■取り戻したのは、かつての自分だったのかもしれません
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■オススメ度
ボクシング映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2025.1.16(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、119分、G
ジャンル:敬愛するボクサーの復讐に駆られる弟分を描いたロードムービー
監督:川島直人
脚本:川島直人&敦賀零
キャスト:
吉村界人(テル/冴木輝彦:新人王候補のボクサー)
三河悠冴(ベン/友原勉:テルの弟分)
遠藤雄弥(青山拓人:テルの元対戦相手、プロボクサー)
宮田佳典(北澤遊馬:テルの宿敵、大阪のボクサー、西日本代表)
テイ龍進(秋山徹:北澤のジムの会長)
優希美青(望月里香:テルの恋人、美容師)
松浦慎一郎(吉田一:テルのトレーナー)
菅田俊(岩城耕太郎:岩城ジムの会長)
【北千住】
福地勇治(新人王戦のレフリー)
松崎ションペーター(岩城ジムのボクサー)
西山蓮都(団地の学生)
小島怜珠(団地の学生)
光延ジヨウ(団地の学生)
前田ばっこー(ゴミ回収車の運転手、ベンの仕事仲間)
稲田悟史(杉田:ゴミ回収車の走れない同僚)
川島潤哉(交番の警官)
根本拓洋(着ぐるみボコる通行人)
赤峰優(着ぐるみボコる通行人の連れ)
玉りんど(スーパーの店員)
竹井亮介(スーパーの店長)
【川崎】
棚橋ナッツ(川崎のジムの男)
世志男(マンションから叫ぶ男)
【熱海】
アガサ(キレる熱海のボクサー)
川並淳一(騙される熱海のボクサー)
【名古屋】
渡辺光(名古屋のボクサー)
本多遼(名古屋のボクサー)
工藤トシキ(客引き)
奥村佳代(バーの女)
土山茜(バーの女)
渡部龍平(バーの怖いお兄さん)
白石直也(バーの怖いお兄さん)
松井薫平(バーの怖いお兄さん)
【大阪】
東宮綾音(ファミレスの店員)
佐藤まんごろう(ファミレスの店長)
山中敦史(医師)
松本享子(看護師)
高瀬英璃(看護師)
■映画の舞台
東京:北千住
神奈川:川崎
静岡:熱海
愛知:名古屋
大阪
ロケ地:
神奈川県:藤沢市
湘南山神ボクシングジム
https://maps.app.goo.gl/TVa7JG2EvTo5PZz96?g_st=ic
東京都:立川市
アリーナ立川立飛
https://maps.app.goo.gl/drNUXJ74ezSRprxS8?g_st=ic
東京都:足立区
野口ボクシングジム
https://maps.app.goo.gl/ifcqZgJ1JUaLavVW9?g_st=ic
神奈川県:横浜市
横浜さくらボクシングジム
https://maps.app.goo.gl/dYFWz3Y9BPUut3gz6?g_st=ic
横浜光ボクシングジム
https://maps.app.goo.gl/DW4DyN5dPx9j7epC8?g_st=ic
静岡県:熱海市
熱海ボクシングスクールフォスト
https://maps.app.goo.gl/8nEY48ErCouxhAXw8?g_st=ic
大阪府:大阪市
陽光アダチボクシングジム
https://maps.app.goo.gl/Qm6ePTteE24izhor6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
北千住にて新人王候補のボクサー・テルは、弟分のベンとともに育ち、素行は悪いながらも才能は認められていた
東日本代表を決める試合でも相手を圧倒し、新人王のタイトルに王手をかけていた
テルには美容師の彼女・里香がいるが、使い勝手の良い美容師扱いで、その関係性は終わりかけていた
ベンは10歳の頃に母親に捨てられていて、それ依頼テルが面倒を見てきた
今ではゴミ回収の仕事をしながら、テルの所属する岩城ジムの使い走りのような仕事もこなしていた
全国大会の相手は北澤游馬というボクサーで、テルはなす術もなく負けてしまう
ボクシングから離れることになり、里香にも愛想を尽かされてしまう
テルは不甲斐ない日々を過ごしていたが、ある日、忽然とベンが姿を消してしまう
警察に失踪届を出そうとするものの、寸前で居場所が判明する
ベンがいたのは川崎で、彼を見つけたのは東日本大会の決勝で倒したボクサー・青山だった
ベンはテルの復讐のために北澤を追いかけ、返り討ちに遭っていた
それでも収まりのつかないベンは、北澤のいる大阪へと向かおうとしていたのである
