■悲しみの受容と同じように、父親を受け入れるにはステップが必要なのだと思います
Contents
■オススメ度
父娘関係の物語が好きな人(★★★)
才能豊かな子役の演技を堪能したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.7.8(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Scrapper(解体し戦う人)
情報:2023年、イギリス、84分、PG12
ジャンル:母を亡くした12歳の少女と対面する父親を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:シャーロット・リーガン
キャスト:
ローラ・キャンベル/Lola Campbell(ジョージー:母を亡くした12歳の少女)
ハリス・ディキンソン/Harris Dickinson(ジェイソン:初対面のジョージーの父)
(幼少期:Daniel Burt)
Olivia Brady(ヴィッキー:ジョージーの亡き母)
Alin Uzun(アリ:ジョージーの親友)
Aylin Tezel(ニーナ:アリの母)
Aysa Uzun(アリの妹)
Ezel Uzin(アリの妹)
Cary Crankson(バロークロフ先生:ジョージーの担任)
Ambreen Razia(ゼフ:自転車屋)
Joshua Frater-Loughlin(ジョシュ:雑貨屋の店員)
Ayokunle Oyesanwo(クンレ:黄色い自転車の少年)
Ayobami Oyesabwo(バミ:黄色い自転車の少年)
Ayooluwa Oyesanwo(ルーワ:黄色い自転車の少年)
Freya Bell(ライラ:ジョージーと揉める少女)
Laura Aikman(ケイ:ライラの母)
Jessica Fostekew(シアン:社会福祉局の職員)
Asheq Akhtar(アシュプ:社会福祉局の職員)
Carys Bowkett(エミリー:自転車盗まれかける女性)
Tejal Rathore(駅の女性)
Matt Brewer(駅のスーツ男)
Sue King-Spear(ライラック色のドレスの女)
Harry Sydes(サッカーをする子ども)
Mitchell Brown(サッカーをする子ども)
Ramison Bernardo(サッカーをする子ども)
■映画の舞台
イギリス:
ライムス・アベニュー
ロケ地:
イギリス:エセックス
Piesea Railway Station
https://maps.app.goo.gl/YFMLHo1QBhM1SoBb7
Limes Farm Estate
https://maps.app.goo.gl/Mcfjq5yceoS4d8zr5
■簡単なあらすじ
12歳の少女ジョージーは、架空の叔父と住んでいる偽装を行いながら、母の死後も1人で生活をしていた
そのことを知っているのは親友のアリだけで、2人は路上の自転車を盗んでは転売するというのを繰り返していた
ある日、彼女のもとに「父親」と名乗る人物・ジェイソンが来てしまう
ジョージーが父の記憶もなく、胡散臭さが全開だったが、父でしか知り得ないことを知っていた
そこで、2人は奇妙な共同生活を始めることになった
アリもその生活を見守る中で、情緒不安定なジョージーは、時には攻撃的になってしまう
クラスメイトのライラをボコったあとはロクに謝罪もせず、やむを得ずにジェイソンがライラの母親に謝ることになった
そんな折、ジェイソンはジョージーがひた隠しにしていて部屋にて、奇妙なものを目撃してしまうのである
テーマ:悲しみの克服
裏テーマ:不安と葛藤
■ひとこと感想
12歳の少女が大人を頼ることなく生きていこうとする物語で、うまく行く時もあれば、失敗する時もあるという感じに描かれています
母親は病死したようで、その後は架空の叔父を作り出し、雑貨店の店員のジョシュにウィンストン役をさせていましたね
おそらく叔母が相手だと思いますが、会話を成立させる音声データはなかなか面白いものがありました
そんな彼女のもとに父親を名乗る人物が現れます
彼女がどうやって信じるのかなと思っていたら、意外とあっさりとしたものでしたね
おそらくは叔母の電話に出て、そこで普通の会話になっていたことで信用したのかな、と思いました
映画では、この2人の関係がどのようになっていくのかが描かれていて、その主軸はジョージーが母親の死をどのように受け止めているかというものでした
悲しみの回復の段階で3番目ぐらいという位置表示がありましたが、それとは別のところで「秘密の部屋」に本音が隠されていた、という内容になっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画のタイトルは「スクラッパー」というもので、意味は「戦っている人」という意味合いがあります
スクラップは解体するという意味があって、それは悲しみを段階分けしているところにも通じていました
実に理性的に母親の喪失を受容する過程を経ていきますが、その反動から「解体したものを再度別の何かに組み替える」という作業も同時に行なっていたことになります
12歳の少女がここまで達観するかは何とも言えないのですが、戦いこそ最大の防御というニュアンスで、前のめりでいることがジョージーなりの生きるコツのように感じられます
それでも、スクラップ&ビルドには至っておらず、天井に届いていても壊すまでは行けないのですね
それが今の時点の彼女の限界点であると言えます
映画は、ジョージーという人間がどのような人間であるかを紐解き、彼女の強さがどこから来ているのかを描いていきます
父親の存在は彼女にとってはさほど意味がなく、それよりも生きていく上で無茶をしなければならない状況というものがほぼ詰んでいたように見えます
なので、日常の生活を送れるレベルであれば、ある意味においてはヒーロー的な存在になるのかな、と感じました
■悲しみの受容プロセス
映画の冒頭にて、ジョージーは「悲しみの受容プロセス」に言及しています
彼女の母が病死し、それを受け入れる段階ということで、おそらくはカウンセリングが入って、その過程を教えてもらったのだと思います
この概念は1969年にエリザベス・キューブラ=ロス(Elisabeth Kübler-Ross)という学者が提唱したもので、一般的には「喪失の5段階」と呼ばれています
彼女の著書「Five stage of grief」にて書かれたものになります
第一段階は「否認(Denial)」、第二段階は「怒り(Anger)」、第三段階は「取引(Bargaining)」、第四段階は「抑鬱(Depression)」、第五段階は「受容(Acceptance)」となっています
最初の反応は「否認」で、偽りの望ましい現実に固執する傾向があります
中には受け入れている人から距離を取って孤立する人もいて、避けられない死の現実を否定する、とされています
次の反応は「怒り」で、否定し続けることはできないとわかると、特に身近な人に対して苛立ちを見せるようになります
「なぜ、私なのか?」「誰のせい?」などのような自問が起こり、愛する人、医療スタッフ、家族などに怒りをぶつけることになります
3番目の反応は「取引(交渉)」と呼ばれるもので、悲しみの原因を回避できるのではないかという希望が伴います
これらは神様に祈りを捧げて取引を持ちかけたり、自分の命と引き換えにしてほしいと願ったりする段階のことを言います
4番目の反応は「鬱」で、自分の死を認識して絶望し、沈黙し、人と関わることをやめて、不機嫌な状態で過ごすとされています
最後には「受容」となり、「大丈夫だ」と肯定的になったり、「抵抗できない」と悟ったりすることで、安定した感情へと移行していくことになります
映画のジョージーは「最後の方」と言っていたので、おそらくは「受容」に向かう途中なのでしょう
アリとは交流を持ちますが、それ以外の人との接触を避けている状態なので、「鬱」と「受容」の中間であるように感じられます
これらのことを知っているだけで、愛する人を亡くした人のケアもできるし、話しかけるタイミングなどもわかるようになります
特に急死した場合は、このプロセスの経過に時間がかかるので、時が解決するまで(本人が逃れられないと確信するまで)は、状態を悪化させる可能性があるので注意が必要だと思います
なお、詳しいことが知りたい人は、下記のAmazon Linkを踏んでみてくださいまし
■歯の妖精について
本作のエピソードに「ジョージーの歯が抜ける」というエピソードがあり、この時に父のジェイソンは「歯の妖精(Tooth Fairy)」のお話をします
この「歯の妖精」というのは、西洋文化の幼少期の民間伝承のようなもので、子どもが乳歯を1本失った場合、その歯を枕の下、もしくはベットサイドのテーブルに置くと、寝ている間に歯の妖精が訪れて、少額の支払いで失った歯を交換してくれる、というものになります
中世のヨーロッパでは、魔女が誰かの歯を手に入れると、その人を完全にコントロールできると考えられていました
起源としては、1908年のシカゴ・デイリー・トリビューン紙に載ったリリアン・ブラウンという人の記事になります
その姿はティンカーベルのようでいて、翼や杖があると言われています
その他にも、翼のある子どもであるとか、妖精の姿、ドラゴン、母親、空飛ぶバレリーナなど、様々なバリエーションがあったりします
これらは子どもの歯が抜けることを恐れないようにと配慮されたという説もあります
子どもたちは5〜7歳ぐらいで、これらの話が架空のものであると気づきますが、サンタクロースやイースタバニーと同じような感覚であるとされています
また、少額のお金をくれるという逸話を利用して、きれいな歯の方が多くのお金を払ってくれる、という具合に、歯磨きを推し進める効能もあったりします
ジョージーは12歳なので歯の妖精は卒業していますが、それは自分がもう大人であると宣言していることに近いのだと思います
彼女は母親が亡くなったことで経済的な自立を要するのですが、彼女の生業だけでは限界があるのですね
ジョージーはそれすらも悟っていたので、ジェイソンが父親であることを確信すると頼ることを厭わなくなっていました
このあたりの切り替えの速さも、年離れしているように思えてしまいます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作のタイトルは「Scrapper」で、通常は「解体する人」という意味合いになります
ジョージーは自転車をパクっては売るという生活をしていましたが、一方で「売り物にならない自転車など」を解体して、自宅の部屋にて「天国に届く塔」を作っていました
その塔はほぼ完成して、あとは天井をぶち抜くだけなのですが、彼女はそれをしていません
それは、その先には天国などはなく、母親に会えないことを知っているからだと思います
「Scrapper」には、これ以外にも「何かを壊して新しく作る人」という意味もあり、「戦う人」のことを指します
常に戦うか議論する準備ができている人という意味もあって、ジョージーが戦っている相手が「喪失」であることもわかると思います
彼女は、常に一人で考え、そして今ある状況を変えようと理性的に事を起こしていきます
ジョージーが作り上げた塔を見たジェイソンは、己の心の幼さに気づき、そして娘が抱えている強さというものを感じることになりました
ジェイソンは精神的に自立しているジョージーを子ども扱いはしませんが、それでも社会的に子どもの立場であるということは理解しています
それゆえに経済的な援助と責任を果たしますが、それ以上の制限をしようとは考えていません
疎遠の父ということもあって、ジョージーも父親とは捉えていなくて、それがハグやんわり拒否につながっていましたね
彼女自身もジェイソンを父と受け入れるためのステップを踏むことになると思うのですが、結局は友だちの延長線上で成人に至るのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101570/review/04016710/
公式HP:
https://scrapper.jp/
