■燈火は心の中だけで輝いても、その役割を全うしてしまうのかもしれません
Contents
■オススメ度
ネオンに興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.25(京都シネマ)
■映画情報
原題:燈火闌珊(薄暗いネオン)、英題:A Light Never Goes Out(ネオンは決して消えない)
情報:2022年、香港、103分、G
ジャンル:亡き夫の最後の仕事に取り組む妻を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:アナスタシア・ツァン
キャスト:
シルヴィア・チャン/张艾嘉(ジャン・メイヒャン/江美香:ビルの妻)
(青年期:アルマ・クオック/郭尔君)
サイモン・ヤム/任达华(ヨン・チャンビル/楊燦鑣/ビル:腕利きのネオン職人)
(青年期:ジャッキー・トン/唐浩然)
セシリア・チョイ/蔡思韵(チョイホン/彩虹:メイヒャンの娘)
(幼少期:ワン・ヤウハン/温悠)
シン・マク/麥秋成(ロイ:チョイホンの婚約者、建築家)
ヘニック・チョウ/周汉宁(レオ/李登龍:ビルの弟子)
レイチェル・レオン/梁雍婷(ヴィクトリア/沈小姐:ヤンの過去の顧客)
ベン・ユエン/袁富華(ウォン/黃師傅:ビルの親友、ネオン職人)
グレタ・リー/李欣如(ウォンの妻)
ミミ・クン/龚慈恩(リウ・メイライ/劉妙麗:夫の遺品の手紙の宛先人)
チェン・ツゥアン/陳圖安(認知症を患っている劉妙麗の夫)
ヴァロラ・フー/许月湘(少女)
マク・シチュウ/麦志超(警官)
チュー・ウェイエイ/朱伟业(イプ氏:ネオン撤去)
クリスタル・リー/李佩贞(イプ夫人)
■映画の舞台
香港:
ロケ地:
香港のどこか
■簡単なあらすじ
香港でネオン職人をしていた夫を持つ未亡人のメイヒャンは、夫が残した借金に頭を抱えていた
法改正によってネオンが次々と撤去される中、方針転換をしなかったために事業の赤字が膨らみ、さらにSARSが猛威を振るったことで、事業を終わらせるしかなかった
メイヒャンが遺品を整理していると、10年前に閉めたはずの工房の鍵を見つける
変に思ったメイヒャンが工房に行くと、そこには見知らぬ若者レオが住み込みで工房を続けていた
だが、光熱費や家賃などは滞納したままで、今にも追い出されそうになっていて、決断を迫られていた
そこでメイヒャンは夫がやり残した仕事を見つけ、レオとともにそれを終わらそうと考える
そんな折、一人娘のチョイホンは彼氏を家に連れてきて、結婚してオーストラリアへ行くと言い出す
目まぐるしく変わっている流れに翻弄されながら、メイヒャンはネオンにこだわりを見せ、レオの発案でクラウドファンディングを始め、最後のネオンを作ろうとのめり込んでいくのである
テーマ:ネオンと街
裏テーマ:伝統と法律
■ひとこと感想
香港の100万ドルの夜景を支えてきたネオンにまつわる物語で、映画は老齢期と若年期と現在と言う3つの時間軸が入り乱れる天下になっていました
ガラス管を曲げる作業などを出演者が実際にレクチャーを受けてやっていましたが、シルヴィア・チャンの手元アップの時はボディダブルになっていましたね(字幕にそう書いてありました)
物語は、10年前に終わったはずの攻防を見知らぬ若者が続けていたと言うもので、レオも切羽詰まっていたので、決断を考えていました
風の知らせなのか、夫の意思なのかはわかりませんが、あの瞬間にメイヒャンが鍵を見つけたこと、胸騒ぎをしたことで、ネオンの火はそこで途切れることはありませんでした
映画は、夫の最後のネオンを完成させる中で、夫のある秘密を知ってしまうと言うもので、予告編でここまで見せてしまうのはどうなんだろうと思ってしまいました
とりあえず大画面でネオンを堪能する映画で、現職のネオン職人さんたちの偉業と、見たことのあるネオンがたくさん登場するエンディングは良かったと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ネオン職人映画ではあるものの、作り方はガラス管を曲げるところぐらいで、実際にどのようにして作り上げていたのかははっきりとはわかりませんでした
ラストでは屋上で手紙の主のネオンを完成させますが、このネオンの制作過程を端折っていたのはもったいなかったように思います
物語は、夫の喪失をいかにして埋めるかという流れの中で、次々に自分の周りから人が去っていくように描かれていきます
夫の仕事にそこまで連れ添ってきたわけではないのですが、いざ終わってしまうとなるともの寂しさを感じてしまう
回想録のほとんどがネオンとともにいる夫との時間になっていたので、その初々しさがいつの間にか消えてしまったようにも思えてきます
そんな時に「夫が出せずにしまっていた手紙」と言うものが登場するのですね
自分以外にも女がいたのでは!と思わせておいて、実はそんな男ではなかったと言うのは憎い演出のように思えます
最後に手紙の主と夫が登場しましたが、記憶はどうなったんでしょうねえ
表情から察するには良い方向なのかなと思いました
■ネオンを取り巻く法整備
本作に登場するネオンは「発光ガス放電管」によって点灯する電気看板で、1910年頃から普及し始めました
その後、1920年〜1950年にかけてアメリカのタイムズスクエアなどを彩るようになります
密閉ガラス管の中に希薄ガスが入っていて、電極に電圧が加わるとグロー放電が始まります
19世紀後半に発明された「ガイスラー管」の進化版とされていて、様々な色があるのは「ガラス管内のガス」と「蛍光体コーディネイト」によるものでした
そのガスは窒素または二酸化炭素を使用し、圧力を維持するようにできています
