■思想は、行動を正当化するバイアスを生み出す


■オススメ度

 

ケネス・チェンバレン・シニア殺害事件を体感したい人(★★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.9.27(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:The Killing of Kenneth Chamberlain

情報2019年、アメリカ、83分、G

ジャンル:実在の事件を再現したスリラー映画

 

監督脚本デビッド・ミデル

 

キャスト:

フランキー・フェイソン/Frankie Faison(ケネス・チェンバレン・シニア/Kenneth Chamberlain Sr.:双極性障害と心臓病を患う退役軍人)

 

ラロイス・ホーキンズ/LaRoyce Hawkins( ケネス・チェンバレン・ジュニア:ケネス・シニアの息子)

Eunice Woods(カレン・チェンバレン:ケネス・シニアの娘)

Angela Peel(トーニャ・グリーンヒル:ケネス・シニアの姪、カレンの娘)

 

スティーヴ・オコネル/Steve O’Connell(ウォルター・パークス:最初に駆けつける警部補)

エンリコ・ナターレ/Enrico Natale(マイケル・ロッシ:新入りの巡査)

ベン・マーティン/Ben Marten(パトリック・ジャクソン:素行に問題を抱える巡査、モデルはアンソニー・カレリ/Anthony Carelli)

 

Tom McElroy(フラニガン:後発部隊の警部補)

Christopher R. Ellis(タルボット:差別発言をする巡査、モデルはスティーヴン・ハート)

Antonio Polk(エヴァンス:タルボットの発言にキレる黒人の巡査)

Daniel Houle(ヒューズ:事件後に駆けつける警部補)

 

アニカ・ノニ・ローズ/Anika Noni Rose(キャンディス・ウェイド:ライフエイドのオペレーター)

 

Dexter Zollicoffer(ローランド・グリーン:近隣住人)

Kelly Owens(ミッツィ・プラット:近隣住人)

Armando Reyes(アルマンド・ルイス:近隣住人)

Linda Bright Clay(キャロル・マシューズ:近隣住人)

 

Kate Black-Spence(警察のオペレーター)

Nayeli Pagaza(911のオペレーター)

 


■映画の舞台

 

2011年11月19日、早朝

アメリカ:ニューヨーク

ホワイトプレーンズ

レキシントンアベニュー135番地

https://maps.app.goo.gl/QQy8h7mgQQWsd5p39?g_st=ic

 

ロケ地:

White Plains/ホワイト・プレーンズ

https://maps.app.goo.gl/ADeUoe7J6wSWxrQD8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

2011月11月19日早朝、自宅で休んでいたケネス・チェンバレン・シニアは、寝返りを打った際に緊急通報用のペンダントを誤って作動させてしまう

管理しているライフガードの担当者キャンディス・ウェイドはマニュアル通りに応答を試みるものの返答がなく、911へとコールをすることになった

 

その後、911コールを通じて警察に連絡が入り、最寄りの警察署から警部補と2名の巡査が自宅を訪れる

その中の新人巡査ロッシはドアをノックし、接触を試みるものの、ケネスは電話をした覚えはないという

緊急性もない案件だったが、警部補のパークスは「無事を確認できないと引き上げられない」と言い、幾度となく接触を試みる

だが、ケネスは「必要ない」の一辺倒で、ライフガードとの会話から「誰かがいる」と推測したパークスは、ケネスの部屋に入ることに固執するようになる

 

まったく応じないケネスに対し、パークスは応援を要請し、消防隊から斧などの道具を調達する

ケネスはドアをこじ開けようとする警官たちを前にパニックを起こし、その場に訪れた姪のトーニャが説得を試みようとするものの、パークスはそれに応じなかった

 

テーマ:偏見と固執

裏テーマ:起こるべくして起こったこと

 


■ひとこと感想

 

なんとなく事件のことを覚えている程度だったので、登場人物のほとんどがイカれているとしか思えない現場はヤバさ以外のものを感じませんでした

医療用の緊急通報が鳴って、相手の病歴などがわかっているのに、ライフガードに連絡をしない警察とか、身分証会を済ましているのに固執する理由がわかりません

 

あの場所に来ることになった経緯を警察は知っているのに、それが完全に抜けていて、貧困街の公務執行妨害を盾に行動をエスカレートさせていきました

あそこまで来るとケネス側も開けるに開けれない感じになっていて、精神疾患の対応マニュアルを無視して警察が突っ走ったことの方がおかしく思えてきます

 

事態の収拾を計るのであれば、姪と会話させた方が早く、家族から説得させるというセオリーがアメリカにはないのかなと思ってしまいます

どれぐらいの再現度なのかはわかりませんが、エンドロールにて実際の音声も流れ、差別発言もキッチリと録音されていたのは驚きました

 

どちらもが悪い想像を働かせていて、信用する手立てがなかったのは、根深い歴史が関係しているように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

本作の顛末は誰もが知るところなので、何がネタバレになるかといえば、「どうして殺害に至ったか」という理由の部分になると思います

最後まで観ればわかりますが、理由などなく、個人の感情が暴発したという感じに描かれていましたね

普段から素行が悪く、「ジャクソンを暴発させるな」と命令を受けているのに、ロッシと現場を離れる警部補の行動を見ていると、「わざとじゃないの感」が滲み出ていたと思います

 

ケネス側に問題があったかは何とも言えない言えず、精神疾患がわかっているのに強行する方向性は理解できません

新人のロッシのアドバイスは一切聞かない感じだったので、この2人ならケネスの話も聞かないというのは伝わってきていました

令状も何もない状態で押し入るのは申し開きができない状況なので、第二班あたりがきたときに「交渉役を交代する」などの知恵が働かなかったのは意味不明でしたね

 

なんとかしてこの問題を解決するという意思は伝わりますが、目的よりも感情を優先させているので、事態が終息する可能性はゼロに等しかったように思えました

 


事件の経緯について

 

被害者のケネス・チェンバレン・シニア(Kenneth ChamberlainSr.)は、2011年11月19日の早朝5時に、警官隊の突入後に射殺された有色人種の高齢者でした

場所はニューヨーク州ホワイトプレーンズの南レキシントンアベニュー135番地にある公営住宅で、彼が利用していたライフエイドの医療警報ネックレスが作動したために、アラートが送信され、それに対する不応需が認められたためにホワイトプレーンズ市公安局に情報が行き渡っています

その後、警察官、消防し、救急隊員が出動し、警察がドアをノックします

 

ケネスは「電話はしていない。緊急事態は起こっていない」と告げて、帰るように求めます

警察は、ケネスがドアに鍵をかけ、家から出ることを拒否したと主張しています

これらの様子は全て、ライフエイドの音声録音装置にて収められていました

 

警察は執拗にドアを叩き、ケネスはライフエイドに援助を求めます

警察は1時間以上ドアを叩きつづけ、こじ開けようとしていました

そして、ドアを壊して侵入することになります

警察は包丁を手にして向かってきたと主張しますが、ケネスの家族は高齢のケネスは武器を持たずに抵抗していなかったと主張しています

 

警察は彼にテーピングを施した後、アンソニー・カレリ巡査の放った散弾銃のビーンバック弾にて死亡しています

アンソニー・カレリの名前は、事件後4ヶ月以上も伏せられていました

司法解剖の結果、ケネスから薬物乱用の痕跡がなかったことが証明されています

 


事件後のあれこれ

 

事件後の2012年、大陪審は事件を再検討し、殺人に関与した警察官は刑事告訴されないとの決定を下します

ウェストチェスター地方検事のジャネット・ディフィオーレ(のちのニューヨーク州の裁判長)は、カレリとその同僚が「適切に行動した」とし、カレリを起訴する「合理的な理由がなかった」として不起訴にしています

また、ケネスを黒人(ニガー)と呼んだスティーヴン・ハート巡査は懲戒処分になっています

 

2015年5月、ホワイトプレーンズ市長のトーマス・ローチは、「市警察の政策を広範に検討するための外部の専門家を招く」として、政治学教授のジョン・ジェイが委員長として招聘します

4ヶ月にわたる調査の結果、「交渉の末に、非致死的手段が全て失敗した時に起こったこととして正当化できる」と結論づけることになります

弁護士、アメリカ黒人法執行機関(BLEA)は、この報告書に問題があると批判しています

 

また、連邦捜査として、ケネスの家族はエリック・ホルダー司法長官とプリート・バララ司法長官に「犯罪捜査」を依頼しますが、2018年1月に「連邦検察は告訴しない」と結論づけています

これらの一連の動きの中、息子はオンライン嘆願書を作成し、20万件近くの署名が集まりました

民事訴訟なども始まり、2011年の訴訟にて、連邦判事が一部の請求を棄却したのは誤りであると述べています

この訴訟によって、「合理的で経験豊富な警察官がアパートへの立ち入りが必要であると信じることは正当化されない」と述べられています

これらの判決は「憲法修正第4条」における権利の侵害であったと結び付けられています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

この事件では、銃殺した警察官のみならず、ジャネット・ディフィオーレ検事をはじめとした「法執行機関」「司法制度」に対しても非難が殺到しています

救助要請を受けた警察官が射殺したと言う不合理と、大陪審捜査の異常な遅れに言及しています

また、ホワイトプレーンズ警察は、事件の隠蔽を行うために報告書を作成したと指摘されています

報告書には、ハートが「黒人」を言う言葉を使ったこと、最初の通報が医療上の緊急事態であると言う情報が省略されていました

 

映画は、ライブエイドの音声録音を元に再構築されていますが、かなり被害者視点に寄っていると言えます

緊急通報がかかってから銃声が聞こえるまでの約1時間を再現したものになっていますが、起こるべくして起こったという印象が強いように思えます

実際に中で何が起こっていたかは知る由もありませんが、音声データの中に明確なケネスの抵抗を示すものは少なかったように思えます

 

最初の緊急通報も寝返りを打った際に外したはずみとして描かれていますが、それを裏付けるものはなかったでしょう

このあたりの警察官が出動するまでの経緯などは、死人に口無し状態なので、あくまで想像の域を出ていません

客観的な事実として、ライフエイドに返答がなかったことが描かれていて、そこから先は「ケネスがライフガードに助けを求めるまで」には想像が混じっていると言えるでしょう

 

どうして殺害に至るまでになったかといえば、それは根底にある差別意識が「機会を得たから」だと言えます

人の行動は思想に寄って規定され、その行動の機会を待ち構えているものでしょう

今回、銃撃を行ったジャクソン(実際はカレリ巡査)は、その思想を実現するために「このハプニングを利用した」ように見えます

状況を考えれば、正義の執行になり得ないことは理解できるはずなのですが、思考が感情を制御していると、このような行動に至るのだと思います

そういった意味において、本作が訴求しているものは、差別意識を持っているとそれは現実の行動にとって変わるということでしょう

今回の事件は、ジャクソンのみならず、司法機関も腐っていたことで長引いていますが、国そのものに根付いている差別意識をなくさない限り、このような事件は起き続けるのではないかと感じました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://kokc-movie.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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