
Alex Pierce(アナの夫の声)
Wayne Price(アナのアシスタントの声)
【A Week In My Life(私の一週間)】
監督&脚本:呉美保
キャスト:
杏(ユキ:多忙なシングルマザー)
湯田幸希(トワ:ユキの息子)
板垣樹(アヤ:ユキの娘)
荻野みかん(コバヤシ:ユキの同僚)
佐々木思歩(ツツイ:ユキの同僚)
元松あかね(スズキ:ユキの同僚)
長内映里香(ユキの友人)
海老原恒和(デリバリーの配達人)
【Unspoken(声なきサイン)】
監督:マリア・ソーレ・トニャッツィ
脚本:ジュリア・ルイーズ・スタイガー
キャスト:
マルゲリータ・ブイ/Margherita Buy(ダイアナ:獣医)
Jennifer Ulrich(グレタ:怪我した犬の飼い主)
Iacopo Ricciotti(エドゥアルド:グレタの夫)
Maxim Mehmet(カール:受付スタッフ)
Morris Sarra(秘書)
Gabriele Coppola(護衛)
Maria Torres(ダックスフンドの飼い主)
【Sharing a Ride(シェアライド)】
監督:リーナ・ヤーダブ
脚本:シャンタヌ・サガラ&クルーパ・ゲー&キアラ・ティルシ
キャスト:
ジェックリーン・フェルナンデス/Jacqueline Fernandez(ディヴィヤ:成功している美容外科医)
アンジャリ・ラマ/Anjali Lama(アンジャリ:タクシーで乗り合わせるトランスジェンダー、交通警察)
Kartikeya Sharma(タクシーで乗り合わせる酔っ払い)
Shirin Bano Ansari(タクシーのドライバー)
Mahesh Balraj(ラヴィ:路上の不審な男)
Ayesha Raza Mishra(シーナ:ディヴィヤの姉)
Avantika Akerkar(スムリティ:ディヴィヤの母)
Aseem Bajaj(患者)
Leena Yadav(患者)
Neha Krishan Vij(患者)
Anubhav Chopra(患者)
Priyanka Arya(アヌー:医院の使えない受付)
Naina Sareen(シルファ:ディヴィヤの回想に登場する患者)
Sagal Singh(ハンサムな男、看板&妄想の中のダンサー)
Vijay Sanap(交通警察、アンジャリの上司)
Lauren Robinson(クラブのダンサー)
Lovedeep Gulyani(クラブのダンサー)
Saloni Mahendru(クラブのダンサー)
Laxmi Narayan Tripathi(本人役、トランスジェンダーの活動家)
Aryan Pasha(本人役、トランスジェンダーのボディビルダー)
Shivali Chhetri(本人役、トランスジェンダーのダンサー)
Himanshu Singh(本人役)
Glorious Luna(本人役、ドラァグクイーン)
Dame Infala(本人役)
【ARIA(アリア)】
監督&脚本:ルチア・ブルゲローニ&シルヴィア・カロッピオ
■映画の舞台
アメリカ:ニューヨーク
インド:
日本:東京
イタリア:ラゴネグロ
https://maps.app.goo.gl/3Qggb7C6JsNjBGDC9?g_st=ic
ロケ地:
上記に同じ
■簡単なあらすじ
6つのドラマ、ひとつのアニメーションから構成されるオムニバス
アメリカ・ニューヨークを舞台に、解離性同一性障害に悩む女性の囚人とコロナ禍で行き場を失われた女性の保護
イタリア・ラゴネグロを舞台に、帰郷した先にいた妹の娘との関係性を考えるキャリアウーマン
日本・東京を舞台に、多忙なシングルマザーの一週間
インドを舞台に、性的マイノリティ嫌悪を持つ美容外科医とトランスジェンダーの交流
そして、それらの全てを見ていた生命体の自我の芽生えを描いていく
テーマ:女性とは何か
裏テーマ:強く生きるためのヒント
■ひとこと感想
予定していた映画の時間を間違えて、来週観る予定だったのに急遽参戦することになりました
余裕をぶっこいて、何も知らない状態で鑑賞を始めたのですが、事前に購入したパンフレットで「オムニバス」ということだけは知っていました
とは言え、「女性の生きづらさ」なんだろうなあぐらいに思っていたのですが、本作では様々な女性の境遇にスポットライトを当てていましたね
病気、貧困、子育て、仕事、偏見などが取り上げられていて、それらの女性の生き方を見てきたアリアという謎の存在が自我を得るという流れになっています
完全に女性向けの作品になっていて、男性は添え物ですらないという徹底ぶりが伺えます
まあ、この内容で男性が絡むとボヤけるので分かりますが、それにしても出てきませんでしたね
映画は、男性目線だと傍観になってしまうのですが、逆にこの映画で分かった気になる方が問題だと思います
性差問わず、人生には色んな難題がありますが、生きづらさの正体ってのは柔軟性の無さなのかなと感じてしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
6つの物語はそれぞれ特徴があって、個人的には「声なきサイン」と「私の一週間」が好みでしたね
「声なきサイン」は獣医がDVに気づくという流れになっていて、この緊張感がなかなか強烈なものになっていました
「私の一週間」は舞台が日本ということもあり、共感しやすい内容になっていましたね
まさかティッシュの箱が大きな伏線になっているとは思いもしませんでした
あれは泣いてしまうと思います
「ペプシー&キム」と「無限の思いやり」はアメリカの闇を描いていて、どちらもリアリティあふれる演技力に魅入ってしまいます
特にジェニファー・ハドソンの一人二役は鬼気迫るものがありました
「帰郷」では、思いもしない展開になったキャリアウーマン(おそらくアートディレクター)が妹が残した子どもを育ていることになるのですが、母性が目覚めていく展開は秀逸だったと思います
「シェアプライド」では、インドの都市部を舞台に華やかな映像美が堪能できる内容で、看板のイケメンが再登場した時には笑ってしまいましたね
ラストの「アリア」はどう捉えて良いのか悩みましたが、精神世界の転換ということで良いのかなと思います
ともあれ、なかなか見応えのある作品が揃っていたのではないでしょうか
■ジェンダーと生活
映画には、様々な生ける女性が描かれていて、迷う者と支える者の両方が女性になっていました
キムを支えるカウンセラーも女性で、グレタを支援する医師も看護師も女性になっています
トランスジェンダーの不理解を抱くのも女性になっていて、徹底的に「女性に対する訴求」に特化した内容になっていました
これらのすべての人には日常と生活があり、誰もがどこかで躓き、悩みを抱えて生きていきます
アメリカが舞台の2本は表舞台からドロップアウトを余儀なくされた女性が描かれ、イタリアとインドでは成功している女性が違う世界を垣間見るという内容になっています
日本が舞台の作品は「ありのまま」を切り取っていて、些細なことがストレスになり、些細なことが感動や喜びに繋がっていることが描かれていました
これらの全ての作品には、女性に対する褒賞の瞬間というものが描かれていて、基本的には「理解」こそが救いの道であるように思えてきます
この「理解」を全面に出しているのは、女性が共感を第一に考えるからなのかな、と思いました
男性である私には共感する部分はなく、むしろロジカルに「この場から脱出するにはどうするか」ということを考えてしまいます
女性の相談を受ける機会はありますが、話を聞いていくうちに「すでに答えがある」という感覚は常にあったりします
応答の多くは、その結論を揺らぎないものにするために準備作業のように思えていて、それが正しいかどうかをジャッジするのも話し手側という印象があります
本作を女性が見たらどう思うのかは分かりませんが、悩める人も支援する人も、どちらの思考も共感でき、立ち上がれない理由というものも理解できるのだと考えています
実際にどうなのかは分かりませんが、これが男性側から観た場合のイメージになっていて、それが合っているかどうかというのはさほど意味がないのかなとも思えてしまいます
この映画を通じて、男性にわかってくれと思っている女性は少ないと思いますし、改善の意見を求めることもないでしょう
ただ、現実問題としてこういったことがあるという認知が必要だと思うので、それが汲み取れればOKなのかな、と感じました
■「アリア」が描いていたもの
映画のラストは「アリア」というCGアニメーション作品で、性別不明の「アリア」がこれまでの作品を見ていたというテイストで始まっています
アリアのいる場所は「視点を変えることで構造がわかる」というもので、視野狭窄に陥っているアリアが、どのようにして視野を広げていくのか、という流れを描いているように思いました
目の前に映る自分の客観視であるとか、対岸にある壁に映る何かなど、視野を広げるための要素は、自分自身の視界の中にすでにある、という感じになっていました
このあたりは感覚的に察してね、というテイストになっていて、セリフもないので正解がわかりません
まるでディズニー作品のオープニングムービーのような作品になっていましたね
かわいいキャラが登場してほっこりする内容ではありますが、結構エグいことが描かれているようにも思えてきます
「アリア」の立ち位置を想像すると、情報を入手しても行動しないと世界は変わらないということだと思います
情報は行動のきっかけに過ぎず、行動は更なる情報を生み出し、連鎖的に行動を呼び起こします
人生に全く疑問を持たずに生きていると、最初の情報すらスルーしてしまうのですが、本作ではそれではダメだという感じになっていて、その初期情報もほんのわずかな演出になっていたように思います
同じものを見ても反応や行動が変わるものなので、「アリア」とどう向き合うかは、「自分自身がアリアならば」という置き換えのためにあるように感じるのですね
そうした先にある未来というのは、些細すぎるもので変わるというテーマがあり、これこそが全6話で描かれていた情報そのものであると考えられます
そういった意味において、「アリア」は行動を促すヒントのような感じになっていて、それゆえに最後に追加されたのかな、と感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
杏さんが出ていることで興味が湧いていて、オムニバス形式でどんな話が展開するのかと思っていましたが、いきなり双極性障害の話になって度肝を抜かれました
その後は、コロナ禍の困窮が描かれていて、ホテルがシェルターになっているのにも関わらず、屋上で寝泊まりするグレタが描かれていて、こちらもヘビーな物語になっています
彼女たちを支える人物も登場しますが、支援はできても立ち直るためには自分で動かないとダメなのですね
キムがペプシを車内に置き去りにするシーンは爽快感すら覚えますが、どうやって撮ってるんだろうとか、余計なことを考えてしまいました
個人的に好きだった「声なきサイン」は緊張感が半端なく、DV夫が絶妙なタイミングで会話に入ってくるところがリアルでもありました
病院勤めなので、ちょくちょく虐待案件に遭遇するのですが、隠そうとする意識が強い大人には共通点があり、その行動が確信につながる場合もあります
その共通点を説明するのは難しいのですが、本作の場合だとエドゥアルドは二人の間に体を入れ込んで、背中側を医師に見せるという行為を行なっていました
この身体的なサインが如実で、シナリオに組み込んでいるとしたら、相当研究されているのだなと思ってしまいます
犯罪者ほど多弁というわけではありませんが、児童虐待の時などでは、子どもの声を遮って代弁するということが多くて、普通の場合は子どもの声を補足したりしないし、言葉にしないことに苛立ちを見せたりすることのほうが多いように思えます
母親が医療の現場や、他者との関わりの中で恐れるのが、自分が親として嘲笑されるのではないかという恐怖だと思います
それに対する反応で取り繕うことはあっても、そうではない補足というものは違和感が募ります
こういった反応に対して医師や看護師は長けているので、すぐに事務方に連絡が入ってコールをすることもあります
また、受付の段階で怪しいと思える場合は、その旨も診察室に伝え、杞憂でないかを探ることになります
人は言葉以外に多様の情報発信ができるもので、「声なきサイン」では、それがうまく表現されていました
この物語の対になるのが「私の一週間」で、子どもたちの行動(=ティッシュの箱を開けている)が繋がっていく瞬間は見事だったと思います
この物語は子どもたちのサインを感じ取れなかった母親を描いているのですが、それは見逃したというよりは、子どもたちがサプライズのために隠していたというニュアンスに近いですね
そして、それを行った理由が「母に時間を作ってもらって、三つ編みをしてもらう」というものだったのが素晴らしかったと思います
無意味に思えたり、自分の手間を増やしている行動の裏側にあるものは見えにくいものだと思います
そう言ったサインを多忙で見過ごすのではなく、違和感は立ち止まる瞬間であると再確認することが大事なのかなと感じました
誰しもがサインに気づける感性を持っているので、それを鍛えるために本作のような作品があっても良いのではないかと思いました