■誰の思考を現実化させたら、あの世界が出来上がるのでしょうか?


■オススメ度

 

奇妙な世界観の映画に興味がある人(★★★)

全時代的な封建社会を揶揄したドラマが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.11.18(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:Don‘t Worry Darling

情報:2022年、アメリカ、122分、PG12

ジャンル:完璧な暮らしをしている「ある町」を描いたスリラー映画

 

監督:オリヴィア・ワイルド

脚本:ケイティ・シルバーマン

 

キャスト:

フローレンス・ピュー/Florence Pugh(アリス・チェンバーズ:献身的な若い妻)

ハリー・スタイルズ/Harry Styles(ジャック・チェンバーズ:仕事一筋のアリスの夫)

 

オリビア・ワイルド/Olivia Wilde(バニー:隣に住むアリスの友人)

ニック・クロール/Nick Kroll(ディーン:バニーの夫)

Daisy Sudeikis(ロジー:バニーとディーンの娘)

Marcello Reyes(フレッド:バニーとディーンの息子)

 

クリス・パイン/Chris Pine(フランク:シェリーの夫、ジャックの上司、「Victory Project」の創始者)

ジェンマ・チャン/Gemma Chan(シェリー:フランクの妻)

Daniel Nishio(フランクとシェリーの息子)

Venice Wong(フランクとシェリーの娘)

 

キキ・レイン/KiKi Layne(マーガレット・ワトキンス:町の輪を見出すアリスの友人)

Ari‘el Stachel(テッド:マーガレットの夫)

 

Douglas Smith(ビル・ジョンソン:新しく引っ越してきた男)

Sydney Chandler(バイオレット・ジョンソン:ビルの妻)

 

Kate Berlant(ペグ:アリスの友人の妊婦)

Asif Ali(ペーター:ペグの夫、ジャックの友人)

 

Timothy Simons(コリンズ:「Victory Project」を支える医師)

 

Dita Von Teese(本人役:パーティーのダンサー)

 

Steve Berg(トロリーバスの運転手)

 

Monroe Cline(テニスウェアを披露するモデル)

Angel Mammoliti(水着を披露するモデル)

Nataly Santiago(ドレスを披露するモデル)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:カリフォルニア州

ビクトリー

 

ロケ地:

アメリカ:ロサンゼルス

パーム・スプリングス/Palm Springs

https://maps.app.goo.gl/39VjAzfMF1fo97fT7?g_st=ic

 

The Kaufmann House

https://maps.app.goo.gl/vGLEM7iEwyTeSHz58?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

カリフォルニアの広大な砂漠地帯の中にあるビクトリーは、理想的な生活をする家族が有意義な時間を送っていた

町ではフランクがパーソナリティを務める放送が流れ、毎日どこかでパーティーが行われていた

 

そこに住人であるアリスとジャックの若い夫婦も完璧な生活を送っていて、夫が仕事に出ている間は妻同士が交流会を開いている

生活に不自由はなかったが、夫の仕事は極秘で、町のはずれには「従業員以外立ち入り禁止の区域」と、砂漠の向こうには「本部」と呼ばれる建物があった

 

あるパーティの日、アリスの友人であるマーガレットが言葉を投げかける

それは「この町から逃げなさい」というもので、それによって場の空気が凍ってしまう

彼女の夫テッドは彼女を制ししたものの、友人の豹変にアリスはただならぬ不安を感じ始めるのであった

 

テーマ:制御

裏テーマ:支配

 


■ひとこと感想

 

「ビクトリー計画」という正体不明の計画があって、男たちだけが謎の場所で働いている設定

しかも、その仕事は「世界を変える」ものというスローガンがありました

また、時折地震のようなものが起こり、地下で何かが起こっているという描写になっています

その地震に慣れている妻もいれば、頻発しているのに毎回ビビる人たちもいて、なんとなく設定が顔を覗かせていました

 

本作はネタバレしない方が良いタイプの作品で、どっぷりと「おかしな町」の「おかしなところ」を眺めていくのが面白いのだと思います

そんな中で「狂っていくアリス」を追いかけながら、「なぜ、彼女にだけそれが起こるのか」というところがミステリーになっています

 

映画はとんでもない方向に着地しますが、まずはネタバレなしで事の成り行きを眺めることをオススメいたします

でも、男性はちょっと不快に感じるかも知れません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

計画が何なのかは彼らのセリフをじっくりと読み解いて、ファッション、車、音楽をじっくりと聴いていれば、それが「マンハッタン計画」であることがわかります

おそらくは地下で爆発実験が行われていたという印象がありますが、それらには「夫の仕事を秘匿にする」という男性の願望というものが盛り込まれています

危険な仕事に従事しているからこそ、裕福な暮らしができ、そして妻は自由な暮らしができる

これが「設定」になっているところが本作の妙味であると言えます

 

映画はこの「設定」が本当に「設定」となっていて、現実世界ではアリスとジャックが真逆の立場になっていました

でも、現実のジャックはVRのアリスのように献身的ではなく、自分ではできないことをVRで実現しているという感じになっていました

さらに、映画ではこれらVRの世界を壊すという方向に向き、それは男性の理想を覆すという意味合いを持ちます

男性支配社会からの解放、これが本作の趣旨になっていますね

 

このあたりが不快に感じるかも知れませんが、映画をよく紐解くと、そのような役割を与えることで「安全かつ有意義な生活をしたい女性の願望」があることもわかります

言うなれば、男性に主張させて、その裏で男性の優位性を刺激してコントロールしているわけで、その世界が壊れそうになった時、黒幕とも思えるシェリーが「この後は私がやる」と言って、壊れたおもちゃを破棄するシーンがありました

 


真なる支配とは何か

 

映画は「理想世界はVRである」と結論づけ、その世界を維持したい人と抜け出したい人を描いていきます

その分岐点となるのは、「その世界を肯定的に捉えるか否定的に捉えるかの違い」なのですが、それには「その世界に放り込まれるまでの道程」というものが反映されると思います

この背景について描かれているのはアリス&ジャックだけで、他の夫婦については言及がなされていません

現実世界のアリスとジャックの立場は真逆になっていましたが、無理矢理ジャックの理想に引き込んだために、ジャック自身に後悔というものが生まれてきます

 

この世界は1930年から1960年ぐらいのアメリカがベースになっていて、ビクトリー計画はマンハッタン計画がベースになっています

また『ローズマリーの赤ちゃん』のように、素晴らしいと思っていた世界が実は恐ろしいところだったというホラーテイストを盛り込んでいました

あの時代は男女にとって「古き良き時代」だったのかはわかりませんが、映画ではその世界からの脱去を描いているので、立場としては否定しているということになります

この男根主義への否定というものが顕著になっているため、不快に思う男性も少なくありません

 

男性に働いてもらって裕福な生活をするというのが持て囃された時代から、女性自身が人生の主導をとるという時代へと向かいます

でも、社会構造の変化が追いついておらず、その抵抗も大きいので男女平等社会というものは理想とは程遠いところにあると言えるでしょう

これらが進まないのは、「旧態依然とした価値観でもよい」と思っている女性がことのほか多いことに由来しています

女性側が男性に提供するのは「アットホームな空間と自由なセックス」なので、それを提供することは「社会の中で地位を築いて生きていくことよりもハードルが低い」と考える人は一定数いるのですね

でも、永久的に「アットホームな空間と自由なセックス」を提供し続けることは、現実世界では不可能だったりします

それをVRの世界で展開し、来る日も来る日も同じことの繰り返しに身を置くという世界を生み出すことになっていました

 

これらの世界は女性にとって居心地が良いと思える反面、結局はカゴの中の鳥であるという事実は動かせません

でも、女性が主導権を握れば、まるでホストクラブのような展開が訪れそうな予感はします

女性側から見れば「快適な空間を維持するために自分以外が犠牲になる世界」で、同じように「自由なセックス」の永続は望むことができます

肉体が衰えて来ればそう言った快楽から遠ざかっていきますが、この世界では年を取らないので、女性は自分自身が最も美しく輝いている時代が永遠と続くことになります

もしかしたら、自分の価値が最高位のまま永続的な暮らしができるというメリットの方をシェリーは優先させようとしているのかなと感じました

 


役割を与えられる奴隷

 

VRの中の男性たちは「出社という名のログアウト」を行うことで現実世界に戻ります

このVRが公共的なものか、私的企業のサービスなのかがわかりません

ほとんど『マトリックス』の世界で、モーフィアスが出てこないので自分で考えてね、というものになっていました

そんな中で、無理矢理連れてこられ、「望まない生活である」と感じている人たちの行動によって、世界は壊されいていきます

 

