■658kmの道程で見つけた、感謝と尊敬の融合
■オススメ度
ロードムービーが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.8.1(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2022年、日本、113分、G
ジャンル:父の葬式に行くためにヒッチハイクで故郷を目指す女性を描いたヒューマンドラマ
監督:熊切和嘉
脚本:室井孝介&浪子想
キャスト:
菊地凛子(陽子:帰省途中で置き去りにされてヒッチハイクで故郷を目指す女性、42歳)
竹原ピストル(工藤茂:陽子の従兄)
原田佳奈(茂の妻)
池谷美音(工藤春海:茂の娘)
阿久津将真(工藤海人:春海の弟)
オダギリジョー(工藤昭政:若き日の陽子の父)
黒沢あすか(立花久美子:陽子を乗せる毒舌のシングルマザー、デザイン会社勤務)
見上愛(小野田リサ:人懐こい女の子、ヒッチハイカー)
浜野謙太(若宮修:陽子を乗せる怪しいライター)
吉澤健(木下登:陽子を乗せる心優しい夫婦)
風吹ジュン(木下静江:登の妻)
仁村紗和(八尾麻衣子:静江の知り合いの移住してきた女性)
篠原篤(水野隆太:陽子を乗せる寡黙な地元民)
松藤史恩(水野健太:隆太の息子)
鈴木馨太(健太の兄、陽子をバイクに乗せる青年)
小澤雄志(陽子を乗せるカップル)
真千せとか(陽子を乗せるカップル)
花岡咲(陽子を拒否るPAの客)
葉丸あすか(陽子を拒否るPAの客)
堀桃子(陽子を拒否るPAの客)
のふじゆみ(地元民?)
ただのあっ子(地元民?)
■映画の舞台
東京のどこか
栃木県:下都賀郡
みぶハイウェイパーク
https://maps.app.goo.gl/WDAWmhoaA6kmN4u5A?g_st=ic
道の駅しもつけ
https://maps.app.goo.gl/RqTfiorTHN7YbHo97?g_st=ic
道の駅みかも
https://maps.app.goo.gl/xqJghQAV8SabSvv88?g_st=ic
福島県:郡山市&相馬市
大洲海岸
https://maps.app.goo.gl/MnBnmEPGE61T3LGF6?g_st=ic
宮城県:
岩手県:岩手郡
道の駅くずまき高原
https://maps.app.goo.gl/tgmMreV6zJHVXs3n9?g_st=ic
青森県:弘前市
松木平駅
https://maps.app.goo.gl/6AbS829os15hHTwu5?g_st=ic
ロケ地:
上記と同じ
千葉県:千葉市
ホテル・ファミー
https://maps.app.goo.gl/i69zj3z4vXZ92htFA?g_st=ic
東京都:世田谷区
関東中央病院
https://maps.app.goo.gl/KjEvD1oAvfWKKmTA9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
東京在住の陽子は、就職氷河期に直面したフリーターで、42歳になっても自堕落な生活を続けていた
ある日、従兄の茂が彼女の家を訪ねてくる
聞けば、疎遠の父が亡くなったとのことで、葬式のために弘前に向かうとのことだった
陽子は渋々荷物をまとめて、茂一家の車に乗り込む
妻とはしゃぐ娘・春海と息子・海人で賑わう中、休憩がてら栃木県のPAに入った
だが、海人がPA内で怪我をしてしまい、陽子が休憩所から帰ると、茂一家は病院に向かってしまっていた
出る直前に携帯を壊してしまった陽子は茂に連絡が取れず、実家に電話をするもののうまく繋がらない
そこで陽子は、ヒッチハイクをしながら、実家へと向かうことになったのである
テーマ:過去との再会
裏テーマ:強制的引きこもり解除
■ひとこと感想
TVか何かで取り上げられていて、しかもファーストディということもあって、久しぶりに満席の映画館で鑑賞することになりました
アップリンク最前列は冷房直撃で一見さんには厳しい世界ですが、隣の人が耐えていましたねえ
反対側のお爺さんの笑いのツボがズレていて、少しばかりおかしかったりしました
映画は、いわゆるロードムービーで、父の葬式のために弘前に帰ろうとしたら、栃木あたりで従兄一家と逸れて路頭に迷うという展開を迎えます
ヒッチハイクでPAをわたり歩き、色んな人たちと出会う系の物語で、途中で被災地を巡るという流れになっています
一人を除き、良い人ばかりが登場するのですが、キャストを眺めるだけで、善人と悪人がなんとなく読めるというスタンスになっています
いやあ、ハマり役ではありますが、それにしてもゲスい展開になっていました
