■「好きだから続けている」がいつか誰かを本気にさせるのかもしれません


■オススメ度

 

音楽による再生の物語が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.10.17(MOVIX京都)


■映画情報

 

英題:A Day Begins

情報:2024年、日本、107分、G

ジャンル:落ちぶれたロックシンガーと不遇な音楽女子の邂逅を描いた音楽映画

 

監督&脚本:日比遊一

 

キャスト:

中村耕一(かつてロックスターとして一世風靡した「男」、清掃会社勤務)

遥海(「女」:男の隣人、職場の同僚)

 

高岡早紀(「女」の母)

尚玄(「女」の父)

 

麿赤兒(アパートの大家)

チャーリー伊藤(住人)

濱田蒔絵(住人)

ドウェイン・ディー・スパイダー(住人)

ガルシア(住人)

VIVI(住人)

 

【職場関連】

羽場裕一(清掃会社の人事部長)

山口智充(寺田:「男」の同僚)

宍倉秀磨(翔太:寺田の息子)

 

斉藤あきら(清掃会社の上司)

辻博丈(清掃会社の社長)

とおやま優子(清掃員)

稲葉敦子(清掃員)

原みなほ(清掃員)

本条舞(清掃員)

後藤崇之(清掃員)

加納裕恭(清掃員)

村上勝子(清掃員)

藤原絵里(清掃員)

 

【家族関連】

鈴木美羽(「男」の娘)

矢野きよ実(「男」の元妻)

 

【音楽関連】

竹中直人(矢吹:音楽プロデューサー)

岡崎紗絵(望月:矢吹のアシスタント)

小川清(音楽プロデューサー)

吉川豊(ミキサー)

藤野智矢(スタッフ)

萩心美(スタッフ)

村上侑正(スタッフ)

 

【演奏:OSAKA ROOTS】

久米はるき(ギター)

南あやこ(サックス)

MIKIDEN(ベース)

前田和彦(キーボード)

西野達弥(ドラム)

 

【その他】

八代将弥(イベントの主催者)

 

秋野暢子(裁判官)

松岡冬馬(裁判官)

平田真弘(裁判官)

 


■映画の舞台

 

愛知県:名古屋市

 

ロケ地:

愛知県:名古屋市

タワーラウンジカシメ

https://maps.app.goo.gl/tPJZuSpi3J22E7kp6?g_st=ic

 

ジェービースタジオ

https://maps.app.goo.gl/9e4UGETVqSXc9cZU8?g_st=ic

 

地蔵湯

https://maps.app.goo.gl/aQawDjFG3rvrCExm7?g_st=ic

 

ライブハウス ボトムライン

https://maps.app.goo.gl/D2AE1FUg3dme44k5A?g_st=ic

 

MIRAI TOWER

https://maps.app.goo.gl/34udDY8Qbg4b3SqF7?g_st=ic

 

Hisaya-odori Park

https://maps.app.goo.gl/rQ53Erxs6RZPv3JC9?g_st=ic

 

喫茶M

https://maps.app.goo.gl/3EMkS3MqbN6yhQrA6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

かつて一斉を風靡したロックスターの「男」は、刑期を終えたのち、近くの安アパートに入居することになった

そこには、外国から出稼ぎに来た人や訳ありの人もたくさんいて、隣にはどうやら母と娘の二人暮らしが住んでいるようだった

 

「男」はいくつかの場所で面接を受けるものの、どこも採用されず、ようやく清掃会社で働けるようになった

そこには、「男」のファンを公言する先輩の寺田をはじめ、隣の部屋の娘こと「女」もそこで働いていた

 

ある日のこと、「女」が歌っているところに居合わせた「男」は、彼女に才能があると感じ、かつて世話になった音楽プロデューサー矢吹のもとを訪れた

不義理を果たした「男」を冷たくあしらう矢吹だったが、「男」の話に興味を持ったアシスタントの望月は、スケジュールを調整する方向へと動き出した

 

テーマ:音楽がつなぐ過去

裏テーマ:人生において捨ててはならぬもの

 


■ひとこと感想

 

予告編の情報だけ仕入れて鑑賞

懐かしの歌手が訳ありミュージシャンを演じていたので、どんな話になるのかな、と思っていました

主人公には名前がない「男」表記ではあるものの、本人の過去を当て書きしたような感じになっていました

この役を引き受けるに至った経緯はわかりませんが、本作は「女」役の遥海を売り出す意味合いもあったので、そのコラボレーションを実現させたかったのかな、と感じました

 

