■著作権過渡期の爪痕は、後世に残る名声か罵声かどちらだろうか
Contents
■オススメ度
悪趣味な映画が好きな人(★★★)
SNSで「本年度ワースト!」と投稿したい人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.6.28(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Winnie the Pooh: Blood and Honey(くまのプーさん:血とハチミツ)
情報:2023年、イギリス、84分、PG12
ジャンル:友人に捨てられて凶暴化したプーさんに狙われる大学生グループを描いたホラー映画
監督&脚本:リース・フレイク=ウォーターフィールド
キャスト:
ニコライ・レオン/Nikolai Leon(クリストファー・ロビン:大学に行くために森を離れることになったプーさんの親友)
(幼少期:Frederick Dallaway)
マリア・テイラー/Maria Taylor(マリア:ストーカーに悩んでいる女子大生)
ナターシャ・ローズ・ミルズ/Natasha Rose Mills(ジェシカ:眼鏡っ子の女子大生)
アンバー・ドイグ=ソー/Amber Doig-Thorne(アリス:ゾーイと恋仲の女子大生)
ダニエル・ロナウド/Danielle Ronald(ゾーイ:アリスにサプライズ仕掛ける女子大生)
ナターシャ・トシーニ/Natasha Tosini(ララ:露天風呂を堪能する女子大生)
May Kelly(ティナ:待ち合わせに遅刻してはぐれる女性大生)
Paula Coiz(メアリー:クリストファーの恋人)
Danielle Scott(シャーリーン:雑貨屋のカップル)
Jase Rivers(ジョン:雑貨屋のカップル)
Richard Harfst(雑貨屋店主)
クレイグ・デビッド・ドーセット/Craig David Dowsett(くまのプーさん)
クリス・コーデル/Chris Cordell(ピグレット)
Richard D. Myers(ローガン:マリアたちと遭遇する地元民)
Simon Ellis(タッカー:マリアたちと遭遇する地元民)
Mark Haldor(ダレル:マリアたちと遭遇する地元民)
Marcus Massey(コルト:マリアたちと遭遇する地元民)
Gillian Brodevick(マリアのセラピスト)
Toby Wynn-Davis(ナレーション)
■映画の舞台
イギリス:
イーストサセックス州
アッシュダウン・フォレスト
https://maps.app.goo.gl/LWz61mYv29HWqS8Y8?g_st=ic
ロケ地:
イギリス:イーストサセックス州
アッシュダウン
■簡単なあらすじ
幼少期に「100エーカーの森」にて、クマのプーさんやピグレット、イーヨたちと仲良くなったクリストファー・ロビンは、大学進学を迎えて森に来られなくなった
プーさんたちは、クリストファーが持ってきてくれる食料で生活していて、それが突然途絶えてしまう
ガリガリに痩せほそった彼らは、イーヨを犠牲にすることで生きながらえるが、同時に精神的におかしくなって、人間を恨むようになっていた
それから5年後、婚約者のメアリーを連れて森に戻ったクリストファーだったが、プーさんたちがいた森は荒れ放題で、住んでいる痕跡がなかった
だが、小屋の中で凶暴化したプーさんに襲われ、メアリーは命を落としてしまう
クリストファーも捕まってしまい、かつての恨みを募らせたプーさんは、彼を痛めつけ始めた
一方その頃、森にバカンスに来た大学生5人組がその場所に到着する
マリアの別荘で一息ついた彼女たちは、遅れてくるティナを待っていた
だが、ティナは途中の雑貨店にてピグレットに襲われて、ミンチ肉にされてしまう
そして、プーさんとピグレットは彼女たちの気配を察知し、ロッジへと足を運ぶのであった
テーマ:積年の恨み
裏テーマ:餌だけでは生活できない
■ひとこと感想
版権切れたのでやりたい放題しようという企画なのですが、プーさんの面影がほとんどない酷い内容になっていました
クリストファーが大人になって森に通うのを辞めたことが原因で飢餓に陥り、逆恨みをするという設定なのですが、どうみてもハンティング能力はありそうに思えます
映画は、クリストファーは起因になっていますが、メインは全く関係のない大学生グループで、食べるためでもなく、淡々と殺されていく様子が描かれます
いわゆるスラッシャー系なのですが、残酷描写もやや控えめの印象
ここまでするなら、もっとレーティングを上げてしまった方が評価が高くなったかもしれません
物語性も皆無で、プーさんたちの目的も全くわかりません
どうやら半分に獣という設定のようではありますが、プーさんらしき仮面をつけたサイコパスな大男にしか見えませんでした
爆死確定だと思いますが、「今年ワースト」を使っても問題ない内容だったように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
冒頭でいきなり子どもの落書きのようなアニメが始まり、プーさんが凶暴化した理由が描かれます
イーヨを犠牲にしたようですが、5年間過ごしているので、他にも何かを食べていたと思います
なので、イーヨの犠牲は精神が狂うという設定のためだけにありました
プーさんとピグレットが人間に恨みを持っているのはわからないでもないですが、殺し方にこだわりがあるような殺人鬼設定はどうなんでしょうか?
人肉を食って生きているのかもしれませんが、死体をバラバラにする趣味があるだけで、実際に食しているような場面はなかったと思います
映画は、版権が切れて好き放題できるようになったので「やってみた」という感じになっていて、ともかく趣味の悪さだけは一級品です
露天風呂で殺されるララのサービスショットはありましたが、わざわざ縛って彼女らの車で頭を引き潰す意味はわかりません
手の込んだ殺し方をしている割には「直接描写を避けまくる内容」になっていたので、ホラー映画としてもかなり残念な仕上がりになっていました
■版権切れが起こす二次創作の功罪
「くまのプーさん(Winnie-the-Pooh)」は1926年に生まれたキャラクターで、作者はA・A・ミルン(A.A.milne)とE・H・シェパード(E.H.Shepard)です
ミランは1956年に亡くなり、シェパードは1976年に亡くなっています
ミランが物語を作り、キャラクターはシェパードが分担しています
国際的な著作権は「文学的及び美術的諸作物の保護に関するベルヌ条約(Convention de Berne pour la protection des œuvres littéraires et artistiques)」によって定めされていて、著作者の死後もしくは作品の公表後50年の保護期間というものがあります
この法律の第6項により「長期の保護期間を設定している国」というものがあり、原則的には上限はありません
一番長いのがメキシコの100年、アメリカやEU加盟国は70年、日本の場合は70年ですが1967年以前に死亡した著者による個人著作物は50年となっています
韓国、中国、香港などは50年に設定されています
ちなみに著作権法未制定という国(ソマリア、ナウル、サントメ・プリンシペ)もあったりします
ちなみに1994年の「ウルグアイ・ラウンド協定法(An Act to approve and implement the trade agreements concluded in the Uruguay Round of multilateral trade negotiations)」にて、アメリカの著作権法が変わり、これによって作者の死後70年になっています
「くまのプーさん」のキャラクターに関する権利は「1966年以来、ウォルトディズニーカンパニーが所有」していますが、原作は2013年にパドリック・ドメインとなっています
このパクリックド・メインになったことで「版権フリー」になっていて、それでこの手の二次創作的な内容の映画が作られるようになりました
プーさんの造形に関しては、ディズニーアニメのものはディズニーで、元の絵本のものはイラストレーターに著作権があることになり、後者の方がフリーになっているのですね
なので、プーさんを出すことは可能だけど、ディズニーの方に配慮する必要があります
そういった経緯で、「はっきり見せない」「あきらかな被り物」になっているのだと考えられます
■勝手にスクリプトドクター
本作は、スラッシャー系のホラー映画になっていて、スラッシャー描写に関しては「もっと頑張れ」としか言いようはありません
なので、ここでは「物語性」に特化して、素人が考えた「さいつよシナリオ」を披露したいと思います
本作の設定は、「クリストファー・ロビンに食料をもらっていたプーさんたちが困窮し、カニバリズム的な生存方法で精神的におかしくなった」というものがあります
犠牲になったのはイーヨーで、彼を食べることで生き永らえ、その行為によっておかしくなり、さらに「クリストファー・ロビンのせいだ」ではなく「人間全体を恨む」ということになっています
この前提が物語の導入になっているので、これを後半に活かす必要があります
物語の主軸が「飢餓による復讐」なので、この事件に巻き込まれる大学生たちは必然的に「反対の属性である飽食」ということになります
金持ちの道楽的を対比軸にすることで、よりプーさんの飢餓というものへの想起と、人間に対する恨みというものが生まれてくるのですね
それに近いのがジャグジーのララになりますが、肝心の「食」に関しての映像がないので、飢餓的なもののモチーフは皆無になっていました
次に、クリストファー・ロビンへの恨みについては、カニバリズムを引用することになります
一気にR18になってしまいますが、惨殺された婚約者がミンチにされて、それが入っていそうなハンバーグを食べさせられるというものでしょう
