■せめて商品の成分ラベルに書いてある内容ぐらいは知っておきたいものですね


■オススメ度

 

実話ベースの法廷劇に興味がある人(★★★)

展開の読めないシナリオを堪能したい人(★★★)

 


■公式予告編

https://youtu.be/E6UiEJ-gGZY

鑑賞日:2022.9.29(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題공기살인、英題:Air Murder

情報:2022年、韓国、108分、G

ジャンル「オキシー・レケット・ベンキーザー社(옥시레킷벤키저)」が発売した加湿器用殺菌剤の裁判を巡るヒューマンドラマ

 

監督&脚本:チョ・ヨンサン

原作:ソ・ジェウォン(『공기살인(「空気殺人」2022年)』

 

キャスト:

キム・サンギョン/김상경(チョン・テフン:原因不明の肺疾患に罹った息子を持つ救命救急医)

ソ・ヨンヒ/서영희(ハン・ギルジュ:テフンの妻)

キム・ハオン/김하언(チョン・ミヌ:テフンの息子)

 (青年期:イ・ヒョジェ/이효제

 

イ・ソンビン/이선빈(ハン・ヨンジョ:ギルジュの妹、ソウル地方検察庁の検事→事件の担当弁護士)

イ・ユジュン/이지훈(ヤン・ケジャン:ヨンジュのソウル地方検察庁の同僚→退職してヨンジュのサポートをする)

 

ユン・ギュンホ/윤경호(ソ・ウシク:加湿器用の除菌剤の製造会社「オーツー」のマネージャー)

チャン・ヒョクジュン/장혁진(ジョ代表:「オーツー」のCEO)

チャン・グワン/장광(パク議員:「オーツー」に加担する議員)

ソン・ヨンギュ/송영규(チョン・ギョンハン:「オーツー」側につく弁護士)

 

キム・ジョンデ/김정태(ハン・ヒョンジュン:原因不明の肺疾患で家族全員を失ったカーセンターのオーナー)

ウォン・ジュオリ/원쥬리(ハン・ヒョンジョンの妻)

カン・ナエル/강나엘(ハン・ヒョンジュンの双子の息子)

カン・ロエル/강로엘(ハン・ヒョンジュンの双子の息子)

 

ソン・ビュンスク/성병숙(スンイム:被害者ジヨンの母)

チョ・スハ/조수하(ジヨン:呼吸器をつけて生存している被害者)

 

イ・ジフン/이지훈(インホ:チョン・テフンの後輩医師)

ウ・ガウン/우가은(レントゲン技師)

 

チョン・ホビン/정호빈 (ヨンジョの上司、検事長、部長)

チョン・ウィカブ/정의갑(チェ・ソンモ:毒物試験を行う教授)

 

キム・ヨンウン/김서원(チャン教授:テフンが化学物質の危険性について教えてもらう教授)

シム・ワンジョン/심완준(疾病管理貿易センター長:PHMGを検出する技術者)

 

ファン・マニク/황만익(裁判長)

 

ナム・ジョンリュル/남명렬(オ・ジョンハク:小児科医)

 

イム・ジョングン/임정운(食品医薬安全省の役人)

キム・ギョンシク/김경식(厚生省の役人)

ジン・ソンミ/진선미(環境省の役人)

 

ブラッド・カーティン(ヨンジョを頼るアメリカ人被害者の家族)

 


■映画の舞台

 

韓国のどこか

 

ロケ地:

韓国のどこか

 


■簡単なあらすじ

 

2011年の韓国にて、救命医のテフンの息子ミヌが原因不明の肺疾患によって瀕死になる事件が起きる

テフンらの手によって一命は取り留めるものの、今度はテフンの妻ギルジョが同じく原因不明の肺疾患で急死してしまった

 

不可解なことが起きていると感じたテフンは、ギルジョの妹のヨンギョ検事とともに、同じような死因の人がいないかを調べていく

小児科医のオ教授から2006年頃から春先だけに急増する肺疾患があると聞き、その罹患者に情報を求めることになった

 

患者家族から情報を聞き出したテフンは、彼らが同じように加湿器を使っていることに気づく

そこでテフンはチャン教授を訪ねて動物実験を自宅で行うことになった

 

その結果、PHMGと呼ばれる毒性の物質が検出され、ヨンギョはその情報をマスコミにリークして、民事裁判の用意を始めた

 

その動きを察知したメーカー「オーツー」はハン・ヒョンギョンを休暇から呼び出して、対策チーム長に任命する

ヒョンギョンはあらゆる工作でテフンらの妨害を始め、裁判が行われない可能性も出てきた

 

そんな折、韓国在住の外国人が同じ疾患で死亡する事件が発生する

テフンらは本格的に訴訟に向けて動き出し、ヒョンギョンもなりふり構わぬ方策に打って出始めるのであった

 

テーマ:薬害訴訟

裏テーマ:利益優先主義

 


■ひとこと感想

 

事前情報皆無で鑑賞し始め、いきなり「2011年に起こった事件がベースのフィクション」という字幕が挿入されて戦慄の予感が走りました

内容は「イギリスのレキット・ベンキーザー社の韓国子会社オキシー・レキット・ベンキーザー社」が実際に発売していた「加湿器用殺菌剤」を巡る薬害民事訴訟の様子をフィクションを交えて描いた社会派法廷劇でした

ちなみに商品名は「オキシーHS」という名前で、韓国のみで販売されていたとされています

 

映画はこの民事訴訟に至るまでの経緯をミステリー仕立てで見せ、後半はなりふり構わぬ法廷劇へと様相を変えていきます

どこまでが事実かは置いておいて、フィクションの法的劇としても秀逸な内容で、落とし所がなかなか凝っていましたね

 

かなり企業を悪者に仕立て上げていますが、だからこそ後半が活きるという流れになっていました

できるだけ事前情報(史実も含めて)がない状態で鑑賞することをオススメいたします

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

てっきり、「空気清浄機を使った殺人事件」みたいな展開だと思っていたのですが、当たらずも遠からずと言った感じで、事実ベースというのが驚愕でしたね

ありそうと言えばありそうですが、結構最近のことなので、さらに驚いてしまいました

 

物語は被害者遺族が訴訟を起こし、その親族に弁護士がいるというもの

なので、誰かに頼る系ではなく、当人たちの思いが反映される展開を迎えます

 

そんな中、予想通りと言いますか、官民癒着の問題があり、さらに社長がイギリス人なんて設定が飛び出したりします

映画では「イギリスの会社の韓国の子会社」という設定はなく、あくまでも韓国の会社でトップがイギリス人みたいになっていましたね

事実を深掘りすると、映画よりはさらにヤバいということが見えてきます

 

映画では「韓国国民に向けての啓発」の意味もあり、ひょっとしたら今でもどこかで使われている可能性があります

実際には「韓国の省庁」でも使われていたと思うので、その方面でも被害が出ていた可能性は否定できません

なので、官も被害者であるかもしれないという立ち位置が示されればもっと色濃かったかもしれません

「官庁は危ないとわかっていたから使用禁止になっている」みたいなものが出てきたら、本当に「政治的な殺人」と断定されそうな気がしました

 


オキシー・レケット・ベンキーザーについて

 

オキシー・レケット・ベンキーザーはイギリスの「レケット・ベンキーザー社の韓国現地法人」のことで、元々は株式会社ですが、この映画のモデルとなった「加湿器用殺菌剤死亡事件」を機に有限会社になっています

1991年に韓国のOCI(当時の東洋製鉄化学)の生活用品の製造部門として発足し、2001年にレケット・ベンキーザーが出資を行って現地法人となりました

ちなみに映画で描かれている「殺菌剤」は同社だけが作っていたわけではなく、多くの企業が関わっています

それでも、その悪質性などから「主犯」として位置付けられています

 

死亡事件は1994年から2011年の間で被害者が出てきて、レケット・ベンキーザーが出資する前から製造されていた製品ということになります

現時点でわかっているのは、死亡者20366人で、健康被害者は95万人と推定されていること、健康被害の可能性がある人(暴露者)は894万人にものぼるとされています

韓国の人口は5100万人ほどなので、約17%、日本で換算すると2200万人ということになります(この数字は東京都の人口の約1.5倍換算になります)

使用者に対する死亡率は2.1%、発症率は10%程度ということになり、「死んだのはちょっとだけ」と表現するのは無茶な数字になっています(映画内のセリフの時点では全容が不明のためジョ代表は問題を軽微に考えていたということになります)

 

同じような殺菌剤を製造していたのは、エギョン、SKケミカル、SKイノベーション、LG生活健康、GSリテールなど、販売に関してはロッテショッピング、イマート、ホームプラス、ダイソー、ヘンケルなどが関わっていたとされています

これらの企業は製造及び流通に関する責任が追求される立場にありますね

中でもオキシー・レケット・ベンキーザー社は「加湿器殺菌剤の使用と肺疾患の関係性を否定するため」に多数の非倫理的行為を行っていました

また、オキシーとエギョンは2022年の4月に出された被害調整案を拒否しています

 

商品の歴史はSKイノベーション(当時の有功)が売り出したのが発端となっていて、その後、オキシー、エギョンなどが相次いで発売を開始します

商品は加湿器に投入するタイプで、加湿成分と共に部屋の中に散布されます

加湿器の洗浄ではなく、殺菌効果を謳っていて、それが空気中に散布されるように作られています

この成分の中に「PHMG–P(映画ではPHMG)」が入っていて、それが肺疾患につながる可能性があるとされています

 

PHMGの殺菌効果は「G=グアジニン」という成分があるからなのですが、このグアニジンが細胞膜のリン分子との静電気的相互作用を起こすことによって、細菌の細胞膜を破壊するという作用がありました

問題視されたのは、この破壊作用が細菌だけではなく、ヒトの細胞でも起こると指摘されたことで、ヒト細胞に対する毒性を有するという結論が出されています

単純に考えると、細菌(生体)の細胞膜を破壊するんだから、人でも同じことが起こる可能性があるよねということでしょう

問題は「毒性となるために必要な摂取量」ということになります

 

この肺細胞の破壊から肺の繊維化(間質性肺炎)を起こすプロセスは近年まで不明だったのですが、2022年4月にパク・ウンジョン教授のチームによって解明されたと言われています

チームの発表によると、PHMGにて死んだ細胞の残存が炎症性サイトカインを引き起こすとされていて、それによって「IL–1β(遺伝子的サイトカイン)」「TNF–α(腫瘍壊死因子)」などの分泌を促進させるのですね

また同時に「IL–4」「IL–10」などの抗炎症性サイトカインの分泌が抑制されると言われています

これによって、肺の免疫機能のバランスが崩れて、病的な状況が悪化するとされていました

 


どのような危険だったのか

 

映画では、殺菌剤の事件にまつわる「オーツー」の政治的癒着まで掘り下げていく流れになっていて、被害者遺族であったウシクが本当の加害者を表舞台に引き摺り出すという流れになっています

商品が販売されるまでに多くの省庁がスルーしてきて、それを責任転嫁する流れが描かれていました

 

本製品も1994年に吸入毒性試験なしで加湿器用殺菌剤の発売がされ、1996年にはSKケミカルが「PHMGの製造届出書」を環境部に提出しています

その申告では「吸入すれば有害」という報告がありましたが、政府は追加の毒性資料の要求も有毒物の指定もしませんでした

実際には1998年の段階で、アメリカの環境庁では警告がなされていて、「2級吸入毒性物質」に認定され、室内ではさらに危険性が増すと報告が上がっています

この事実を韓国が把握したのは、この発覚から10年後となっていますが、実際にはどうだったのかはわかりません

 

2000年に毒性が表面化し始めたものの、オキシーは無視し続けて販売を行います

オキシーの研究員がPHMGの吸入毒性が検証されていないことを知っていましたが、毒性実験は行われないまま、2000年10月にPHMGを主原料とする商品の販売に踏み切ります

2003年にはそれらの事実関係を隠したままオーストラリアへの輸出を行い、14人もの命が奪われたとされています

 

韓国国内にて、2006年にようやく原因不明の肺炎が報告されましたが、疾病管理センターでは「様子見」の判断がなされます

その後、2007年から2008年に小児科にて同様の症状が報告されましたが、広範囲の疫学検査は行われず、この肺疾患の同時の死亡率は49%だったとされています

2011年になって、死亡者249名、1500人余りに後遺症を残すという事態が発生し、当時の年間販売数は60万個程度だったことがわかっています

 

事件は2017年に業務上過失致死傷罪として、オキシー社の元社長に懲役7年、オキシー社に罰金1億5000万ウォン、製品開発者及び研究所の所長にも懲役7年の判決が下っています

また類似品を販売したとして、ロッテマートのの元代表に禁錮4年、「ホームプラス」の幹部に懲役5年が言い渡されています

韓国では「家の中のセウォル号事件」と呼ばれているとのことでした

映画は関係者の告発と癒着について暴いていますが、実際のところはそこまでは至っていないと言えますね

なので、フィクション成分の多い、「注意喚起映画」としてのポジションに収まっているのだと言えます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は痛快な法的劇となっていて、事実をベースにしたフィクションになっています

実際にはもっと酷い現場があって、意図的なものがあったでしょうし、毒性を軽率に考えていた節があります

議員の関わりとか、懇意の研究所による調査など、子どもでもわかるように描かれていて、でも爽快感があるという感じには終わっていません

また、テフンが役人に向けて液体をぶちまけるシーンとか、ジョ代表の目の前に殺菌剤入りのペットボトルを置くなど、エンタメに振り切った内容になっていました

 

この映画の凄いところは「めっちゃ最近の出来事」を世間が忘れていない段階で製作しているところだと思います

先にも述べたように、オキシーが事実関係を認めたのが2015年なので、それからわずか7年で公開に至っています

本来なら被害者への配慮とか、色々と外野の声は大きくて、事件の概要を知るためのヒアリングもままならないと言えます

劇中でも描かれる「水俣病(1956年発生、2009年法整備)」に関しても、健康被害から和解までにかなりの年月を要し、ルポルタージュの皮切りこそ翌年の1957年に武田泰淳によって執筆されていますが、ドキュメンタリー映画ができたのは1971年の土本典昭監督作が最初だったりします

ちなみに日本では水俣病のドキュメンタリー映画はありますが、事件を元にした映画はなかったりします

 

昨年公開された『MINAMITA』がおそらくは商業映画としては初出で、それも「水俣病患者を撮った写真家の視点」なのですね

どのような力学が発生しているのかわかりませんが、事実ベースのフィクションですら作れないのが日本という国なのですね

その要因は様々ありますが、事件で金儲けをするという構図になるので、それによって後手を踏むことが多いのかもしれません

漫画や小説などでは描かれることがあっても、こと映像作品となるとハードルが高いのかなと思ったりもします

 

この手の作品が世に出づらいのは、事件の解明の遅さであるとか、被害者救済などに想像以上の時間を有するからなんだと思います

所謂「現在進行形」の問題はどう転ぶのかわからないので、その時点で断定してしまう作品は作りにくいというところが大きいのでしょう

歴史が歴史になるまでのタイムラグというのがあって、それを社会的に認知させる役割というものが映画の役割ではないこともあって、諸外国の史実系映画でも「第一報(小説や新聞記事)」を基にして、その裏付けをしてから製作に入るというステップは同じなのですね

なので、本作はそのスパンに関しても圧倒的に速い印象があって、完結していない問題を取り扱ってもで注意喚起を促したいという思惑が働いていたのでしょう

日本公開に先立ってもパンフレットは作成されず、それは事件の解説記事を書きようがないというところだと思います

本当はもっと詳しいところが知りたかったのですが、これ以上深掘りするのも難しいのでここまでにしておきます

 

様々な情報を入れて精査して、それによって自分の身は自分で守るというのが重要な時代に入ってきます

そう言った意味においても、宣伝や広告に惑わされることなく、商品の本質を理解するのはとても大事なんだなと思います

個人的には「細菌(ウイルスではない)が死ぬんなら人間もヤバくね」と思っていましたが、まさにそのような展開になっているにも関わらず、一部の人々の利益のためにそれらに公的なお墨付きを与えて印象操作をしていくというのは狡猾という側面もありますが、消費者がいかに考えていないかというところを見透かされているのかなと思ってしまいます

重箱の隅を突くのもどうかとは思いますが、ある程度のリテラシーと自衛を考える意味では、せめて「商品の成分ラベルぐらいは目を通した方が良い」と言えるのではないでしょうか

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384020/review/4a4af80f-ac28-4825-8d01-49ecdd704981/

 

公式HP:

https://kuhkisatsujin.net/#:~:text=%E3%80%8E%E7%A9%BA%E6%B0%97%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E3%80%8F%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E3%83%91%E3%82%BA%E3%83%AB,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82

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投稿者 Hiroshi_Takata

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