映画は、ミュージカル経験もある遥海を起用しているので、何箇所かのミュージカル演出がありましたね

歌唱シーンもたくさんある音楽映画ですが、腑に落ちないのは「英語詞で歌う理由」でしょうか

遥海自身がフィリピン出身で、「女」もハーフを思わせる感じになっていますが、日本語も堪能だったので唐突な英語詞にはびっくりしてしまいました

 

彼女にファンがついていく過程なども描かれますが、歌っている内容がわからないのに一般大衆が歌声だけで獲得できるのかは疑問に思えました

帰国子女設定で、日頃のコミュニケーションが頼りないけど、歌だと自分を出せるとかなら良いのですが、この内容だと「一生懸命歌っている人に何かしらの感動を覚えているだけ」という感じになっているので、普通に日本語詞にした方が良かったんじゃないかな、と思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、才能を見つけた元ミュージシャンがその手助けをすると言うもので、クスリで捕まった余波をもろに受けることになりました

世話になった人に詫びも入れていないなんてセリフがありましたが、詫びを入れても関わりたくないの一辺倒だったかもしれません

そんな中で、ある「女」に出会うと言う流れになっていて、過去のしがらみを超えてでも、この「女」のために何かできないか、と奮闘する様子が描かれていました

 

稀に固有名詞を持たないキャラが主人公と言う映画はありますが、そのような場合は「一人称視点」であることが多いと思います

固有であり普遍的と言う目的がありますが、本作の場合は「男」「女」は固有に寄りすぎているキャラで、普遍的な要素はほとんどありません

なので、わざわざ名前をつけなかった意味というのはよくわかりませんでした

 

個人的には、キャラに名前をつけない作品はあまり好みではなく、名前に吹き込まれた命を軽視しているように思えてしまいます

特に「女」はこれから世の中に出ていく女性であり、生まれや出自に関しても意味のあるキャラで、さらに会話は日本語、歌は英語と言うキャラクターになっています

なので、普遍的な要素はほぼなく、彼女自身の物語がそこに凝縮されているのですね

それを考えると、きちんと考えられた名前をつけてあげる必要性はあったように思いました

 


固有名詞を捨てる意味

 

本作の特徴的な部分は、固有名詞がないというもので、名前があるのが男の職場の先輩・寺田と音楽プロデューサーの矢吹、アシスタントの望月だけになっていました

あえて固有名詞をつけていない作品は多くありますが、主人公以外の人物にこれだけ固有名詞がない作品も珍しいと思います

通常、一人称視点で描かれる作品だと、自分以外には固有名詞があって、語り手は「僕、私、俺」などの視点で語ることになります

でも、第三者視点だと語り手が識別するための名詞が必要になっていて、それをあえて「男」とか「女」というように、誰にでも当てはまるような言葉を用いています

 

主語が大きくなっている場合は、不特定多数の観客が重なる視点というものをたぐることが多いのですが、今回のキャラは一般人と視点が重なる部分がほとんどありません

ロックスターになれる人間は限られていているし、ドラッグに溺れて人生をダメにする人も限られている

歌唱力があっても、音楽関係者の目に留まって、人生を賭けてプロデュースされる人もほとんどいません

なので、観客目線だと、男も女も強烈な固有名詞化していて、自分との距離を感じていることになります

 

この構造を考えると、男も女も実際にいる人物で、それを特定されたくないということになります

ぶっちゃけると男は演じている人そのものだし、女もこれから売り出そうとする歌手であると思います

音楽プロデュースを形作る過程というものがそのまま物語になっているけど、あえて誰なのかは描かない

それは、男は合致する人がいるけど、女になる可能性がある人はたくさんいるという意味なのかもしれません

なので、歌い続けることで、妙な縁を持つ可能性があり、このような出会いがあるかもしれないということを示唆しているとも言えます

それでも、現実的な話、そのへんで歌っていて誰かの目に止まるなんてことを想像して歌い続ける人はほとんどいないと言えるので、あくまでもファンタジーなんだなあと思ってしまいますね

 


音楽を捨てることはできるのか?

 

男はロックスターでありながらも堕落し、業界に帰ってくることは許されない人物でした

それでも彼から音楽を奪うことは難しく、それはライフワークに近いものだからだと思います

人は何らかの方法で自分を表現していて、それがクリエイティブな世界になる人もいます

そう言った自分語りに価値がある人間になるのは色んなものが必要になりますが、自分自身が食べていくのに困らない方法を用いることで、もう一つの人格化を目指すことはできます

 

ほとんどの人は、趣味と実益を分けて考えていて、稀にそれが一致しつつ生活の糧にできる人がいます

音楽活動をしている多くの人はプロを目指していないし、カラオケに行くほとんどの人は歌手を目指していません

自分の日記を綴る人も作家を目指さないし、SNSで自分を曝け出す人もほとんどは自分の中で完結していて、それがたまたま自己顕示欲として表層に出ているのだと言えます

誰しもがそんな夢を見ながらも、そこにいける一部ではないと感じていて、それを理解しつつ、夢物語を捨てないことで何とか生きている、というのが現実であるように思えます

 

男の過去はわかりませんが、自分を曝け出すことを音楽を通じて行っていて、その情熱というものが誰かの目に留まったのでしょう

時代の流れの中で、金になると感じた人が本気になったために機会が与えられていたのですが、彼は運良くその時流に乗ることができたのだと言えます

10年遅かったら、10年早かったら、というように、機会が仕事になるには奇跡的なタイミングが必要になってきます

そして、それを掴んでしまった人は、もう一度その世界に帰りたいと願うのですね

 

男がギターを捨てられないのはそういう理由があるのですが、もう一度ステージに立てても同じようにスポットライトを浴びられるかはわかりません

でも、男が純粋に、今の自分を誰かに曝け出して、それが誰かの教訓になるのなら、神様は奇跡的なタイミングを用意してくれるかもしれません

それは願っている間には訪れず、そう言った邪念が消えた時にふと訪れるものでしょう

それがもう一度起こるかはわかりませんが、彼は残りの人生を賭けて、これまでに支えてくれた人に恩返しをする必要があるので、その最良の方法が音楽になってしまうのだろうなあと思ってしまいます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、男を演じた中村耕一への助け舟と、遥海を売り出すためのプロジェクトの一環だと思います

歌の上手い人をどのようにスターダムに上げるかというキャンペーンの一環で、今では色んな方法で、大人の仕掛けが施されていると思います

カラオケ大会に素人混じって歌わせたり、路上ライブでSNSでバズらせたり、色んなプロモーションがある中の一つで、意外とお金をかけたまともな売り出し方のように思います

SNSでバズらせるタイプはほとんどステマのような感じで、切り抜きやらで意図的に拡散させて、いかにもバズっているように見せかけているものもあります

 

どんなアーティストでも個人的な活動が最初にあって、それを業界の人が見つけて、という流れは同じだと思います

稀に自分たちの活動からインディーズで売り出してバズるという人もいますが、ほとんどの場合は業界でどのようにプッシュしていくかということを考えます

プロになれても、チャンスは2回か3回ぐらいで、そこで結果が出なければ、契約自体が更新されなかったりします

そこで、大人たちとチームを組んであれこれとしていくのですが、各アーティストにかけられる費用というのは、事務所やレコード会社の期待値がそのまま反映されていると考えられます

 

全く聞いたことのない人がいきなり映画の主役に抜擢されて、しかも大御所がサポートに回っているし、有名な俳優さんもたくさん登場している

かなり期待値が高く重圧があると思うのですが、今の時代だとギャンブル性が高い印象があります

それに予算を投じれるほど強力な何かがあるのだと思いますが、大人たちの思惑通りにバズらせるのはかなり難易度が高いのですね

それは、個人の発信力が増えたからというよりは、情報を見極める力をつけた人が増えたからであると思います

 

どのようなプロジェクトにしても、その裏側をどのように見せるのかというのが今は重要な時代になっています

ステマという言葉が流行ったように、そう言った偽情報への感知能力がかなり高まってきているのですね

それは、情報の背景にあるものが色んな方向から暴露される時代になっていて、本当に純粋に見えるもの以外は排除される傾向にあるとも言えます

なので、計算されたバズりができないのは、バズらせようと思う心が見透かされるからであり、本当にバズっていくものは、純度の高いものが稀に誰かの琴線にふれるという構造になっていて、それは誰にも読めないのですね

純度を維持しつつ、どれだけの期間磨き続けられるのかを問われている時代でもあると思うので、そう言った要素を無視した大掛かりなプロジェクトほど失敗する確率が高まっているのではないか、と感じています

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/99596/review/04379257/

 

公式HP:

https://hajimarinohi.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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