テーマ:再生のためのけじめ
裏テーマ:負けない強さ
■ひとこと感想
ボクシング&ロードムービーという感じで、天才肌のボクサーが負けたことで日常が一変するという物語になっていました
印象的だったのは、テルと再会した時に放った北澤の言葉で、彼は自分を弱いと言い、他が弱いから上にいるだけだと言い放っていました
映画は、ボクシング映画として見どころのあるシーンも多く、ロードムービーとしての面白さもありました
土地柄を表現しているのかは分かりませんが、ご当地の人が演じているせいか、かなり自然な会話の流れになっていたように思います
ベンに引っ張られていくテルが描かれますが、思いっきり巻き込まれた青山は気の毒でなりません
さすがに優しすぎて関わりすぎだろうと思いますが、見捨てておけない人情があったのだと思います
パンフレットにはモブキャラも写真付きで紹介されているので、鑑賞後だとその流れを復習するのに最適だと思います
ロードムービーっぽさはそこまで感じませんが、ファミレスとスーパーの店員さんは魅力的なキャラでしたね
着ぐるみ案件も面白い伏線の張り方でいっときの清涼のような趣があったように思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ほとんど情報を入れなかったので、負けたテルが武者修行をしながら大阪にリベンジに向かう系かなあとか考えながら鑑賞していました
まさかの素人ベンが止まれない情熱で突き進んでいくことになり、それに巻き込まれるテルと青山という構図になっていました
青山はとばっちりも良いところで、ベンに負けたためにとことん付き合わされることになっていたのはかわいそうに思います
ボクシングシーンは迫力があって、数少ない試合よりもスパーリングがメインになっていました
北澤との対決がジムのリングという地味な展開になっていますが、かなり現実路線になっていたと思います
北澤との戦いの中でベンが目覚めていて、ベンを突き放したのはテルの優しさだったように思いました
彼はベンと北澤の世界タイトルを妄想しつつも、自分がその場所に行く決意を固めていきます
本気になった天才がどのようになっていくのか楽しみではありますが、その観点で観るとタイトルに意味もセンスを感じさせます
北澤の挑発のようにも聞こえますが、テルには先に行ったベンが言っているように聞こえているんじゃないかと感じました
■才能が開花する理由
本作は、テルに憧れるベンが彼の真似をしていく中で才能を開花させるのですが、それにはいくつかの理由があると思います
通常、目標となる人物は歩みを止めない現在進行形の部分があるのですが、本作の場合はテルが急ブレーキをかけているために、ベンが安易に飛び越えていける下地がありました
強さというのは歩みを止めない限り上昇していくもので、強いやつはこの世にいくらでもいるので、向上心と経験値がそれを下支えしていきます
でも、一度歩みを止めてしまうとそこが限界点となり、一瞬で積み上げてきたものが消え去っていきます
そんな中でもベンは理想のテルを念頭に置いて修行していくことになり、形を真似るところから入っていきます
習い事に限らず、全てのものは見様見真似から入るのが原則で、越えるたびにハードルを上げていくことになります
もの見様見真似というのはテルの天才性を客観視している部分があり、それは同時にテル自身の理想をアップグレードしていくことにつながります
いつしかベンは、自分あらばこうしたという主観が入り混じるようになり、それが自分自身を思いもしないステージへと引き上げていきます
ベンにとって超えたい目標はテルではありましたが、実際には彼を倒した北澤にすり替わっていて、テルの技量で彼を倒すアイデアを考えながら、そこを修正していくことになります
それは同時に「ある地点のテル」が目標としては低いものとなっているので、あっさりとそれを飛び越えてしまうのですね
才能が開花したと思われるのは第一段階を超えた時点で見えてくるもので、それをテルは自分を超えたと感じるし、青山もまたあの時のテルよりも強くなったのではと感じるようになります
そして青山は「他が弱いから自分が強く見えるんだ」という言葉を結ぶようになっていて、この時点におけるベンの強さというものはテルの強さと異質のものであると明言していると言えるのではないでしょうか
■タイトルの意味について
本作のタイトルは「Welcome Back」というもので、直訳すると「お帰りなさい」という意味になります
