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Contents
■オススメ度
映画を作る映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.11.26(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Il sol dell’avvenire(未来の太陽)、英題:A Brighter Tomorrow(輝かしい明日)
情報:2023年、イタリア、96分、G
ジャンル:苦悩する映画監督を描いたヒューマンドラマ
監督:ナンニ・モレッティ
脚本:フランチェスカ・マルチャーノ&ナンニ・モレッティ&フェデリカ・ポントレモーリ&バリア・サンテッラ
キャスト:
ナンニ・モレッティ/Nanni Moretti(ジョヴァンニ/Giovanni:こだわりが強すぎる映画監督)
マルゲリータ・ブイ/Margherita Buy(パオラ/Paola:映画プロデューサー、ジョヴァンニの妻)
マチュー・アルマリック/Mathieu Amalric(ピエール・カンブー/Pierre Cambou:映画の出資者、ジョヴァンニの友人)
Valentina Romani(エンマ/Emma:ジョヴァンニの娘、音楽家)
イェジー・シュトゥル/Jerzy Stuhr(イェジ/Jerzy:ポーランドの大使)
テコ・セリオ/Teco Celio(精神分析医)
Michele Eburnea(ジョヴァンニの妄想に登場する若者)
Blu Yoshimi(ジョヴァンニの妄想に登場する若者)
Corrado Augias(コラード・アウギアス/Corrado Augias:作家、ジョヴァンニの友人)
Renzo Piano(レンゾ・ピアノ/Renzo Piano:建築家、ジョヴァンニの友人)
Chiara Valerio(キアラ・ヴァレリオ/Chiara Valerio:数学者、ジョヴァンニの友人)
【映画製作陣】
シルヴィオ・オルランド/Silvio Orlando(シルヴィオSilvio:エンニオ役の俳優)
バルボラ・ボブローバ/Barbora Bobulova(バルボラ/Barbora:ヴェーラ役の女優)
Francesco Brandi(ディエゴ:道具係)
Laura Nardi(ミレヴィ:メイク係)
Arianna Pozzoli(アリアンナ/Arianna:助監督)
Arianna Serrao(衣装デザイナー)
Carolina Pavone(脚本家)
Francesco Rossini(脚本家)
Federica Sandrini(脚本家)
【映画内のキャラクター】
シルヴィオ・オルランド/Silvio Orlando(エンニオ/Ennio:共産党機関紙「ウニタ」の編集長)
バルボラ・ボブローバ/Barbora Bobulova(ヴェーラ/Vera:洋裁師、エンニオの同志の共産党員)
ジョルト・アンガー/Zsolt Anger(ブダヴァーリ・サーカスの団長)
Andrea Trovato(サーカスのエサ係)
Flavio Furno(エドアルド/Edoardo:共産党員)
Rocco Ancarola(チューザレ:エドアルドの助手)
Giovanni Bussi(入党したい男)
Daniela Macaluso(入党したい女)
Beniamino Marcone(印刷担当)
Rosario Lisma(取材する記者)
【ジュゼッペ関連】
ジュゼッペ・スコディッティ/Giuseppe Scoditti(ジュゼッペ/Giuseppe:若い映画監督)
バレリオ・ダ・シルバ/Valerio Da Silva(銃をぶっ放す俳優)
アンジェロ・ガルディ/Angelo Galdi(銃を突きつける俳優)
【現実パートその他】
Elena Lietti(「190ヵ国」連呼する「Netflix」のエグゼクティヴ)
Benjamin Stender(「Netflix」のエグゼクティヴ)
Sun Hee You(韓国人通訳)
Ester Cho(韓国人製作スタッフ)
Dohyeong Kim(韓国人製作スタッフ)
Jinwan Kwen(韓国人製作スタッフ)
Enrico Cerretti(ミュージシャン)
【パレード参加者:過去のナンニ監督の出演者】
アンナ・ボナート/Anna Bonaiuto