飢餓状態のクリストファー・ロビンが「それ」を食べることができるかどうか
そして、それを食べたことで彼の精神が異常をきたし、彼を助けることになった大学生グループを襲うという流れが面白いと思います
クリストファー・ロビンは飢餓から恋人を食し、精神異常を起こして大学生を襲うことになり、カニバリズムとレイプの混同した異常事態になる
プーさんはそれを眺めることで快楽を覚え、復讐を果たすことになるのですね
ここからの逆転をどう描くかは方針になりますが、人間の逆襲を描くなら「ストーカー被害を受けているマリア」による「クリストファーの撲殺」になると考えられます
ストーカー被害による感情が「鬱から躁へと変わること」で、マリアが覚醒し、襲ってくるクリストファーを撲殺する
そこから、マリアが彼女を慕っているジェシカを救って森から逃げる、という流れになります
ここまでカオスな状況を作ることで、歴史に爪痕ぐらいは残せそうに思えますね
バッドエンドを意識するなら、映画に登場しなかったラビットとフクロウが逃げ出したマリアとジェシカを襲うということになりますし、そこから続編に繋げることも可能でしょう
本作はグロもスラッシャーも甘く、カタルシスを感じる逆転劇もないし、テーマも設定も活かしきれていません
ここまでカオスな物語になると、物議どころか某会社からクレームが来そうではありますが、ここまでやって初めて「こんなプーさん見たくなかった」と言えるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は「#今年ワースト」をつけたくなるほど酷い出来で、全てにおいて中途半端という感想を抱きました
閉鎖空間をうまく利用できていないし、大学生グループとクリストファーも無関係だし、暴力&ゴア表現も「発泡スチロールで作った頭蓋骨を車で轢いて割るレベル」でしかありません
一応、血まみれにはなってはいますが、版権訴訟を恐れてか「プーさんと言われなければわからないレベル」になっているし、ピグレットとの造形がほぼ同じなので、どっちがどっちかわからないという感じになっています
せめて、ピグレットが巨漢、プーさんが小柄ぐらいの棲み分けはするべきでしょうし、ラビット&フクロウが無視されているのも微妙でしょう
大学生グループが「プーさん」を認知しているかどうか問題もあって、クリストファー・ロビン以外は正体について知りません
あの世界観での「プーさんの一般への認知」というものが示されていないので、単にバカンス先に殺人鬼が出たというレベルで終わっているのですね
せめて、プーさんかどうかを置いといても、大学生グループが「森でバラバラ殺人事件が起こっていることを知っている」という前提ぐらいはあっても良さそうなものに思えました
本作の場合は「殺人鬼が愛されキャラのプーさん」という前提があるので、大学生グループがプーさんが好きという設定があってもよかったように思えます
彼女らの車にプーさんのぬいぐるみがある(版権上無理かな)とか、カウンセラーの部屋に原作本がある(版権的にはセーフかな)などで演出することになるでしょう
このあたりの外部が絡む問題をどう処理するかというのが一番の難題で、それを納得させるほどの脚本や企画があれば通るかもしれません
本作は、そこまでの影響がない中で「悪い意味でのネームバリューを利用した二次創作」の域を出ていないのが問題なのでしょう
今のところディズニーは静観という立場のようですが、ディズニーに訴えられてナンボというものがあるので、「非公式でもディズニー激おこ」ぐらいの影響力を持つ、という覚悟が必要だったかもしれません
これから次々に「古典とされるものの原作のパブリックドメイン化」というものが進んできますので、原作の二次創作で儲けてきた映画会社は戦々恐々としていると思います
いろんな訴訟も起こってくると思いますが、この流れで儲けようと考える人はたくさんいると思うので、今は過渡期として、今後作られないようなものが作られるかもしれません
そう言った意味では、爪痕を残す最初で最後のチャンスだったとも思えるので、色々と勿体無いなあと思ってしまいました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/388793/review/ca22ea0f-2732-48d5-b641-303288f4bef5/
公式HP:
https://akumano-pooh.com/