■心と体のバランスが崩れると、人の成長は止まってしまうのかもしれません


■オススメ度

 

タイムリープ系の映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.11.23(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題Les cinq diables(5つの悪魔)、英題:The Five Devils

情報:2022年、フランス、96分、G

ジャンル:特殊な嗅覚を持つ少女が、強烈な匂いによって母親の青春時代にタイムリープする様子を描いたヒューマンドラマ

 

監督:レア・ミシウス

脚本:レア・ミシウス&ポール・ギローム

 

キャスト:

アデル・エグザルコプロス/Adèle Exarchopoulos(ジョアンヌ・ソラー:ヴィッキーの母、水泳のインストラクター)

サリー・ドラメ/Sally Dramé(ヴィッキー・ソラー:嗅覚に不思議な能力を持つ少女、ジョアンヌの娘)

 

スワラ・エマティ/Swala Emati(ジュリア・ソラー:問題を起こして疎遠だったヴィッキーの叔母、ジミーの妹)

ムスタファ・ムベング/Moustapha Mbengue(ジミー・ソラー:ジョアンヌの夫、ヴィッキーの父、消防士

 

ダフネ・パタキア/Daphné Patakia(ナディーヌ:顔に火傷痕が残っているジョアンヌの同僚、元体操チームのチームメイト)

Hugo Dillon(ジェフ:ジミーの同僚、消防士)

 

パトリック・ブシテー/Patrick Bouchitey(ジョン・イヴォン:ジョアンヌの父)

 

Noée Abita(カラオケクラブのローラーブレードのウェイトレス)

Ines Helouin(カラオケクラブで歌っている客)

Newwan Rim(カラオケのクラブ DJ)

 

Charlotte Bon Bornier(ヴィッキーを虐めるクラスメイト)

Stephanie Lhorset(ヴィッキーの通う学校の校長)

 

Eloah Louisjute(ラストシーンでヴィッキーを見つめる少女)

 


■映画の舞台

 

フランス:ローヌ=アルプ地域

ファイブ・デビルズ(架空の村)

https://maps.app.goo.gl/koss8xbn8KwBgqXBA?g_st=ic

 

ロケ地:

フランス:イゼール

Le Bourg-d’Oisans/ル・ブール=ドアザン

https://maps.app.goo.gl/G1RN6y75ztayxGFj6?g_st=ic

 

フランス:

Bondy/ボンディ

https://maps.app.goo.gl/Pf7RQ7Y2UEdRPo3d7?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

フランス南部の山奥で暮らすヴィッキーは特別な嗅覚を持っていた

彼女は水泳のインストラクターの母ジョアンヌを溺愛していて、彼女の日課である湖での寒中水泳の監視役を買って出ていた

ヴィッキーの父ジミーは地元の消防士で、ジョアンヌとはハイスクール時代からの旧知の仲だった

 

ある日、ジミーの元に妹のジュリアから連絡が入った

ジュリアとは10年ぶりの再会で、彼女はその10年前に村を揺るがす大事故を起こして服役していた

好意的に思われないのを承知でジョアンヌたちと暮らし始めるジュリアだったが、彼女はある理由で「イカレ女」扱いをされていた

 

特に彼女の存在を意味嫌っているのがジョアンヌの同僚ナディーヌで、根深い問題が燻ったままになっている

ジュリアが村に戻ったという情報は颯爽と駆け巡り、それは彼女が村から去ろうとした時でされ、他人の興味本位に晒され続けるのである

 

テーマ:本心

裏テーマ:母親への理解

 


■ひとこと感想

 

タイムリープ系というのは映画のチラシか何かを見て覚えていたのですが、ストーリーの概要は全く知らないまま鑑賞することになりました

ある家族の秘密が根底にあって、ある匂いを嗅いだことで、少女ビッキーが母親たちの記憶の中に転がり込んでいる様子を描いてきます

 

タイプリープ系は「過去あるいは現在の問題を解決する」というものでしたが、本作はタイムリープで過去を改変することもなく、単に「ヴィッキーが両親たちの秘密を覗き見る」という感じになっています

でも、終わってみると、ヴィッキーのこの行動が因果を作り出していた、という本質が見えてくるところは若干ホラーかな、と思ってしまいます

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

物語は「何かが炎上しているところに17歳の母親がいる」というオープニングがあり、そこから田舎道に続く一本道を一台の車が走っていく様子が描かれます

その炎上を見ていたのはヴィッキーで、それはどうやら夢のようでもありました

 

そこから彼らの日常が描かれ、ジョアンヌの同僚ナディーヌの焼け爛れた顔が映し出されたときに、夢が現実であったことが仄めかされていきます

 

ヴィッキーの特殊な嗅覚がどのようなものかはよく分かりませんが、どうやら好きな匂いを再現できるようで、好きな匂いを小瓶に詰めているという様子が描かれていきます

 

ヴィッキーが見た夢は「両親たちの過去」で、それを覗き見しているヴィッキーに気付くのがジュリアだけでした

でも、ジュリアにヴィッキーが視えることが「彼女を異常者だ」と村人に思わせているところが切なくもあります

 


閉鎖的な村で起こる悲劇

 

映画のタイトルでもある「ファイブ・デビルズ」は、映画に登場する架空の村の名前ということになっています

そのまま読むと「5つの悪魔」ということになりますが、何が悪魔なのかは明確にはされていません

単純に考えると「ジュリアに視えたヴィッキー(少女)」ということになりますが、ヴィッキーの能力は人物への執着の末に覚醒に至ったものと言えます

そして、彼女の執着は「母親の隠された記憶」というものを呼び出すことになりました

 

ジョアンヌの抱える秘密というのは、村のみんなも過ぎた過去として扱っていたもので、ジュリアの登場によって掘り返されるものでした

ジュリアは裁判を終えて服役し、その罪を償ったのですが、村のみんなはそれで赦しているわけではありません

ジュリアの奇行が生み出したものというのは、表面上は火事なのですが、村が受けた影響というのは火災による被害だけではありません

それが閉鎖的な集落で起こった「隠すべき過去」という捉え方になっていて、ジュリアの登場は「過去を知らない者へどう伝えるか」という難題を引き起こしていました

 

村人が服役後のジュリアに対してどう思っているかというのは明言されませんが、阻害すべき毒のような扱いをしています

一方で直接的な被害を受けたナディーヌは、あの火災によって負った火傷によって人生が一変しています

ただし、ナディーヌの人生にどのような影響があったかは描かれず、その過去よりもジュリアの登場によって、ジョアンヌとのただならぬ関係が再燃することの方に嫌悪感を募らせているようにも思えました

 

村社会では「精神的におかしな行動」も阻害すべき難題でありますが、「同性愛」というものも嫌悪の対象になっている節があります

コミュニティがマイノリティに対してどう考えているかというのはわかりませんが、ファイブ・デビルズでは不寛容とも寛容ともどちらとも言えない雰囲気があったように感じました

 


ヴィッキーの能力が目覚めたのは何故か?

 

ヴィッキーの特殊能力は「嗅覚によって匂いを再現できる」というもので、それによって「好きなものの匂い」を別の何かで再現してきました

その能力は「ジュリアの持っていた小瓶の匂いを嗅いだこと」によって、「母親たちの過去」にタイプリープする能力へと変わってしまいます

でも、あくまでもその現場に居られるというもので、ヴィッキーの存在が視えるのはジュリアだけだった、という風に描かれていました

 

ジュリアにそれが視えるのは、おそらくは同じような能力を有しているからだと推測されますが、本作ではジュリアの能力については何一つ出ません

また、あの小瓶の中身が何なのかわからないし、あの瓶が行方不明になってもジュリアは反応しませんでした

もしジュリアに同じ能力があると仮定すると、あの小瓶の中にあるものは「ジョアンヌの匂い」が凝縮されたものでしょう

ジュリアが服役中にその匂いを研究し作ることで、獄中の悲しみを癒したとするならば、その目的を終えた代用品は彼女にとっては不要になります

 

ラストシーンでヴィッキーを見る少女が登場しますが、彼女の正体は明かされません

可能性が高いのはヴィッキーの娘かジュリアであると思います

物語の流れを考えると、その能力の特質(自分の好きな人の過去に潜り込む)と、自分が生まれる前の世界に来るという設定を考えるとヴィッキーの娘である可能性は高いでしょう

ただし、能力は血縁関係のないジュリアからヴィッキーに受け継がれてきたことになるので、遺伝的に連鎖するかは微妙だったりします

 

ヴィッキーの能力が目覚めた最大の理由は、自分の出自に関する「愛」というものが揺らぐことになったからだと思います

あの小瓶の中にあった、ジュリアが再現したジョアンヌの匂いは、彼女の出自を揺るがす「愛」だったとも言えますね

それによって、自身の能力を最大限にまで引き上げることになりました

言うならば、ヴィッキーにあのタイムリープをさせたのは、ジュリアのジョアンヌへの愛であり、それはヴィッキーの存在の否定にもつながっていきます

でも、ヴィッキーが生まれた事実は消すことができず、現実世界のジュリアはジョアンヌに「自分との関係は嘘だったのか」を問うことになっていました

 

映画では、二人の愛を知ったジミーが自ら身の引くと言う選択をしますが、それによってジョアンヌのジミーへの愛が否定されたわけではないと思います

でも、ジミーには受け入れ難い事実でもあり、そうした心の空白をナディーヌとの関係で埋めようとしたのは彼の弱さなのかもしれません(ともにジュリアとジョアンヌの愛の被害者であるという共通点がないことはないですが)

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

パンフレットの中で監督は「ブリキの太鼓(Die Blechtromme)」というドイツの作家ギュンター・グラスの作品を参考にしたと明記されていました

ブリキの太鼓」は「精神病院の入院患者が看護人に半生を語る」という内容で、ある出来事によって「成長が止まった精神は大人であるオスカル・マツェラート」が主人公になっています

この「ブリキの太鼓」では、オスカルが自分自身を語るのですが、語ることで止まっていた肉体が成長を始めると言う流れになっています

これは、心の中にあるトラウマが心身のバランスを崩したまま成長させ、その解放によって正常に戻ると言う流れを描いています

 

監督がこの作品を参考にした理由までは明記されていませんが、おそらくは幼少期から大人に移行する段階で、「自分のアイデンティティを再確認することで成長していける」と言うことを含ませたかったのかなと思いました

オスカルは「肉体はそのままで精神は成長」していますが、ヴィッキーに起こっていることもおそらくそれに近いものではないかと推測されます

ヴィッキーが自分のアイデンティティの確立の過程で生じている執着というものは、かなり一方的で激しいものであると言えます

一方で、ジョアンヌの中にある感情はヴィッキーの存在を否定はしないけど、その愛の純度を保証するものではありません

なので、双方の愛の純度を上げるために、真実が必要だったと言えるのかもしれません

 

オスカルは自分で語りますが、ヴィッキーは過去を俯瞰することで母親というものを理解していきます

それは同時にジュリアとの再会によって再燃したジョアンヌのアイデンティティを確立させるものであったとも言えます

映画の主人公はヴィッキーに見えますが、観客からすれば、彼女はあくまでも「語り手」あるいは「狂言回し」のポジションになります

なので、「ブリキの太鼓」の引用とモチーフを考えるならば、過去のある時点で時間を止めてしまったジョアンヌの物語であるとも言えます

 

映画でジョアンヌは自分語りをしませんが、ヴィッキーの能力によってそれらは暴かれていきます

そうした先にあったジョアンヌの咆哮というものは、止まっていた彼女の時間が動いた瞬間だったと言えるのかもしれません

人は自分がどのような愛の重なりによって誕生したかを知る由もありません

この映画では特殊能力の開花によって生じた偶発的なタイムリープがそれを見せることになりました

そこにあった母の秘匿はヴィッキーの望むようなものではありませんでしたが、過去の事故を知ることによって、彼女のルーティン(体を痛めつける行為)の意味が理解できたとも言えます

そう言った意味においては、ヴィッキーにとっては有益だったと言えるのかもしれません

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384984/review/302fb305-10cb-4d4d-b47a-39b16e67d33e/

 

公式HP:

https://longride.jp/fivedevils/

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA