■このメニューを誰に捧げたのかを考えると、風刺されている意味がわかるかもしれません


■オススメ度

 

一風変わったスリラー映画が好きな人(★★★)

高級レストランのメニューに興味がある人(★★★)

チーズバーガーが好きな人(★★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.11.22(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

原題:The Menu

情報:2022年、アメリカ、107分、R15+

ジャンル:孤島のプライベート高級レストランで起こる惨劇を描いたスリラー映画

 

監督:マーク・マイロッド

脚本:セス・リース&ウィル・トレイシー

 

キャスト:

レイフ・ファインズ/Ralph Fiennes(ジュリアン・スローヴィック:ホーソン島にあるなかなか予約の取れないレストランの有名シェフ)

 

アニヤ・テイラー=ジョイ/Anya Taylor-Joy(マーゴ/マーゴット・ミルズ/エリン:代理で孤島を訪れる女性)

ニコラス・ホルト/Nicholas Hoult(タイラー:マーゴの彼氏、食通気取りのイタい青年))

 

ジャネット・マクティア/Janet McTeer(リリアン・ブルーム:スローヴィックを見出した著名な料理評論家)

ポール・アデルスタイン/Paul Adelstein(テッド:リリアンの担当編集者)

 

ジョン・レグザイモ/John Leguizamo(ジョージ・ディアス:落ち目の映画スター)

エイミー・カレロ/Aimee Carrero(フェシリティ:映画スターのアシスタント)

 

リード・バーニー/Reed Birney(リチャード・リーブラント:リッチな熟年夫婦)

ジュディス・ライト/Judith Light(アン・リーブラント:リチャードの妻)

 

アウトゥーロ・カストロ/Arturo Castro(ソーレン:IT会社の若手重役)

マーク・セント・シア/Mark St. Cyr(デイヴ:IT会社の投資家)

ロブ・ヤン/Rob Yang(ブライス:IT会社の投資家)

 

ホン・チャウ/Hong Chau(エルサ:スローヴィクに忠実な給仕長)

Peter Grosz(「ホーソン」のソムリエ)

Christina Brucato(キャサリン・ケラー:「ホーソン」の副料理長)

Adam Aalderks(ジェレミー・ルーデン:「ホーソン」の副料理長)

Matthew Cornwell(デール:沿岸警備隊)

 

Rebecca Koon(リンダ・スローヴィック:アルコール依存症のジュリアンの母)

 

Jon Paul Allyn(船上ウェイター)

Mel Fair(船長)

Cristian Gonzalez(給仕人)

John Wilkins III(給仕人)

 

Brandon Herron(「ホーソン」の受付)

Jay Shadix(「ホーソン」の受付)

Elbert Henley(警備隊)

Melisa Lopez(警備隊)

 


■映画の舞台

 

太平洋にある孤島「ホーソン島(架空)」

 

ロケ地:

アメリカ:ジョージア州

サバンナ

https://maps.app.goo.gl/menoeAnYFxbvm7Eo9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

有名シェフが腕を振るう評判の高級レストラン「ホーソン」は、太平洋上の孤島にあるプレイベートレストランだった

一人1200ドルはかかる費用で、一日12人限定のメニューが用意されていた

兼ねてからそのレストランに行きたかったタイラーは、ようやく予約を取れたものの、相方は欠席

やむを得ず代役にマーゴを立てて洋上へと繰り出す

 

島に着くと、オーナーシェフのジュリアン・スローヴィック他スタッフが彼らを出迎え、料理に使われる食材を保管している燻製室などを案内して回った

そんな中、代役で店に来ることになったマーゴはいらぬ注目を浴び、ジュリアンも彼女の存在を気にかけていた

 

「極上体験への誘い」と題したコース料理は、「アミューズ・ブーシュ」から流れるように続き、それぞれ個性的で調和の取れた美しい食材が散りばめられている

それはまさに「海を食べる」という文言がふさわしい「生態系を食する」というコースだったのである

 

テーマ:生態系を食べる意味

裏テーマ:生態系を食べる存在とは何か

 


■ひとこと感想

 

高級レストランに行ったことがないし、ここで登場するような料理とは無縁でしたが、何か起こりそうな感じの映画だったので参戦決定

う〜ん、チーズバーガーが食べたくなる映画でしたねえ

 

映画は「絶海の孤島の中で猟奇的なメニューの犠牲になる」というもので、その世界からどうやって脱出するか、というのがメインになっています

一応は「集められた理由」がマーゴ以外にはあって、それはレストラン業界、ひいては外食産業の闇にふれるものだったと言えます

 

でも、基本的に会話劇なので眠たくなりますし、よほど料理に詳しくないと「会話の内容の意味がわからない」という感じになっています

眠気との戦いになりそうなところに、シェフの大きめの「パチン!」が入るので、そこで意識を取り戻す人が多かったのではないでしょうか

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

有名シェフが外食産業の問題を炙り出し、それを調味料として、全員が食材になるというとんでも展開を迎えます

このラストは読みにくいのですが、前半でスローヴィックが「生態系を食べている」というように、このコースは「ある者」に捧げるコース料理だったと言えます

 

少し視点を変えるとわかるのですが、このメニューを本当の意味で「食するのは何か」と考えたとき、人間も生態系の一部として「何者かを構成する要素に分解される」のですね

その視点で考えると、このメニューは神(自然)に捧げるものだったと言えます

 

登場人物はさまざまな罪を背負っており、名誉欲から色欲、食欲、財欲など、仏教の五欲に通じるものがありました

彼らのメニューになかったのは睡眠欲ですが、おそらくは永遠の眠りということで、ジェレミーの自殺劇があったのではないかと感じています

 


メニューとは何か

 

「メニュー」とは、「料理の献立表」のことを意味しますが、フランス料理などでは「定食(コース料理)」のことを言います

一方、一品のお品書きなどは「アラカルト(フランス語だとCarte(カルト))」と言います

あらかじめ組み合わされた一連の料理の流れ(=タートルドット)を示したもので、フランス語の「Menu(ムニュと読む)」が語源となっています

その大元はラテン語の「小さい」を意味する「Minutus」が派生したものとされています

 

元々レストランは客の注文に応える方式ではなく、決められた料理を提供するというスタイルでした

それは、手に入る食材が安定せず、数量も限りがあり、その日にならないと献立が決まらなかった時代があったからですね

日本の場合は室町時代に確立したとされる「有識料理」では「食べる順序の決まった料理」というものが生まれ、その後「懐石料理」などが誕生していきます

 

本作でも、あらかじめスローヴィクによって決められたメニュー通りに事が進み、それが最後は全員で死ぬという悪趣味なものでした

このメニューは章立てになっていて、

「Appetizer(前菜)」では「生牡蠣とニョネットソース&レモンキャビア添え」が登場し、「牡蠣は普通に食べたいわ」というマーゴのツッコミがありました

その後、「Amuse Bouche(食前酒とつまみ)」では「圧縮して漬けた白瓜とミルクスノー」が登場し、「食べずに味わってください」というスローヴィクの注意がなされていました

「1st Curse(1皿目)」では「」と題された「岩石に野菜やホタテが盛り付けられたもの」が出てきて、「海を食べている」という表現が踊っていました

「2nd Curse(2皿目)」では「パンのないパン皿」という高尚な趣旨の料理があり、マーゴは「客をバカにしているのか」と憤りました

「3rd Curse(3皿目)」では「メモリー/ブレス産鶏モモの燻製アル・パストールと家宝のマサで作ったトルティーヤ」という料理が登場し、そこには来客が犯した罪や秘密がプリントアウトされている奇妙な演出がなされていました

「4th Curse(4皿目)」では副料理長のジェレミーの献立「混乱/野菜・ヒレ肉・ポテト・ビーフソース・骨髄」という料理が出され、ジェレミーが銃で自殺して完成するというメニューになっています

「Palete Cleaner(箸休め)」では「ベルガモットとレッドクローバーのお茶」が出され、料理の説明に口を挟むテイラーがスローヴィクを苛立たせます

「6th Curse(6品目)」では、副料理長のキャサリンが登場し、スローヴィクからセクハラを受けていたことを告白し、「男の過ち/アメリカイチョウガニ・発酵ヨーグルトのホエー・乾燥アオサ・梅干し・昆布」という料理が登場しました

「Demonstration(デモンストレーション)」では、タイラーが厨房に呼ばれて「タイラーの駄作/生焼けの羊肉・エシャロットと西洋ネギ・マズいパスタソース」を作る羽目になり、その後タイラーは自殺を図っています

その後、「Supplemental Curse(追加の一品)」として、「追加の一品/最高のチーズバーガー」が登場し、これはマーゴがかつてスローヴィクがそういったお店で働いていたことを知ったから注文するという流れになっています

そして、ラストは「Desert」として「スモア/マシュマロ・チョコ・グラハムクロッカー・客・スタッフ・レストラン」という料理が演出され、レストランごと炎上させる事で「メニュー」が完結するという流れになっていました

 


生態系を食べるとは何か

 

料理評論家のリリアンが出された料理に対して「海を食べている」という表現をし、スローヴィクは「生態系を味わっていただく」という趣旨の発言をしました

このやりとりはウィットに富んだ会話に見えますが、実は双方の思惑が食い違っていることを示していました

リリアンは「料理に対して」その感想を述べているのですが、スローヴィクはこの時点で「メニューの目的と対象者」というものを提示しています

それは、「このメニューを誰に捧げているか」という視点の違いであると言えます

 

店に招かれた客は「自分達のための料理」だと思っていますが、スローヴィクはその視点ではなく、「料理の神様に人間の愚かさをメニューにして捧げている」のですね

なので、料理に関心のないマーゴだけが「このメニューの違和感を感じて食べない」という行為に出ています

それを「客をバカにしている」という彼女なりの表現になっているのですが、スローヴィクの真意についてはわからなかったと思います

これらが「神様に捧げている」と感じるのは、最後のデザートがレストランのフロアを使って作られていて、このデザートを俯瞰して全体像を見渡せるのは「客ではない」と言えるからです

そして、そのメニューの中には「客・スタッフ・レストラン」と書かれていて、レストランという存在そのものの愚かさというものを詫びて燃やしていると言えます

 

この一連のメニューの後に残るのは灰だけで、それらはやがて地球の生態系の中に消えてきます

空気に混じってどこかの土地に漂着したり、打ち寄せる波にさらわれたり、残骸を海鳥が頬張るかもしれません

スローヴィクとしては、生態系から授かった食材を駆使して、その素材を活かした料理を提供することを使命だと思っていましたが、その行の為全てが「食物連鎖への冒涜」だと感じていたのかもしれません

ある意味、スローヴィクを使って、神様が料理という業に対して警鐘を鳴らしているという見方もできなくはないと思います

 

生態系の中にいる人間は死ねば土となり、焼かれれば灰になりますが、直接的に何かの動物に捕食されるわけではありません

ある意味、その頂上にいる人間の深い業というものは、食事という根源的な欲求をエンタメにしてしまっている命の冒涜というものがあって、それを揶揄するためにスローヴィクが仕掛けたとも言えます

なので、その趣旨に賛同したスタッフが集まった、あるいはスローヴィクに洗脳された人々がそのメニューの材料になることを厭わなかったというふうに解釈もできます

このあたりは常人の感覚では測れませんが、スノップならメニューに組み込まれることを光栄に思うのでは、という皮肉があるのかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は一見すると「高級外食産業」を揶揄しているように見えますが、これは「どの業界にも当てはまること」だと思います

特に映画業界を揶揄しているところもあって、作品に関わる熱量や苦労を知らずに酷評をする風潮であるとか、映画産業内で起こるパワハラ&セクハラ問題などもあります

この映画の内容をそっくりそのまま映画に当てはまるとしたら、前衛的な作品で匂わせ演出をしまくって、観客を巻き込んだ形のライブビューイングなどになると思います

なので、わかった風な人を巻き込みつつ、「じゃあ、作ってみ」みたいな煽りで作らせる、みたいな感じになるでしょう

 

この映画ではスローヴィクが受けてきた「客側からの仕打ち」に対して、目には目をという感じて応えているのが面白いところですね

成金に任せて味も内容もわからないのに通い続ける客は、貴重な一席を奪っていることになります

会社の金で来ている投資家なども同じようなカテゴリーで、食レポの練習で来ている客なども料理と真剣に向き合ってはいません

そんな中、映画スターのアシスタントとのやりとりはコントになっていましたね

 

外国ではローンを組んで大学に行く場合もありますが、それが社会問題化していたりします

学生の43%が学費関連の負債を抱えているとされているアメリカなどでは今年の8月に学生ローンの免除についての徳政令みたいなものを出していましたね

返済猶予措置なども取られていると言われています

映画では「学費ローン」だったフェシリティはメニューから免除されていませんでしたが、このあたりは「ローン返済よりもメニューになる方がマシ」みたいなニュアンスなのかもしれません

 

かなりブラックなコメディになっていますが、どの業界でも同じような構図にはなっていますね

映画業界だと映画になりませんが、外食業界だと絵にもなるし、限定的な空間を作るロケーションなどもマッチしていると思います

暗喩の組み込み方が面白いのですが、ちょっと前衛的に仕上げ過ぎているきらいがありますので、合う合わないは激しい感じがしました

個人的には大好きな部類ではありますが、人にはあまりオススメできない映画だと思います

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/383297/review/0fa77190-59e1-4978-95d1-09641c940883/

 

公式HP:

https://www.searchlightpictures.jp/movies/themen

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投稿者 Hiroshi_Takata

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