■あなたに訪れた巡り合わせを信じられれば、未来は明るいのかもしれません
Contents
■オススメ度
「普通」について悩める人を描くヒューマンドラマに興味がある人(★★★)
子どもと家庭について考えたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.1(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、110分、G
ジャンル:アスペルガーの妻が周囲から「普通」を強いられる様子を描くヒューマンドラマ
監督&脚本:瑚海みどり
キャスト:
瑚海みどり(楠木一葉:親戚から子どもをせがまれる妻、アルペルガー症候群を患う45歳の主婦)
(幼少期:秋葉有嬉)
二階堂智(楠木大地:一葉の夫)
KOTA(あずみ:楠木夫妻行きつけの飲み屋の女店主)
Ami Ide(司:あずみの店の手伝い、娘?)
曽我部洋士(大河原誠:一葉の弟)
亀田祥子(大河原夏美:誠の妻)
月田啓太(大河原啓太:誠の息子)
塾一久(大黒大五郎:一葉に子どものことを言う叔父さん)
吉岡礼恩(悦生:あずみの店の前でうろつく不審な中学生)
野井一十(おっちゃん:悦生を捕まえる近所の人)
長楠あゆ美(佐々木樹里:大地を気にかける同僚)
根口昌明(マサアキ:大地の後輩社員)
浅地直樹(児玉:大地の部署のチームのリーダー)
山元都(大地の同僚)
浜岡真優(大地の同僚)
井上薫(古瀬:里親支援センターの留守番)
ありす(アリス先生:一葉のアート教室の先生)
美加里(千歌:アート教室の生徒)
矢島美藍(広香:アート教室の生徒)
遠藤百華(胡桃:アート教室の生徒)
露木心菜(ここな:一葉のイヤホンを拾う子ども)
露木容子(ここなの母)
伊藤慶徳(片桐:酔っ払いのリーマン)
田中栄吾(山崎:酔っ払いのリーマン)
石毛笑子(清美:一葉の幼少期の同級生)
吉岡優花(千鶴:一葉の幼少期の同級生)
程塚さくら(舞子:一葉の幼少期の同級生)
松本亜鐘(茜:一葉の幼少期の同級生)
山口亨佑子(路上ではしゃぐ母)
田村凪(路上ではしゃぐ女の子)
■映画の舞台
関東圏のどこか
ロケ地:
神奈川県:相模原市
藤野倶楽部 百笑(アトリエ)
https://maps.app.goo.gl/AVuLyfEJFDH3T6bh7?g_st=ic
東京都:国分寺市
子供家庭支援センター ぶんちっち(支援センター)
https://maps.app.goo.gl/hWcT9JTwL9geiZrc8?g_st=ic
東京都:墨田区
Ibuki野(あずみの店)
https://maps.app.goo.gl/f4q5UaZC92bSeUQh6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
45歳になる専業主婦の一葉は、母親の1周忌のために親族を家に呼ぶことになっていた
弟家族と叔父を自宅に招き、手料理を振る舞うものの、音頭を任された一葉は余計なことを口走って顰蹙を買っていた
その席で叔父から「もう子どもは作らないのか?」と聞かれた一葉だったが、彼女は十数年前に流産を経験していて、その後は夫婦の営みも皆無に等しいまま、時間だけを重ねていた
その後、行きつけの飲み屋にいった一葉と夫・大地は、話の流れから「里親」の話になってしまう
女将はお節介にも詳細を一葉に教えたため、一葉は居ても立ってもいられなくなって、行動を開始してしまう
だが、大地は「誰の子どもでも良いわけじゃない」と反発し、「こう言うことはしっかりと話し合って決めるべきだ」と譲らないのである
テーマ:家族の「普通」
裏テーマ:人生の「普通」
■ひとこと感想
主人公がアスペルガー症候群のアラフォー女性で、流産経験のあるハードモードの人生だったのに「子どもは作らないのか?」と真顔で聞く親戚というのは驚いてしまいます
ただでさえデリケートな話題に、弟夫婦に子どももいる前ではしないと思うので、このおじさんも何かを患っているのでは?と思ってしまいます
物語は、その言葉がきっかけになって「子どもを持つにはどうするか?」に翻弄される一葉を描いていて、思い立つと我慢ができないという性格が様々なトラブルを引き起こしていきます
その背景で、夫は仕事が認められず、後輩のサポートをするという屈辱に耐えているので、ラストの騒ぎにブチ切れるのも無理はなかったと思います
映画は、とにかく重たい内容になっていて、人の何気ない悪意から、鋭利な嫉妬までたくさん登場するので、誰が死人が出ないかとヒヤヒヤしてしまいました
タイトルは「99%が曇り」で、残りの1%が雨になるか晴れになるかは、その人次第という感じになっていましたね
ラストに訪れたのがどっちだったのかは、劇場で確認していただければ良いかな、と思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作にネタバレがあるのかは微妙ですが、ラストに向かっていく流れは「今から雷が落ちて雨が降るぞ」と思わせるもので、決定機が訪れてもおかしくない状況だったと思います
あの状況を耐えられる夫婦がいるのかはわかりませんが、99%の曇りと0.9%に雨があっても、残りの0.1%が晴れであれば、不遇に耐えられることを伝えていました
自分の病気が子どもに移って、自分と同じようになるんじゃないかと不安を抱えるのですが、あなたには夫がいるじゃないかと思ってしまうほどに、巡り合わせ次第では悪くない人生になるのじゃないかな、と思ってしまいます
だたし、ある程度希望があるからこそ、苦労というものは訪れるわけで、もっと絶望的な状況だと、話題にすらならないのだと言えます
どこに着地するのか不安が過ぎる後半ではありますが、良い解決策が見つかってよかったなあとホッとしてしまいます
擬似的、限定的なものになっていますが、それでも癒しにふれることで日常が活性化するのならば、奇跡が起こる可能性はあるのかな、と思えてきますね
■アスペルガー症候群について
本作の主人公・一葉が抱えているのは「アスペルガー症候群」というもので、自閉症スペクトラム障害の一種になります
特定の分野への強いこだわりを示し、運動機能の軽度な障害が見られることもあるもので、自閉症スペクトラム障害のうち、知的障害、言語障害を伴わないグループのことを言います
発生原因は不明で、不安感を持った人が診察を受けて発覚する場合が多いとされています
特徴としては、心理社会的モラトリアム(エリクソンによる自我発達の心理社会的発達段階のこと)を経由して獲得できるとされている「自我同一性(自分は何者なのか)」の獲得が困難であるとされ、自分自身が過去から続いていると認識できないとされています
中庸という考えを持たず、極端な思考に走りやすいとも言われていて、被害妄想や対人恐怖症などを引き起こすこともあります
また、他人の心を読むことが難しく、仕草や状況からその意味を読み解くことができません
なので、口に出して言葉で表現しないと伝わらないとも言われています
映画内の一葉は自身がアスペルガーだと言っていますが、上記のような一般的なアスペルガーほどは状況が酷くないように見えます
考えが極端で、相手の気持ちを考えずにはっきりとモノを言うとか、興味の対象ができれば、そのこと以外は目に入らないと言う感じになっていました
また、感情のコントロールが難しく、怒りの沸点が低めと言う感じになっていて、行動に関するメモ帳を持ち歩き、それを反復学習している様子が描かれています
里親のことを知ると気になって他のことができず、それを解決するために突進すると言う描かれ方をしていて、同じ問題に対しても、その温度差や持続性が違うことですれ違う様子が描かれていました
■里親制度の欠格事案について
映画で登場する「里親の欠格事由」は厚生労働省がまとめたものが引用されていました
「①成年被後見人又は被保佐人」
「②禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者」
「③この法律及び児童売春、児童ポルノに係る法律等の処罰及び児童の保護に関する法律(平成十一年法律第五十二号)その他の国民の福祉に関する法律の規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者」
「④児童虐待の防止等に関する法律第二条に規定する児童虐待又は児童福祉法第33条の10に規定する非措置児童等虐待を行った者その他児童の養育にかんし著しく不適当な行為をした者」
上記が、厚生労働省が出してあるものになります
また、このほかに「経済的に困窮していないこと」や「養育里親研修を修了したこと」と言うものも要件になります
①の成年被後見人とは、「民法において、精神上の障害により判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人」となります
これは精神疾患のみならず、加齢や認知症などの様々な事情で十分な判断能力がない人のことを言います
同じく①にある被保佐人は、「家庭裁判所の審判により、一定の法律行為をするに当たって、保佐人のサポートを受ける必要があるとされた者」のことを言います
保佐の開始は、本人もしくは家庭から申し立てを受けた家庭裁判所の判断により、「本人が精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分」と認められた場合となります
この他の項目は「児童虐待をしたことがある」などの「児童に対する過去の行為、犯罪歴がないかどうか」であり、これ以外にも「禁錮以上の刑罰を受けたことがある」という前科のある人は無理というものがあります
禁錮というのは、受刑者を刑事施設に収容する刑罰で、刑務作業が付けられている刑を言います
ざっくりと言えば「刑務所に入った人」というもので、交通事故の過失犯、政治犯で適用されることがある刑罰になります
これらの欠格事由を見ると、一葉は①の項目に該当するほどではないので、欠格者とはみなされないと考えられます
それでも、実際の運用に関しては、「里親を希望する動機」というものが重要視され、「社会的養護の担い手としての責任があるか」というものが問われます
「後継が欲しい」「夫婦関係の見直しのため」「老後の介護をしてほしい」などの理由だと里親にはなれないとされています
映画の場合は、こちらの社会的責任の部分に抵触すると思われるので、親戚の子どもを預かるということなら問題なくても、里親になるというのは難しいのではないかと考えられます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では、人と違うことで生きづらさを感じている一葉が唯一の理解者である大地と喧嘩してしまうという流れになっていました
それが里親騒動を起因とした、流産肯定事件であると言えます
一葉がどこまで本気で思っているのかは分かりませんが、自分がした苦労と同じ、もしくはそれ以上になる可能性を考えると、流産して良かったと思ってしまうのは仕方ないことなのかもしれません
大地はそんな苦労を込みでも楽しみだったと言いますが、当事者が楽しいかどうかはまた別問題で、大地の想像以上に現実が厳しいものである可能性は否定できません
アルペルガーの40%が遺伝による影響やDNAの欠損、重複、変異などが見られていて、統計的には70〜90%の確率で遺伝すると考えれています
とは言うものの、アスペルガーになる原因が解明されておらず、遺伝すると言う明確な根拠というものはありません
あくまでも統計上の傾向のようなもので、親がそうである場合は確率が高くなるという研究結果があるだけだったりします
これらの情報は嫌でも耳にしてきたと思うので、一葉がそう思い込むのは無理もないでしょう
妊娠が発覚してから、一葉はずっと「自分の子どもに遺伝したらどうしよう」と考え続けてきたのだと思います
それは相当なストレスになっていて、それが流産の原因のひとつかもしれません
この際に大地とどこまで話し合われたのかは分かりませんが、「流産して良かった」という言葉は、今回初めて聞くことになったのだと思います
それだけ、妊娠中から考え、流産後も彼女の中に燻り続けた考えであり、それがこれまで噴出しなかったことの方が不思議のようにも思えます
でも、「これだけは墓場まで持って行かなければならない」という強い意志があり、それが砕けるほどの出来事があった、と言えるのかもしれません
この衝突がどうして起こったかと言えば、大地が言葉を濁し、正確に物事が伝わらなかったことだと思います
大地は何度となく「まあ、いいや」という言葉を使い、一葉に説明するのを中断している場面がありました
見た感じだと「説明するのが面倒だ」という問題の先送りなのですが、その為に「すでに提示された言葉」によって、一葉の中である種の理解というものが生まれ、それが大地の気持ちであると誤解しているのですね
でも、この誤解を生むという状況は今に始まったことではなく、これまでに何度も起こってきたことだと思います
これらが起こった背景には、大地の仕事内容が絡んでいて、いわゆる後輩に手柄を奪われて、さらに火消しもさせられているという状況でした
大地にとっては理不尽なもので、それを樹里も感じているのですが、彼女が庇うことでさらに大地の自我というものが傷ついています
樹里は大地に好意があるので、親身になることで距離感を縮めようとしますが、大地にはその気がないので、かえって面倒だと感じています
これらの背景を全て一葉に説明するわけには行かないので、彼自身は言葉を飲み込むということで感情を制御してきました
それが今回は一葉との会話の中でも起きていて、それが問題を大きくしてしまったのだと言えます
このような状況になった時、人はどうすれば良いか悩みますが、問題が噴出した時は「解決に至る道を探す時」なのですね
なので、これ以上放置してはおけない問題として、何らかの要因で表面化するようになっていると考えるのが良いと思います
そして、それは同時に「解決の方法が身近にあるから」だとも言えるのですね
この噴出が5年後に起きていたら、弟の子どもを預かるという解決策に見えるものも無くなってしまいます
それを考えると、このタイミングは神様が与えた絶好の機会であったとも捉えられるので、そのように考えて、前向きに関わっていけば良いのではないでしょうか