初期のガイスラー管はイギリスの科学者ウィリアム・ラムゼー(William Ramsay)とモリス・W・トラバース(Morris William)によって開発され、その頃は赤い光が主流でした
1904年にパーリー・G・ナッティングによって「ネオン」という言葉が使用され、セントルイス万国博覧会にて展示されたとされています
同じ頃、フランスのジョルジュ・クロード(Georges Claude)の会社エア・リキードにて、本格的な工業用ネオンの生産が始まります
ネオン照明の革命的な技術革新は「蛍光管コーティングの開発」で、ジャック・リスラーによって特許が取得されています
アルゴンと水銀の混合ガスを使用するネオンサインは、大量の紫外線を放出し、蛍光コーティングによって独自の色合いを持つことになりました
その後、第二次世界大戦が終わり、カラーテレビで使用するための蛍光体材料の研究の結果、1960年までは24色だったものが100色近くまで使用可能となりました
香港でネオンが消えることになったのは、2010年から始まった「軽工事管理制度」で、建築局は「無許可の建築工事」に対して法定命令を出していきます
これによってネオンサインが標的になって、撤去されることになりました
看板が無許可であると指摘された場合、撤去して新しいものを設置するか、看板検証スキームに基づいて再申請することになります
この手続きが煩雑で、関連費用が高額になると考えられていて、撤去の方向に進む事業者が増えました
事業主は、政府の請負業者による5年ごとの検査を受けなければならなくなります
ちなみに、看板の再検証で932件の申請のうち、承認されたのは約半分だったという報告もあります(2013年〜2022年まで)
撤去し、より安価なLED看板に付け替える業者が増え、それによってネオンサインが減りつつあります
この背景にはネオン管に密封されているガスに対する環境活動家などの影響があるとされていて、その活動の標的になっているのですね
また、劇中で登場するようなネオン職人の減少によって作り手、維持・修理する担い手が減っていく傾向にあり、撤去せざるを得なくなるという場合も増えている言われています
■ネオンの未来
ネオンは一部の職人が維持していく伝統芸能のようなものになり、大掛かりなものは現存のものが直せなくなると消えていく運命にあると思います
LEDの普及により、安価な装飾も増えてきているので、コストのことを考えるとネオンは太刀打ちできません
LEDネオンは1万時間ほど点灯しますが、ガラスネオンは3千時間ほどになります
寿命の差は約3倍で、ずっと点灯させていると125日と416日の差になってしまいます
ガラスネオンの場合は、アルゴンなどのガスを使用するために、消防法による規制があります(日本の場合)
消防機関への届出が必要になっていて、LEDに関しては現在はそのような規制がありません
このような背景があるので、同じような効果を考えられるLEDの方にシフトしていくと思われます
手作りの看板が大型印刷機の登場によってプリントアウトされたものに変わったり、今では立体看板なんてものもあります
ガラスネオンの良さもありますが、それにこだわる人がどれだけいるのかは何とも言えないところなのですね
表現方法は様々な発明や進化によって形を変えていきます
ガラスネオンに関しても、ガラスネオンの色合いを再現できるLEDネオン、もしくは映写型サインのようなものが登場すれば、あの色あいを再現できるかもしれません
何を目的とするかによりますが、ガラス工芸品として残すのか、電飾としての表現方法として残すのかによって、その方法や目的は変わって来るのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ネオン業界の栄枯盛衰(主に盛衰の部分)を描いていて、その未来が提示されることはありません
最終的に、一夜限りのネオンを完成させることになったのですが、これは何かしらのクライアントの個別の要求に応えることで村座奥できるというところに行き着いているように思います
そして、その仕事を完遂しようとしていたレオとメイヒャンを引き合わせたものは何だったのか?というものになります
夫が店を閉めて10年間、これまで何度となく開けていた引き出しにそれを見つけたというのは、夫がレオの限界を知って引き寄せたように思えます
その過程において、メイヒャンは夫からの愛を疑う瞬間で出てくるのですが、それは消えゆくメイヒャンの夫への執着を再燃させることになったように思います
夫の秘密を知って、そこに登場する第三者によって、夫の人柄や愛というものが再確認される
メイヒャンの中で変化が起こったわけではないのですが、このような事柄は定期的に起こるものだと言えます
映画は、消えゆくネオンの寂しさを描いていく一方で、商業的なものから逸れても生き残るという可能性を描いていきます
確かにネオンを店舗などの看板として使うのにはハードルが高くても、瞬間的な思い出を作るために作ることもできるし、ガラス工芸の体感ツアーのようなものとして生き残ることもあります
ネオン自体が商売にならなくても、LEDネオンを商売の核にして、その余力でガラスネオンの細工で工芸品や小規模で別の用途のものを作ることも可能でしょう
彼らが完成させたのは一夜限りのものではありますが、常時点灯ではなく、あの屋上に来た時だけ見るというものだと規制は関係なくなりますし、ミウライ夫妻の元にあれを届けることも可能だと思います
ガラスネオンの製作自体が規制されているわけではないので、その火を完全に消すことができないのは、愛そのものと同じように感じられます
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/97978/review/03408788/
公式HP:
https://moviola.jp/neonwakiezu/