秘密の森は、大人を子どもにして、子どもを大人にする不思議な空間でした


■オススメ度

 

芸術的な絵本のような映画を観たい人(★★★) 

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.9.29(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Petite maman(「小さなママ」という意味)

情報:2021年、フランス、73分、G

ジャンル:秘密の森で8歳の母と出会う8歳の少女を描いたヒューマンドラマ

 

監督&脚本:セリーヌ・シアマ

 

キャスト:

ジョセフィーヌ・サンス/Joséphine Sanz(ネリー:祖母の死後に森で同年代の少女と出会う8歳の少女)

ガブリエル・サンス/Gabrielle Sanz(マリオン:森で出会う少女、8歳)

 

ステファン・バルペンヌ/Stéphane Varupenne(ネリーの父)

ニナ・ミュリス/Nina Meurisse(ネリーの母/ネリーの祖母)

マルゴ・アバスカル/Margo Abascal(ネリーの祖母)

 

Florès Cardo(ネリーと一緒にクロスワードパズルをしている老人ホームの女性)

Josèe Schller(音楽聞いてたパーマの老人ホームの女性)

Guylène Pèan(読書している老人ホームの女性)

 


■映画の舞台

 

フランス郊外の森

 

ロケ地:

フランス:

アグロメラシオン・ド・セルジー=ポントワーズ

https://maps.app.goo.gl/ANaQUsXbcUsVuLwm8?g_st=ic

 

フランス:セルジー

Pyramide de l’Axe Majeur(ピラミッドのある湖)

https://maps.app.goo.gl/C6jWEdW8R1GKQEoZA?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

祖母を亡くした8歳のネリーは、両親とともに祖母の家の片付けにきていた

母と祖母の話をするものの、その夜母は突然ネリーに何も言わずにどこかに行ってしまう

 

父が片づけを続ける中、ネリーは裏手にある森へと向かう

そこはかつて母が秘密基地を作った場所で、その奥深くから手を振る少女を見つけた

 

ネリーが彼女の元に駆け寄ると、秘密の小屋を作るから手伝って欲しいと言われる

長い枝などを集めることになった二人だったが、当然雨が振り出してしまう

 

少女はネリーを自分の家に迎え入れると、そこはネリーの祖母の家だったのである

少女の名前は母と同じマリオン

そして、マリオンは自分の手術が成功するか心配だと打ち明けた

 

テーマ:恐怖の克服

裏テーマ:さよならの意味

 


■ひとこと感想

 

実は前日に一回観たのですが、睡眠不足もあって記憶が断片的だったこともあり改めて鑑賞

睡眠鑑賞でも意外と覚えている体質は健在でしたね

細かなところは流石に覚えていなかったのですが、大まかなところは不思議と覚えているものですね

 

映画は絵画的な美しさがあって、叙情的な感じで行間を読む映画になっていましたね

音楽がほとんど流れないのですが、「未来の音楽」を聞く場面で流れていたのと、エンディングにあたる楽曲がとても印象的でしたね

 

物語のテーマは「さよならの意味」がメインテーマになるのかなと思いますが、ネリーがあの森で少女母と出会った理由の方に意味がありそうに思いました

過去に行ったようにも見えますし、逆に母が未来に来たとも取れるのが面白いところかなと思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画の冒頭はとある老人ホームで、利用者たちに「さよなら」を言って回るネリーが描かれています

彼女がそうしているのは、祖母の突然の別れで「さよなら」が言えなかったからでした

 

8歳のマリオンはネリーの母で、マリオンの母(ネリーの祖母)の名前はネリーとなっていて、「ネリーという名を懐かしむ母マリオン」という場面がありました

8歳のネリーと8歳のマリオンが双子が演じていて、識別が服の色とかカチューシャぐらいしかなかったですね

そこには明確な意図があって、識別が曖昧になった方が効果的であるという思惑があるのかなと感じました

 

青い服を着ているのがマリオンで、赤い服がネリーなのですが、青い服の上に赤い上着を羽織っていましたね

冒頭でも髪の毛の括り方が変わったりと、細かなところで誤認させる意味があって、映画内では言及されませんが、実は「8歳の母マリオン」と「8歳の祖母ネリー」のシーンがあるんじゃないかと思ってしまいます

 

このあたりは何度か観ないとわかりませんが、そのシーンがあっても驚けないのですね

それは「マリオンが8歳の時に母ネリー(ネリーの祖母)と同じように会っていた可能性がある」からだと思います

 


ネリーが8歳のマリオンと会った理由

 

ネリーは秘密のある森に興味を抱いていて、その基地は「大人が忘れ去っているもの」という暗喩がありました

その話を母が夫にしていましたが、吐き捨てるように「覚えていないでしょう」と言っていました

その後、眠れなくなったネリーが母のいるソファに行き、その翌朝に母は姿を消すことになりました

 

