■設定をリアルに落とし込むなら、計算できる範囲での出来事だった、にした方が良かったかもしれません


■オススメ度

 

アダム・ドライバーさんのファンの人(★★)

SFが好きな人(★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.5.26(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

原題:65

情報:2023年、アメリカ、93分、G

ジャンル:6500万年前の地球に不時着した探査船のクルーが脱出を試みるSFサバイバルムービー

 

監督&脚本:スコット・ベック&ブライアン・ウッズ

 

キャスト:

アダム・ドライバー/Adam Driver(ミルズ:6500万年前の地球に不時着する宇宙船「ゾイック」のパイロット)

アリアナ・グリーンブラット/Ariana Greenblatt(コア:宇宙船の低温睡眠ポッドの唯一の生き残り)

 

クロエ・コールマン/Chole Coleman(ネヴィン:ミルズの病弱な娘)

Nika King(アイヤ:ネヴィンの母)

 

Brian Dare(宇宙船「ゾイック」のコンピューターの声)

 


■映画の舞台

 

6500万年前の地球

 

ロケ地:

アイルランド:

Bray/ブレー

https://maps.app.goo.gl/pmSoX4Q5zqR6ngjL6?g_st=ic

 

Wicklow/ウィックロー

https://maps.app.goo.gl/439c1YVtB85Hzr6a6?g_st=ic

 

アメリカ:オレゴン

Coos Bay/クース・ベイ

https://maps.app.goo.gl/yrRZ6XuMB8AgNfVt7?g_st=ic

 

Gold Beach/ゴールドビーチ

https://maps.app.goo.gl/iLuZXmNVsy8UaEBSA?g_st=ic

 

Agness/アグネス

https://maps.app.goo.gl/B6iaUb5cenhvBW5C6?g_st=ic

 

Brookings/ブルッキングズ

https://maps.app.goo.gl/ERZup8SLAvguQuEeA?g_st=ic

 

アメリカ:ルイジアナ

Vernon Parish/バーノン

https://maps.app.goo.gl/y8J6AEPxyExojk3n7?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

長距離探査船のパイロット・ミルズは、故郷に妻アリヤと病弱な娘ネヴィンを残して、任務を遂行していた

探査船の仕事をクリアすれば収入もアップし、娘の治療も高度なものが適用できる

ミルズはそんな思いを胸にコールドスリープしている船員たちを乗せ、一人で宇宙を航行していた

 

ある日、予測不能な隕石群に遭遇したミルズは、なす術もなく被弾し、そのまま近くの惑星に不時着してしまう

睡眠ポッドは全て破壊され、生き残ったのは自分だけだった

ミルズは自害を試みようとするものの、脳裏に娘の姿が浮かび、なんとか生き永らえようと考える

 

そんな折、センサーに反応するポッドが一つだけあり、そこには言葉の通じない少女がいた

彼女の両親は死んでいて、データベースからノアという名前であることがわかる

だが、言語が通じない上に、翻訳ソフトも故障で使えないため、二人は身振り手振りでコミュニケーションを取り始める

 

だが、その星には多くの未知なる生物が住んでいて、彼らは生き残りを賭けて、分割された宇宙船へと向かうことを余儀なくさせてしまうのである

 

テーマ:生き残る意味

裏テーマ:生存本能は言語の壁を越える

 


■ひとこと感想

 

6500万年前の地球に不時着する宇宙船ということで、タイムスリップ系なのかと思っていましたが、まさかの「地球外文明のクルーだった」という設定になっていました

映画の冒頭で淡々と説明されるのですが、これがネタバレだとすれば、これ以上のものはないと言えます

 

このあたりは「宣伝方法」によるのですが、設定を隠してミステリーのように見せかけるのはナンセンスですね

映画自体がそれを謎にもしていないし、開始10分で説明が入りますので、今の宣伝方法だと「出オチ」ということになってしまいます

 

映画は、未知の星に辿り着いたことでサバイバルになるというものですが、地球人が地球のどこかに漂着しても同じことが起こります

映画は、地球の歴史を知っていると楽しめるのですが、パニックスリラーとして面白いかは微妙な仕上がりになっていましたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

タイムスリップではなく、6500万年前に栄えていた別の文明の種族が地球に不時着したという内容で、その説明がないと「未来人がタイムトリップした」ようにしか見えません

時空の歪みを通って突入したのかなあと思いましたが、そうではないシナリオを選択したのは逆効果になっていましたね

 

映画内では、母星に家族を残していたミルズが時折「娘の回想」をするのですが、冒頭のシーン以外に妻のことを全く思い出さないのはどうしてなのかわかりません

 

地球の歴史を知る観客ならば、「もうすぐ隕石が衝突する」ということがわかるのですが、ミルズ自身も探査機器などでわかってしまっているのは微妙でしたね

地球の歴史を知らないまま過ごすのと、知って過ごすのとの間にはいろんな問題があって、それが物語を面白くさせる効果があると思います

 

また、SF要素の考察が皆無になっていて、ツッコミどころしかない状況になっています

救難信号を送ってから救助船が来るまでの時間とか、隕石が目視できる状況から落下に至るまでの時間であるとか、隕石接近における地球の変化などもほとんど起こりません

 

SFマニアが発狂しそうなほど設定がおざなりな上に、CGもしょぼく、物語性もゼロなので、褒めるところがない映画になっていましたね

 


隕石落下の無知と既知

 

映画は、6500万年前の地球に「別の文明人であるミルズ」が「惑星探査中に未確認天体に不時着した」と言うものになっています

6500万年前の地球は恐竜の時代で、それを知るのは地球史に詳しい人もしくは高度な文明による探知になると思います

映画内のミルズの種族は「地球を探知」できませんでしたが、大気成分などの分析はできたようですね

恐竜と言う生命体の存在に関しては、あの短時間で把握することは無理だったように思います

 

映画は、観ている観客は「隕石が落ちてきて恐竜が滅ぶこと」を知っているのですが、ミルズはそれを知りません

なので、とにかく「目視で見える隕石がヤバい」と言うことがわかっていて、とにかく脱出するしかないと言う状況に追い込まれていました

 

この、隕石によって恐竜が滅ぶことを知っているかどうか、もしくは壊滅的なダメージが生じるかと言うことを知っていると、「カウントダウン」と言うものが生まれます

でも、ミルズはその未来は知り得ないことなので、とにかく「本能的にヤバいので逃げる」と言うことになっていました

ミルズは隕石が起こす未来を知りませんが、彼らの文明による予測能力と言うものが優れていて、それによって「実際に起こったこと」と同等のシミュレーションをしていることになります

なので、ミルズは本能、観客は歴史による認識で危機というのを捉えていることになります

 

映画の宣伝では、「あたかもタイムスリップして来た」という感じになっていますが、タイムスリップしてきて「そこが恐竜絶滅前夜であること」を地球人ミルズが知る方が断然面白いでしょうね

どうしてその設定にしなかったのかは謎ですが、タイムスリップの整合性とか、過去の改変に関わることを考えるのがややこしかったからかも

今時の環境問題を考えるにあたって、太古の地球を調べに来たという未来人の方が、隕石落下の危機を共感できたように思います

 


勝手にスクリプトドクター

 

映画は、ツッコミどころ満載のエセSFで、リアリティラインが存在しない感じに仕上がっていました

設定も色々と混ぜ込んでいますが、なんのためにあるかわからないものがたくさんありましたね

コアの言語が違う設定とか、彼女だけが生き残った理由とか、そもそも家族で乗っていた理由なども不明です

探査船だとしても、何を探査しているのかわからないし、何となくだと「移住」というものが視野に入っているような設定になっています

 

映画は、「高度な文明なのに隕石群を探知できない」というポンコツ設定から始まり、大気成分はOKだからマスク外して軽装で移動へと移っていきます

完全に「映画としての演出」になっていて、主演の顔を見せる以外の理由が見当たりません

衝突して分裂し、はるか彼方に墜落した飛行船で脱出できると思い込めるのも不思議なところで、あのデバイスで救助ポッドを見つけたとしても、それが正常に機能するかは「行くまでわからない」のですね

また、この移動距離が無駄に長く、ハプニングと遭遇させるための距離設定をしているという感じに見えてきます

 

そして、最大の難点は「SOS信号から救助隊が来るまでの時間が1日もかかっていない(計測していないけど半日ぐらいのイメージ)」ということなのですね

これにより、ミルズの「長距離航行」は出発からまだ1日ぐらいの距離しかないことがわかります

光速で動いているとしたら295億Kmですが、そこまでの速さではないでしょう

SOS信号から到着までの時間を半々だとすれば、SOS発信から半日で母星の基地に到着、すぐに出発して半日で救助隊近くまで来る、となります

このあたりは計算するようなことではなく、普通に信号と救助隊の往復速度を考えれば、簡単に割り出せるようなものだと感じました

 

本作のスクリプトをイジるなら、最低でも8割ぐらいの設定を直す必要があります

また、そのためにプロットを一本化する必要がありますね

「隕石落下から逃げる24時間」なのか、「歴史を知る上で逃げる24時間」なのか

このあたりのログラインが固まっていないとプロット自体を書くことはできません

 

「環境問題を抱えた地球人」が「火星などの天体を探す中」で、「ブラックホールに吸い込まれて過去の地球に来る」というプロットだと、「隕石問題は既知」というパターンになります

「恐竜から逃げる中で疑念が確信に変わる」というもので、宇宙船の大破によって「6500万年前の認知と理解」が及ばないという始まりになるでしょう

そうした先にある「生き残るための旅」というものがあって、そこで一人だけ生き残った少女がいるというのがありだと思います

 

この少女はミルズの亡き娘を彷彿とさせるのですが、ベタな展開だと名前が同じ、もしくは名前の由来が同じというラインになると思います

この時にコアがミルズを拒絶する流れになるのですが、その理由をコアが知っていく、というのは良いと思います

この二人の間で言語が通じない設定は、どっちでも良いという感じですね

通じないとするならば「ヘルメットを介して翻訳する」というテクノロジーでクリアする流れになりますが、単純にテンポが悪くなるだけでしょう

意思の疎通が難しいということであれば、警戒心から交流が断絶しているという状況の方がマシなように思えてしまいます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、設定は面白そうなのですが、蓋を開けてみると、設定の多さと雑さによって、類を見ない駄作認定をされてしまっています

本編では、航行の途中に娘が死んだことがわかるのですが、妻に対して何も思っていないように思えるのは凄かったですね

冒頭で、あんなにイチャイチャしていたのに、まるで存在が嘘だったように、以降はほぼ出てきません

娘の死に何もできなかった苦悩などは理解できますが、それにしても「妻どこいった感」が凄くて、実はすでに死んでいる設定なのかと思ってしまうぐらいでした

 

本作のテーマは何を示しているのか曖昧ですが、おそらくは「家族の死を乗り越えて、未来のために奮闘する」というものでしょう

そんな中で、娘に対して何もできなかったミルズに対し、コアを助けるという機会に遭遇します

娘との関係は良好だった分、コアとの関係は不穏になるというのはプロット上ではアリですが、そのために言語通じない設定は微妙だといえます

コアを通じて、娘との日々を回想するのが物語の本懐ですが、前述のように「SOS信号問題」によって、母星からの距離が微妙に近いのがネックになっています

 

SOS信号が光速だとしても、光通信(現存の地球の通信)では光速よりも遅いし、ましてやケーブルのない宇宙空間を情報が飛ぶことになればそれよりもさらに遅くなります

この映画で、母星とコンタクトが取れた設定はむしろ不要で、とにかく「今いた場所では逃げられない」ので、「可能性を探して動く」ということになります

地球から抜け出すことが生存の唯一の方法になっているので、「計測機器の無能さ」で墜落したことを考えれば、「科学を全否定して、直感に頼って逃げる」という方向に行った方がマシでしょう

地球で完全に孤立し、直感で向かった先に脱出ポッドはあった、という信じがたいハッピーエンドに向かうのですが、それはそれでアリでしょう

 

大気圏外に逃げることができたミルズとコアは、そのまま宇宙空間を彷徨うことになるでしょう

そして、数日後ぐらいに目が覚めて、そこで「SOSの返信を受け取る」ことになります

「脱出ポッド内の機器表示」によって、「彷徨っている日数がわかる」ことになり、航行から何日目で、信号の送受信のタイムラグによって「母星と地球の距離がわかる」ことになります

タイムスリップではない設定としての、最も単純なネタバラシは「母星が実は火星だった」というオチでしょう

 

火星との距離は現在の宇宙船の速度だと往復で500日かかる計算になります

この距離感なら、通信の往復は「電波で往復40分」なので、映画の設定に近いリアリティが生まれてきます

現在の地球よりも高度な文明が生まれている設定なので、通常なら200日かかる航行時間も短縮されていていると思います

 

なので、映画全体のネタバラシとしては、「火星人が調査中に地球に墜落した」というもので、それが「6500万年前の出来事だった」ということになります

はるか遠い宇宙から来たというものよりはスケールは劣りますが、科学的に妥当な範囲になりますね

 

調査は無事に終え、隕石衝突によって先住民が死滅した地球に移住することになった火星人は、そのまま地球人になっていく

それゆえに「ミルズたちが地球人と同じような姿をしている理由」へとつながっていけるのではないかな、と思いました

とは言え、この手のプロットは探せば五万と出てくる内容なので、さほど真新しさを感じません

でも、SFリアリティラインを想像しやすいと思うので、悪くないかなと考えています

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/388613/review/22ae50ea-f6bb-4e2c-b3cd-d23960253351/

 

公式HP:

https://www.65-movie.jp/

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA