■あなた自身を輝かせるのは、魂の中にある高潔さと向き合う心の姿勢であると思います


■オススメ度

 

少年時代の些細な過ちを描いた作品が好きな人(★★★)

差別問題を取り扱った映画に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.5.25(京都シネマ)


■映画情報

 

原題Armageddon Time(僕たちの最終決戦)

情報2023年、アメリカ、115分、PG12

ジャンル:子ども同士の些細な悪戯が人生を変えてしまう様子を描いた青春映画

 

監督脚本:ジェームズ・グレイ

 

キャスト:

バンクス・レペタ/Banks Repeta(ポール・グラフ:公立高校に通う少年、11歳)

 

【家族】

アン・ハサウェイ/Anne Hathaway(エスター・グラフ:ポールの母、PTA会長)

ジェレミー・ストロング/Jeremy Strong(アーヴィング・グラフ:アメリカン・ドリームを追うポールの父、溶接工)

アンソニー・ホプキンス/Anthony Hopkins(アーロン:ラビノウィッツ:ポールの祖父)

トヴァ・フェルドシャー/Tovah Feldshuh(ミッキー/ミリアム・ラビノウィッツ:ポールの祖母)

ライアン・セル/Ryan Sell(テッド・グラフ:ポールの兄)

Teddy Coluca(ルイス:ポールの叔父)

Marcia Haufrecht(ルース:ポールの叔母)

 

【公立高校】

ジェイリン・ウェップ/Jaylin Webb(ジョニー・デイヴィス:ポールのクラスメイト)

Jacob MacKinnonエドガー・ロナマネリー:ポールのクラスメイト)

 

アンドリュー・ポーク/Andrew Polk(ターケルトーブ先生)

John Dinello(ゴードン・シーベル:校長先生)

 

【私立高校】

Richard Bekins(フィッツロイ:校長先生)

Lauren Sharpe(ムスタカス:美術の先生)

Lizbeth Mackay(ヘルマン先生、ポールの担任)

 

デイン・ウェスト/Dane West(トッパー・ローウェル:クラスメイト)

Landon James Forlenza(チャド・エストマン:クラスメイト)

Eva Jette Putrelloヴェロニカ・ブロンフマン:クラスメイト)

Griffin Wallace Henkel(ジョージ・マディソン:クラスメイト)

 

ジョン・ディール/John Diehl(フレッド・トランプ:高校の支援者、トランプ元大統領の父)

ジェシカ・チャスティン/Jessica Chastain(マリアン・トランプ:フレッドの娘、議員候補、トランプ元大統領の姉)

 

【その他】

Jeb Kreagerパトリック・スコット:取り調べをする警官)

Domenick Lombardozzi(ダリンツォ:巡査部長、アーヴィングの知り合い)

 

Marcia Jean Kurtz(美術館のガイド)

 

Marjorie Johnson(ジョニーの祖母)

 

ジョン・チャンセラー/John Chancellor本人役、アーカイブ)

ロナルド・レーガン/Ronald Reagan(本人役、アーカイブ)

 


■映画の舞台

 

1980年、

アメリカ:ニューヨーク

 

ロケ地:

アメリカ:ニュージャージー州

Teaneck/ティーネック

https://maps.app.goo.gl/gmzvQr1qqgjgQ2XG7?g_st=ic

 

アメリカ:ニューヨーク州

クイーンズ地区

https://maps.app.goo.gl/eEWPqkbNNgRhpWZaA?g_st=ic

 

Guggenheim Museum/ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

https://maps.app.goo.gl/fkwC3teFbHC9qQi18?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

ニューヨークの公立高校に通うポールは、黒人のジョニーと仲が良く、他愛のない時間を過ごしていた

勉強嫌いで、ノートに担任の先生の絵を描いて怒られたりする中で、同じような価値観を持つジョニーとつるむことが増えていた

 