母がいなくなったのは祖母の喪失という意味合いになりますが、実際には「8歳になって森にいる」ということになります

目覚めて母がいなくなった瞬間からは、「ネリーの夢」のようにも思えてきますね

ネリーが8歳の母と出会ったことによって、ネリー自身は祖母(見た目は母)にさよならをいうことができるというシナリオにはなっていました

 

でも、実際には「母の喪失が自分の痛みを癒すためにネリーを迷い込ませた」というふうになっていて、母の痛みとネリーのさよならの欠落が同等の傷であることが示唆されています

ネリーが祖母にさよならを言えなかったことと、母(=ネリーの祖母)の喪失を受け入れられていない母の思惑が合致したことによって、秘密の森での奇跡の邂逅を生み出したのと解釈できるのかもしれません

 

そこで二人が共同作業をすることで友情が芽生え、母は「私が悲しいのは私のせいだから」という結論に行き着きます

ネリーもまた、存命の祖母にさよならをすることができ、それによって「二人」は現実世界に戻ってくることになりました

秘密の森では、母の苦悩は「手術」ということになっていて、おそらくは祖母の喪失というものが、自分の死を意識させることにつながったのではないでしょうか

ネリーは8歳の母の未来を知る人物として、母を安心させることができ、それは成人期の死の恐怖と同質の不安として捉えることができます

実際にはその不安が同一視されるものではないと思うのですが、あくまでも秘密の森で、同年齢だったという仮定の元で、8歳時の母の不安というものを象徴することになっているのだと思いました

 


受け継がれていく母娘の秘密

 

映画は8歳のネリーと8歳の母マリオンが出会うという物語で、そこで8歳同士の秘密の時間を過ごします

それによって、それぞれが現時点で抱えている不安や後悔が解消されることになっていて、それが本作の結びにつながっています

 

個人的にはシーンのどこかに「実は8歳の祖母ネリーがいたのでは」と思っていて、その確証はないのですが、3世代にわたる物語と強調されていたので、その可能性もあるのかなと思っていました

祖母の名前がネリーになっているという妙な名前の連鎖があり、完全に男性を排除しているという流れもその可能性を示唆しているのかなと思います

また、8歳の娘からの言葉よりも、8歳の祖母ネリーの言葉が重なっていた方が説得力があるのかなと思ってしまいますね

あの世界では「母と娘」だけがいるのですが、ネリーの言葉に説得力を持たせるのは祖母ネリーだったりするのかもしれません

 

それでも、映画は若かりし頃の祖母ネリーが「現在軸のマリオン」と同じ姿で登場するので、その可能性があるのは「森の中だけ」となります

それも三人が同時に存在するのではなく、8歳の母マリーがかつての8歳の祖母ネリーと会ったかもというもので、完全に妄想の世界だったりします

また、あの秘密基地は二人で完成させたもので、8歳の母マリオンが一人で作ったとは思えないのですね

なので、今回のように「誰か」の手助けを借りたという可能性があって、それが「8歳の祖母ネリー」なのかなと思いました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は奇妙な物語ですが、それぞれが抱える葛藤とどう向き合うかということが描かれています

主人公はネリーなのですが、ネリーが秘密の森に行った理由は「母の救済」のように思えます

実際にはネリーは祖母と最後の「さよなら」をやり直せるわけではなく、若かりし頃の祖母とさよならをしただけなのですね

なので、ネリーの後悔というものが完全には払拭されていないのかなと思いました

 

ネリーが秘密の森から帰ってきて、そして母は彼女の元に戻ってきます

そこでの母はとても晴れやかで、祖母の死をある程度受け入れたように思えました

実際には「8歳になってネリーと接したこと」で、自分の中にある問題が我が子に波及していることを感じた、ようにも取れます

その体験が「私が悲しいのは私のせい」という言葉になったのだと受け止めました

 

8歳の母が「悲しさ」を感じているということは、中身は「祖母の喪失を感じている成人の母」ということになるので、ひょっとしたら「8歳の母の中身は大人の母」として記憶があるのかなと思いました

記憶の有無に関しては言及されていませんが、8歳の割には話す内容が大人っぽさがあって、行動とか外見は8歳同士ゆえに違和感が募ります

また、ネリーの方も、祖母の家に行く道中で運転中の母にお菓子をあげたり、後ろからハグしたりと、子どもっぽさと同時に「母を子どものように接している」という不思議な関係が印象的でした

いろんな観点から深く考察できそうですが、それはソフト化などに伴って繰り返し観られるようになってから再考したいと思います

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/383895/review/9b80933e-8e43-4173-b4ab-65af5d72067d/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/petitemaman/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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