その始まりはマーガレットですが、彼女がどのような経緯でそうなったのかというのは描かれません

彼女の友人だったアリスが偶然「マーガレットの治療風景」を見て違和感を感じたのは、彼女が「医師だったから」なのかなと思いました

そうした疑念が深層心理に残っていた本性を浮き上がらせ、現実世界では半分覚醒という感じになっていました

そして、覚醒を制御するためにマインドコントロールのビデオが流れ、またVRの世界へと精神を下ろしていくというふうに描かれています

 

その制御の際に登場するのが「バズビー・バークレー・スタイル」というもので、これはバズビー・バークレーBusby Berkeley)という映画監督が考え出した演出方法にことを言います

幾何学模様の複合的なパターンを用いたミュージカルの手法で、大勢のショーガールを起用して「万華鏡」のような世界観を作りだしました

彼はブロードウェイのミュージカルのダンス演出を行なっていて、ダンスのスキルではなく見せ方というものを研究してきました

 

これらの手法は開発後に一旦下火になりましたが、1960年後半から再び脚光を浴びることになります

これらの下地となったのが「キャンプ」と呼ばれる「大袈裟に誇張された振る舞い」とか、「過度に装飾が多いケバいファッション」でした

映画の時代はこの再流行の少し前の時代になっていて、ちょうど「発明と再流行のくぼみ」のあたりの時代になります

なので、一般的な表現として浸透しているわけではなかったことと、その映像表現に催眠効果があったというものがありました

この時代背景を知っていると、あの奇妙なダンスの意味が採用されている意味も理解できるかなと思いました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画のタイトルは『Don‘t Worry Darling』で、直訳すると「心配しないで」という意味になります

これがどちら側のセリフなのかで見方が変わるかもしれません

アリス目線だと「現実の世界」になりますし、ジャック目線だと「VRの世界」になります

相手に「心配しないで」という場面は、「相手が今の状況を不安に思っている」という前提があります

なので、あの世界をVRであると認識していることを示唆しているとも言えますね

 

映画では多くの「伏線っぽもの」が放置されていて、そもそも「本部」にいったときにアリスが何を見たのかは描かれません

また、男性がログアウトしている時に何をしているのかもわからないし、あの大掛かりなVRをどのような団体が管理し、資金を捻出しているのかがわかりません

現実世界のジャックはヒモで裕福ではないし、稼ぎ頭のアリスはVRの世界から出てこれないので、その生活とか生命の維持などがザックリ過ぎてアラが多く見えてしまいます

 

現実とリンクしているという観点であれば、ビクトリー計画というものが実在し、それはマンハッタン計画のような兵器の研究ではないと言えます

ある種の幸福実現プログラムとして研究中の実験のようになっていて、この開発が現実世界の何らかの問題を解決するという意味合いがあるのではないでしょうか

その中で「女性をコントロールする」という世界が描かれるのは、現代社会への風刺であると読み取れます

要は、女性が社会進出をすることを疎ましく思っている男性がいるという暴力的な理屈になっていて、さらにその世界観を女性の力でぶっ壊すという物語になっていました

 

そんな世界観の中でも、その世界を肯定する女性を登場させることでバランスをとっていて、さらに「そのような男性の理想を裏で制御しよう」という女性も現れます

その役割を監督(バニー役で出演している)ではない別の女優にさせていたのが含みを持たせていましたね

ここでバニーがその役を担うと一気に説教臭くなるのですが、当初は自分でやると考えていたのかもしれません

そのあたりのありそうなことを逆手にとって脇役に徹していたのがうまいなあと思っていて、しかも「全部知ってたけどあえて言わないキャラ」というポジションでアリスを誘導していくメンター的なキャラになっていたのが象徴的でした

 

また、理想的な社会を作るビクトリー計画の主宰フランクのモデルがアール・ナイチンゲール(Earl Nightingele)というところも渋かったですね

自己啓発系が好きな人なら名前ぐらいは知っているかもしれませんし、フランクが行なっていたラジオ放送などが「ナイチンゲールが行なっていた放送を想起させます

ちなみに自己啓発系のはしりでもあるナポレオン・ヒルの「Think  and Grow Rich: Essence of The Immortal Book(日本語訳:「思考は現実化する」)のにナレーションをつけたのがナイチンゲールと言われています

思想哲学も当時の流行を取り入れているこだわりが随所に見られて面白かったですね

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384465/review/68c2e270-dbf8-4f7a-9589-126232d40b5e/

 

公式HP:

https://wwws.warnerbros.co.jp/dontworrydarling/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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