■その場所を聖域だと思っているから、地獄を見ることになるのだと思います


■オススメ度

 

些細なことが大ごとになる仕組みに興味のある人(★★★)

教育現場で起こり得るリスクを知りたい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.5.23(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Das Lehrerzimmer(職員室)

情報:2022年、ドイツ、99分、G

ジャンル:盗難事件を機におかしな雰囲気になる小学校を描いたヒューマンスリラー映画

 

監督:イルケル・チャタク

脚本:ヨハネス・ドゥンカー&イルケル・チャタク

 

キャスト:

レオニー・ベネシュ/Leonie Benesch(カーラ・ノヴァク:中学校に赴任する若手教師、数学)

 

アンネ=カトリン・グミッヒ/Anne-Kathrin Gummich(ベティーナ・ベーム:校長先生)

ラファエル・シュタホビアク/Rafael Stachowiak(ミロク・ドゥデク:同僚の教師、教頭)

 

ミヒャエル・クラマー/Michael Klammer(トーマス・リーベンヴェルダ:人種差別を疑われる先生)

 

エーファ・レーバウ/Eva Löbau(フリーデリーケ・クーン:窃盗を疑われるベテラン事務員)

Leonard Stettnisch(オスカー・クーン:フリーデリーケの息子、生徒)

 

カトリン・ベーリシュ/Kathrin Wehlisch(ロア・セムニク:同僚の教師)

ザラ・バウアレット/Sarah Bauerett(ヴァネッサ・キング:同僚の教師)

Kersten Reimann(スターマン:同僚の先生)

Henriette Sievers(コーヒーを飲む先生)

Canan Samadi(マリアム・イルファン:事務員)

 

Benjamin Bishop(ティム・ボレル:ノヴァクの友人、スカイプの相手)

 

【生徒の親】

Tim Porath(トムの父)

Katinka Auberger(マレン・フィルーザ:生徒の母)

Katharina Marie Schubert(ハスブリヒト夫人:生徒の母)

Uygar Tamer(イルマズ夫人:生徒の母)

Özgür Karadeniz(イルマズ氏:生徒の父)

 

【生徒たち】

Oskar Zickur(ルーカス:オスカーに突っかかるクラスメイト)

Antonia Luise Krämer(ジェニー:ポニーテールの女の子)

Elsa Krieger(ハティシェ:優等生の女の子、学校新聞)

Vincent Stachowiak(トム:カンニングをする生徒)

Can Rodenbostel(アリ:窃盗を疑われる生徒)

Lisa Marie Trense(ルイーゼ:ライターを持っている生徒)

Ruben Kupisch(ルーベン:ルイーゼを探す生徒)

Klara Lindner-Figura(カーラ:天パの生徒)

Enno Hoppe(エンソ:バスケが上手い生徒)

Padmé Hamdemir(ジウン:生徒)

Lotta Wriedt(ヴェラ:生徒)

Nelson Pres(ネルソン:生徒)

Joesfine Jahn(ジョセフィーヌ:生徒)

Lewe Wagner(マーカス:生徒)

Mikail Osanmaz(ミカイル:生徒)

Emma Phu(エマ:生徒)

Ruby L. Kauka(ルビー:生徒)

Solomon Röthig(ソロモン:生徒)

Zayana Mielke(シューレリン:生徒)

Phileas Spallek(フィレアス:生徒)

Ela Eroglu(エラ:生徒)

Johanna Götting(アンナ:生徒)

Jade Nadarajah(ミトラ:生徒)

Goya Rego(ポール:生徒)

Yaw Boah-Amponsem(ヨー:生徒)

Jonas Albrecht(ジョナス:生徒)

 


■映画の舞台

 

ドイツ:ハンブルク

 

ロケ地:

ドイツ:

ハンブルクHamburg

https://maps.app.goo.gl/fk8jNC39G3Sw1jRh7?g_st=ic

 

Campus-Schule Hebebrandstraße

https://maps.app.goo.gl/HbN47daP8B9Lgug97?g_st=ic

 

Albert-Schweitzer-Gymnasium

https://maps.app.goo.gl/SRE6zBjobBpAysyG8?g_st=ic

 

Ratsmühlendamm Brücke

https://maps.app.goo.gl/KDGS6gDnhr2HPnCF9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

ドイツにある小学校の数学の教師をしているカーラ・ノヴァクは、学内で起こっている盗難事件に気を揉んでいた

ある日、彼女は自分のものが盗まれるのではないかと感じ、自分のパソコンを使って盗撮を試みることになった

 

翌日、その映像を確認したところ、白いブラウスの人物が自分の服に手をかけているところが映っていた

カーラはその人物が事務員のクーンであると断定し、個人的に話をしようと考える

だが、クーンはそれを否定し、さらにあらぬ嫌疑をかけられたことで激昂することになった

クーンの息子オスカーがカーラのクラスの生徒でもあり、さらに事態はややこしくなってくる

 

