■自分の思想のために誰かを犠牲にすることで、自分自身が因果の渦にハマってしまう、という話で良かったのでしょうか
Contents
■オススメ度
一風変わった性癖に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.5.23(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
英題:The Women in the Lakes
情報:2024年、日本、141分、G
ジャンル:ある介護施設の利用者殺人事件を描いたヒューマンミステリー
監督&脚本:大森立嗣
原作:吉田修一『湖の女たち(新潮文庫)』
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キャスト:
福士蒼汰(濱中圭介:西湖署の若手刑事)
浅野忠信(伊佐美佑:西湖署のベテラン刑事、圭介の上司)
平田満(河合勇人:伊佐美の元上司、情報提供者)
松本まりか(豊田佳代:介護施設「もみじ園」の介護士、2班)
根岸季衣(服部久美子:佳代の同僚の介護士)
菅原大吉(久美子の夫)
土屋希乃(服部三葉:久美子の孫)
大後寿々花(小野梓:三葉の友人)
財前直見(松本郁子:佳代の同僚介護士、1班)
川面千晶(二谷紀子:佳代の同僚介護士、2班)
呉城久美(本間佐知子:佳代の同僚介護士、1班)
福地桃子(池田由季:週刊誌の記者)
信太昌之(渡部:編集長)
伊藤佳範(小林剛:週刊誌のデスク)
北香那(濱中華子:圭介の妻)
鈴木晋介(豊田浩二:佳代の父)
近藤芳正(竹脇東:圭介の上司)
吉岡睦雄(両角:署長)
長尾卓磨(医療機器メーカーの担当者)
泉拓磨(徳竹会の若い男)
荒巻全紀(ハバロフスク裁判の被告の声)
三田佳子(市島松江:殺害された民男の妻)
(若年期:穂志もえか)
奥野瑛太(市島民男:介護施設で殺される男、若年期)
岡本智礼(谷川:日本軍の兵士)
タナカアリッサ(ハルビンの少女)
升水駿翔(宮森勲:ハルビンの少年)
金子晃翔(宮森の友人)
山口篤志(宮森の友人)
小池堆賀(宮森の友人)
■映画の舞台
日本:
滋賀県:高島市
ロケ地:
新旭みのり会
https://maps.app.goo.gl/v27YsZt2UB7kXQv1A?g_st=ic
きらり高島
https://maps.app.goo.gl/R9VgQX6372eUSpeB8?g_st=ic
びわこビジターズビューロー
https://maps.app.goo.gl/h3LdVWRPRMomnu5f6?g_st=ic
野鳥公園
https://maps.app.goo.gl/ziC362Hi16whEggy9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
琵琶湖・西湖の湖畔にある老人ホームにて、100歳の利用者が死んだ
警察が調べた結果、意図的に人工呼吸器が外されていて、殺人事件として捜査が始まることになった
捜査を担当することになった伊佐美と濱中は施設職員の取り調べを始める中で、当時当直だった1班の松本郁子が怪しいと睨み始める
その後、自白を強要するような捜査が続く中、松本は態度を硬化させてしまう
そんな折、取り調べで妙な関係になった濱中と2班の介護士・豊田佳代の間で、他言無用の関係が始まってしまう
また、かつて伊佐美が諦めざるを得なかった事件との関わりが仄めかされ、週刊誌の記者・池田までもがその施設を訪れることになったのである
テーマ:看過できない性癖
裏テーマ:偶然と因果
■ひとこと感想
施設で殺人事件が起きて、という内容で、その謎を解くミステリーなのかと思っていました
実際には、その事件の中で紡がれる「いけない関係」というものが描かれていて、事件の解決はどっちでも良いように思えてしまいます
刑事の濱中と介護士の佳代が取り調べを行う中で、SMっぽい関係であることに気づき、その関係性が歪な方向へと向かっていきます
一方で、伊佐美には過去に諦めた事件があって、それゆえにヤグされ刑事になっていましたが、明らかにオーバーアクトのように思えます
映画は、過去に諦めた事件と今回の事件が絡んでいるのでは?というミステリーがあり、さらに過去の事件の遠因とも思われる過去が描かれていきます
そこまで掘り下げるのに事件の顛末は大したことなく、久々に何を描いているのかわからない映画だったように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作のジャンルとしては、入り口はミステリーなのですが、実際には愛憎や因縁が絡み合う群像劇のように思えました
濱中と佳代の話、伊佐美と記者・池田の話は絡むところはなく、その顛末を知ることもなく、暴走しているように思えます
ぶっちゃけると、ミステリーとして観れば、濱中と佳代の話が無くても成立するし、2人の特殊性癖の話がメインだと殺人事件そのものの因果は意味がありません
どちらに振り切れば良いのかはわかりませんが、おそらくは事件の影にある人間模様というものは、無理に関連付けられるものではないというものでしょう
事件に関しては、731部隊が因果になっているようにミスリードしても、結局は延命の意味を感じない若者の暴走というふうに結論づけられています
今も昔も非道なことは行われているのですが、731の事件と今回の事件の意味はまるで違うので、単に子どもたちが暴走しましたよで結びつける意味はないように思えました
■濱中と佳代の関係について
刑事の濱中と事件の関係者である佳代は、プライベートでも事故の被害者・加害者という関係になっていました
濱中は伊佐美に言われるがままに高圧的な取り調べを続けていきますが、その中で佳代に対する特別な感情を有するようになっていました
わかりやすいSM関係ではありますが、そこに背徳が重なることによって、さらに二人はエスカレートしてしまいます
濱中は佳代を犯人とは思っておらず、松本でもないと思っています
でも、伊佐美らが描く「わかりやすい結末」を無理やり描かされるハメになり、過度のストレスがかかっていました
