■恋する心は、生きる力を与え、人生を育む種になる
Contents
■オススメ度
一風変わった恋愛映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.5.14(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、103分、G
ジャンル:両思いになった途端に相手が消える現象に巻き込まれる女子を描いた恋愛映画
監督:松居大悟
脚本:大野敏哉&松居大悟
原作:高木ユーナ『不死身ラヴァーズ(講談社)』
Amazon Link(原作コミック Kindle版)→ https://amzn.to/3UZxRf5
キャスト:
見上愛(長谷部りの:運命の相手を忘れられない中学生)
(幼少期:吉田帆乃華)
佐藤寛太(甲野じゅん:りのの運命の人)
(幼少期:泉二伊織)
青木柚(田中:りのの幼馴染)
(幼少期:岩川晴)
菅野三鈴(甲野由美子:じゅんの母)
岸本晟夢(甲本:陸上部の部員)
アダム(近藤:軽音楽部の部員)
大関れいか(アスカ:りのの大学時代の同級生)
平井珠生(カナ:りのの大学時代の同級生)
米良まさひろ(良太:りのの大学時代の同級生)
前田敦子(花森叶美:クリーニング屋の店員)
本折最強さとし(カズ:クリーニング屋の店長)
落合モトキ(田野倉:介護士に恋する男)
鈴成ゲン(田野倉の介護士)
萩原護(陸上部)
奥田夢叶(陸上部)
林よう(陸上部)
池田和子(赤い家のおばあちゃん?)
番家一路(不良少年)
■映画の舞台
日本のどこかの地方都市
ロケ地:
山梨県:上野原市
牛倉神社
https://maps.app.goo.gl/ADjmhhz7KYU1vXAF9?g_st=ic
一福食堂
https://maps.app.goo.gl/m3nvccK3JLpMxz4i8?g_st=ic
上条集落 もしもしの家
https://maps.app.goo.gl/j8sa7pDe4zebyVLC9?g_st=ic
戸田酒販 上野原店
https://maps.app.goo.gl/R4QREebNhHFTN4Wi9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
病床に臥していたりのは、そこで「甲野じゅん」という男の子に励まされた
そんな彼を運命の人だと感じたりのは、ずっと彼のことを探し続けていた
幼馴染の田中は暖かく見守るものの、その思いは徐々にエスカレートしていく
そして、ようやく中学に入り、甲野じゅんと再会することができた
彼は陸上部のホープで、そこでりのは陸上部のマネージャーになってしまう
日々は重なり、徐々に二人の距離が近づいていく
そしてある日、りのは思い切って告白をし、じゅんもその想いに応えた
だが、二人が両思いとわかった瞬間に、じゅんは姿を消してしまい、その恋はそこで終わりを告げてしまう
傷心のりのだったが、今度は高校に入って軽音部に入っているじゅんを見つけて接近する
やがて恋仲になった二人だが、またもや両思いになった瞬間に、じゅんはこの世から消えてしまう
そして、とうとう大学生活がスタートしてしまうのである
テーマ:繰り返される不変
裏テーマ:記憶を上書きする力
■ひとこと感想
両思いになったら相手が消えるというラブコメで、これが夢でなければを論理的に考えると答えは一つしかありません
とは言え、そう言った見方をするよりは、りのの目線で「なんで?」を追体験し、そのおかしさを辿った方が良いと思います
映画は、幼少期に自分に勇気を与えてくれた相手を「運命の人」だと思い込んでいくのですが、その想いが叶うと消えるを繰り返していきます
陸上部、軽音部、クリーニング店までは同じパターン(相手はフリー)で、車椅子のじゅんだけは想い人がいるという流れになっています
そして大学に入ってもじゅんと会うことになりますが、そこで消えて欲しくないために、自分の心を押さえ込んでしまいます
でも、今度は相手の方が毎日同じように告白をしてくるのですね
このカラクリがうまく機能して、りのの選択を強いるようになっていたように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
りののこれまでの顛末を俯瞰していた唯一の人物がネタバラシをすることになるのですが、論理的に考えるとそれしかないよねえという展開だったと思います
りのは想いを伝え続けますが、実はそこにいたのはじゅんではなく、破綻した恋愛を癒すための記憶の改変だということになっていました
恋多き女が「好き」を武器に相手に迫り、その圧が原因で逃げてしまうのですが、逃げられたということを記憶から削除しているので「告白した瞬間に消える」という改変になっていたのだと思います
大学に入ると逆の現象が起き、りのに告白しては忘れるじゅんというものが登場してしまいます
これらの転換によって、りのの日常が田中から語られることになるのですが、彼目線の「りのの人生」というのは意味わからんくらいに面白かったのではないでしょうか
ラストシーンはおそらくは「夢」か「走馬灯」だと思いますが、彼女の恋愛は夢の中でしか成就しないということを考えると、悲しい人生のように思えてしまいますね
■記憶の改変が起こる理由
本作は、りのの失恋ごとに「記憶が改変」されている様子が描かれていて、近くにいた人間にはそれがよくわかっていました
田中もその改変に付き合わされてきた人間ですが、りのに改変が起こっていることを伝えても意味がないと感じていました
それは、彼女の思い込みがそれほど強烈で、恋愛の一つ一つが激情的なものだったからだと言えます
りのは恋愛に対して全力投球で、幼少期に出会った甲野じゅんを運命の人だと確信しています
それは、彼の手にふれたことによって、彼女自身が蘇ることができたからでしょう
いわゆる命の恩人のようなもので、あの時の温もりをもう一度探すために、恋愛に傾倒して行ったように思えます
彼女は中学2年生になるまで甲野じゅんらしき人を見つけられなかったのですが、それは彼自身がずっと療養中だったからだと思います
事故によって記憶が保たない大学生の甲野じゅんは本物で、彼がりのの病室に来たのも現実でしょう
でも、彼は次に日にはそれを忘れているので、りのと会ったことすら覚えていないのだと思います
その後は、理想の甲野じゅんがどんな青年に成長しているかを妄想し、それに近いイメージを持つ人を好きになって行ったように思えます
誰もが別人でいながら、どこか似通った部分がありましたね
ちなみに、陸上部のじゅんは年下で、軽音部は年上だったので、この時点で「2人のじゅんは別人」で、中身すらも違うということは想像できるようになっていました
クリーニング店のじゅんも大学生のりのとは歳が離れているし、車椅子のじゅんも当時のりのとは年齢差がありました
これらの記憶が改変されているのは、単に失恋の痛手ではなく、甲野じゅんへの想いが強すぎて、その理想を相手に押し続けてきた弊害のようなものだと思います
甲野じゅんではないけれど、甲野じゅんとしたいことを押し付けられた陸上部のじゅんは「重い」と言い放ちました
軽音部のじゅんは「元カノの幻影」を重ねられずに瞬間的に瓦解していましたね
その後の恋愛は、じゅんがもし大人になったら、という妄想のようなものが入り込んでいて、クリーニング店のじゅんは「奥さんに自分を当てはめている」ように思えますし、車椅子のじゅんは「介護士を自分と重ねている」ようにも思えました
それぞれの恋愛を応援することで、自分自身も満ちると思いましたが、実際にはさらに風穴が開いてしまい、それを塞ぐために改変が行われたのだと考えられます
■タイトルの意味について
本作のタイトルは『不死身ラヴァーズ』というもので、瀕死だったりのが甲野じゅんとの出会いで復活する様を描いていました
複数形なのですが、これはりのが出会った全ての恋人たちという意味合いになります
当初は両思いになると相手が消えるという設定で、元々存在しなかったように描かれていますが、実際には彼らは生きていて、別の名前で別の人物だったことがわかります
りのとの関わりの中で、彼らの人生も大きく変わっていて、りのの「好き」という感情が人生にとって必要なものであることがわかります
陸上部のじゅん(甲本)は、クラブ活動は孤独だと思ったけど、りのの出現によって仲間を手に入れていきます
軽音部のじゅん(近藤)は、元カノへの想いを再確認することになりました
車椅子のじゅん(田野倉)は、介護士へ想いを伝え両思いになります
クリーニング店のじゅん(カズ)は、亡き妻への想いを大切にすることを選びます
これらは、彼らがりのに出会わなければ起こらなかったこと、得られなかったものだったように思います
りのの好きという感情はパワフルで、それは部活に打ち込む愛だったり、軽音を選んだきっかけだったり、自分を支えてくれた人への感謝だったり、人生を賭けて挑んだ勝負を支えてくれた人への愛だったりします
そんな感情が消えそうな時にりのと出会い、彼らの中にある「好き」という感情が想起されるのですね
それによって彼らは「自分の好き」に向き合うことになりますが、それは同時に「りのの好き」とは両立しないものだった、という悲しさもあったように思います
その後、「好きにならない」と決めるりのでしたが、これまでに生きて「好きを復活させたこと」によって、彼女自身が得るべきものというものが目の前に訪れてしまいます
それは、相手の中で毎日消える感情であり、言い換えれば「記憶の改変をしてきたりのに対する試練」のようなものでした
じゅんとの出会いによって、「自分の存在が消えること」の辛さを知り、そして、これまで自分が相手にしてきたことの意味を考えるようになります
実際には、無意識で行ってきたことで、その意味を深く考えてはいなかったのだけど、それを強制的に突きつけられることになりました
そして、自分の中でその痛みが育ち、それを打ち消すに至ったのが田中のりのへの愛だった、ということになるのだと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では、聖人のように描かれる田中ですが、彼はずっとりののことが好きなのだと思います
でも彼は一切その感情を表に出すことはなく、伝えようとも思いません
それは、「好きな人が幸せでいることが、自分にとっての幸せである」という感覚を有しているからなのですね
自分が幸せにしないのか?と問われる質問ではありますが、実際の幸せというものは「その人の中にしかないもの」で、他人がどうこうできるものではありません
りのが田中の愛に気づくことがあるのかはわかりませんが、幼馴染という関係性は「恋人を超えた先にあるもの」なので、友情から愛情に切り替わることは稀だと思います
田中は不幸にも、りのに恋愛感情が芽生えた段階で友人カテゴリーに入ってしまっていた存在だったので、出会いが逆ならワンチャンあったのかな、とう感じになっています
輪廻的に言えば、この人生では一緒にならない関係性だったということになりますが、それは田中もわかっていることで、「彼の好きというものも一方的だからこそ価値がある」と考えているように思えました
実際のりのは「女性としてはとても面倒な人」で、付き合うことが大変な相手だと思います
甲野じゅんを運命の人だと言いながら、いろんな人を好きになりまくる恋愛体質で、それがうまくいかなくなると無かったことにしてしまうのですね
なので、田中に好きという気持ちがあっても、「付き合うとかない」という相反するものが育っているように思えました
女性としての好きが、人間としての好きに変わり、見ていて面白いになっていく
幸せに生きている人を見ると幸せに思えるという観点からすれば、りのがずっと変わらないことが田中の願いだったのかもしれません
映画は、赤い屋根の家で仲睦まじく過ごしているりのとじゅんが描かれますが、これは家の中にいる老女が見た走馬灯のようなものでしょう
彼女はじゅんとの日々を過ごし、理想的な人生を歩んだ
それを見届けたのが田中という人間だったのではないでしょうか
彼がどんな人生を歩んだかはわかりませんが、りのとは真逆のタイプを選んで、幸せになっているのではないかと思ってしまいます
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100990/review/03821081/
公式HP:
https://www.cinema-factory.jp/2024/03/07/45947/
 
                                    