■本当に見極めるべきは民意であると思うが、そのために権力を切り捨てたり変化させたりできないのが政治家という生き物だと思う


■オススメ度

 

選挙活動にまつわる暗躍の話に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.11.19(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:대외비(対外秘)、英題:The Devil‘s Deal(悪魔の取引)

情報:2023年、韓国、116分、G

ジャンル:釜山の国会議員選挙にまつわる裏社会のパワーゲームを描いたスリラー映画

 

監督:イ・ウォンテ

脚本:イ・スジン

 

キャスト:

チョ・ジヌン/조진웅(チョン・ヘウン/전해웅:釜山海運台地域区に出馬する国会議員候補)

 

イ・ソンミン/이성민(クォン・スンテ/권순태:釜山のフィクサー)

キム・ソンフン/김성훈(パク・ヨンシク/박용식:ヘウンの対抗馬に当てられる議員候補、大韓民国党)

チェ・ミンチョル/최민철(パク・ヨンシクの妻)

 

キム・ムヨル/김무열(キム・ピルド/김필도:ヘウンに資金提供する地域の暴力団)

ウォン・ヒョンジュン/원현준(チョン・ハンモ/정한모:ヘウンの計画に乗る実業家、不動産屋の社長)

 

キム・ミンジェ/김민재(ムン・チャンホ/문장호:住宅開発担当の市役所の本部長)

キム・ユンソン/김윤성(パク・サンマン/박상만:選挙管理委員会の課長)

 

パク・セジン/박세진(ソン・ダナ/송단아:ヘウンを取材する社会部の記者)

チョン・ギソプ/정기섭(社会部の部長、ダナの上司)

ムン・ジョンデ/문정대(新聞社の会長)

 

ソン・ヨウン/손여은(アン・サンミ/안상미:ヘウンの妻)

パク・シワン/박시완(チョン・ヨンジン/전영진:ヘウンの息子)

チョン・ヤンイム/전양임(ヘウンの母)

 

ユ・スンモク/유승목(アン・ギュファン/안규환:検事長、ヘウンの先輩)

パク・ジュンピョ/박정표(キム・グァンドゥ/김광두:検事)

ホ・ジウォン/허지원(ユン/윤검사:検察官)

 

チョ・ヨンジン/조영진(大臣)

ハン・ガブス/한갑수(陸軍指揮官)

パク・サンギュ/박상규(釜山市党の主席)

イ・サンヨン/이상원(安全管理室の室長)

 

パク・デチョル/박대출(キム・マンジョ/김만조:?)

パク・サンウォン /박상원(キム・ドンシク/김동식:?)

 

オム・ギバク/엄기백(船長)

ソン・ソンホ/손성호(ヘウンの先輩)

ソン・ソンチャン/손성찬(ヘウンの先輩)

キム・へジュン/김혜정(露天商)

ソ・ヨンサム/서영삼(写真屋)

ヤン・ジョンイン/양정인(ヘウンの選挙スタッフ)

クァク・ジン/곽진(ヘウンの選挙スタッフ)

キム・チェヒョン/김채현(ホテルの記者)

クォン・ヒョクソン/권혁성(ホテルの記者)

ウ・スビン/우수빈(ホテルの記者)

キム・ジェヒョン/김제형(ホテルの記者)

キム・スファン/김수환(ホテルの記者)

ムン・スンジュ/문순주(ホテルの記者)

チェ・ビョンユン/최병윤(サウナの刑事)

チェ・ヒョンド/최현도(捜査官)

チョ・ヨンジン/조영진 (モーテルの社長)

ア・イレ/여이레(モーテルの女)

チョン・ソイル/정소리(モーテルの女)

ユン・ドヨン/윤도영(モーテルの女)

キム・ヒョソク/김효석(ニュースアンカー)

キム・ミソン/김미선(ニュースアンカー)

チョン・ダイン/전다인(ニュースアンカー)

イ・ジウ/이지우(ニュースアンカー)

オム・オクラン/엄옥란(クラブのママ)

キム・ジン/김진(クラブのバックダンサー)

ムン・ジヨン/문지영(クラブのバックダンサー)

ハ・ミンア/허민아(クラブのバックダンサー)

キム・ジョンソン/김종선(バンドのキーボード)

キム・ヒョンミョン/김형명(バンドのドラム)

ガン・ハンヒム/강한힘(バンドメンバー)

イ・ウォンジン/이원진(バンドメンバー)

 


■映画の舞台

 

1992年3月、

韓国:釜山&ソウル

 

ロケ地:

韓国:

釜山広域市

 

四川市

 

青州市

青南大学

 


■簡単なあらすじ

 

1992年3月、釜山の海雲台地区では、議員候補のヘウンが力強い演説を行なっていた

ヘウンは再開発が目されるこの地域の地盤を握ろうとしていて、大韓民国党の公認を取り付ける算段になっていた

資金融通のためにヤクザのピルドと手を組み、実業家のハンモを巻き込んでいくものの、突然公認を外されることになった

 

使い勝手の良い新人議員を抱えた党に怒りを覚えたヘウンは、同窓の市役所役員に働きかけ、次なる再開発地域に詳細な決済書を手に入れることになった

これによって、ヤクザはさらに資金を募り、無所属として選挙を戦うことになった

だが、結果は僅差の敗退で、ヘウンは借金が焦げ付いてしまう

 

ヘウンは一連の首謀者が誰かを突き止めようと躍起になり、そして釜山のフィクサーことスンテに辿り着く

スンテはヘウンに政治のイロハを教えた人間だったが、度重なる妨害に腹を立てて、袂を分つことになった

そして、対外秘と呼ばれる機密文書をリークして、一連の政治への不信を民意に問う手段に出てしまう

だが、様々なところに力を及ぼすスンテには歯が立たず、ヘウンは意を決して、巨悪になろうと考えるのである

 

テーマ:悪には巨悪を

裏テーマ:政治家の資質

 


■ひとこと感想

 

映画を見終わった後に「海雲台」をググるとわかりますが、当時のあの感じがえらいことになっていることがわかります

実際にどうだったかはわかりませんが、今の海雲台を考えると、様々な利権が生まれたのかな、と勘繰ってしまいます

とは言え、これはこの場所だけの話ではなく、どこの世界でも甘い汁を吸っている人がいるのは周知のことのように思えます

 

映画では、万年候補止まりの清廉潔白な男が闇堕ちすると言う内容で、どこまで落ちるのかと思ったら、とことんまで堕ちていきましたね

本人とすれば昇っている感覚だと思いますが、この道をどんな道と捉えているのかが政治家としての資質を表しているとも言えるかもしれません

 

映画は、そこまで複雑な話ではありませんが、公式HPに人物相関図ぐらいは欲しかったですね

パンフレットでもないので困ってしまいますが、鑑賞中に混乱することはないと思います

映画『犯罪都市 PUNISHEMENT』を観ている人ならフフフとなってしまうかもしれません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

本作は、1990年代の再開発ブームの裏側を描いているというテイストのフィクションで、冒頭にもデカデカと「フィクションですよ」と書かれていました

そこまで注意喚起しないとほんとにあったことのように思えるリアリティがあって、二回死ぬことになった兄ちゃんは可哀想だなあと思いました

 

映画は、政治家が闇落ちすると言うわかりやすいもので、コケにされた恨みを持って、命懸けでフィクサーと相対する様子が描かれていきます

フィクサーには国の中枢の大物が絡んでいて、ざっと観た感じだと大臣クラス、軍の司令官あたりは列席していましたね

使い勝手の良い議員を駒にすると言う意味でヘウンは外されましたが、ここまで噛みつかれるとは思いもしなかったと思います

 

映画のタイトルは「対外秘」と言うことで、いわゆる機密文書のことなのですが、英題は劇中のスンテのセリフ「悪魔との取引」が採用されていましたね

毒を喰らわば皿までもと言う感じで、口に出してしまったことはやり遂げなければ自分に返ってくると言うのを地で行っているように思えました

 


当時の韓国の情勢

 

1990年代の韓国と言えば、盧泰愚(ノ・テウ)大統領の頃であり、ソウルオリンピックに沸いた直後になります

盧泰愚大統領が金泳三と金鍾泌が青瓦台で会談をして、「民主自由党」を結成し、その後にソ連と国交を樹立する時期になっています

1961年から始まった軍事政権以降、初めての地方自治復活の選挙が行われたのが1991年で、主人公のヘウンはその流れに乗っている地方で立候補した議員となっています

 

ヘウンは地元の再開発を推し進めるために議員になっていて、選挙で受かるために「公認」を取りたいと考えていました

そこで、地元に影響が及ぶように「再開発地域をヤクザに先に買わせる」という手法で資金を集めることになっていて、その目論見が見事に外れるという事態へと動きていきました

ハシゴを外されたヘウンは逆襲を企てるというのがメインで、そのために「機密文書を盗み見る」という犯罪を起こしていきます

いわゆるインサイダーを地で行く内容で、再開発のために国が買い入れる時に儲けることができるように「予定地を調べる」ことに身を捧げていました

 

この手の「官民癒着」のようなものがどれだけ起こっていたのかは分かりませんが、再開発のために住民を立ち退かせたりするためにヤクザが出しゃばるというのはいつの時代も同じ何だなあと思います

オリンピックやサッカーのワールドカップの誘致に息巻いている頃というのは、いわゆる危ないお金で殴り合う時代のように思います

現在進行形の某国の湾岸地帯の博覧会でも、地上げで云々ということはなくても、建築資材を迂回させて中抜きをしまくっているという実態も浮かび上がりつつあります

このような時代の転換期には、必ずと行って良いほどに「決定権がある人間」と「実行する人間」の間に癒着があって、そこにお金を生み出すマジックがあった、というのはどこにでもある話なのかもしれません

 


利権政治の成れの果て

 

本作は、思いっきり利権政治の裏側を描いていて、当選したら「再開発に関する利権」をしゃぶり尽くすと言う感じで選挙に突き進んでいます

今では規制がかかりそうなものでも、当時だとオールOKみたいな感じで、勝てば許されると言う空気感があったように思います

特に、民主主義と言う名の強奪選挙は始まったところなので、いかにして覇権を取るかと言うのは、目先の選挙だけでは止まらない価値がありました

そんな中、使い勝手の良い新人を抜擢され、ヘウンはハシゴを外されたと言う流れになっていました

 

ヘウンを裏切ることになった党の有力者も「地元の力が強すぎるヘウン」を嫌っていて、それは「当選後にある程度の力を持つから」と言うものだったと思います

場を支配する目的があり、その駒は従順なほど扱いやすく、そうした駒をたくさん配置することで権力というものがより強固になります

ヘウンの場合は、信念と地元民との約束という熱さはあるものの、その後を見据えた選挙はしていません

ともかく、今回の選挙に勝つためにどうするかだけを考えていて、そのプランの脆弱さというものが悲劇を生むことになりました

 

暴力団などはそう言った権力に隠れたところにいるもので、権力者が欲しがるもの、やってほしいことを代弁、代役していくことで「恩」というものを売ります

権力者もスネを齧られることを承知で利用しているのですが、背景にいる闇と言うのは光以上に多くのものを吸収していきます

光が照らす場所のほうが少なくて、それ以外は闇なので、闇は闇同士で権力構造に対する根を生やしていくのですね

フィクサーと言うのは、そういった闇の根すらもコントロールしようと考えるので、ヘウンのような見境のない戦略というものは好まないと言えるのではないでしょうか

 

このような利権政治と言うのは、食い尽くすところまで食い尽くすと言う感じになっていて、その果てというものはありません

利権がさらに利権を生み、社会からお金を吸い上げる装置を作り出していくので、そう言ったレールはパイプ役の欲望に塗れたまま肥大化していきます

この構造に関してはどこの国も同じようなもので、すべてとは言わないものの、権力闘争に明け暮れる人々の背後には多くの闇が存在します

そう言った活動の中で「目立った広告塔」は必要なのですが、この神輿は軽ければ軽い方がよく、勝手に動き回られても困るだけだと言えるのかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、選挙に勝つために「公的機密文書」を盗み見るという内容になっていて、再開発がどこで行われるかという情報を必要としていました

それで儲けさせるから手伝えみたいな感じになっていて、そもそも再開発になるような土地は二束三文が多いように思います

安い分、多くの土地を保有することができ、それを国もしくは再開発後に高く売れることがわかっているので、その利鞘というものは他の不動産取引よりも楽に稼げます

一番難しいのは「どこが再開発されるのか」という場所の選定で、少しでもズレると意味がありません

 

土地取引に関する犯罪は多くのドラマになっていて、話題のドラマ以外にもたくさん取り扱われてきました

むしろ、政治家が関わるというよりは、末端の役人が巻き込まれたり騙されたりするものとか、地面師詐欺のような民間の話の方が多いように思います

巨額が動くことで一気に稼げるというものもありますが、土地自体の価格の変動がそこまで起きず、起きたとしても「行政が絡む」ことが多いゆえに瞬間的な急激な変動というものが起きにくいのですね

今回のように再開発が行われることが明るみに出る瞬間というものは価格が変動しますが、その後にどのような需要が見込まれるかはその段階ではわかりません

 

都市計画として、ある程度の長期スパンで発展が見込める場合には上がっていくと思いますが、それを見極めるのはとても難しいと思います

それでも、映画で描かれていた時代だと、成長期の真っ只中なので、ある種のバブルをどこに作るかという計画があったりします

なので、その波にどのように乗るかというのが肝心で、それゆえにそれぞれが血眼になって、次の10年を取るために躍起になっていたのでしょう

ヘウン自身も地元の活性化を行なった上で地盤を築き上げ、その影響力というものを保持しようとします

 

権力の中枢には、実行力と民意、支持基盤などが必要で、そのいずれかが欠けてもダメだと思います

でも、権力構造が確立された後は、支持基盤を蔑ろにしたり、民意にそぐわないことを繰り返していると、現在の某国の主要政党のように落ちぶれてしまいます

今は、SNSを中心としたネットの時代で、真贋問わない情報が飛び交っていくので、なおのこと流動的になる民意というものを肌で感じないとダメでしょう

近いうちに衆参ダブル選挙などが行われたとしても、民意を汲み取れない人が頭を張っている以上、歴史的な大敗が待ち構えていると思うのは私だけでしょうか

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101544/review/04485996/

 

公式HP:

https://www.taigaihi.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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