■流れないでほしいと思いながら、流れてくれないと困ってしまうところがいじらしくもありますね


■オススメ度

 

タイムループ系が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.6.27TOHOシネマズ二条)


■映画情報

 

情報2023年、日本、86分、G

ジャンル:2分きっかり巻き戻ってしまう旅館を描いたタイムループ系コメディ映画

 

監督山口淳太

脚本上田誠

 

キャスト:

藤谷理子(ミコト:老舗料理旅館「ふじや」の仲居)

鳥越裕貴(タク:若手の料理人)

 

永野宗典(コハチ:娘の交際に悩む番頭)

角田貴志(頭が硬い料理長)

酒井善史(エイジ:理系の料理人)

早織(チノ:推しのコンサートを控える仲居)

本上まなみ(キミ:女将さん)

 

諏訪雅(ノミヤ:「ほととぎす」の利用客)

石田剛太(クスミ:「ほととぎす」の利用客)

 

中川晴樹(スギヤマ:「もみじ」の利用客、雑誌編集者)

近藤芳正(オバタ:「もみじ」の利用客、スランプの小説家)

 

土佐和成(近くの森で猟をする猟師)

 

久保史緒里(ヒサメ:貴船神社の参拝客)

 


■映画の舞台

 

京都市:左京区貴船

老舗料理旅館「ふじや」

https://maps.app.goo.gl/gw6c85kq4zzHhKiG7?g_st=ic

 

貴船神社

https://maps.app.goo.gl/4MNUgaBPh55FLHaR7?g_st=ic

 

ロケ地:

上記と同じ

 


■簡単なあらすじ

 

京都・貴船にある旅館「ふじや」で勤めている仲居のミコトは、同僚のチノや番頭のコハチたちと一緒にお客様のおもてなしをしていた

ある日、ビールを取りに酒蔵に来たミコトは、旅館の脇を流れる貴船川を眺めなら、物思いに耽る

そして、一呼吸ついたあと、仕事に戻った

 

葵の間の利用客が帰ったのち、その部屋の片付けを番頭としていたミコトだったが、それを終えたと思った途端、川岸の物思いの場所に戻ってしまう

再び、葵の間の片付けに戻ったミコトは、番頭とともに奇妙なデジャヴを話し合いながら、再び仕事を繰り返す

だが、また少しすると同じ川岸に戻ってしまい、何らかの要因で時間が巻き戻っていることがわかった

 

その現象は旅館と離れでも起こっていて、誰もが同じ場面に戻るという

料理人のエイジは「2分きっちり繰り返している」と言い、彼らは戸惑う利用客たちを宥めながら、今後の方策を話し合うことになった

 

一方その頃、隣にある貴船神社に一人の女性・ヒサメが参拝に訪れていた

本宮から結社を訪れた彼女は、そのままある場所へと向かっていった

 

テーマ:ループが暴露する本心

裏テーマ:ループが暴露する本性

 


■ひとこと感想

 

「2分間を繰り返す」という事前情報のみで鑑賞

どこかの神社が舞台だとは思っていましたが、まさかの貴船神社だとは思わずにびっくり

雪景色の貴船神社の景色なども見ることができて、プチ旅行にいった気分になります

 

映画は、その貴船神社の目の前にある実在する老舗旅館が舞台となっていて、そこで働く人々が「謎のループ」に巻き込まれる様子を描いていきます

2分間が延々と続くので、流石に無茶だろうと思っていましたが、「記憶と感情はそのまま」という設定になっていて、徐々に場慣れしていく様子が伺えます

 

ループの正体を紐解いていく中で、それぞれのキャラクターの抱えていたものが噴出する感じになっていて、それが行き過ぎて暴走していきます

このあたりのシナリオの作り込みがうまくて、2分間を20回以上繰り返しているのに飽きがこない感じに仕上がっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

同じ時間がひたすら繰り返す系で、さすがに2分はキツいだろうと思っていましたが、この内容ならちょうど良い感じになっていました

5分だと解決に辿り着くのが早くなりそうですし、1日だとカットが入りまくるのでリアリティを感じません

無論、設定にリアリティがあるはずもないのですが、本当に2分を繰り返していくので、その場にいるような感覚になっていきます

 

キャラが右往左往する中で、観ている側も同じように右往左往しながら原因を探っていく

基本的にミコトの一人称になっているため、彼女が知り得る情報と同じリズムで観客も知っていくことになります

なので、離れで起こっている対策などの後出し情報がうまい具合に絡んできて、その情報を知らない人が無駄な時間を踏むというところもうまく再現されていました

 

基本的にネタバレなしの方が楽しめるのですが、某映画館では「あるもの」が劇場の中に設置されていて、観終えた人たちがみんなで写真撮影をしていましたね

どこの映画館にもあるのかわかりませんが、劇場出てからもサプライズのある面白い体験になっていました

 


ループが暴露する本心

 

本作は「2分間を延々とループする」というもので、劇中でループしたのは「36回」でした

当初は「戸惑い」がありましたが「3回目」ぐらいから「慣れ」が入り、冷静なキャラから「時短」を目指して行動を簡略化して行きます

制限の中の自由を理解した人から行動が変わるのですが、それは「事前までの自分の行動」と連動していたと思います

 

主人公のミコトは「自分が原因かも」ということを途中から勘づいていますし、チノは「取りたいチケットにこだわります」し、フランス語学習でリピートしていたタクは一番最後に状況を知るキャラクターになっていました

帰った客の電話に囚われる女将・キミ、状況を理解しようとする料理人エイジなどの配役も上手く、このキャラが「ミコトの見えないところで同時進行している」のですね

そして、その影響がのちのミコトに降りかかってくるため、展開が次々と動いて行きます

 

構造としては、「ミコト自身の感情」「客の戸惑い」「エイジの仮説」「タクの登場」という流れになっていて、それぞれがうまくバランスよく配置されていました

そして、オチとしての「未来人ヒサメ」の登場と、旅館外の人物の登場があって、旅館ばかりのビジュアルを貴船神社に移動させて行きます

途中で雪が降ったのは撮影時に偶然降ったからなのですが、うまい具合にビジュアル展開の役に立っていました

 

これらの構成の中で各個人の心理変化があって、ミコトは「戸惑い→確信→開き直り」という流れになっています

作家のオバタは「戸惑い→利用→退屈」として動きますし、他のキャラも段階的に感情が動き、行動が変わって行きました

そんな中、変化した先にそれぞれの本性が描かれていて、これまでに装飾していたものが次々に暴露されて行きました

隠された衝動が破壊行動に起こるとか、自分が色濃く出て相手に迫るなどがあって、カオスになりそうなところでヒサメが白紙に戻すという感じになっていました

あのままヒサメが登場しなければ、もっとカオスになって、隠されていた暴力衝動などで旅館がヤバかったかも知れません

 


維持と変化が逆転する理由

 

感情的なものが発露して、それぞれは破壊的になるのですが、その要因として「ループ体験」というものがあります

これは「変わらない日常」とも言い換えることができて、同じ時間に出勤して、同じ時間に帰宅して、同じことしか起こらないという一般的な生活に似ているところがあります

この変わらないことに安心を覚える人がいる一方で、何かしら変化がないと気がおかしくなってしまう人もいます

 

映画の中でも、「このままがいい」と思う人もいれば、「早く抜け出したい」と思う人もいます

でも、それらの属性がある瞬間を境に逆転するところが面白いと感じました

ミコトはタクのいる2分間がずっと続いても良いと思っていましたが、その時間の繰り返しは前進も後退もないので、ミコトが本当にタクとしたいことというのは永遠に訪れません

なので、ミコト自身も「維持から変化」に動いて行きます

 

チノも「チケットを取れるまでは維持」ですが、「チケットが取れたら変化」に変わって行きます

エイジも「理論と対策に夢中の間は維持」ですが、「その立証のために変化を必要とする」という感じになっています

これらに対して、キミ、料理長、番頭は「変化」をそこまで熱望していないのですが、彼らには「維持」への執着もないのですね

なので、「維持を望んでいた人ほど、逆方向にベクトルが変化する」という流れになっていました

 

私個人はあまり変化は好きな方ではないのですが、よくよく考えてみると「維持が好き」なのではなく、「自分の決めたことが乱されるのが嫌」だったりします

能動的な変化を好み、受動的な変化を嫌うという特性があって、これは多くの人に当てはまるものなのかも知れません

逆に「受動的な流れを楽しめる人」もいて、それは「自分で考えたくない人」「流されてしまう人」「サプライズが好きな人」などのように、様々なカテゴリーがあったりします

受動的な変化は自分の想像の外側で起こるのですが、これを楽しめる人ほど幸福感は強いのかなと思ったりもしますね

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、ワンシチュエーション・コメディで、その状況下で右往左往する愛しきキャラクターたちが登場します

基本的に悪人はいない世界で、実際にこのようなことが起これば、「ストレスフルな悪人」で溢れかえってしまうと思います

状況を旅館のせいにして攻撃的になる人もいれば、破壊行動に快楽を見出してしまう人もいるでしょう

対人暴力で取り返しのつかないことが起きる場合もありますし、最終的に旅館自体が火事になるなどの絶望的な方向に向かう可能性もありました

 

本作がその方向に向かないのは、このコミカルで理知的な世界を楽しもうと考えているからで、同じシチュエーションで絶望的なホラーを描くこともできたと思います

某⚪︎監督などがネタとして使いそうな感じがしますが、実際に作ったら「パクリ騒動」が勃発したりするかも知れませんね

繰り返される2分間で、思考と体験だけが継続されるのですが、壊れたものは元に戻らない

その状況を知った人間が暗躍して、次々に殺人事件を起こすというプロットになるでしょうか

犯人は旅館にいる人間を全員殺してしまって、そして孤独の中で自殺をするというオチになりそうですが、それを仕掛け人であるヒサメのような存在が旅館を訪れて、「やはり人間は不完全だ」みたいなことを呟いて終わる、などもあり得そうですね

 

2分間という短い時間で、90分の映画だと最大45回繰り返すのですが(映画では起と結が動くので36回=72分、映画全体は86分)、これを飽きさせないというのは至難の技であると思います

これを可能にしたのが「主要キャラをパーティにする」というアイデアなのですね

「ミコトと番頭」「ミコトとチノ」「スギヤマとオバタ」「スギヤマと番頭」などのように、シーンの主たるキャラとサブキャラのセットを巧妙に組み替えて行きます

 

「ミコトと番頭(戸惑い)」「ミコトとチノ(対処)」「ミコトとタク(欲求)」という感じに、違うキャラとの間で起こることはその質も変わって行きます

また、「ミコトと客」の組み合わせでも、1回目と2回目では「戸惑い→快楽(ふすま破り)」とか、「戸惑い→安堵(休憩)」などのように、バリエーションを変えて行きました

これらの緻密なシナリオによって、36回のループそれぞれが独立しているというのはすごいことだと思います

 

映画のロケーションも絶妙で、無機質なホテルではなく開放的な旅館だし、窓の外の景色も表(神社側)と裏(川側)のように、ビジュアルの変化も楽しめます

旅館のサイズもコンパクトなのに、別館があったりして旅館内でもビジュアルが変わっていくし、それぞれの部屋では「起こることが違う」ので、部屋のどの場所にいるかで見え方が変わっています

「鍋とテーブル」「バルコニー」を効果的に使っていましたね

このあたりの計算されたものの蓄積が一本の映画になっているのはすごいことだと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/387425/review/fb47b675-fc63-4d32-8a04-5c8e40855e13/

 

公式HP:

https://www.europe-kikaku.com/river/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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