■失われたものの再構築に必要なのは、真実とは限らないと言えるのかもしれません
Contents
■オススメ度
リチャード3世埋葬の裏話に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.9.26(京都シネマ)
■映画情報
原題:The Lost King(失われた王様)
情報:2022年、イギリス、108分、G
ジャンル:シェイクスピアの劇を観て違和感を感じた一般人女性がリチャード3世の遺骨を探し始める伝記映画
監督:スティーブン・フリアーズ
脚本:スティーブ・クーガン&ジェフ・ポープ
原作:フィリッパ・ラングレー&マイケル・ジョーンズ『The King‘s Grave: The Search for Richard Ⅲ』
キャスト:
サリー・ホーキンス/Sally Hawkins(フィリッパ・ラングレー/Philippa Langley:リチャード3世に夢中になる主婦、筋痛性脳脊髄炎罹患者)
スティーヴ・クーガン/Steve Coogan(ジョン・ラングレー/John Langley:フィリッパの別居中の夫)
Adam Robb(マックス・ラングレー:フィリッパの息子、長男)
Benjamin Scanlan(レイフ・ラングレー:フィリッパの息子、次男)
Harry Lloyd(リチャード3世/King Richard III:フィリッパの前に現れるリチャード3世)
【行政関係】
Amanda Abbington(シーラ・ロック:レスター市議会の資金委員会の委員長、発掘支援者)
Amanda Abbington(サラ・レヴィット:市の責任者)
Ian Dunn(マーティン・ピーターズ:レスターシア・プロモーションの支援者)
【レスター大学関連】
Mark Addy( リチャード・バックリー/Richard Buckey:レスター大学の考古学サービス(ULAS)の考古学者)
Leigh Biagi(バックリーの妻)
Alasdair Hankinson(マチュー・モリス:バックリーの研究室の主任)
Phoebe Pryce(ジョー・アップルビー:バックリーの研究室の研究員)
Sharon Osdin(リチャード・バックリーの支援者)
Lee Ingleby(リチャード・テイラー/RichardTaylor:レスター大学の広報担当者)
Jade Ogugua(テイラーのアシスタント)
James Fleet(ジョン・アンダーソン=ヒル/ John Ashdown-Hill:中世の歴史家、バックリーの講演の傍聴者)
【リチャード3世協会関連】
Bruce Fummey(ハミッシュ:協会の仲間、市長の隣人)
David Ireland(ケイト:協会の仲間)
Alison Peebles(アネット:協会の仲間、エディンバラ支部のまとめ役)
Harvey Reid(ジム:協会の仲間)
Julian Firth(RR・ローレンス:教会の仲間)
Annie Griffin(ジェシカ:オンラインでやり取りする教会のメンバー)
Simon Donaldson(グラハム・ネイスミス:オンラインでやり取りするマニア)
【リチャード3世の舞台劇関連】
Robert Jack(アレックス:舞台演出家)
Sarah MacGillivray(スーザン:アレックスの妻)
John-Paul Hurley(バッキンガムを演じる舞台俳優)
James Rottger(リッチモンドを演じる舞台俳優)
Harry Lloyd(ピート:リチャード3世を演じる舞台俳優)
Saylor Lloyd(ピートの娘)
【仕事関係】
Shonagh Price(ケリー:フィリッパの同僚、友人)
Helen Katamba(アウシー:フィリッパの同僚、友人)
Lewis Macleod(トニー:フィリッパの上司)
Jenny Douglas(クリスティ:抜擢されるフィリッパの後輩)
【その他】
Josie O’Brien(フィリッパの講演を聞く女子小学生)
Violet Hughes(フィリッパの講演を聞く女子小学生)
Robert Maloney(バーでヤジ飛ばす客)
Lukas Svoboda(車のディーラー)
Iman Akhtar(福祉局の受付係)
Manjot Sumal(駐車場の職員)
Mark Jeary(レポーター)
Dan Calvert(騎士団)
Tobias Capwell(騎士団)
Michael Collin(騎士団)
Andrew Deane(騎士団)
Sean Francis George(騎士団)
Dominic Sewell(騎士団)
■映画の舞台
スコットランド:
エディンバラ/Edinburgh
ロケ地:
スコットランド:エディンバラ
エディンバラ城/Edinburgh Castle
https://maps.app.goo.gl/QNyW4Ce4rsXvkVBo8?g_st=ic
ダルケイス/Dalkeith
https://maps.app.goo.gl/crL4dT2ypLyFznSP6?g_st=ic
スコットランド国立鉱業博物館/
National Mining Museum Scotland
https://maps.app.goo.gl/YcTCS6cBaJan1BZX7?g_st=ic
聖マリア大聖堂/St Mary’s Episcopal Cathedral
https://maps.app.goo.gl/LzxWH29bm5DdugvT7?g_st=ic
グレイフライヤーズ/Grey Friars
https://maps.app.goo.gl/of7H3TA8wxPepa8fA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
スコットランドのエディンバラに住んでいるフィリッパは、筋痛性脳脊髄炎を患いながらも着実に仕事をこなしていた
だが、上司から正当に評価されず、別居中の夫は新しい恋人とうまくやっている
息子2人もいうことを聞かず、しまいには「イカレ女」と悪態を吐く始末だった
ある日、シェイクスピアの「リチャード3世」の劇を観たフィリッパは、リチャード3世が劇で描かれるような醜悪で邪悪な存在なのかと疑問を持つ
そして、本を買い込んで調べているうちに、リチャード3世の幻影を見始めてしまう
本の中に「リチャード3世協会」のしおりを見つけたフィリッパは、その会合に参加し、メンバーたちと意気投合する
そして、リチャード3世の失われた遺骨を探そうと思い始めるのである
テーマ:歴史に埋もれた真実
裏テーマ:歪曲される史実とその理由
■ひとこと感想
ポスターヴィジュアルぐらいしか頭に入れる時間がなく、リチャード3世がどんな人かも調べないまま鑑賞
冒頭で「彼女の物語」とテロップが出ていたので、発掘に関わった女性の活動を描いたものなのだと認識を変えていきました
映画は、事実ベースではありますが、幻影と語っているあたりが本当だとすると、結構ヤバめの人だったのかなと思ってしまいます
このあたりは演出の都合だと思いますが、フィリッパの前に現れるのがイケメンだったのでホラーにはなっていない感じでした
リチャード3世のことを知らなくてもついていける内容になっていて、それは本作がフィリッパの自伝だからだと言えます
彼女の人生が正当に評価されておらず、リチャード3世の境遇と重なってしまったため、必要以上にのめり込んだという感じですね
物語は大学とのトラブルを描きながら、人が正当に評価されない理由を描いているように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
作品のWikiなどを眺めていますと、かなり一方的な感じに描かれていて、「映画は原作とは別物のフィクション」とか、大学も悪く書かれすぎていて「然るべき処置も辞さない」という強硬な態度に出ています
観ている間も、大学がここまで主婦を騙し込んで手柄を横取りするか?という疑問はあって、クラウドファンディングや協会との関係など「証言者が多すぎて」フィリッパが関わっていないと工作するのは無理があります
映画だけ見ると、何も知らないフィリッパを大学とバックリーが嵌め込んだみたいになっていて、バックリーの助手たちもそれに加担しているかのように描かれています
このあたりの演出が「本当なのか?」と思わされるほどに意図的だったので、そりゃ大学も怒るよね、という感じになっています
原作にあたる自伝本は読んでいないので分かりませんが、印象操作として「式に参列する本人のアーカイブ映像を切り取る」など、少しばかり行き過ぎている感は否めませんでした
■リチャード3世について
リチャード3世は、1483年から1485年の間、イングランドの王として君臨していました
リチャードは兄エドワード4世の即位後の1461年にグロスター公に叙爵され、1472年に第16代ウォリック伯リチャード・ネビルの娘アン・ネビルと結婚することになりました
彼はエドワードの統治中にイングランド北部を統治し、1482年にはスコットランド侵攻に寄与しています
1483年にエドワード4世が亡くなり、それによって長男のエドワード5世が即位し、彼が12歳だったために、リチャードは王国守護卿として任命されます
でも、戴冠式直前になり、エドワード5世の両親の結婚は重婚であることが発覚し、それによってリチャードが3世として王位を継承することになります
即位後にも2度の反乱があり、2回目に当たる1485年8月の反乱にて、リチャード3世は命を落とすことになりました
その後、戦いに勝利したヘンリー・チューダーがヘンリー7世として王位に就いています
リチャードの遺体はレスターに運ばれ、儀式も行われずに埋葬されることになります
そして、彼の遺体はソアー川に投げ込まれたと思われていました
劇中で演じられる『リチャード3世』はシェイクスピアによって1951年に初演された戯曲で、「狡猾で残忍、豪胆な詭弁家である」と描かれていて、演じ甲斐のある役とされています
このリチャード3世像の元ネタは、ラファエル・ホリンズヘッド(Raphael Holinshed)『年代記(Holinshed‘s Chronicles)』、エドワード・ホール(Edward Hall)の『ランカスター、ヨーク両名家の統一(The Union of the Two Noble and Illustre Families of Lancaster and Yorke)』を参考にしたとされています
また、この2人はトマス・モア(Thomas More)の『リチャード3世史(The History of King Richard III、未完)』に強い影響を受けていると言われています
なので、辿っていくとシェイクスピアが作り上げたものではなく、歴代の歴史家の中で作られたイメージが具現化されたと言う感じになっています
■フィリッパ・ラングレーについて
フィリッパ・ラングレー(フィリッパ・ジェーン・ラングリー)は、2012年にリチャード3世の発掘と再埋葬に貢献したことで知られている当時は一般的な既婚女性でした
1962年生まれのイギリス人で、リチャード三世協会に参加しています
現在は作家兼プロデューサーとして活躍されています
彼女がリチャード3世に興味を持ったのは、1998年にアメリカ人歴史家のポール・マーレー・ケンダルによるリチャード3世の伝記を読んだときとされています
それまではマーケティングの仕事をしていましたが、この作業のために仕事を放棄することになりました
ラングレーはリチャード3世協会のスコットランド支部を設立し、2004年5月、1975年に埋葬地候補とされていた3つの駐車場を含む、リチャード3世の様々なゆかりの土地を訪れます
そして、社会福祉局の駐車場に入り、北の端で奇妙な感覚に捉われ、そこに遺体が横たわっているのがわかったと語っています
2005年にリチャード3世に関する脚本を書いていた際、初稿完成の段階で再度駐車場を訪れました
その際にも同じ感覚があり、そこには予約と言う意味の「R」と言う文字が書かれていたとされています
そして、発掘場所を駐車場に定め、プロジェクトを開始します
デビット・ジョンソン博士、ウェンディ・ジョンソン博士、そして遺骨鑑定にアッシュダウン・ヒル博士が参加しtます
また、リチャード3世協会からフィル・ストーン博士が参加し、プロジェクトを開始しました
2010年の後半に、ラングレーはレスター市議会(LCC)のシーラ・ロックの支持を受けて、発掘番組とドキュメンタリーの制作を始めます
駐車場の所有者へ発掘の許可を取り、レスター大学考古学サービス(ULAS)と契約して発掘を始めることになりました
その後、地中レーダーの結果によってスポンサーが撤退してしまいます
ラングレーはリチャード3世協会を通じて、オンラインクラウドファンディングを主導し、会員から不足分を集めることになりました
そして、2012年8月25日、「R」マークの場所を掘り、数時間後に骸骨を発見するに至っています
レスター大学はその結果を報道機関に発表しますが、その場においてラングレーは傍聴者にされたと感じていました
大学は探索を主導したと主張し、ULASはクライアントであったにも関わらず、発掘許可からラングレーを除外しました
これによって、レスター大学は遺跡を管理できるようになりましたが、プランタジネット同盟による数年間にわたる法的措置の対象となってしまいます
そして、この映画が公開されたことで、さらに状況は悪化し、大学は映画に反論する声明を発表しています
また、この騒動に対して、リチャード3世協会は、ラングレーとアッシュビルの役割の認識と、世界中の協会の会員がプロジェクト成功のために行った財政的関与の重要性を訴え、映画を支持する表明を行なっています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ラングレーの自伝を映画化したもので、思いっきりラングレー目線で事の経緯を見ていることになります
これに対して大学側が訴訟も辞さないと言う感じで反論していますが、実際のところは裁判でもしないとわからない感じになっています
物的証拠として残っている可能性が高いのが、発掘許可証に記載された名前などになると思いますが、大学側の資金の拠出経緯であるとか、プロジェクトに関わる資金の流れを見ていけば、ラングレーがどれほど関わっていたかと言うのは明白であると言えます
映画は、ラングレーから埋葬許可を奪うことになったバックレー教授も広報担当のリチャード・テイラーも実名にて登場させているので、さらにややこしい感じになっていますね
ここを濁すことができなかったのは、ラングレー側に相当な感情が残っていることが伺えますが、制作側が中立に立たなかったと言うスタンスも浮き彫りになっていると思います
良いか悪いかは何とも言えないのですが、映画公開によって衆目に晒されることによって、この問題の表面化に出て得するのは誰かと言うところは注目ポイントなのかもしれません
映画は、ほとんど実話ベースになっているのですが、後半の発見をフィクションにすることも可能だと思うのですね
大学側と一緒に探索をして、許可証にも彼女の名前がある
実際には起こっていないことを起こっているかのように描くことで、大学側の反論を抑え込むと言うこともできたと思います
大学側はラングレーが関わったことを大学史から消しているけど、実際にはこうだったとして「軋轢なき世界」を描き、それが大衆の常識になってしまう
実際にレスター大学に名前が残ることよりも劇的な嫌がらせになったようにも思えますが、それすら許せないほどに扱いが酷かったと感じたのかもしれません
歴史と言うのは権威が後世に残すと言う意味合いが強いですが、実際には伝聞などで生まれた非事実の継承というものもされているのですね
それがシェイクスピアのリチャード3世の人物造形にもつながっていて、この映画でも「真・リチャード3世物語」を紡ぐことも可能であったと思います
どちらのリチャード3世が正しいのかは実際にはわからないわけで、伝聞や歴史の本を読み解いた上で出来上がったイメージの継承は、時に劇的な変化を迎えることもあると思います
それくらい大衆は流されやすく、それが真実の伝承につながらない理由でもあると思います
そういった意味において、この映画は「真のプロジェクトリーダーは誰か」を突きつけることができるので、フィクションで既成事実を作ると言う手もありだったのかな、と思いました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://culture-pub.jp/lostking/