物語は、人とふれあって行く中で、自分を取り戻して行くのですが、人の話を聞いていた陽子が、自分の話を語りだすという流れを汲みます
おそらく、環境のせいにしてきた自分を戒める旅になっていますが、そこまで劇的な変化にはなっていないところがリアルに感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
この映画にネタバレがあるのかは謎ですが、土地勘がないと、今どのへんか分かりにくいという感じになっています
パンフレットには辿ったルートのようなものがありますが、約2日間の移動としては、時間軸が変な感じに思えました
え?まだここなの?という感じで、何日かかるのかと思っていましたが、おそらくは翌日の夕方ぐらいにはついていたように思えます
東京から弘前まで658kmとのことで、その中で色んな人々に出逢います
とりあえず乗せてくれるカップル、拒否る人たち、ヒッチハイカー、自分語りの毒舌家、ゲスいライターなどを経て、東北のある夫婦にたどり着きます
そこからは、知り合いを経由して、地元の駅まで行くのですが、そこまで来たなら家の前まで送ってやれよというのは野暮なツッコミになっています
季節的には冬なので、北へ行くほど寒くなっていて、ヒッチハイカーからお礼にマフラーをもらったりしながら、服装が少しずつ変わっていきました
ビジュアル的にも徐々に人が少なくなって行く様子が描かれ、除染地帯の今も垣間見える感じになっています
象徴的なのは、東北の夫婦との間で震災の話題が出ないことですね
あくまでも風景で見せながら、安易に語るものではないというリアルが見えていたように思えました
■疎遠でも帰るべきかどうか
陽子は20年間もの間、父とあっておらず、イメージもその時のまんまでした
帰りたくないと言っていましたが、そこに父がいるわけではなく、おそらくは20年の歳月を経て変わり果てた姿を見たくなかったのかもしれません
映画内では、どのような死に方をしたのかは描かれていないので、実家での孤独死なのか、それとも病院で亡くなったのかはわかりません
でも、どちらにせよ、あの頃の父はいないわけで、その父は陽子にとっては最悪の父のはずでした
栃木のPAで置き去りにされた時、彼女は東京へ帰るという選択肢もありました
「これは神の導きなんだ」みたいな思考で、「行かせようとしていない」と考えることもありなのですね
置き去りにしたのは茂なので陽子には非がないし、その後色々言われても、「頑張ったけど、間に合わなかった」と嘘をついて、その辺をうろうろしながら自宅に戻っても良かったかもしれません
でも、陽子は時間までに青森に行こうと決め、それは「会いたくないけど、会うとしたらこれが最後」というものがあったのだと思います
個人的な話だと、小学生の時に両親が離婚し、その後父は行方知れずになっていました
その30年後に遺体で発見されたと知らせがありましたが、私たちの場合は「会う」という選択をしませんでした
それは、あの時点の人生を壊した明確な理由だったこともあり、離婚後の養育費などの法的な責任も一切果たさなかったからです
それゆえに、本人が残していた預貯金を使用してもらい、役所の方で全てを終わらせて貰いました
この記憶と陽子の状況は似ていますが、彼女が帰ることを決めたのは、そこまで父を突き放していなかったからだと思います
イメージショットで「父との良き思い出」というものが存在していたのが幸いで、私の父の記憶というのは「母に暴力を振るい、2号さんを作り、会社で何かをやらかした」という最悪のものしかなかったのですね
なので、陽子が想起するような良き思い出というものは一つもなく、その後の社会的な責任を果たさなかったこともあって、1ミリも心が動かないという事態になっていました
ここまで関係性が断裂することもないと思いますが、疎遠とは言え、何かしらの良き思い出がある人は帰った方が良いと思います
■自分を変える体験とは何か
陽子には、一縷の帰る理由があり、それが原動力となって、青森を目指すことになりました
話しやすそうな女性に声をかけまくり、その中で助けてくれたのは若めのカップルでした
その後、よく喋るOL立花久美子の愚痴を聞きながら北へと向かい、そしてヒッチハイカーの小野田リサと会うことになります
小野田は怖がりで、数人が乗った車に乗せて貰いましたが、その車に陽子が乗ることは可能でした
それをしなかったのは、この場所に小野田を一人にはできないということと、複数人の車に乗りたくないというものがあったのだと思います
陽子はコミュ障気味で、人付き合いが苦手なので、グループの中に入るのは苦痛だったのだと思います
その後、若宮というライターにセックスを条件で乗せてもらうという経験をし、その後、心優しい夫婦に会うことになります
若宮とのセックスは実に作業的で、陽子は目的のためには多少のことはできる強さというものがありました
彼女がそれをできる理由は分かりませんが、ヒッチハイクの旅の困難としてのテンプレ的な意味合いの方が強いのかなと感じました
良い人ばかりに送ってもらうということはあり得ないので、金銭か体かという下衆な交渉をする人は必ず出てくるものだと思います
この体験は、後の木下夫妻との会話に繋がっていて、「女性のこういった行動は危険だ」という会話に意味を持たせます
ここからは、知り合いでバトンという感じになっていて、信用できる人に繋いでもらうことになります
前半の綱渡りから一変して、事件が起こる気配もなく、旅の中での緊張というものが一気にほぐれてきます
この緩和によって、陽子は自分のことを話せるようになるのですね
見知らぬ土地だとしても、少しの関わりの中で緊張がほぐれることがあり、それが起こるのは「極度の緊張状態を体験したから」だと言えます
その緊張は陽子が作り出してきたものではありますが、それまでは聞き手に回りつつも、彼女自身が苦手なタイプばかりに出会っていました
自分のことを話すというよりも、他人を貶すという対話が続き、唯一会話になったのは小野田だけでした
その場にいない人のことを話されても困るというのはありますが、陽子が水野親子の車に乗った時は同じことをしてるのですね
でも、この時は「前置き」を置いて、聞き手の意思を確認しながら、自分自身の話をすることができました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
陽子にこの変化が起こったのは、緊張と嫌な体験があったからで、それらはストレスというものを生み出しました
ストレスというのは無い方が良いと思うのですが、個人的には多少のストレスはあった方が良いと考えています
ストレスが起こった際に、普通に考えるのは「ストレスを生んだ原因を相手に求めること」なのですが、ここで少し考えを変えて、「このストレスは何のために起こったのか」と自問するのですね
ストレスは理不尽とイコールの関係ですが、自分にとっての理不尽は相手にとっての理不尽では無いというロジックがあります
なので、そのメカニズムを客観的に考えることで、自分が変えられるものを導き出していけると言えます
陽子の最初のストレスは、父との関係であり、疎遠になった理由は「陽子の夢に反対したから」でした
陽子のやりたいことを父が認めず、それによって関係を拗らせたのですが、この際に起こるストレスは「なぜ、自分の夢を応援してくれないのか?」という自分に向けたものなのですね
父の立場からすれば、青森から単身で東京に出る娘を心配しないはずもなく、それの心情から陽子を止めるという行動に出ます
ここで、父の理解を得るのは難しいと考えがちですが、説得に足る熱意とか材料があれば、自分の人生を歩むことを否定する親はいないと思います
この時のストレスはわだかまりとなって二人を割き、そして、思うように結果が出せなかったことがさらにストレスを生みます
青森に帰っても父はいませんが、近親者はいるわけで、そこで「東京では何をしてるんだ?」と聞かれるのは常なのですね
理解を得られないまま飛び出した陽子にとって、結果の伴っていない、むしろ父の助言を無視した結果、最悪の日常を送っていることに後ろめたさがないとは言えません
そう言った様々な予測できるストレスがあっても、陽子は帰ろうとするわけで、それは墓前の(出棺前ですが)父に伝えたいことがあったからなのかな、と感じました
映画では、最後に父と再会する陽子は描かれません
でも、彼女が旅の中で過去を振り返り、自分を大切にしなかったことで生まれた日常というものを理解しているので、彼女が発する言葉は「ありがとう」というものなのかなと思います
「ごめん」と謝る可能性もありますが、最後の彼女の表情を見ると感謝の方が先立つのかな、と思います
親子関係はとても難しく、生を与えた感謝と生を育む中で生まれる尊敬は合致しないこともあります
そう言った意味において、出発前は合致しなかった「感謝=尊敬」というものが、旅を経て、過去を想起するごとに重なっていったのかなと感じました
それゆえに、ラストを想像に委ねていたとしても、思うところは重なっていくのかな、と思いました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://culture-pub.jp/yokotabi.movie/