ある日、学校のトイレで葉っぱを吸っていたことが見つかり、ポールは私立高校へ転校させられてしまう

両親は黒人とつるんでいるからだと考え、二度と会うなと忠告するものの、二人は秘密裏に会っていて、時には離れにあるポールの部屋に寝泊まりしていた

 

私立は制服があって堅苦しくもあったが、両親には逆らえず、兄も同じ高校に通っていたこともあって、おとなしくしているしかない

そんな折、生活に困窮したジョニーを助けようと、ある計画を思いつく

だが、それはポールとジョニーの関係性を決定づけるものになってしまうのである

 

テーマ:幸運の裏側にある差別

裏テーマ:青春と衝動

 


■ひとこと感想

 

ポスタービジュアルから、アンソニー・ポプキンスさんが主役の老人ドラマかと思っていましたが、内容は「子どもにはわからない差別と理不尽」を描く内容になっています

公立高校時代の悪友との馬鹿騒ぎが人生の方向性を変えていく物語で、2回の大きな転機というものが描かれていました

 

家族は差別主義者ではありませんが、社会の中で生きていくために、それらと戦うことはしません

父も職業的差別を受けてきた人間で、同じ行動や行為があっても、受ける仕打ちが違うことを心得ていました

 

社会の中で生きていくために必要な「自分がどう思われているか」という認識は、そのズレが大きいほどに狭い道を行かざるを得ません

子どもにとっては理解できない暗黙知というものが大人の世界にはあって、それに抗うことがアイデンティティの確立に寄与するとも言えますね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は淡々と進み、大きな事件は起こりません

でも、些細な事件が大きな変化をもたらしていて、その背景には積年の慣習というものが根付いていたことがわかります

 

ポールは金銭的な理由で公立に通っていて、そこには多種多様な子どもたちがいました

その中でも、勉強嫌いという共通点があるポールとジョニーは仲良くなり、それに対して両親は嫌悪感を持っていません

でも、校内でハッパという、普通の高校生活では起きないことが起きてしまったために、歴史が刻んできたものに抗えなくなってしまいました

 

かつて職業貴賤の憂き目にあったアーヴィングは、なんとか社会の中で生き残ってきて、それでもテッド一人を私立に行かせることしかできません

でも、公立の坩堝の影響力は計り知れず、規律のない世界の自由というものは身を滅ぼし兼ねないのですね

文字通り「幸運」がポールを助けますが、それは同時にその道が悪路であることを知らしめる結果になっていました

 


時代背景のおさらい

 

1980年代のアメリカと言えば、ジミー・カーター政権からロナルド・レーガン政権に移行する時期で、レーガン政権が8年、その後ジョージ・W・H・ブッシュ政権へと移行する時期にあたります

ちょうど冷戦の最中にあって、レーガン政権時にそれが終結しているのですね

また、ヨーロッパではベルリンの壁の撤去が行われています

その少し前の1970年代は、ベトナム戦争とウォーターゲート事件があり、強いアメリカが弱体化した時期でもありました

レーガンは「強いアメリカ」を取り戻すために大統領になったとも言え、私立高校の支援者トランプ家も同じ路線を歩んでいくことになります

 

カーター政権が民主党で、レーガン&ブッシュ&トランプが共和党なので、これを踏まえれば、アメリカの方向性は非常にわかりやすいと言えます

この時代の変化の中で、家族とりわけ女性にとっての苦心の時代が幕開けになるのですね

「強いアメリカ」は戦争を生み、兵士が戦場に行くことを意味します

特にベトナム戦争後でもあり、戦争に対する国民感情は最悪の部類になっています

そう言った意味において、レーガンの当選は誰もが喜べるものではないと言えるでしょう

 

映画の後半にて、私立高校の支援者としてトランプ家が登場します

登場するのがトランプ元大統領の父フレッドと姉のマリアンでした

フレッド・トランプFred Trump)は不動産開発業者として名を馳せ、主にクイーンズ地区での単世帯向け住宅、合衆国造船所近くで職員用の住居などを建設していきます

姉のマリアン・トランプMaryanne Trump Barry)は合衆国の連邦控訴裁判所の裁判官、ニュージャージ州の地方裁判所の裁判官を務めました

映画の時期はニュージャージー地区の連邦検察事務所の検事補という役職になっています

その後、同事務所の民事部を経験し、筆頭連邦検事補を歴任することになりました

 


幸運の捉え方

 

映画では、少年ポールがジョニーとの出会いによって「悪い方向へ向かう」という印象がありますが、実際に悪い方向なのかは現時点ではわかりません

でも、人種差別の根強い時期でもあり、黒人の貧困層とドップリハマる未来が明るく見えないのは事実でしょう

ポールの父アーヴィングはアメリカンドリームを追ってニューヨークにやってきていて、何とかテッドを私立に通わせるだけの財力を蓄えることができています

公立高校での事件をきっかけに、ポールは兄と同じ私立に行かされるのですが、これが彼の適性にあったものかまではわかりません

 

学業に専念できて、周囲の知的レベルも高い空間だと、子どもはどちらかに寄ってしまうと思います

ついて行こうとする努力コースと、現実を突きつけられて逃避するコースに分かれるのですが、あの状況のポールだと「逃避コース」に行くのは明白だったように思いました

 

映画のラストでは、フレッド・トランプのメッセージが流れるのですが、そこで彼は「Just…WOW. Kids, you got your
whole life ahead of you. Enjoy it. And most of all, HAVE FUN tonight!(ただ…すごい。子供たちよ、あなたはあなたの人生を手に入れた。人生そのものがあなたの前にあるのです。楽しめ! そして何よりも、今夜は楽しんでください!)」という言葉で結んでいます

これは謝肉祭に向けたフレッドの言葉で、ポールはこの言葉を受けて学校を去っていきます

行き先は想像にお任せというものですが、「ここではないどこか」であることは明白ですね

 

ポールが私立学校に入れたことは「幸運」なのかはわかりません

この時期に勉学に励むことで、両親とは違った未来がある可能性は高いでしょう

母は「あなたが私の希望なの」と抱きしめるように、この時期のアメリカでは「ブルー<ホワイト」というのは明白のように思えます

でも、人生を振り返る時が来るまで、この決断が何に影響を与えたかはわかりませんし、何が正解なのかはわからないのですね

そんな中でポールが選んだのは「誰と今を楽しむか」というもので、それによって厳しい私立の中でも耐えられると考えたのかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画のタイトルは「Armageddon Time」で、直訳すると「最終決戦のとき」という意味になります

いわゆる「終末のとき」という意味合いで、世界が滅びる瞬間であると思います

本作の内容のどこに終末があるのかと言えば、それは私立で勉強づけになる日々のことを意味し、これ以上ジョニーと関わることで、さらなる抑圧の時代が訪れることになることを意味します

ラストで学校を抜け出したポールは、おそらくはジョニーの元へ向かうのでしょう

この一連の行動が、ポールにとっては「Arnageddon」であることは言うまでもありません

 

ポールがその行動に至ったのは、祖父アーロンの「高潔であれ」と言う言葉と、フレッド・トランプの「若者よ、楽しめ」だと思います

彼の中にある優先順位は「感情」に制御されているものですが、この感覚の方が思考よりも遥かに大事だと言えます

ポールは私学での抑圧と引き換えに生涯の友と向き合うことを選んでいるので、この瞬間が苦しくても、のちの人生における哲学は良きものになると思います

そう言った意味において、自分の中にある「高潔さ」こそが、人生を輝かせるための「判断」と言うものに寄り添ってくれるのではないでしょうか

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/386863/review/0f5fa094-7028-4920-b68d-7accee18d4dc/

 

公式HP:

https://www.universalpictures.jp/micro/armageddon-time

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA