■映画をどう見たら、「貴公子」というタイトルになるのかが、1番の謎でしたねえ
Contents
■オススメ度
韓国ノワールが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.4.18(MOVIX京都)
■映画情報
原題:귀공자、英題:The Childe(裕福な出身の若者)
情報:2023年、韓国、118分、PG12
ジャンル:見知らぬ謎の男たちに追われるボクサーを描いたバイオレンス&スリラー映画
監督&脚本:パク・フンジュン
キャスト:
キム・ソンホ/김선호(マルコを追う謎の男)
カン・テジュ/강태주(マルコ・ハン:追われるボクサー、フィリピン人と韓国人のハーフ)
キャロライン・マクホボス/Caroline Magbojos(マルコの母)
イ・ギヨン/이기영(キム先生:コリアン・フィリピノ児童擁護施設の院長)
キム・カンウ/김강우(ハン・イサ:マルコを追う理事、財閥の二代目)
チェ・ジョンウ/최정우(ハン会長:ホギョン財団の創業者、ハン・イサの父)
ゴ・アラ/고아라(ユンジュ:マルコを追う謎の女)
ホ・ジュンソク/허준석(カン・ウォンソク:マルコを韓国に連れてくるハン・イサの弁護士)
ジョン・ラエル/정라엘(ハン・ガヨン:ハン・イサの義理の妹)
ハン・ジウン/한지은(チャン女史:ガヨンの母、ハン会長の後妻)
チョン・ジャヨン/정자영(チャン女史の弁護士)
【その他(だいたい登場順)】
Cherish Maningat(フィリピンのラジオDJ)
グ・ソンジュン/구서준(チョ:謎の男を監禁するギャングのボス)
イ・ギュウォン/이규원(チョの部下)
ジン・ニノ/Jin Nino(チョの部下)
パク・ジョンボム/박종범(チョの部下)
ソン・ヨンゴン/손영건(チョの部下)
Thanapong(ボクシングのレフリー)
Supawat Songkong(タイのボクサー、マルコの対戦相手)
キム・ドンヒョン/김동현(フィリピンのブローカー、ボクシング賭博)
Ot(ブローカー)
Jirasak Talenoi(ブローカーの取り巻き)
Pacalancul Kypracert(ブローカーの取り巻き)
Gan(ブローカーの取り巻き)
Pannop Passasan(ブローカーの取り巻き)
Crib Prasit Limsakol(ブローカーの取り巻き)
Javez Sky Almodier(フィリピンのバーテンダー)
Justin John Harvey(マルコを宝石強盗に巻き込む西洋人の男)
アン・スンジュ/안승주(フィリピン人の医師)
リュ・スンム/류승무(韓国の大使館の役人)
シン・ヨンウク/오기덕(韓国の大使館の役人)
シン・ソジョン/신수정(機内放送員)
チェ・ジミン/최지민(韓国人客室乗務員)
ソン・ソンチャン/손성찬(殺される編集長)
シン・ヨンウク/신용욱(殺される内通者)
イ・スンギョン/이승경(トラックの運手)
Bernard Olvinado(謎の男に薬を渡すペテン師)
Fishit Clantana Sewidoi(孤児院の工事責任者)
【マルコを襲うギャング】
イ・セホ/이세호
キム・ホジュン/김호준
クォン・ヒョクヒョン/권혁현
チェ・リホ/최리호
キム・ドンウォン/김동원
キム・グァンソク/김광석
ハ・イェチャン/하예찬
ヨン・ジュンウォン/연준원
【ハン・イサの部下】
キム・インファン/김인환
パク・ジンヒョン/박주현
チェ・ジヒョン/최지현
キム・ジンヒョン/김진형
パク・ジョンミン/박종민
ファン・ソンウン/황성웅
イム・ドンゴン/임동건
ペク・ボムソク/백범석
イ・チャンヒ/이찬희
チョイ・ギュンハ/전근하
チェ・ハンソル/최한솔
コ・ドギョン/고도균
ジン・ガミン/진가민
ソン・バンホ/송방호
チョン・ジョヒョク/정재혁
カン・ナギョン/강내균
キム・ジョンベム/김준범
イ・ホグァン/이호광
パク・テウォン/박태웅
パク・ソンホ/박상훈
チェ・ジュンソ/최준서
キム・ホヨン/김호영
シム・キョンボ/심경보
モ・ドヒョン/맹도형
イ・ジュンヨン/이준영
ホン・スンウ/홍승우
イ・ガンミン/이강민
ファン・ギョンファン/황경환
ヤン・イギョム/양이겸
キム・ジンス/김진수
チョン・チャエモ/정채무
【ハン会長の医療関係】
ソ・ミョンチャン/서명찬(イ医師:ハン会長の執刀医)
キム・ハンソル/김한솔(医療スタッフ)
イ・スンヒョン/이수형(医療スタッフ)
イ・デホ/이대호(医療スタッフ)
チョン・イェジ/정예지(医療スタッフ)
ソン・ジョンア/손정아(医療スタッフ)
イム・ギヒョン/임기현(医療スタッフ)
■映画の舞台
韓国&フィリピン
ロケ地:
韓国&フィリピン
■簡単なあらすじ
フィリピンの地下ボクシングで金を稼いでいるボクサーのマルコは、母の手術のために危ない仕事を請け負うハメになった
ある日、バーで知り合った謎の男から「宝石強盗」の話を持ちかけられたマルコは、待ち構えていたギャングに取り囲まれてしまった
何とか逃げようとするものの、道路に出た際に車に轢かれてしまい、病院で検査をすることになった
一命を取り留め、検査でも問題のなかったマルコは、事故相手から示談金を受け取り帰途に着いた
その矢先、自分の父が見つかり、それは韓国の財閥だと知らされる
父の代理人であるカン弁護士と共に韓国に来たマルコだったが、そこに「友達」を名乗る謎の男が現れた
彼はマルコの護衛を躊躇なく殺す殺人鬼で、マルコは命からがら逃げ出すことに成功する
そして、近くの村に来たマルコは、弁護士事務所に電話を掛けて助けを求める
すると、見覚えのある女がマルコを出迎え、再び謎の男に追いかけられることになった
選択肢のないマルコは女の車に乗り、そして父の元へと連れて行ってもらうことになった
女は父が心臓を患っていて、その治療のためにマルコを探していると言う
そして、それが叶わなければ、財団は後妻の娘に乗っ取られてしまうと言うのである
テーマ:人生の最後に会う友達
裏テーマ:命の代償
■ひとこと感想
サイコパスな貴公子が訳ありボクサーを追いかけると言う作品ですが、劇中内では一度も「貴公子」とは呼ばれないし、名乗りもしないのは驚きました
役柄としては「謎の男」と言うもので、原題の『The Childe』を日本語訳にしたものになります
「貴公子」の他には「上流階級の若者」と言う意味もあったりします
物語は、意味もわからずに追い回される貧乏ボクサーがいて、その前に何度も「謎の男」が立ち塞がります
財団の御曹司も絡んできて、その思惑は早い段階でわかりますが、そこからさらに一捻りあると言う内容になっています
映画は、バイオレンスアクションとして激しく、ガンアクションもたくさん登場してド派手な撃ち合いがありましたね
その道のプロとして謎の男が暗躍するのですが、彼に関するラストのオチも秀逸なものでしたね
ちなみにタイトルが誰のことを指すのかがミステリーのようになっているので
その真相がわかると「映画で描かれていない裏設定」と言うものがわかるように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画のパンフレットなどで「謎の男=貴公子」と書いてあるのですが、これって最大のネタバレになっているように思います
映画内では「謎の男」は「強いて言うなら友達」としか言わず、「人生で最期に会う友達だ」と言うのを何度も繰り返していました
原題の『The Childe』は「裕福な育ちの若者」と言う意味なので、映画の中だと「マルコを追うハン理事」しか、それに該当する人物はいないことになります
マルコ自身は謎の男がでっち上げたハン理事の嘘の弟であり、彼は裕福でも何でもありません
そして、マルコと謎の男の会話にて、謎の男=コピノ(韓国人とフィリピン人のハーフ)であることがわかります
映画では明言されませんが、ハン理事の本当の弟が謎の男であり、それゆえに多くのことを知っているように思えます
ハン会長が死に、ハン理事も死んだために、財団はガヨンのものになりますが、彼女が経営に携わるのは不可能なので、誰かが裏で引っ張っていくことになります
その時に登場するのが謎の男と言う裏設定があるのかな、と思いました
■謎の男の目論見とは何か
謎の男は、マルコを「ハン理事の弟」と偽って、その身柄の拘束と引き換えに1000万ドルの身代金を用意させました
彼は経済的に立ち行かなくなった「コピノの児童施設」の再生のためのお金を工面するために、ハン理事の身辺を洗い、実の息子を探していることを突き止めます
彼がなぜ「ハン理事が実の弟を探しているのを知っているのか」に関しては映画では描かれませんが、彼が実の弟ということなら説明がつくように思います
彼が出自を辿っていくうちに「ハン会長が実の親であること」を知り、そしてハン会長の病状についてもわかるようになる
お家騒動に関しても調べていくうちにわかるもので、遺言の存在などを知り、焦っているハン理事を騙すつもりで近づいたという推論は成り立ちます
とは言え、二人を関連づけるものは何もなく、ハン理事は「父からコピノの弟がいること」を聞かされていて、そして「願い」を叶えるために躍起になっていた
その情報を彼が掴んでいたことになるのですが、おそらくはカン弁護士も彼の指示で動いていたのだと考えられます
謎の男の出自は「コピノで施設出身」ぐらいしか明らかにされておらず、あの特殊な能力をどこで身につけたかはわかりません
韓国には兵役の義務があるので、それに就いてスキルを磨いたという推測は成り立つので、その後は裏稼業に手を染めつつ、自身の出自に関する情報を集めていたのでしょう
マルコを推したのはキム先生で、それは謎の男のオーダー通りの人物だったことがわかっています
マルコの母がほぼ寝たきりなのですが、彼女がハン会長との関係を持つ人物だとしたら、何かしらの方法でマルコに真相を残していたように思います
でも、そのような手掛かりがないことで、マルコは興信所などを使って、父の行方を探すことになったのだと思います
コピノで父親を探している頭の良い少年
これが謎の男のオーダーだとすると、これほどの適任はなかったと考えられます
謎の男が「もしハン理事の弟なら、なぜ名乗り出ないのか」という疑問はありますが、「息子の心臓を欲しがる父と兄がいる財閥」を引き継ぎたいとは思わないでしょう
なので、一族を根絶やしにしつつ、必要なお金は手に入れるということを考えると、名乗り出ない理由には近づけるように思います
あくまでも安全圏にいつつ、必要なものを奪うことが目的で、財閥には興味がない
また、ガヨンが継いだところで、財閥を大きくしてきた主要人物はいなくなっているので、いずれは跡形もなく消えていくものだと考えられるのではないでしょうか
■韓国ノワールの面白さについて
本作は、「韓国ノワール」というジャンルで、これは「裏社会に生きる人々や犯罪をテーマにしたジャンル」のことを言います
特徴的なのは、容赦ない暴力表現で、かなり過激なシーンが多いと言えます
本作は、その暴力シーンはやや控えめですが、裏社会から見た社会の愚かな構図を切り取っていましたね
富豪が延命のために腹違いの弟の臓器を搾取するという目論見があり、その計画の途上で「自分の部下が父を撃ち殺す」というバカバカしさがあったように思います
「ノワール」はフランス語で「黒」という意味があり、人間の悪意や差別、暴力などを描くのですが、本作では「フィリピンとのハーフ(コピノ)」に対する差別が描かれていました
コピノとは、韓国の男性とフィリピンの現地女性の間で生まれた子どものことで、「Korean+ Rhilipino」の合成語のことを言います
これらは社会問題となっていて、韓国人男性が認知や支援をしないことで、コピノは貧困でまともな教育を受けることができずに、最低限の生活を余儀なくされています
特に韓国人男性の態度が悪く、子どもの存在を否定したり、養育費を送ることもせず、自国に連れ帰ることもしないと言われています
コピノが増えている要因に、韓国人の売春旅行、短期語学留学世の無責任な行動に加えて、フィリピンでは1930年以降「堕胎が違法化になった」というものがあります
本作は、そのコピノであるマルコが「臓器提供のためのターゲット」であるという設定があり、それを欲する韓国財閥の醜悪さを描いています
そして、その思惑を壊すのがコピノの男であり、韓国富豪の手の内を理解しているように思えます
韓国の闇として、あまりふれられることのないコピノですが、ダークヒーロー的な描かれ方をしているのは意外でしたね
このキャラで続編が作れそうな感じになっていますが、そうなると彼の過去譚が描かれるのかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、実に先の読めない展開で、マルコを巡る多くの存在が次から次へと展開していきます
全てが「謎の男の手のひらの上」となっていて、それが爽快でもありながら、わかりにくい部分もあったように思います
ハン理事からカン弁護士に依頼が入り、マルコ捜索をさせます
カン弁護士にマルコの情報をリークしたのが謎の男で、彼はマルコやカン弁護士と同じ便で韓国入りをしていました
謎の男は、カン弁護士たちが眠っている隙にマルコとコンタクトを取りますが、おそらくは事前に打ち合わせの末に、関連がないことを証明する意味合いがあったように思えます
謎の男はハン会長の思惑を知り、そしてキム先生にコピノの中からそれらしい男をピックアップさせていて、彼は不本意な行動であったことが示されています
でも、謎の男の作戦が成功しないと、支援学校は立ち行かないので、その作戦に加担するしかありません
韓国に着いたマルコは、おそらくユンジュの仕向けた西洋人の強盗話に乗ることになり、そこで用意されたギャングに道路に誘導され、そこでマルコは車に轢かれることになりました
ギャングたちはどうなるかを知らなかったので、事故と同時に一目散に逃げていくことになります
その後、ユンジュは「DNA検査をして、マルコがハン会長の息子であることを確定させる」のですが、この時に謎の男は医師を使って検査データを変更させます
そのデータはハン会長の実子であることを証明しますが、データ改竄だけでは難しいので、「実子のDNA」を用いたのだと思います
これがハン理事のものか、本当の実子コピノなのかはわかりませんが、単にデータを改竄しただけではバレると思うので、本物を用意して差し替えさせた可能性が高いと思います
そのDNAはコピノを示す「韓国人とフィリピン人のDNA」が必要なので、ハン理事のDNAを使用するわけにはいかないのですね
その後、確定データを手に入れたユンジュは、依頼元のガヨンの元に出向き、そこから指示を得ることになります
その指示は「マルコの殺害」なのですが、それを謎の男が阻止し、ハン・イソとの交渉を始めます
交渉の末、謎の男は1000万ドルを手にいれ、それをキム先生に送金、銃撃戦の末にハン理事とハン会長は死に、それによって、ガヨンが目論み通りの財産相続人となります
いわゆるガヨンの一人勝ちの状態なのですが、彼女は財産を食い潰してしまうタイプの人間で、財閥を動かすことは無理でしょう
なので、遅かれ早かれ、誰かの手に財団を売り払い、お金だけを得るということになります
その買い手が誰になるかはわかりませんが、謎の男の暗躍があっても驚けないのかな、と感じました
続編のネタとしてはかなり弱いので、このネタで続編を作る意味はありませんね
描かずに余韻で妄想する方が楽しいので、このまま完全終了でも良いのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100950/review/03729658/
公式HP:
