夜明け前が一番暗いのは、見慣れた闇が消えてしまうことに想いを馳せてしまうからだと思う


■オススメ度

 

助け合いの意味を考えたい人(★★★)

静かでリアルな映画を堪能したい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.2.13(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

情報:2023年、日本、119分、G

ジャンル:PMSを抱える女性とパニック障害を抱える男性の出会いを描いたヒューマンドラマ

 

監督:三宅唱

脚本:和田清人&三宅唱

原作:瀬尾まいこ『夜明けのすべて(水鈴社)』

Amazon Link(原作小説)https://amzn.to/48fcmKW

 

キャスト:

松村北斗(山添孝俊:やる気がなさそうに見える美紗の同僚。パニック障害)

上白石萌音(藤沢美紗:PMS(月経前症候群)を患う女性)

 

渋川清彦(辻本憲彦:山添の前の職場の上司)

山田忠輝(稲垣賢治:辻本の息子)

 

芋生悠(大島千尋:山添の恋人)

遊屋慎太郎(山添の元同僚)

見津賢(山添の元同僚)

櫻井健人(山添の元同僚?)

長谷川ティティ(青木洋平:学生時代の親友)

 

りょう(藤沢倫子:美紗の母)

 

藤間爽子(岩田真奈美:美紗の友人)

 

光石研(栗田和夫:山添と美紗の上司、栗田科学の社長)

斉藤陽一郎(栗田康夫:和夫の弟)

久保田磨希(佐川雅代:先輩社員、経理)

足立智充(平西謙介:先輩社員、営業)

大津信伍(鈴木譲:先輩社員、デザイン)

矢崎まなぶ(鮫島博:先輩社員、開発)

中村シユン(猫田欣一:先輩社員、技術)

 

宮川一朗太(美紗の主治医、婦人科医)

影山祐子(キャリアコンサルタント)

太地琴恵(占い師)

 

内田慈(山添の主治医、精神科医)

 

丘みつ子(ピアサポートの参加者、マッチングアプリにチャレンジ)

呉城久美(ピアサポートの参加者)

岩井克之(ピアサポートの参加者)

 

山野海(美紗の元の職場の上司、部長)

安光隆太郎(美紗の元同僚)

大宮将司(美紗の元上司、課長)

 

サニーマックレンドン(取材に来る高校生)

嶋貫妃夏(取材に来る高校生?)

 

梅舟惟永(婦警)

磯部泰宏(警官)

椿弓里奈(和菓子屋の店員)

 

柴田貴哉(ピアサポートの参加者?)

樫尾篤紀(山添の同僚?)

中田クルミ(?)

 


■映画の舞台

 

東京都内のどこか

 

ロケ地:

東京都:西東京市

佐々総合病院

https://maps.app.goo.gl/DukMAGMs1GidoDDU8?g_st=ic

 

東京都:荒川区

あらかわレディースクリニック

https://maps.app.goo.gl/bx3imEPYNGtrp9v59?g_st=ic

 

東京都:港区

肉BISTRO TONO

https://maps.app.goo.gl/NmcLseN3CjLM4WLA8?g_st=ic

 

東京都:品川区

CROVE Cafe&Green

https://maps.app.goo.gl/xRzqUwYCBWaLZqDw6?g_st=ic

 

東京都:渋谷区

TODAY SAGARA YOGA STUDIO

https://maps.app.goo.gl/n9RCpiZw27rjrcJRA?g_st=ic

 

東京都:大田区

久ヶ原風月堂

https://maps.app.goo.gl/DaSreyjPEfmm8wkC6?g_st=ic

 

千葉県:佐倉市

佐倉市役所(警察署)

https://maps.app.goo.gl/9Wgh2BEFtiBuRPDK9?g_st=ic

 

ユーカリが丘南口ロータリー(冒頭のバス停)

https://maps.app.goo.gl/9qefeH2wJ4E6FhVk9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

PMSにより、生理前にイライラが止まらない美紗は、職場で度重なるトラブルを起こしていた

漢方薬主体から新薬に切り替えても状況は変わらず、副作用によって、まともに動けない時間が募っていった

 

それから5年後、美紗は子ども向けの科学商品を取り扱っている栗田科学で働いていた

小さなプラネタリウムや小道具を製作する会社で、社長を含めて数人で経営している中小企業は、美紗の発作に寛容的で、それらの対処もしてくれていた

そんな会社に、大手企業から転身してきた若者・山添が入ってくる

 

彼は淡々と仕事をこなすものの、どこか無愛想でやる気がないように感じられる青年だった

彼はパニック障害を発症して前職を辞めていて、恋人・千尋に支えられてきたが、その病状が変化することはなかった

そんな折、山添のパニック障害の発作が起きてしまい、美紗は彼が自分と同じものを抱えているのでは、と思い始める

だが、二人の病は種類が違うもので、それによって距離が縮まることはなかったのである

 

テーマ:人付き合いの難しさ

裏テーマ:助け合うということ

 


■ひとこと感想

 

PMSとパニック障害という、発作が起きると自分の体を制御できなくなるという病が描かれていて、そんな二人がどのように接近していくのか、というものがメインで描かれていました

病気に関してはそこまで詳しくはありませんが、他人事ではないと捉えることができるかで、配慮ができることもあるように思えます

 

映画は、原作をかなり変えているようで、勤め先が金属工業から科学商品を扱うものになっていたり、恋愛を感じさせるシーンが極力カットされています

病気への簡単な解説はあって、それに対する二人の治療の様子が描かれていますが、この二人の主治医の対応も共通点がありましたね

 

物語としては、実に淡々と丁寧に積み上げていくという感じになっていて、ラストに向かって「星の秘密」がわかっていく部分は良かったと思います

原作を読むともっと違う印象があると思いますが、映画としてはこれでOKなんじゃないかな、と感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

精神的な癇癪を起こすかどうかは人によりますが、個人的にも「瞬間的にブチ切れる」ということは稀にあるので、なんとなく気持ちがわからないでもありません

自分の場合はすぐに冷静になって、そこまで甚大な被害を及ぼさないのが良かったのですが、もっと激しい人もいるだろうし、そう言った行動に出なくて、内側が爆発する人もいると思います

 

映画では、他人から見れば発作の兆候がわかるという視点があり、その多くの対処法が「発作場所から離れる」というものになっていました

栗田科学の人たちは発作を何度も見てきたので、その扱いに慣れている感じになっていますね

あの会社は山添を受け入れるところも含めて、訳ありをわかって受け入れているので、その分寛容的であるように思えてきます

 

この二人には劇的なものがあるのですが、実際には栗田社長も山添の元上司・辻本にも抱えているものがたくさんあります

美紗の母のパーキンソン進行もさらっと描かれていて、細かな描写がたくさん散りばめられていたように思えました

 


PMSとは何か

 

PMS(Premenstrual Syndrome)とは、「月経前症候群」と呼ばれるもので、月経が始まる3〜10日前に起こる精神的あるいは身体的な症状のことを言います

これらは月経の開始とともに消失したり軽快するものですが、原因についてははっきりとわかっていない、とされています

症状としては、情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてののぼせなどがあり、身体的な場合だと、食欲不振、頭痛、腹痛、むくみなどがあります

診断に関しては、月経周期関連を調べ、症状がよく似ている月経前不快気分障害(PMDD)ではないかを確認することになります

 

美紗も婦人科に通い、薬の処方などを受けていましたが、治療法には「薬によらない治療法」というものもあります

症状日記をついて、病状を把握することで対処できるようになり、自分のリズムを知って、気分転換を図るというものです

リラックスする時間を作ったりしながら、自分のペースに合わせて付き合っていく、という流れになります

 

薬による場合だと、排卵抑制療法(排卵を促す女性ホルモンの分泌を抑える)、症状に対する治療(痛みに鎮痛剤、精神症状なら安定剤)、そして美紗が行っていたのが「漢方療法」で、個人の症状や体質に合わせて、当帰芍薬湯、芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散、桃核承気湯、女神散、抑肝散などが使われます

彼女が処方されていた「アルプラゾラム」は、催眠鎮静剤、抗不安剤と呼ばれるもので、心を安定させる効果のあるお薬でした

脳のリラックス系の神経受容体「BZD受容体」に結合し、リラックス系の神経を活性化させる効能があります

重い副作用としては「依存」「刺激興奮」「息苦しさ」などがありますが、頻繁にある副作用だと、「眠気」「ふらつき」「めまい」などが起こります

美紗の場合はこの眠気が異常に強く、社会生活(特に仕事)において制限がかかってしまうものになっていました

 


発作に対処するには

 

本作では、二つの「発作」が描かれていて、一つはPMSの発作、もう一つはパニック障害の発作でした

病気としては違うものだけど、発作が始まったら「自分で制御できない」という共通点がありました

山添は「全く違うもの」と言いますが、それは「PMSが月経前と限定的」なものに対して、「パニック障害には周期がない」からだと言えます

いつ起こるかわからず、いつ終わるかもわからない

これが月経が始まると緩和されるPMSとの決定的な違いで、美紗は単に症状を見て、分かり合えるのではないかと感じていました

 

発作が起こると制御はできず、時間経過とともに落ち着くのを待つか、薬剤を投与する事になるのですが、その時がいつかわからなず、常に対処できる人間がいるとは限りません

山添は処方された薬を飲もうとして失敗してしまいましたが、発作時にいつもと同じ行動をするというのは無理に等しいと言えます

でも、そばに対処法を理解している人がいれば、自分が無理でも手助けをしてもらうことは可能なのですね

あの時は「その薬を飲んだことがある」ということで美紗にはイメージが湧きましたが、本来ならば、理解者をそばにおいておく方が安全であると思います

 

発作に関しては、起こさない予防をできるだけ張る方がよくて、それは自分の発作傾向を捉えておく必要があります

美紗の場合は、月経という周期的なものがあり、発作の突発性というものも時によってはジリジリとした動きを見せていました

この動き方により、山添は3回に1回なら対応できるかも、と考えていたのですね

彼女の場合は、イライラが募る、怒りが出やすいというもので、山添は場所を変える事によって、怒りが向かう先を自分だけに仕向けるようにしていました

 

多人数がいる場所だと、多くの刺激があり、対処する人間が親切に接しても、それらすべてが悪い方向に向く場合があります

特に、発作のことを知らない人が対処した場合、理不尽な返しが待っているとも言えるので、その反応がさらに発作を悪化させる場合があります

先輩社員たちも、その場から美紗を別の場所に連れて行き、知らない人を遠ざけるという方法を取っていました

これが現時点での最適解であると、会社の人間は塾知しているのだと考えられます

 

これに対して、山添の場合は起点が全く読めないどころか、いつ起こるのかもわかりません

彼の発作は蛍光灯を変えた時で、光によって過敏になったのだと推測されます

発作に至る原因は様々ですが、自分の予期せぬ刺激であるとか、悪いことを想起する刺激などがそれに相当するのかな、と感じました

 

山添のような発作だと、本当にいつ起こるのかがわからないので対処が難しいのですね

彼は「自宅にいるときは大丈夫」という状況でしたので、自分が理解できる、制御できる範囲内では何とかなるのかな、と推測されます

なので、突発的なことが起きやすい職場よりは、ルーティンっぽく、人間関係もさほど変わらない場所の方が合っていると言えるのかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、淡々とした物語になっていて、男女がこれほど近いのに恋愛に発展しないように描かれていました

これは意図的に排除されているようで、同じ部屋で一緒にいても、それっぽい感情にもなったりしません

そもそも、好みではない男女がいて、その距離が近かったとしても、パニック障害を抱えている山添にはストッパーがかかると思います

同時に、いつ発作が起こるかわからない男性に対して恋愛脳で接する女性がいるのかも疑問なのですね

美紗の方に何もなれけば、元カノのように母性的かつ庇護的な側面で関わることもあると思いますが、それを山添が受け入れるかはわかりません

 

ラストでは、社長の弟のノートをもとに美紗がそれを朗読する形で終わりを告げます

星空に関する想いであるとか、夜明けに関する事に言及していて、とてもユーモアのあるものだったと思います

社長の弟がどのような経緯で自殺をしたのかは仄めかされる程度ですが、印象としては真面目すぎて負荷に耐えきれなかったように思えます

彼のノートはびっしりと最初から書き込まれていたのに、あのページだけは「誰かに探して欲しい」と言わんばかりに別のところに書かれていたのが特徴的でした

 

彼の想いは書かれた言葉にあると思われますが、実際には「言葉と言葉の間にある余白の多さ」だったと思います

数ページ先ではなく、数十ページ先まで間隔が空いていて、そこに到達することを目的としていたのか、到達実現性の低い場所を選んでいたのかはわかりません

感覚的には後者で、このノートを読んだ誰かが気づいてくれれば良いというものだったのでしょう

これが本当の彼の遺言であり、それを発掘できたのは偶然とは言え、自分と同じようにならないでほしいという希望がそこには詰め込まれていたように思えました

 

映画は、この過程を緻密に描いていて、二人が新しい場所に行っても、なんとか生きていけるんじゃないか、と思わせる終わりになっていました

美紗は山添の元を離れることを選択しますが、それができるのもあのノートのおかげなのだと思います

ノートがあることで、あの時に感じた感情を思い出すことができ、それは一連の二人の体験共有へとつながって行きます

おそらくは、あの朗読は録音されていて、それは美紗が去りし後でも、同じような企画の時に再生されるのだと思います

それが時空を超えて再生される時、誰かを救うことにつながるのですが、それについて美紗が知らないまま日常を過ごす事になることで、さらなる意味が付加されるように思えました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/98942/review/03483139/

 

公式HP:

https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA