■笑顔は、愛に満ちた「NO」も連れてくる


■オススメ度

 

頑固ジジイの変化を見たい人(★★★)

王道のドラマを見たい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.3.10


■映画情報

 

原題A Man Called Otto

情報2022年、アメリカ、126分、G

ジャンル:妻に先立たれた頑固爺さんが新しい隣人とふれ合う中で変化していくヒューマンドラマ

 

監督マーク・フォスター

脚本デビッド・マギー(オリジナル脚本:ハンネス・ホルム、2015年)

原作フレデリック・バックマン/Fredrik Backman(『A Man Called Ove(邦題:幸せなひとりぼっち、2013年)』)

 

キャスト:

トム・ハンクス/Tom Hanks(オットー・アンダーソン/Otto Anderson:妻に先立たれた気難しい老人)

 (若年期:Truman Hanks

 (少年期:Bodhi Wilson

 

マリアナ・トレビーニョ/Mariana Treviño(マリソル:オットーの向かいに引っ越してくるメキシコ人)

マヌエル・ガルシア=ルルフォ/Manuel Garcia-Rulfo(トミー:マリソルの夫)

Christiana Montoya(ルナ:マリソルの娘、7歳)

Alessandra Perez(アビー:マリソルの娘、5歳)

 

レイチェル・ケラー/Rachel Keller(ソーニャ:オットーの亡き妻)

Greg Allan Martin(ルーカス:ソーニャの父)

Ira Amyx(オットーの父)

 

キャメロン・ブリットン/Cameron Britton(ジミー:オットーのご近所さん、ゆっくりウォーキング)

マック・ベイダ/Mack Bayda(マルコム:オットーの家にチラシを配る青年)

 

ファニタ・ジェニングス/Juanita Jennings(アニータ:オットーのご近所さん、ソーニャの親友)

 (若年期:Emonie Ellison

ピーター・ローソン・ジョーンズ/Peter Lawson Jones(ルーベン:アニータの夫、オットーの旧友)

 (若年期:Laval Schley

 

Mike Birbiglia(「Dye & Merika」管理営業)

David Magee(「Dye & Merika」現地派遣)

 

Kelly Lamor Wilson(シャリ・ケンジー:SNSリポーター)

Josephine Valentina Clark(アビー:インフルエンサー)

Josefine Lindegaard(ジュリア:インフルエンサー)

 

John Higgins(リー:ホームセンター「BEAVER HARDWARE」の融通が利かないスタッフ)

Lily Kozub(タイラー:ホームセンター「BEAVER HARDWARE」の副店長)

Tony Bingham(差額を払おうとするホームセンターの客)

 

Max Pavel(アンディ:オットーのご近所さん、柔軟体操)

Kailey Hyman(バーブ:オットーのご近所さん、犬散歩)

 

Peter Sipla(オットーの元上司)

Patrick Stanny(テリー:オットーの元同僚、合併でオットーの上役になった若手)

Allyson R. Hood(オットーの元同僚)

Carl Clemons(オットーの元同僚)

Connor McCanlus(オットーの元同僚)

Kristy Nolen(オットーの元同僚)

Dominick Marrone(オットーの元同僚)

 

Cindy Jackson(宅配人)

Jon Osbeck(軍医)

Elle Chapman(サラ:列車の切符窓口)

Bryant Carroll(車掌)

Julian Manjerico(病院のクラウン)

 

Spenser Granese(ニック:マリソルに車の運転を教える男)

Mark Philip Stevenson(葬儀屋)        

Barton Bund(ナイト:救命医)

Martina Castelli(救急看護師)

Nayab Hussain(エリス:オットーの主治医)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:ペンジルバニア州

ピッツバーグ

 

ロケ地:

アメリカ:ペンシルバニア州

Sewickley(墓地)

https://maps.app.goo.gl/o34qumTb52EETuXj9?g_st=ic

 

Ambridge(ベーカリー)

https://maps.app.goo.gl/aTu9C42A4ZWSB3TPA?g_st=ic

 

Pittsburgh/ピッツバーグ(ホームセンター)

https://maps.app.goo.gl/BPCrPjnSuQ89tTfB9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

70歳になるオットーは、妻に先立たれ、孤独な日々を過ごしていた

ある日、意を決してホームセンターに向かった彼は、そこでロープと金具を買って帰宅する

リビングの天井にそれを固定して自殺を試みようとしたオットーだったが、重みに耐えられずに失敗してしまう

 

翌日、オットーの住む区画に新しい家族が引っ越してきた

メキシコからやってきた家族で、小さな娘が二人いて、にぎやかな家族だった

挨拶に来た彼らを無碍に扱ったオットーに対して、「あなたはいつもそうなの?」とマリソルは苦言を呈した

 

オットーは日課として区画の見回りをしていて、私有地に勝手に入ってくる車を見張ったり、ゴミの分別などで小言をいう

誰もがオットーを煙たがっているように思えたが、それは単なる日常の一コマに過ぎなかったのである

 

テーマ:死ねない理由

裏テーマ:人生のギフト

 


■ひとこと感想

 

気難しい爺さんが煙たがられている話かと思っていましたが、それには理由があって、その理由は住民が知っているというものになっていました

そこに新しい家族がやってきて、住人たちの歪な日常に新しい風を吹き込んできます

 

オットーがマリソルの一家と出会うことで、何度も自殺を邪魔されるのですが、その都度に「彼が生き残る意味」というものを考えさせられます

妻に先立たれたことで生きる意味を見失う中で、その先には何もないと感じる

そして、オットーの現在がどのようにできたのかをマリソルとの関わりの中で思い出していくというストーリーになっていました

 

そこまで真新しい物語ではありませんが、演出と構成がとても丁寧で、わかっていても涙腺を刺激する内容になっています

生きていく中で、妻の存在は消えてしまったけど、妻が生きた証が残っている

それによって、オットーは余命をまっとうする旅に出ることができたのではないでしょうか

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ネタバレというほどのものはなく、物語の着地点がチラチラ見えているという内容になっていました

新しい家族との出会いの中で、擬似的に「子どもが生まれていた世界線を生きる」という感じになっていて、孫を抱くというサプライズまで起こります

 

マリソルの明るくて繊細なキャラクターが最高で、彼女のふくよかな感情と真剣に生きている様がオットーを刺激し続けていきました

少しづつ心を許していく中で、マリソルにだけ話す妻との生活

そして、オットーの人格がいかにして構成されているのかがわかるようになっています

 

頑固な人には頑固である理由があり、無愛想に見える人にもその理由がある

人との関わりをどこまで保てるかが人生の暖かさに直結していて、そういった意味において、笑顔でいることや感情に素直になることが大切なんだと気付かされますね

 


経験が重なる性格

 

オットーは気難しい性格をしていますが、彼に不快感を持っている人間は意外と少なかったように思えます

敵視しているほどではないものの、彼の小言に文句をいうのは「犬散歩のバーブ」だけで、他の人は「どちらかと言えば好意的に声をかける」関係だったと言えます

オットーが気難しいのは妻の不在が大きいのですが、それよりも自治会長時代に降ろされた遺恨というものが「妻の不在によって噴出した」という感じになっています

これまでは、妻との生活が全てで、他の住民に構っているヒマなどなかった

それが、妻が死んだことで時間を持て余し、他人の行動が目につくようになったということだと思います

 

オットーの妻は癌で他界しているので、死ぬまでの数年間(もっと長い間かも)は闘病に寄り添う形になっていたと想像できます

病気が発覚する前も妻一筋の男性だったように思えますし、そこまで他人との諍いはなかったのでしょう

唯一の許せないこととして、ルーベンの裏切りがあるのですが、その内容はまさかの「日本車を購入したから」というのは笑って良いのか悩むところかもしれません

この経緯を見ると、オットーは愛国心に溢れ、不正を良しとしない実直な性格で、それによって融通が効かないキャラクターであったと想像できます

 

彼は定年を迎えたところだったのですが、職場でのポジションもさほど良い場所だったようには思えません

会社が合併して、年下が上司になった恨みはあるようですが、それよりも職場内で孤立していたように描かれていましたね

この辺りの経緯はわかりませんが、オットーの正しさ至上主義を考えると、職場の馴れ合いというものは最大の敵であったように思えました

 

これらの積み重なった経験は性格をつくり、繰り返される事例によって強固なものになっていきます

性格というのは、ある事象に対する反応の積み重ねで、後発的なものが多いように思えますが、実際には幼少期の体験による「感情の揺れ」であると考えられます

子ども時代をどう生きて、その価値をどう生み出してきたか

オットーの幼少期は描かれませんが、仕事ぶりや対人関係のことを考えると、なんとなく想像できますね

また、彼の墓が個人葬ではないところも興味深いものがありました

アメリカの場合、お墓というのは個人個人にあるもので、墓碑が同じというのはこだわりがあるように思えます

このあたりの思い入れがオットーという人物を表現していて、その頑なに自分の信念を曲げない姿勢というものが、彼の性格の根幹にあるのではないでしょうか

 


心を溶かす、笑顔の正体

 

そんなオットーですが、メキシコから来たマリソル一家との関わりの中で、少しずつ変化を見せていきます

オットー夫婦には子どもがいないのですが、その理由は後半になって明かされます

また、オットーの回想録では晩年の妻は登場せず、若かりし頃の彼女だけを思い出していました

2年前に亡くなったということで、オットーが定年の60歳だとすると、若年期の年の差を考えても、近い年齢だったことは想像に難くありません

彼らの子どもの死は妻が若い頃のことで、おそらくは20年以上前のことだと思われます

なので、その後の妻が回想録に登場しないというのは、その時代への愛着とか後悔みたいなものが強く渦巻いているからでしょう

言い換えれば、オットーの精神は「子どもが亡くなった時に止まっている」とも言えます

それが妻にも起こったのかはわかりませんが、少なくともオットーのマインドはそうだったということになると思います

 

オットーは「妻子との幸せな時間」を持てなかった人物で、そんな彼の元に「二児を育て、三人目がお腹の中にいるマリソル」が登場するのですね

これは、オットーの想像し得ない世界で、彼のキャリアを考えると赤ん坊を抱き抱えることも、幼児の相手をすることも人生初のイベントだったと言えるでしょう

そして、これらの体験は意図したものではなく、単にマリソルのペースに巻き込まれただけというのが面白いと思います

 

マリソルは常に笑顔でいる人間で、家族もみんなほとんど暗い顔をしないのですね

常に笑顔が溢れている家庭だからこそ、オットーの不機嫌な態度というものに引っ掛かりを感じたのだと思います

マリソルが初対面のオットーに対して衝突を見せるのは、彼女自身のこだわりの強さというものがあるからでしょう

彼女もオットーに負けず劣らず自己中心的な性格をしていて、家庭内でもそれを遺憾なく発揮しています

それでも家族が反発しないのは、マリソルが笑顔でそれを行なっているからではないでしょうか

 

オットーとマリソルは同じ気質を持ち合わせながら、態度は真逆であるという対比があります

そして、オットーが生きることをやめている分、マリソルの生命力に引き摺られているところがありました

マリソルの笑顔は生命の力でもあり、それがオットーの心をも動かしていきます

そうした先にあった「その時」は、オットーの行動を根本から変えることになりました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画におけるオットーは、自分の遺産のほとんどをマリソルとマルコムに譲ることになりました

アメリカの場合、遺言執行人によって遺言が実行されますが、それがなかった場合は、ルールに則って最終的には直系卑属の範囲を拡大させていくことになります

オットーの場合だと、両親は死別しているので、オットーの兄弟、オットーの両親の兄弟などを経て、オットーの両親の兄弟の子どもなどのように相続できる人を広げていきます

 

オットー自身がこのような相続対象者との交流がないと思われる生活をしているので、本来ならば自殺をした後は好きにしたら良いという感覚だったのかなと思います

でも、マリソル一家との関わりの中で、「もしもの世界を体験したオットー」は、それらの全てを疑似家族の元へ送り届けることを決めます

オットーが収集していたものの価値をわかる人に残し、それが彼らとの関わりの中で生まれた、というのが物語の骨子であると言えます

 

オットー自身は子どもを持てませんでしたが、それと同等の価値のあるものに出会えたのだと思います

マリソル一家はオットーの大切にしているものを知っている唯一の住人であり、それを話せるまでの間柄になっていました

おそらくはアニータとルーベンもそのことを知っていますが、施設に行くルーベンとアルツハイマーが進行しているアニータに与える意味も受け取る意味もないと思います

アニータたちに行けば、必然的に疎遠の彼らの息子の元に行くわけで、それを考えると、その道を行く意味はないのですね

 

遺産というのは適正に使われることで意味を為します

車は運転されることで役割を得ますし、残されたお金も使われることで役割を全うできます

オットーは遺言の中で、娘二人の就学資金と言及していたので、彼なりにちゃんとした学校に行かせて、二人の可能性を伸ばしてやりなさいという親心があったのだと思います

本作はとても観賞後感の良い作品で、細やかな人間関係をきちんと描いていた良作であると思います

なので、アカデミー関連や大作の跋扈する中でも、一定のクオリティを有している作品なので、埋もれてしまうのは勿体無いなあと感じました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/386563/review/606fb8de-07c0-4620-afc4-2b4d0c151152/

 

公式HP:

https://www.otto-movie.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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