ダリオ・カンタレッリ/Dario Cantarelli
レナート・カルベンティエリ/Renato Carpentieri
エリオ・デ・カピターニ/Elio De Capitani
ジュリア・ラッッアーニ/Giulia Lazzarini
クラウディオ・モルガンティ/Claudio Morganti
ジージョ・モッテ/Gigio Morra
シルヴィア・ノノ/Silvia Nono
アルバ・ロルヴァケル/Alba Rohrwacher
アルフォンゾ・サンタヴータ/Alfonso Santagata
リナ・サストリ/Lina Sastri
ファビオ・トラヴェルサ/Fabio Traversa
ジャスミン・トリシカ/Jasmine Trinca
マリエッラ・ヴァレンティーニ/Mariella Valentini
■映画の舞台
イタリア:ラザロ州ローマ
チネチッタスタジオ
https://maps.app.goo.gl/6q8mR9NptXkNVvWF9
ロケ地:
イタリア:ラザロ州ローマ
チネチッタスタジオ
https://maps.app.goo.gl/6q8mR9NptXkNVvWF9
サンアンジェロ城/Castel San Angelo
https://maps.app.goo.gl/jK66hwS8adNENx596
ルンゴディヴェレ・ヴァチカーノ/Lungotevere Vaticano
https://maps.app.goo.gl/gD94P8ZcCDBYjcUe9
■簡単なあらすじ
ローマにあるチネチッタスタジオでは、映画監督のジョヴァンニが新作「Il sol dell’avvenire」を撮影していた
妻のパオラは映画プロデューサーとして長年彼の作品に関わっていたが、今は別の映画の制作にも携わっていた
ジョヴァンニの作品は1956年頃を描き、イタリアの共産主義者とサーカス団の顛末をベースにした時代の変化を描いていた
共産主義者のエンニオと同志のヴェーラはともに共産主義の台頭を目指していて、ジョヴァンニの中では硬派な政治ドラマだと考えられていた
だが、ヴェーラを演じる女優バルボラはこの映画を恋愛映画だと解釈していて、その意識のズレが撮影を難航させていた
さらに、出資者のピエールが実は一文無しであることもわかり、映画制作は中止になってしまう
パオラは兼ねてから別の出資者を募るために韓国人製作陣を招き入れようと考えていたが、ジョヴァンニは聞く耳を持たない
ピエールの助言通りにNetflixの幹部たちにあっても、その方向性の違いに辟易としてしまう
そんな中で、ジョヴァンニはパオラが関わってる別の映画に口出しをし始め、現場は混沌としてきてしまうのである
テーマ:映画に込める愛
裏テーマ:映画哲学とその未来
■ひとこと感想
映画の中で映画を作る作品ということで、頑固な監督とアドリブ好きな女優が喧嘩をするという流れになっていました
ジョヴァンニの中には明確に描くものがあるのですが、それが別の人には違って見えているということになります
そんな彼をずっと支えてきた妻パオラは「もう無理」という感じで、セラピストに決意を後押ししてもらおうと考えていました
二人には娘エンマがいて、彼女も父の作品の劇伴に携わる作曲家でしたが、彼女の恋人は自分よりも年上に見えるポーランド大使でしたね
このあたりの人間関係はコミカルで、ジョヴァンニとパオラの価値観の違いを表していたように思えました
映画は、自分の作品以外にも口出しをするジョヴァンニが描かれていて、そこで語る哲学は面白かったと思います
暴力をエンタメ化することの功罪とか、構図に現れる演出へのこだわりなどは、監督自身が普段から考えていることなのでしょう
それに関して「自分の作品を通じて古い」と言えるところが映画の面白さであり、監督自身の懐の深さと言えるのではないでしょうか
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作におけるネタバレは、紆余曲折を経た映画がどのような作品になるのかというところでしょう
彼の作品は、当初はエンニオが自殺するエンドとなっていて、それがパオラとの距離感を生む原因にもなっています
いわゆる暴力が内側に向かっていて、理想主義の果てに散る人生を良しとしていたのですね
でも、最終的には自殺をせずに党上層部に掛け合って、ソ連との関係性を見直すように迫るというものになっていました
いわゆる歴史改変ものの映画を撮ったということになるのですが、映画で描かれていた歴史というものもジョヴァンニの描く歴史なのでかなり改竄されていました
道具係は気の毒なもので、史実通りに小道具を集めたらダメ出しされるし、いつの間にかセットに住み着いていたピエールの私物を自分のせいにされていました
製作陣も色々と不満はあったようですが、映画完成パレードにはみんな笑顔で参加していましたね
そこにはこれまでのナンニ監督の映画に出演した俳優さんたちがたくさん登場していて、ナンニ映画のファンにはたまらないエンディングになっていたのではないでしょうか
■映画における暴力表現
本作は、1956年のハンガリー蜂起などの歴史的な背景を描いていますが、それらは映画の背景として留まっています
直接的な表現は少ないのですが、その背景には多くの流血があり、それらの歴史に対してどう向き合うかというものが描かれていました
ジョバンニはソ連のハンガリー侵攻に関する映画を撮っていますが、その主人公は最終的に自殺を決意するキャラクターとなっていました
それらは、彼が直面した様々な問題によってアプローチが変わっていく様子が描かれていて、ある種の非暴力へと向かうように描かれていました
映画内、とりわけ過去に起こった戦争などは変えることはできませんが、その影響を受けた人物は想像の世界によって変えることができます
新聞の見出しなどに「Unione Sovietica Addio!(ソビエト連邦、さようなら!)」と描かれていたように、イタリア共産党がソビエトの影響下から抜け出すという架空のシナリオを構築しますが、それが「暴力華ら逃れる唯一の方法だった」と考えていたことになります
衝突を避けるために何をすべきかというところで、ジョバンニは妻の意見を聞き入れるという行動を取ります
国は男女半々で構成されているもので、それまでは片方の局地的な意見をもとに主導してきたけれど、反対側の意見も聞くという流れになっていたとも言えます
暴力に支配された時代において、そういったものから脱却するためには、暴力における悲惨さとか、そこで生じる感情を呼び起こす必要があるのかは何とも言えない部分があります
感情は時には判断を狂わせるものであり、そう言った直接的な影響を排除することなく歴史を冷静に見るとどうなるのか?
それが本作の趣向であり、実質的には「起こりうることへの想像」というものの欠如が判断を狂わせているように見えてきます
残酷描写は時には内包された快楽を誘発することになるし、プロパガンダを生み出す装置にもなるでしょう
そう言った意味合いも含めれば、直接的なものがなくても描けることはたくさんあるのかな、と感じました
■もしもの世界に変わった理由
本作では、イタリア共産党がソビエトと手を切るという内容になっていて、これはイタリアにおける歴史の転換点の改変ということになります
しばしば映画などでは「歴史改変」というものが描かれていて、そこには「今の世界を悪くしたものの正体」を晒すという意味合いもあります
でも、そう言ったものは変えようもなく、それを描く意味が無いようにも思えてしまうのですね
でも、もし今の世界があの時に近づいているとしたら?という仮説があれば、人が歴史から学ぶためのきっかけになるように思えます
映画などにおいて歴史改変をする目的はいくつかありますが、その中の一つに「歴史は意思決定やイデオロギー、偶然の産物によって成り立っていることを知る」というのがあります
歴史の転換点には様々なことが起きていますが、それらは全て権力者の決定によってのみ起こっているわけでは無いのですね
その背景には、偶発的に起こった出来事から国として引けなくなったというものもあれば、ある思想を推し進めるために様々なものを無視したというものもあります
歴史改変映画で描かれているのは、それがどのようにして起こったかを抽出し、それが起こらなかた理由を検証していると言えるのかもしれません
この他には、歴史的な結果を変えることで、現実世界に蔓延っている問題の提起につながります
歴史は繰り返すと言いますが、同じことが起こっているのになぜ同じ過ちを繰り返すのか、というサイクルに対する疑問を持つことなるでしょう
人類が同じ過ちを繰り返す理由はたくさんありますが、一番わかりやすいのは「苦労して得た教訓が世代を重ねることによって薄れ、現実問題がそれを覆い隠すから」だと思います
それによって、人類の叡智はその時代のイデオロギーや感情などによって支配され、それによって同質の行動を生み出していきます
