■世界を変える信念は、ベクトルの違う別の信念と融合した時に、爆発力を有するもの
Contents
■オススメ度
「エア・ジョーダン」誕生秘話を知りたい人(★★★)
ビジネス系映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.4.8(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Air
情報:2023年、アメリカ、112分、G
ジャンル:NIKEの「エア・ジョーダン」誕生秘話を描いたお仕事映画
監督:ベン・アフレック
脚本:アレックス・コンベリー
キャスト:
マット・デイモン/Matt Damon(ソニー・ヴァッカロ/Sonny Vaccaro:NIKEのスカウト担当者)
ベン・アフレック/Ben Affleck(フィル・ナイト/Phil Knight:NIKEのCEO、共同経営者)
ジェイソン・ベイトマン/Jason Bateman(ロブ・ストラッサー/Rob Strasser:NIKEのバスケ部門マーケティング責任者、共同経営者)
クリス・タッカー/Chris Tucker(ハワード・ホワイト/Howard White:NIKEバスケ部門、選手担当責任者)
マシュー・マー/Matthew Maher(ピーター・ムーア/Peter Moore:MIKEデザイン担当責任者)
マーロン・ウェイアンズ/Marlon Wayans(ジョージ・ランベリング/George Raveling:バスケ・アメリカ代表のコーチ補佐)
クリス・メッシーナ/Chris Messina(デヴィッド・フォーク/David Falk:マイケル・ジョーダンのエージェント)
ビオラ・デイビス/Viola Davis(デロリス・ジョーダン/Deloris Jordan:マイケルの母)
ジュリアス・テノン/Julius Tennon(ジェームス・ジョーダン/James R. Jordan Sr.:マイケルの父)
Damian Delano Young(マイケル・ジョーダン/Michael Jordan:NBAの新人バスケ選手)
Tom Papa(スチュ・インマン/Stu Inman:NBAのヘッドコーチ)
Joel Gretsch(ジョン・オニール/John O’Neil:バスケのヘッドコーチ)
Gustaf Skarsgård(ホルスト・ダスラー/Horst Dassler:アディダスのCEO)
Barbara Sukowa(ケーテ・ダスラー/Kathy Dassler:ホルストの母)
Jessica Green(カトリーナ・サインツ/Katrina Sainz:フィルの秘書)
Dan Bucatinsky(リチャード:NIKEの社員)
Asanté Deshon(セブンイレブンの店員)
■映画の舞台
1984年、
アメリカ:オレゴン州
ビーバートン/Nike World Headquarters
https://maps.app.goo.gl/tRYZykKRe2JKeHDK6?g_st=ic
アメリカ:ノースカロライナ州
ウィルミントン
https://maps.app.goo.gl/8F7Qa5nezzLQWbtb7?g_st=ic
ロケ地:
アメリカ:カリフォルニア州
ロサンゼルス
アメリカ:カリフォルニア州
サンタモニカ
■簡単なあらすじ
バスケットシューズ部門で低迷を続けるNIKE社は、起死回生の一手のために25万ドルで3選手を選ぼうと考えていた
だが、スカウターのソニーは「マイケル・ジョーダンに全てを集中させよう」と考える
CEOのフィルは猛反発し、共同経営者のロブも「彼はアディダスを気に入っている」と勝ち目がないと考えていた
諦めきれないソニーは、マイケル・ジョーダンのエージェントであるデビッド・フォークに打診するものの、正式なオファーがないと受けられないという
そこでソニーは、単身で彼の実家に出向き、プレゼンを受けさせて欲しいと懇願する
その行動に感化されたのか、母デロリスの説得によって、アディダス、コンバースの次にプレゼンを受けてもらえることになった
ソニーはシューズデザイナーのピーター・ムーアと共に「最高のバスケットシューズ制作」に取り組む
そして、運命の日を迎えることになったのである
テーマ:熱意と交渉
裏テーマ:信じることの難しさ
■ひとこと感想
「エア・ジョーダン」と言えば、「持ってたらカツアゲに遭う」という時代を知っていて、かなりの懐かしさを感じてしまいました
その制作秘話を描いているのですが、マイケル・ジョーダンが一切顔を見せないという、驚きの構成になっています
映画的には「NIKEとデロリス」のガチバトルという感じになっていて、母の心を動かせるかどうかという心理戦が展開されます
また、人を動かせるスピーチとは何かに言及していて、キング牧師のエピソードをうまく回収していました
映画は知る人ぞ知る内容ではありますが、懐古的な映画として、その時代に生きた人にとっては当時の出来事が蘇るようなショットが満載されています
マイケル・ジョーダンがどうして決断したのかまではわかりませんが、当時の年齢を考えると、母親の仕掛けというものが大きな影響を与えていたのでしょう
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
史実系なのでどこからがネタバレかはわかりませんが、結果を知っていても、ソニーの熱いプレゼント焦らされる時間の重みというものがよく伝わってきました
ジョーダンのプレイを見て、その深みに気づくソニーの眼力はすごいですが、契約が終わった後にセブンイレブンの兄ちゃんと交わす会話は最高でしたね
ファンの方が選手の凄さをわかっていて、商品価値を求める企業の視点とは純度が違うことが端的に示されていました
物語は「信頼」というものをどう結んでいくのか、ということを描いていて、人を説得するために必要なものを描いていきます
社内で孤立する中でも信念を曲げず、ジョーダンのプレイをわかりやすく説明するし、曖昧な表現を避けて直球で行くところも見応えがありました
ジョーダンとNIKEの契約によって、スポーツ業界のお金の動きが激変するのですが、単なる選手と企業の契約ではないところに深みを感じます
これが良い方向に向かったのかはわかりませんが、選手に求められるものがより高くなったようにも思えるので、夢は膨らむもののハードルは高くなったと言えるのかもしれません
■NIKEあれこれ
「NIKE(Nike, Inc)」はアメリカのオレゴン州に本社を構えるフットウェアおよびアパレルなどの設計、開発、製造を担う多国籍企業のことです
創業者はビル・バウワーマン(Bill Bowerman)とフィル・ナイト(Phil Knight)で、1964年に設立されました
当初の名前は「Blue Ribbon Sports」で、1971年に「Nike, Inc」となりました
名前の由来は、ギリシャ神話の勝利の女神ニケ(Nike)となっています
「Air Jordan」は、1984年に「Nike, Inc」が発売した物で、当時シカゴ・ブルズに所属していたマイケル・ジョーダンのために作られました
劇中で登場するピーター・ムーアの他に、ティンカー・ハットフィールド、ブルース・キルゴアも参加していました
1984年に5年間で250万ドルで契約を結び、これは当時の3倍の金額だったとされています
最初の3年で300万ドル稼ぐことを目標にしていましたが、最初の1年間で1億2600万ドルを稼ぎ出しました
「Just Do It(JDI)」はNike,Incの商標で、1988年に作成されました
Wieden+Kennedyの創設者であるDan Wiedenは、その言葉のインスピレーションとして、ゲイリー・ギルモア(Gary Gilmore)の最後の言葉である「Let’s do it.」だと語っています
ゲイリー・ギルモアは1940年死刑になった犯罪者で、罪状は2件の殺人罪、ほぼ10年ぶりに処刑が行われた事件でもありました
ちなみに、Nike, Incは自社で工場を持っておらず、生産拠点はインドネシア、中国、台湾、インドなどのアジアになっています
1990年代には「搾取問題」にて批判を浴びていますが、一部の国の情報開示は拒んでいます
1996年には、ベトナムの最低賃金に関する法律違反が取り沙汰されたり、カンボジアとパキスタンでは児童労働で問題になっていました
2014年には中国の工場でストライキがありましたね
また、2017年には脱税のためにオフショア企業を利用したことが明るみになっています
その他にもきな臭い事件は多数存在し、2021年にはウイグル自治区におけるウイグル人の強制労働なども表面化しています
■勝ち取るプレゼン力
企業としてはブラックな部分の多い企業ですが、本作では「あの瞬間」がかなり美化されています
ジョーダンがナイキに決めた理由というものが本作では登場せず、ソニーの名演説がクローズアップされていました
キング牧師の演説を引き合いに出して、雰囲気を察してアドリブをこなしましたが、この臨機応変さはプレゼンで最も有力な要素の一つとなっています
プレゼンは場の空気を読み解く力が必要で、相手にどれだけ伝わっているかを瞬時に判断しなければなりません
「プレゼン」とは「プレゼンテーション(Presentation)」の略語で、「表現」「提示」「紹介」などの意味があります
「Presentation」の由来は、ラテン語の「Praesentare」で「見せる」という意味があります
これは、言い換えれば「相手の脳内にイメージを見せる」という意味になり、目の前にはないものをいかに具体的に語れるかが鍵になっています
ソニーたちは、一足のシューズだけを提示しますが、これは「物語を想起させるため」のもので、「シューズが語る未来」を象徴的に示しています
ジョーダンたちも、NBAのシューズのルールは熟知しているので、そこで発生する罰金のことも頭に入っています
ソニーは、その罰金を「広告宣伝費」と考えることで、反則による各種メディアが巻き起こす論争を宣伝に変えようと目論んでいました
これらの総体的なプレゼンテーションと、臨機応変なレスポンスによって、ソニーの目的は果たされていきます
映画では、ジョーダンもしくはデロリスが「決めた瞬間」を見せないのですが、そこは「聞くだけ野暮」なのかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、ほぼナイキの宣伝映画なのですが、開発秘話などの物語は「歴史が動いた瞬間」を見た気分になるので、多少の誇張やドラマティックな味付けはOKだと思います
本作だと、「Air Jordan」に決まった由来とか、ロゴマークが誕生する瞬間がピークで、それこそがファンが見たかった物だと言えます
本作は、ナイキと一緒に大人になった人向けの作品になっていて、随所に80年〜90年の音楽が多用されていました
当時の映像もたくさん使われていて、「懐古映画」としては類を見ないほどの情報量となっています
中でもブルース・スプリングスティーンの「Born in the U.S.A」の歌詞の思い違いなどは懐かしく思います
また、お仕事映画あるあるとして、「企業理念」が随所に出ていたのは楽しかったですね
簡潔にまとめられて、覚えやすい最良の理念だと思います
もっとも、経営陣が歪んで解釈しているところも、当時の楽曲の思い違いと同じように、揶揄されるべき案件なのかもしれませんね
本作は、わかりやすい「ナイキ紹介映画」でした
日本では「エアジョーダン狩り」が流行し、履けないシューズの代名詞になっていました
当時の値段で一足17000円ぐらいしていたので買ったことはないですが、一度だけ履いたことがあります
こんなに足にフィットして軽いのかという感想を持ちましたが、元々バスケをしない人なので、あの靴の性能の凄さはほとんど知りません
映画は、過去の栄光を描いていますが、「ある信念が芽吹く瞬間はどの時代にも起こり得ることだ」と思います
本作の場合は、「ソニーが語る根拠のあるジョーダンの凄さ」と「デロリスの時代と息子を信じた信念」であると思います
この2人がいたからこそ、歴史的な瞬間になったわけであり、信念の化学反応こそが、目指すべきスタート地点なのかもしれません
そういった意味において、本作は「今、信念を抱える人」にとっての、前進するためのヒントになり得るのかもしれないと感じました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/387326/review/1170fcbf-e0b9-4188-91bb-75ac00db3596/
公式HP:
https://warnerbros.co.jp/movie/air/