カーラは校長に話をするものの、教頭のドゥデクは「人格権の侵害である」と盗撮そのものを問題視することになった

その話はやがて生徒、保護者の間に広まることになり、カーラは釈明を余儀なくされるのである

 

テーマ:正義感の行き着く先

裏テーマ:行動に必要な熟慮

 


■ひとこと感想

 

予告編のイメージだと、ある事件が起きて学級崩壊するという内容になっていて、どんな顛末なのかと興味を持っていました

まさかの職員室で起きた盗難事件がきっかけで、それが大きな波紋を呼んで、次々と負の連鎖が起きていきました

 

映画では、自己防衛にも思える行動によって、大きな影響が出る様子を描いていました

カーラが撮った映像を見るだけでクーンを犯人扱いするのは無茶ではありますが、「見つけた!」と思ったのかなと感じました

こういった場合には「カーラと話す前に第三者に映像を見てもらう」というのが正解なのですが、職員を疑っているのでどうにもならないように思います

 

盗難騒動をなんとかするためには「職員全員の同意が必要になってくると思いますが、カメラの設置を快く思わない人の方が多いでしょう

でも、それらは抑止力として、窃盗を防ぐことになったかもしれません

とは言え、学校自体が盗難に関して公的に動かないところが諸悪の根源のように思えてしまいます

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

本作は、どこでも起きそうな問題を描いていて、事態が徐々に大きくなってしまう過程を描いていました

一つ間違えばという感じですが、実際には最初の一手から間違っていたことがわかります

正義感に駆られた行動に映りますが、教育に携わる人間として、その行動はどうなのかと思ってしまいます

 

犯人探しがメインではなく、行動と思慮の浅はかさを描いていて、子どもたちなりの抵抗というものが描かれていきます

子どもは決して馬鹿ではなく、大人の前で良い子を演じてきたのですが、学校新聞のインタビューにおける誘導尋問はなかなかのものだったと思います

子どもたちがギリ考えそうなラインに留めているのがすごいのですね

 

保護者たちが学校に求めているものに限らず、断片的に得られた情報が「それまでにあった不信感」で増大していく過程は怖いものがあります

その不信感のもとになっているものが学校側には見えないのですが、その不透明さというもののも、元は学校という組織の事なかれ主義というものが招いたことのように思えました

 


負の連鎖は初動が大事

 

本作は、職員室で起きた盗難事件に対して、個人で対処しようとしたところが問題の出発点になっています

わざと盗まれる状況を作り出し、スカイプをスマホと連動させて起動させて録画していたのですが、写ったものは決定的なものとは呼べないものだったと言えます

カーラは事務員のクーンを犯人だと断定し、一対一で話をつけに行こうとします

無論、やっているかどうか以前に相手の感情を逆撫でする状況になっていて、クーンはロクに映像も見ないまま、難癖をつけているという感じに反発していました

 

当人同士の話し合いにすらならなかったために、今度は校長にその映像を見せて、学校としての対応を迫ります

でも、この時の雰囲気は「人格権の侵害」という教頭もいれば、盗撮に過敏に反応する女教師もいました

窃盗は犯罪ですが、盗撮も犯罪なので、それに対する拒否反応が凄いことになっていましたね

窃盗に関しては、新しい清掃会社かもという感じで、身内は除外したいというバイアスがかかっていたのでなおさらだったと思います

でも、盗撮に関しては目の前に犯人がいるし、しかも身内だしという感じで、かなりの反発が起こっていました

 

これらの行動はカーラの正義感が成せるものではありますが、彼女はこの学校ではまだ外様な感じになっています

赴任して月日が経っておらず、生徒も職員の事も、まだ手探りの状態になっていました

そんな中で、「身内を疑っている」と思えてしまう行動自体が許容し難いものになっていました

そこに写り込んだのが事務員ではなく、清掃会社の人だとしても同じような反発は起きたと思います

 

カーラは初動としてのクーンとの対話に失敗し、感情的になりやすい校長先生に話を持って行ってしまいます

校長は瞬間的にドゥデク先生(教頭)に相談すると言って、そんな彼は人格権の侵害を意見することになります

この関係性は学校に馴染んでいたらわかったことだと思いますが、赴任したばかりのカーラは「校長が自分で判断できない人間である」ということをわかっていないのですね

もし、この学校で過ごした時間が長ければ、校長の癖も知っているし、このような問題が起きた時に誰が中心になるかがわかるはずです

なので、本来ならば、教頭に盗撮を打診して、どう反応するかを伺うべきだったでしょう

カーラも「外部だと思っているのか、身内だと思っているのか」という設置に関する立場を明確にすれば問題がなかったと思います

外部業者の行動を監視しようという名目ならば、他の教職員も賛成に回れたでしょうし、もし身内の犯行であるとしても、それだけで十分な抑止力になったように思えました

 


組織内で起きた犯罪の対処法

 

今回のように、いわゆる閉鎖空間で犯罪が起きた場合、その対応はとても慎重にならざるを得ないと言えます

犯人を捕まえることと、犯罪を起きにくくすることは同義ではなく、後者の方を優先して、沈静化を図る方が効果的であると思います

犯罪が起きにくい状況を作るために「相互監視」の状況を作るのではなく、システムとして起きにくい環境を作るのですね

また、対策によって、相手を限定することにも繋がれば、さらに見えない抑止力というものが生まれてきます

 

映画の状況だと、職員室内に入れれば誰でも可能で、かつその辺にかけてある衣服に貴重品を無防備に入れていました

取ってくださいと言わんばかりの状況で、防犯意識というものが薄すぎます

まずは貴重品を鍵を掛けた場所に保管するなどが最低条件で、その後は入室記録などをつけることになると思います

この段階で、そこを利用する人たちの利便性が下がるとは思わないので、まずは「犯罪をしにくい環境を作るところ」が入口になると言えます

その段階になって、さらに起こるようならば、次の方法を考えることになりますが、まずは捕まえるよりも起こさないということの方が優先されるべきであるように思います

 

もし犯罪者を捕まえる方向で行くのならば、警察の介入を行なった方が良いと思います

警察の方も環境づくりを促すと思いますが、それによる犯行の推移というものは、犯人を特定させるための手がかりになります

現場で囮捜査をするような発案は行わないでしょうし、これまでに多発している状況なら、犯行にまつわる情報も集まっているはずなのですね

なので、警察の介入なくして、現場で犯人を捕まえようというのは無茶以外の何者でもありません

警察ならば状況から内部の人間を疑うと思いますが、そこで行われる事情聴取なども踏まえると、かなりの抑止力になり得ると考えられます

学校が介入を嫌がっているという状況を犯人は利用しているので、真っ先に行って、プロのアドバイスを受けることが近道であると言えるのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、本来ならば「警察の介入ありき」で、その後を考えるのが当たり前なのですが、体裁を取り繕うことに必死で、対外的にイメージを損なうことを大いに嫌っているという状況がありました

その環境というものを知り尽くしている人物が犯人で、大ごとにしたくない経営陣の本音というものが読み取られています

犯人は誰かというのは重要ではなく、起こった状況に対して、誰が何をしたかというところに着目すると、全体像が見えてくると思います

 

容疑をかけられるクーンの行動は、校長の性格と職員室内のパワーバランスを熟知した行動になっていて、さらに決定的なものがなく、カーラにも非があるという状況を加味して反撃していきます

警察ですら、犯罪解決のために「職員を監視するためのカメラを内緒でつけろ」とは言いません

今回は、無断で撮影を行い、かつそこに決定的なものがないという状況をクーンはわかっているので、その後の行動はかなり綿密で計画的なものになっていました

これは、彼女が盗んだどうかとは別の問題になっていて、今後彼女がどのような立場で、この街で生きていくのかを賭けているとも言えます

 

学校側の事なかれ主義と秘密主義を利用し、子どもの中でも印象操作を行っていきます

子どもたちの中で話が広がっている状況というのは、学校が一番恐れることなのですね

伝達速度は思っている以上に速く、しかも不正確かつ印象的なワードだけが伝わっていきます

そうなると「本当のところはどうなのか」と保護者が動くのは目に見えています

そして、その保護者説明会にて、明確なことを言えない状況を確認して、クーンは反撃としては最良の手を打ってきました

 

連鎖的に起こっている状況の悪化というものは、お互いの目指す先が一致しないと収束には向かいません

映画では、カーラは子どもたちの影響を懸念していますが、クーンは自分の身を守るために反撃をしています

ここでは、窃盗があったかどうかを棚に上げて、カーラと学校の行為は正当だったかという問題にすり替えているのですね

ここまで来るとクーンサイドも引けないところまで到達していて、これはどちらかがこの街を去るまでずっと続いていくことになります

 

映画のラストでは、オスカーが強制排除される様子が描かれていますが、彼もこの街で生き残ることに必死になっています

学校側も人員不足からカーラを辞めさせることはできず、そもそもの発端としての盗難の事実は消えることはありません

どのような決着になるかはわかりませんが、学校側は秘密裏に人員の補給に動き、クーンは別の職業に就かざるを得ないと思います

そして、いずれはクーンとオスカーは街を出て、カーラも学校を去ることになるでしょう

結局のところ、犯人は誰かわからないのに両方有罪という嫌な着地点になっていくと考えられます

この結末は誰もが望んではいませんが、そこにしか着地点というものはないので、真犯人が見つかったとしても、その方向性は変わらないのではないでしょうか

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101206/review/03847752/

 

公式HP:

https://arifureta-kyositsu.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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