本作のような映画が作られる背景には、そのような傾向を感じたクリエイターがいるわけであり、それを噛み砕くと、イタリア共産党の選択によく似た状況というものが今生まれつつあるのかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、映画内で映画を作るという作品で、ジョヴァンニを取り巻く環境はそのまま監督の生きてきた環境に近いのだと思います
かつてはフィルム撮影から一斉を風靡したとしても、時代は移り変わりデジタルが主流になってきます
さらに映画館から配信、さらにはサブスクという流れになっていて、エンタメ時代は「あるカテゴリーのごちゃ混ぜの中に放り込まれる」という事態になっています
作品単体の価値というものが失われているわけではありませんが、選ばれるためのハードルがかなり高くなっているとも言えます
個人的な環境だと、映画の配信に関しては連続作の見返しにたまに使う程度で、その際には個別にお金を支払うという感じになっています
サブスクには入っておらず、それに近いのがAmazon Prime Videoですが、その特典で無料で見られる場合があるのですが、そこで無作為にザッピングというのはしません
サブスクを利用しない最大の理由は「家で映画を観ている時間がない」というもので、仕事場か映画館か寝るために家に帰るかという生活なので、とてもサブスクが入り込む余地がありません
音楽に関してはdヒッツを利用していて、これが我が家の唯一のサブスクでしょうか
バイクの移動中に聞くというのがほとんどで、家に帰ってステレオで聴くとか、職場の休み時間に聴くということもほとんどありません
dヒッツの特性上、毎月10曲ずつプレイリストに入れることができるのですが、このリストに何を入れるかというのは「流行の曲」「個人的に好きなアーティストの新譜」みたいなザックリしたものになっています
その10曲を1ヶ月で覚えて歌えるようになるかという謎のミッションがあって、大体は半分くらいなら何とかなるみたいな感じになっています
サブスクなどで特定のコンテンツを選ぶのは非常に難しく、今ではこれまでの履歴を元にお薦めがリストアップされ、かなり偏ってしまったりします
YouTubeでもおすすめに上がってくるのが同じものばかりで、たまには違うのを聞きたくても、おすすめ連鎖から抜け出すのは難しいのですね
結局は、これまでにないものをピンポイントで指定することになるのですが、「自分があまりふれていないもの」というのをピンポイントで指定するのは不可能に近いと思います
なので、結局はYouTubeのトップページにある一覧から何かを選ぶことになりますが、興味が全く持てないものは選べないし、おすすめの派生のような並びになっているのでどうしようもありません
ほとんどのサブスク系コンテンツはこんな感じなので、おすすめに選ばれるためのコンテンツ作りというものが生まれてしまいます
それは、今流行のものと同質のものが大量生産されるというもので、おすすめロジックを理解できたものが覇権を取るとも言えるかもしれません
でも、その派生コンテンツを作ろうとしても、作っている間に流行が変化するというのは常なので、追いかけても追いつけないものだと思います
こうなった時どのように対応するかと言えば、「自分のコンテンツを一つのジャンルにするほどに作りまくる」ということだと思います
自分自身がコンテンツのひとつになれば、そこに流入が起きた場合に一気に作品群が注目される可能性があります
この人が作っているものをもっと見たい
これが目指すところであって、時代が追いつくかどうかは気にしない方が良いのだと思います
このブログもそれに近いところがあって、死ぬほど停滞しているけど、自分なりの切り口で記事を書いていきます
気にいる人がいたら色んな記事を読んでくれるだろうし、幅は意外と広いと思います
課題は公開作品数の多さに体が付いていっていないところで、これに関しては私自身の課題であると思います
誰かに委託できる部分がほとんどないので困っていますが、ボトルネックになっている部分は色々とあるのがわかっているので、少しずつ改善していきたいと思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/99296/review/04507439/
公式HP:
https://child-film.com/cinecitta/