■わからないことだらけの「緑の夜」ですが、観念的に捉えた方がしっくりくるのかな、と感じました
Contents
■オススメ度
訳あり女のバディムービーに興味がある人(★★★)
ファン・ビンビンのファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.25(アップリンク京都)
■映画情報
原題:綠夜、英題:Green Night
情報:2023年、中国、92分、G
ジャンル:中国から韓国に逃げた女と緑色の髪の女を描く犯罪映画
監督:ハン・シュアイ
脚本:ハン・シュアイ&ワン・ジン
キャスト:
ファン・ビンビン/范冰冰(ジン・シャ/金霞:中国から韓国に逃げた女)
イ・ジュヨン/이주영(緑の髪の女)
キム・ヨンホ/김영호(イ・スンフン/李升勳:ジン・シャの夫)
キム・ミングィ/김민귀(ドン:緑の髪の女の彼氏)
ユン・ギチャン/윤기창(ジン・シャの上司、次長)
ユ・ビョンソン/유병선(パク:魚市場のボス)
ソン・ミンフィ/손민희(麻薬売人のおばさん)
オム・ジマン/엄지만(事件担当する主任刑事)
パク・ノギョン/박노경(警官)
チョ・ヨンハン/조용환(ポニーテールの男)
ガオ・ハイシン/Gao Haixing(ジンシャのマンションの大家)
グレイザ・カストロ/Glaiza de Castro(東南アジアの女性)
クォン・ギハ/권기하(女装趣味の男)
リュ・セイル/류세일(ボーリング場の店員)
■映画の舞台
韓国:
仁川国際空港
ソウル
ロケ地:
上記に同じ
■簡単なあらすじ
中国からとある事情で逃げてきたジン・シャは暴力的な夫スンフンとも距離を置いていた
彼女は仁川国際空港にて検査官として働いていたが、日々が充実しているものとは思えなかった
ある日、緑色の髪の毛の女が検査場を訪れ、そこで何らかの反応が出てしまう
次長は「常連だから通せ」と言うものの、緑の髪の女は出国を辞めてどこかへと消えてしまった
仕事を終えたジン・シャはバスに乗り遅れてしまうものの、そこで緑の髪の女がやってきて、「検査場で脱いだ靴を返して」と言い出す
そこでジン・シャは彼女を仮住まいのアパートに連れていくことにした
女はあるルートから手に入れたブツを捌くためにソウルに連れて行く予定で、ジン・シャはやむを得ず、彼女と一緒にソウルに行くことになったのである
テーマ:暴力と自由
裏テーマ:同化と伝承
■ひとこと感想
内容をサラッと調べていたら、主要キャスト以外の情報が皆無でどうしようかと途方に暮れていました
本編もほぼ4人だけなのかなあと思っていたら、次から次へとキャラが出てきていましたね
ほぼ韓国が舞台なので、韓国人キャストがたくさん登場していたのですが、韓国語のサイトでもほとんど情報がありませんでしたね
映画は、訳あり女のヤバいお仕事系で、案の定アブない男がたくさん出てくる感じになっていましたね
そんなダークな世界に入っていく普通の女が主人公で、だんだんと後には引けない状態を作り出していきました
映画はノワール調ではありますが、やや単調で説明されない部分が多かったりしますね
ある意味、雰囲気系の映画で、男に痛めつけられ続けてきた女が傷を舐め合うと言うシーンも濃厚に描かれていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
中国から来た訳あり女をファン・ビンビンが演じると言うメタ要素は置いといて、お嬢様系が暴力夫から性暴力を受けたりと、かなりハードなシーンがありました
映画の冒頭で「性暴力があります」と言う表記を見たのは初めてだったので、世間のこの問題に対する感度はとても高いのだと思います
物語は、緑の髪の女の世界に引き込まれていく主人公を描いていて、その二人ともが男運が皆無と言うキャラクターになっていました
主人公のDV男もさることながら、男の着信ネームが「イ」になっていたのはびっくりしましたね
夫でもなければ敬称もないところに夫婦の関係が冷め切っていたことがわかります
映画は、中国から韓国に渡ってきた理由が描かれますが、その問題は途上で終わってしまったように思います
それでも、あの場所で犬以外にも色んなものがあったので、その気になれば大金を得ることもできたように思います
とは言え、なんで警察は事件を隠蔽したのかは、最後までわかりませんでした
■傷を舐め合った先にあるもの
ジン・シャは母親を探すために韓国に来ていましたが、その詳細は語られることはありませんでした
また、夫イ・スンフンがどこに住んでいるのかもよくわからず、追いかけてきて韓国に住んでいるのか、元々一緒に韓国に来たけど別居しているのかはわかりません(どうやら韓国に来てから結婚したのか、韓国内に留まるための偽装結婚に近いもののように思えます)
これらの設定があやふやなのですが、夫は暴力的で、それから逃げていたということは確定事項のように思えます
同じように、緑の髪の女も彼氏は相当なクズで暴力的であることが示唆されていました
最終的に緑の髪の女がどうなったのかは描かれませんが、始末されたと考えるのが妥当なのだと思います
この二人は偶然の巡り合いで行動を共にしますが、二人の苦悩は同質でかつ、性的な欲求も近しいものがありました
二人の絡みが官能的ではありますが、セックスというよりは傷を舐め合っているように思えてきます
ラストでは、ジン・シャが彼女のヘアスプレーを使って髪の毛を緑色に染めるのですが、彼女のような生き方に憧れを抱いていたのかなと思いました
これはセックス以上の快楽を生む精神作用で、それはジン・シャを強くさせていきます
そうして一体化した先に、エンディングが待っていたのではないでしょうか
憧れは人を弱くすると言いますが、二人の場合は「捕食」のような意味合いの方が近いように思えます
緑の髪の女を取り込むことによって一体化するのは、ジン・シャ自身の弱さを解消するための儀式のようにも思え、そして彼女の力を借りて、恐れを克服する世界へと旅立って行ったようにも思えました