これは北澤に負けてどこかに行ってしまったテルの魂が、ベンというライバルが生まれたことで戻ってきた、という意味になると思います
また、挫折したボクサーが再起するとか、仲間と再び会うというニュアンスも含まれていて、その過程において、テルとベンの関係性が変わっているのも面白いところだと言えます
ベンが北澤を倒しても意味がなく、ベンがテルを超えた、もしくは脅威になったというところがキーポイントとなっていて、「お帰りなさい」というのがベン側のセリフという面白みがあると思います
テルが帰る場所はベンのところでもありますが、ベンが望むテルの居場所はリングの上であると言えます
そう考えると、ベンが「お帰りなさい」と言葉をかける場所はリングの上である方が良いのでしょう
それは練習場のリングではなく、後楽園ホールが望ましく、そこでテルとベンが戦うことが「本当の意味でのお帰りなさい」であるように思えます
映画はそこまでは描きませんが、それを念頭に置いての復帰というものが示唆されているように思いました
人を再起させるものはたくさんあると思いますが、本作におけるテルの再起に必要だったものは、ベンとの関係性の変化だったと思います
それを間近で見ながら絶望に変わっていくというのが妙味であり、ベンが誰かに負けるたびに「自分ならこうする」という意識をテルに植え付けていくことにもつながります
テルは根っからのボクサーなので負けん気が強いのですが自惚れ屋という側面がありました
それは努力なしにある程度のポジションに行ったからであり、ベンは真逆の階段を昇っているように思えます
でも実際には、テルが努力だと感じてこなかった過去と同じように、ベンもまた、今回の旅を努力だと感じてはいないのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、自己表現が下手なテルとベンを描き、ベンに引きずられた旅の中でテルが自分を取り戻す様子を描いていきます
東京から大阪へと旅する中でベンがどんどん強くなっていき、彼自身がテルへの依存から脱却するという側面もありました
テルは天才型(自称)で、ベンは努力型という感じに描かれていますが、この手のスポーツに関して「努力型も天才性を有し、天才型も努力性を有する」と思います
才能の発芽に対して、自分と周囲がどのように感じているかという部分があって、その捉え方によってステージの高さと維持できる期間が違ってくると言えます
天才先行型で自認もあるタイプだと短命に終わる傾向がありますが、その分ハマった時に登り詰めるステージは高いと思います
努力先行型だと登り詰めるのに時間はかかりますが、努力を否定せずに続けられるとかなりのステージへと到達します
最強なのは努力天才併存型であり、努力を努力と思っていないし、天才だと自惚れることもない人だと思います
このような人は「常に相手から学ぶ姿勢」を持ち、昨日の自分を超えるためにはどんな経験も無駄ではないと考えています
何しかのスポーツで極める人は常に謙虚で、どのような相手であってもリスペクトを欠かさないでしょう
それは常にストイックであり、どんな相手からでも学べると考えているかだだと思います
自分と対決する相手は「何らかの長所があって勝ち残ってきたから」であり、自分のステージごとに与えられる相手には、「自分に必要なものを兼ね備えているから」なのですね
それを理解している人はどんな相手であっても何かを吸収しようと考えているし、自分自身に課題があって、それを対戦で試そうとしています
テルは自意識過剰な天才型でしたが、努力型のベンを側で見ることによって自分に足りないものを自覚していきます
それは「戦う楽しさ」であると同時に、ベンに持ち合わせていた飽くなき闘争心であると言えます
ベンは当初はテルを目指して戦っていましたが、戦う中で強くなっていき、自分自身の可能性というものを感じていきます
その過程はかつてのテル自身にあったものであり、それが奮起の材料となっているということは、テルもかつては努力型だったということの現れなのでしょう
思って以上に才能があって、何の障壁もなかったところから勘違いしたのかもしれませんが、ベンという倒すべき相手を見つけたということは、至極の喜びだったのではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/102575/review/04673303/
公式HP:
https://welcomeback-movie.com/
 
                                    






