■一番の被害者が天に召された後、というのが唯一の救いなのかもしれません
Contents
■オススメ度
ミステリー仕立てのラブロマンスが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.11.18(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:Where the Crawdads Sing
情報:2022年、アメリカ、125分、G
ジャンル:湿地帯で発見された死体を巡る僻地に住む訳アリ少女を巡るミステリーテイストのヒューマンドラマ
監督:オリビア・ニューマン
脚本:ルーシー・アリバー
原作:ディーリア・オーエンズ/Dalia Owens『Where the Crawdads Sing(2018年)』
キャスト:
デイジー・エドガー=ジョーンズ/Daisy Edgar-Jones(カイア/キャサリン・クラーク:ムール貝を売る少女)
(少女期:Jojo Regina)
(70歳代:Leslie France)
テイラー・ジョン・スミス/Taylor John Smith(テイト・ウォーカー:カイアに読み書きを教える親友)
(少年期:Luke David Blumm)
(70歳代:Sam Anderson)
Don Stallings(テイトの父)
ハリス・ディキンソン/Harris Dickinson(チェイス・アンドリュー:謎の変死体で見つかる青年)
(少年期:Blue Clarke)
Jerri Tubbs(パティ:チェイスの母)
Kevin Clabert(チェイスの父)
Logan Macrae(ジョディ/ジェレミー・クラーク:カイアの兄、軍隊に入る次男)
(少年期:Will Bundon)
Ahna O’Reilly(ジュリエンヌ・クラーク:子ども置いてDV夫から逃げる母)
Garret Dillahunt(ジャクソン・クラーク:家族に暴力を振るう閉鎖的な父親)
Toby Nichols(マーフ:カイヤの兄、長男)
Adeleine Whittle(マンディ:カイヤの姉、長女)
Emma Kathryn Coleman(ミッシー:カイヤの姉、次女)
デビッド・ストラザーン/David Strathairn(トム・ミルトン:カイアの弁護を申し出る引退間近の弁護士)
マイケル・ハイアット/Michael Hyatt(メイベル・マディソン:カイヤを気にかける売店の女性、ジャンピンの妻)
スターリング・メイサー・Jr/Sterling Macer Jr.(ジャンピン/ジェームズ・マディソン:カイヤから貝を買う売店の店主、メイベルの夫)
Bill Kelly(ジャクソン:やぐらの報告書を出した保安官)
Jayson Warner Smith(ジョー・パティ保安官補)
Eric Ladin(エリック・チャスティン:カイヤを追求する検事)
Dane Rhodes(シムス裁判長)
Joe Chrest(コーン:死因を特定する解剖医)
Robert Larriviere(ロバート・フォスター博士、カイヤの出版の相談役)
Micheal A. Newcomer(ブラム博士)
Grace Hinson(サンディ:「Dog Gone」のウェイトレス)
Ron Flagge(ジェイコブ:「Dog Gone」の客)
Charlie Talbert(モズリー:「Dog Gone」でカイヤの噂話をする客)
Chaeley Vance(レーン:「Dog Gone」でカイヤの噂話をする客)
Sharon Landry(パンシー:バスに乗るのを見た売店の店員)
Brad Blanchard(ロドニー:大声を聞いた証言者)
Wyatt Parker(ベンジー:死体を発見する少年)
Payne Bosarge(スティーヴン:死体を発見する少年)
Anna Kabis(ティナ:チェイスの友人)
(幼少期:Zoey Reid)
Caroline Cole(パール:ティナの友人)
(幼少期:Lillian Dorsett)
Patrick Nicks(ブライアン:チェイスの友人)
Sarah Durn(アリエル:小学校の先生)
Billy Slaugher(福祉課の職員)
■映画の舞台
1953年〜1969年
アメリカ:ノースカロライナ州
バークリー・コーヴ&グリーンヴィル(架空)
ロケ地:
アメリカ:ルイジアナ州
ニューオーリンズ
https://maps.app.goo.gl/fuYNM5aw5WSXB9oV6?g_st=ic
ホーマ/Houma
https://maps.app.goo.gl/1YzDmw8JfkRtpYFE6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
ノースカロライナの森の奥の湿地帯に住むカイヤは、ある日その湿地帯で見つかった変死体の殺人容疑で逮捕されてしまう
状況証拠からカイヤの犯行と思われたが、カイヤは容疑について否認をする
担当弁護士には幼少期の彼女を知っているトム・ミルトンが名乗りあげ、検察の犯罪のでっち上げに真っ向から挑むことになった
カイヤは幼い頃には家族でその湿地帯に住んでいたが、日に日に父の暴力はエスカレートし、自分以外の家族はみんなどこかで行ってしまった
彼女はミール貝を採って近くにある行きつけのお店にそれを卸して生計を立て始める
店主のジャンピンとその妻メイベルだけが彼女に優しくしていて、町のみんなは「Marsh Girl(湿地帯の少女)」というあだ名で蔑んでいた
裁判が進む中、トムはカイヤから彼女自身の物語を聞く
初めはテイトという少年に優しくしてもらったこと、そして、次にチェイスと関係を持っていたことを赤裸々に話していく
だが、事件が起きたその日、カイヤは隣町のグリーンヴィルにて、貝の図鑑の出版の打ち合わせをしていたことが判明するのであった
テーマ:生き残るためにすること
裏テーマ:レッテルによって見誤ること
■ひとこと感想
ネタバレ厳禁系のミステリーではありますが、内容的にはカイヤを巡る二人の男性に着目したラブロマンスのようにも思えます
映画内の多くは回想録になっていて、それがほぼ「自分語り」になっている感じでしょうか
冒頭で亡くなったチェイスの話はほとんど出てこず、テイトとの諍いがあってからようやく登場する流れ
それでも、幼少期の頃のワンシーンでテイトもチェイスもいるし、小学校のシーンではティナとパールもいたりします
カイヤの人生を追っていくのが本作の醍醐味で、家族に捨てられた少女が逞しく生きていく様子が描かれています
そして、二つの恋がメインとなって、その後に訪れた「容疑」に対して、事件の真相が徐々に明るみになっていくという流れになっていきます
ミステリー映画として見るともやもやしますが、ヒューマンドラマとしてなら、物語の帰結には納得できるものになるでしょうか
このあたりは「何を期待して観るか」というところと、予告編のイメージをどの時点で転換できるかというところに尽きるかなと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は「ラスト一行」で全てがひっくり返る系で、それっぽい伏線というものはしっかり張られています
ミステリーファンなら、ほぼ冒頭のシーンでネタが割れそうですが、そこはわざと見逃して、どのように結末に至るのかを楽しむのが良いのかなと思います
殺害トリックに関してはかなりざっくりと説明されていて、それが可能なのかどうかの検証はなされていません
深夜にバスで行って帰ってというのは間違いないのでしょうが、どうやってあの場所にチェイスを呼んだのかあたりはわからなかったですね
それでも、検視官は「足を踏み外して落下した際に頭をどこかでぶつけた」と解説していましたが、それよりは呼び出して上から床板落とした方が早そうな気はしましたねえ
状況的には「床板は上にない(ちょっとうろ覚え、立てかけてあった記憶もある)」「後頭部打撲」「指紋がない」というところなので、カイヤ一人が上がって、それを拭き取る(手袋して登るでもOK)の方が、時間内に遂行できそうな気はします
でも、19m上から正確に当てる方が無理ゲーかもしれませんね
■ザリガニが鳴くとはどういうことか
映画の中で「兄ジュディが遺した言葉」として「ザリガニの鳴くところまで逃げろ」というセリフがありました
また、映画の結びでも同じように「ザリガニの鳴くところ」への言及がされています
パンフレットにも明言されていますが、ザリガニは鳴きませんし、それは作者がかつて母から言われた言葉であると書かれています
母がそれを言ったのは「ザリガニが鳴くほど森の奥深くに行けば、そこには自分と自然しかない」という趣旨でした
なので、映画で使われている意味は少し違います
でも、暗喩としての「自然しかいない」というのは、そのままカイヤの狡猾さを生むことになりました
後半でも「捕食者」という文言があり、怯えて暮らすものは「捕食者をも殺すことがある」という一文に繋がっていきます
これは出版記念の会席で話していた「カマキリの逸話」に通じていて、それはそのまま犯行動機になっています
彼女が日記に書き残した「捕食者を殺す時もある」というのは、それを行ったという記録で、そのページにはチェイスが失くした首飾りもありました
この一連の告白によって、彼女が行ってきたことはわかりますが、実際にどうやって行ったのかというところは結構ぼやかされていますね
共犯者がいる説も否定できないし、単独犯としても「バスの移動の目撃」など腑に落ちないことも多いでしょう
このあたりがはっきりとわからないので、ミステリーとしては不十分であると思えます
ざっくりと、検察の仮説を実際に行っていた、という理解もできますが、要は殺し方の問題ではない、ということなのかなと言えますね
でも、多くの陪審員が「その理屈をこの娘ができるわけない」という理由で無罪にしているので、その実現性を提示しないのは無茶かなあと思ってしまいますね
■偏見を揺り動かした捕食者の深淵
本作は「社会から爪弾きにされた」という状況を悔い改めることが、犯罪者を救うというとんでもない展開になっていました
裁判の決め手はトムの最終弁論で、カイヤの言葉ではないというところに恐ろしさがあります
彼女の物語を語る中で、トムはこの子がそんな人間ではないと感じていて、それが「検察の妄想」を絵空事のようにして、陪審員を味方につけることに繋がりました
あの日記をトムが見たら、その場で心筋梗塞を起こしそうなほどショッキングで、テイトの反応はそこまで激しいものではありませんでしたので関与してるのかなあと思ったりもしてしまいます
これらの一連の出来事は計算されたものではありませんし、それはカイヤが生き残るために必死だったために、そのような方向に向かっていったと解釈するしかありません
捕食者は敵を知り尽くし、生存のためにあらゆる努力をします
そんな野生動物を研究してきた彼女は、「ザリガニの鳴くところ」まで行き着いた末に、自然環境の逆転を目論むことになりました
あのままチェイスを野放しにしていたら、愛人になって慰み者になるということは明白だったので、相手が秘密にしたい、という感情を持っていることを逆手に取って犯行に及んでいると言えます
捕食者を倒すためには「地の利」を生かすことが前提で、彼女はホームグランドである「湿地帯」に彼を呼び出します
そして、やぐらの家で彼を待ち、あらかじめ抜いていた床板のところに来させたのだと推測されます
問題は「あの床板を彼女の力で外せるのか(持ち上げられるのか)」というところで、具体的な彼女の作戦というものの裏付けができません
ズレることはあっても、映画のように「二枚外している」という状況を作るには用意も必要なので、その手順とか計画性というものはきちんと提示しておく必要はあると感じます
映画は陪審員の罪悪感を刺激しますが、彼らが「無罪」を言い渡せたのは「更なる罪悪感に晒されたくない」という心理が働いたからであると推測できます
あの状況証拠だけで「求刑通りの死刑」を言い渡したとすると、客観的に見れば「どうしてこのような判決に至ったのか」というのは誰もが思うところでしょう
町全体が抱えてきた罪悪感はその暴露を怖がり、その特質をうまく突くことでカイヤは手に入れたいものを全て手に入れることになります
物語を通して見れば、カイヤによって捕食されたのはトムだったというふうにも見えるところが面白いとこであり、恐ろしいところでもあると言えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は本格ミステリーとして見ると、「その犯行、ファンタジーやん」で終わってしまいます
でも、見方を変えると「自然界の摂理によって動いた恋愛」という新しいものに生まれ変わります
カイヤは自分のフィールドに相手を引き摺り込むことで、自分の魅力をアピールし、その状況とビジュアルのギャップで男心をガッチリと掴んでいます
彼女が街に出て同じ格好をしても相手にされないでしょうし、あの場所にいるから輝くというのは否定できません
それは男性の視点になれば、非日常の世界で非日常な体験(セックスも含めて)ができるということになり、チェイスはカイヤとの非日常的なセックスを自慢げに友人に話していました
これらの話を聞かされている女友達たちは嫌悪感を示しますが、同時に「上から目線でカイヤを見ている優越感を刺激」しつつ、彼女たちの欲望も全開にさせていきます
他の女のことを持ち出して、その場にいる女性を焚きつけるというのがチェイスのやり方のようで、それによって「湿地帯の女よりも優れていること」を男性陣に見せびらかしたくなる欲求を刺激します
言うなれば、カイヤと関係を持つこと(噂を広げること)で、チェイス自身の女漁りの仕掛けになっているのですね
これが、チェイス流の自然法則に則った「狩り」であると言えるのではないでしょうか
男女間の恋愛、特に求愛と性に関するもの、というのは、どこか原始的であり、即物的であり、野生本能に従っているように思えます
カイヤとチェイスのセックスも実に淡白で、チェイスが突っ込んで出して終わりというあっけないものでした
セックスによってカイヤを悦ばせるという観点は皆無で、やりたくなったらヤる、出したら終わりという流れになっていました
個人的には「めっちゃ早漏やん」とツッコミが入ってしまい、テイトとのセックスとは真逆なんだろうなとか、余計なことを考えてしまいました
本作では、恋愛を捕食行動として捉えている側面があって、それだけを特化すると「単純なメロドラマ」になってしまいます
そこで、偏見と湿地という特殊な環境をベースにすることによって、少しだけ非日常な恋愛劇を演出しています
いわゆる「湿地を舞台にしたハーレクイン的な物語」になっていて、それでも映倫区分なのか、監督の配慮なのか、主演女優のNGなのか理由はわかりませんが、鉄壁の防御でセックスシーンを描いていたのは笑ってしまいました
前ボタンを外してるのに挿入は着衣のままとか、流れ的におかしいやろと思いましたが、そのあたりを細かくツッコむのは野暮ってことなのかなと思います
映画は舞台設定と状況を楽しむように作られていて、広大な湿地帯のロケーションだけでも十分に楽しめます
後半の法廷劇が思った以上に杜撰なのでアレですが、メスの匂いに惹きつけられたバカが足場が抜かれたやぐらに来て転落したというものなので、カイヤの移動が立証できても「犯罪認定」するのは無茶なのかもしれません
そもそも、保安官から全力で逃げるというシーンがあったので、「やってなければ逃げないよね」というのは一般的な考え方なのかなと思ってしまいます
あの逃げ方だと「起こった出来事」をすべて認識しているとしか思えません
でも、警察が無能だったので証拠を集められなかったというのが本当のところなので、湿地を排斥した結果、地の利を活かさせれたというのは否めないのかなと思います
それでも、現実的には「送り迎えをした誰か」がいないと成立しない犯罪だと思いますし、おそらくは移動を手伝ったのはマディソン夫婦のどちらかなのかなと思ってしまいました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384781/review/b59a5fbf-f02b-4df7-83be-a12379f4456a/
公式HP:
https://www.zarigani-movie.jp/
全部伏線回収されていますよ
全部伏線回収されていますよ
映画しか観ていませんが誰も嘘をついていません
カイアは殺していないとは言っていません
ジャンピンは戻るときは知らせろと求め、カイアは真っ先に立ち寄ると約束しています
事件当日はわざと目立つ格好でバスに乗ったから有利な証言を得ています これも事実です
弁護士の推理も全て事実です
わざわざ目立つ格好をしてアリバイを作ったのだから、帰りは変装して当然です
弁護士は犯行は困難だとしか言っていません
弁護士の推理した困難な犯行こそが事実です
弁護士は警察が事故の可能性を消せていないという事実を指摘しているだけで、警察が間違っているとは言っていません
そして、公平に裁けとだけ陪審員に求めています
これも嘘はついていません
やってないなんて言ってないですから
しかもこれはカイアの「裁けば良い」という主張とも一致します
映画の前半でジャンピンは妻にカイアに関わるなと忠告し、逆に妻から神は隣人を助けよと教えているのだから神の教えに従えと反論され、「わかった」と応じています
結果的に共犯という形で伏線回収されています
共犯のヒントはジャンピンのエプロンの赤い繊維や家宅捜索で貝殻のネックレスが発見されないなどのシーンで表現されています
カイアの発言をしっかり聞いていれば全て理解できます
カイアはとても頭が良いです
バスの時刻表を利用したアリバイ工作もしっかりしていますし
偏見を相手自身に裁かせることもできましたし
殺すほどチェイスは悪いやつか?という考えはありますが
カイア自身は暴力を振るう奴の行き着く先は自身の父親と同じだと断言し、絶対に怯えて暮らしたくないとも断言しています
作中の登場人物は全て本当の事しか発言していません