ジン・シャにとっては、この先の人生の方が大変だとは思いますが、覚悟を決めた人間ほど強いものはいません
それは監督自身が青春期に観た「覚悟を持って韓国の地に降り立った人々」が重なっているように思えてしまいます
■勝手にスクリプトドクター
本作は、女性を救うのは女性というプロットの軸があって、その脅威は男性の暴力性であると結論づけているように思います
その暴力性の排除こそがゴールになっていますが、それを成し得るのに個人の力ではどうにもならないのですね
この時に男の腕力を借りると、その男の影響下に入ってしまうので、それを回避するためには同性の力を借りるしかありません
映画では、この二人の友情とその同化を描いていくのですが、説明らしきものがない雰囲気的な部分が多いのと、最後に犬を連れていくなど、よくわからないシーンが多かったように思います
ジン・シャを取り巻く環境としては、警察も上司もヤクザもグルで、それに気づいてしまったために狙われているという構図になっています
実際には、それらの権力が彼女を脅かすことはないのですが、少しずつ行動範囲が狭められていくかのような閉塞感というものは感じていました
それが最終的に解放となるのですが、緑の髪の女の顛末と、何が変わったのかがはっきりとわからないというもどかしさがありました
ジン・シャの物語の始まりの時点での状況というものが明確でない以上、何がどう変化したのかというものを推し量ることができません
その状況というものも「なぜか中国から来た」「どうやら母親を探しているらしい」「夫らしき男も韓国にいるがかつて一緒に住んでいたらしい」というように、小刻みに判明していくものばかりになっていました
設定をサプライズにすることで、映画のスタートというものが非常に遅れて始まってしまうので、ある程度の全貌が見えた頃に「ようやく始まるのか」という感じになっていました
緑の髪の女との関わりによって、ジン・シャはこれまでにはない人生を歩むことになりますが、その変化というものは明確ではないように思えます
緑の髪の女の彼氏の家にあったバックを拝借することもなく、ただ育てる人がいなくなったので犬を保護した、という感じになっていましたね
彼女は韓国内に留まっておく理由が残されたままのように思えますが、中盤あたりでその問題はどうでも良くなっているように見えました
失踪した母親への思いに折り合いがついたのか、夫婦間の問題が片付いたから逃げる必要がなくなったのか、ぐらいはきちんと描いても良かったでしょうね
それを端的に示すなら、自分の部屋を燃やし、緑の髪の女の彼氏の部屋もドラッグごと燃やすことになる、というようなビジュアルのわかりやすさが欲しかったように思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、緑の髪の女によって非日常に連れていかれるというもので、その導入となるのが搭乗検査ということになります
仁川国際空港からどこへ行くのかはわかりませんでしたが、「じゃあ良い」とやめたのに空港の外にいるのは出国検査だったのかな、思いました
その後、緑の髪の女はなぜか行き先をソウルに指定し、持ち出せなかったブツを国内で捌くことになります
そして訪ねた先が魚市場で、持ち込み先不明のために断られることになっていました
この一連の流れが結構意味不明で、仁川国際空港からソウル市内に行くなら鉄道か車での移動になるので、突如行き先を変えたということになります
本来なら「国外にブツを流す」というものを検査でヘソを曲げているにも関わらず、行き先を勝手に変えていることになります
おそらくは他国からの持ち込み、それをジン・シャが不審に思ったものの、上司はいつもの荷物だと看過せよという流れだったと思うので、流れ的には別の者が対応して通すという方が意味が通じると思います
そして、靴を無くしたからソウルに連れて行けというのですが、検査場で靴を返さないということはないので、この流れがすごく不自然に思えました
緑の髪の女は、何らかの意図でジン・シャに近づき、既定路線を変えることにしたのだと思いますが、このあたりの心理的な変化、思惑が不明瞭で、最後まで何をしたいのかわからないキャラになっていましたね
まるでジン・シャを異世界に導くの亡霊のように、最初から最後まで本当はいなかったのでは?と思えてしまうほど不思議な存在になっていました
このあたりが雰囲気系っぽいところがあり、抑圧されたジン・シャが都合の良い何かを見ていたようにも思えてきます
実際には、彼女と同行しなければ辿り着けない場所に行っているのですが、それが母親探しとリンクしている方が意味が通ったようにも思えてきます
別居して母親探しをしていることを夫は知っているのかも不明ですが、それを理由にして、中国から出てきているようにも思えます
彼女が欲しがった3500万ウォンはどうやら永住権を買うためのお金のようですが、そのお金を与えようとする緑の髪の女の意図はわかりません
真面目に見ているとわからないことだらけで、緑の髪の女がドラッグを横流しするリスクを負ってまでジン・シャと関わったのは、彼女といたら逃げられると考えたのか、これで何かを終わらせようとしたのかはわかりません
おそらくは、今の暮らしに終止符を打つタイミングを考えていて、そこにジン・シャが現れたのだと思います
それによって、意味不明に見える行動の果てに決着をつけることを考えていましたが、その結末は何をしても同じものだったのかな、と感じました
映画は、そのあたりの理路整然さはないものの、ジン・シャが緑の髪の女と関わったことで新しい人生が開けていくように描かれています
かなり観念的な映画なので、合う合わないははっきりしているのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100264/review/03408787/
公式HP:
https://midorinoyoru.com/