佳代の空白を執拗に問い詰めていますが、おそらくはやましい事をしていることは知っていると思います
実際に彼女が何をしていたのかということは知らないと思いますが、佳代が「朝日を見に行った」と白々しく答えたために、追求する下地ができてしまいます
あの朝、佳代は車の中でオナニーをしていたのですが、それをそのまま言えるはずもありません
でも、適当な言い訳が思い浮かばず、かなり抽象度の高い言い訳を用意することになりました
濱中でなくとも、その発言の信憑性は薄く感じられ、何かを隠していることはわかります
取調室では出てきようのない答えでしたが、交通事故によってプライベートでも繋がることができた濱中は、それを利用して佳代へと近づいていきます
取調室では見せない従順な態度に接していくうちに、濱中の中にあったサディズムというものが顔を覗かせていきます
これまで伊佐美による主従関係によってボロボロになったS性というものが、佳代を前にして発露してしまうことになったのですね
濱中も伊佐美もS性を持ち合わせていますが、伊佐美の場合は「決められたカゴの中で逃げ回るのを見るタイプ」で、支配欲が全面に出ているため、その通りに事が運ばないとすぐに感情的になってしまいます
これに対して濱中のS性は、逃げ道を作りながら追い詰めていく感じになっていて、自分が向かわせたい方向に「自分の意思で向かっている」と勘違いさせるタイプでした
このS性の連鎖が二人をおかしな方向へと誘ったように思います
■過去の因果は巡るのか
本作では、太平洋戦争時の731部隊による人体実験と、今回の殺人事件が関与しているかのような展開を迎えます
実際には、単に犠牲になった老人が731部隊にいた、というだけでした
そもそも犯人グループの犯行動機が過去を思わせるものではなく、単に延命治療は無意味だから、というものになっています
さらに、彼女たちが犯人かどうかは明言されておらず、白衣を着た集団が施設に向かって歩いていくというだけになっていました
731部隊で過酷な事をして、そのツケが回ってきたというイメージがありますが、実際には「命に対する扱いの軽さ」というものが、時代を経ても変わっていないということを示しているのだと思います
731部隊では戦争に勝つための実験を行い、現代パートでは命の無意味さを説きつつも、自分たちの将来に対する大掛かりな施作を打って出ているように見えます
これらは、自分の思想のためならば、相手の命はどうでも良いという感覚があって、根底では同じものが流れています
なので、その懲罰が為されていると考えるならば、関連性があるようにも思えます
過去は未来の自分を創り、そして積み重ねてきた行いは自分の人生の終着点にて、終わらせ方を決めると言えます
生前に何をしてきたかで、どんな死に方をするのかというところに繋がっていて、それは今回の実行犯にも同じことが起きると言えます
逆説的に考えれば、自分が死にたい方法を先に考えて、そうなるように同じ殺し方を重ねるとも言えるのですね
なので、今回の実行犯は「社会にとって負担になるなら殺してくれ」と訴えているようにも見えてきます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、実に捉え所のない映画で、ある事件に絡んでいる人間関係が徐々に暴露される中で、それぞれが抱える本質のようなものが炙り出されていきます
捜査の過程で自分の属性に気づくとか、過去の因果の中で再び絶望するとか、それらを俯瞰して眺めながら自分を切り捨てる者に対して歯向かうとか、様々なドロドロしたものが渦巻いていました
それらがうまくまとまっていると言えないところが残念なところで、どのエピソードを主軸にしても、他のエピソードはなくても成り立ってしまうことになります
佳代と濱中の性的関係と目の前で起きている事件は無関係で、過去の因果を絡めようとする記者と伊佐美は思い違いをしているだけになっていました
実際にこのような事件が起きた時、その相関関係はワイドショーで推測されるような単純なものではないと思います
もし、この事件が実際に報道されていたら、状況証拠から適当な専門家がそれらしい事を言って勝手に納得して、その報道はなかったことのように扱われているでしょう
それぐらい、他人の不幸というものは瞬間的に誰かに刺さっては消えていくもので、当事者だけは不要な社会圧に晒されるだけと言えます
もし、この事件が青少年たちが起こしたものだとしても、彼らはどうやってあの施設に入り込んで、医療機器を操作したというのでしょう
ワイドショーなどで報道されていたら、こうやったら止まるんですよみたいな事を、映画にも登場した医療機器メーカーが嬉々として話し、お茶の間を沸かせていたかもしれません
実際に医療や介護現場で働いていたらわかりますが、あの手のアラーム音は鳴ればほぼフロア全域に響いてしまいます
気付かないということはあり得ず、また外部の侵入者対策のために従業員はIDカードがないと建物にすら入れません
彼女が犯人だとするなら、祖母のIDカードを勝手に拝借して侵入したことになりますが、医療機器の裏技までは知らないと思うのですね
あの手の医療機器はコードを抜いただけでアラームが鳴るし、何かしらのバイタルサインに異常が出ただけで鳴りまくります
このあたりの検証は行われて物語は作られていて、それでも事件性を匂わせながらミステリーという描かれていきます
総括的に見ると、介護士を追い詰めて逆に裁判沙汰になっているところを考えると、過去(かなり近い)の因果が未来の自分を規定している、というところは他の因果と同じであるように思います
ある種の自分の思想にて、他人を貶めることによって起こること
それが物語の本懐だとは思いますが、それにしてもまとまりの無さが気になってしまう作品でしたね
この構成でそのテーマを描けているのかはなんとも言えませんが、成功しているとは思えないのは残念だったと思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/99422/review/03847746/
公式HP:
https://thewomeninthelakes.jp/