■いずれ、脳内補正の個人差によって映画の質がわかれてしまう未来が来るのかもしれません
■オススメ度
京都を舞台にしたはちゃめちゃな話を見たい人(★★★)
癖の強いキャラを堪能したい人(★★★)
原作ファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.9.30(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2022年、日本、92分、G
ジャンル:大学の寮にある唯一のエアコンを動かすためにタイムマシンを使おうとする学生たちを描いたSFコメディ映画
監督:夏目真悟
脚本:上田誠
キャラクター原案:中村佑介
アニメーション制作:サイエンスSABU
原作:森見登美彦(2020年、KADOKAWA)
キャスト:(声の出演)
浅沼晋太郎(私/ナレーション:京都のとある大学3回生)
坂本真綾(明石さん:「私」が密かに想いを抱いている後輩、映画サークル「みそぎ」所属の映画監督)
吉野裕行(小津:「私」をダメにしようと全力を尽くす同級生)
中井和哉(樋口氏/師匠:下鴨幽水荘の主)
甲斐田裕子(羽貫さん:近くの歯科の歯科衛生士、樋口氏と旧知の仲)
諏訪部順一(城ヶ崎氏:映画サークル「みそぎ」のボス)
佐藤せつじ(相島先輩:映画サークル「みそぎ」の主役担当俳優、城ヶ崎氏の右腕)
本田力(田村くん:25年後の未来から来た青年)
上田誠(田村くんの仲間)
石田剛太(田村くんの仲間)
酒井善史(田村くんの仲間)
土佐和成(田村くんの仲間)
永野宗典(田村くんの仲間)
真山亜子(下鴨幽水荘の大家さん)
越後屋コースケ(ケチャ:下鴨幽水荘にいつく犬)
武田太一(「みそぎ」の音声担当スタッフ)
大平あひる(「みそぎ」のカメラマンスタッフ)
■映画の舞台
京都市:左京区
アパート「下鴨幽水荘」
銭湯オアシス
糺の森古本市(下鴨神社)
モデルの場所
京都市:上京区
源湯(銭湯オアシス)
https://maps.app.goo.gl/LUeYeNjURa82HFhYA?g_st=ic
京都市:左京区
岩倉具視幽棲旧宅(下鴨幽水荘)
https://maps.app.goo.gl/ujMqoA6oycmQsEku6?g_st=ic
京都市:左京区
糺の森(古本市)
https://maps.app.goo.gl/Yydipn9FnZjsD1st8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
京都の大学の3回生である「私」は、ボロいアパート「下鴨幽水荘」の唯一エアコンのある209号室に住んでいた
その冷気を求めてたくさんの人が群がり、特に小津は彼の部屋に入り浸っていた
ある日、妙な因縁をつけられた後、誰かが不用意に置いたコーラが倒れ、それによってエアコンのリモコンが壊れてしまう
修理に出すものの、かなりの旧式で見込みはゼロに近かった
そんな折、見知らぬ男が彼らのところに現れ、また倉庫の中からタイムマシンのようなものが出てくる
ものは試しとばかりに試運転をしたところ、本当に指定した年の同じ時刻にいくことができた
みんなはタイムマシンの使い方に苦慮しながらも、昨日に戻ってリモコンを故障から防ごうという「私」の意見が通ってしまう
だが、過去のある時点を変えてしまうとどうなるかわからない懸念があった
「私」たちは動き出してしまった計画を止めようとするものの、誰もが自分勝手に動き、事態はさらに混迷を極めていくのであった
テーマ:過去の改竄の影響
裏テーマ:運命決定論
■ひとこと感想
正直なところ、絵柄があんまり好きなタイプではなかったものの、京都が舞台のアニメとあって渋々感想
懐かしい景色がたくさん出てくる内容で、彼らの大学って京大だよねと思いながら見ていました
リモコンの故障に端を発した騒動ですが、混乱するぐらいに行ったり来たりしていましたね
でも、終わってみると「映画の方がパンフレットよりも説明がうまい」という内容になっていました
映画の舞台はほぼほぼ左京区の出町柳近辺ですが、いろんな場所の名所をモデルに構築されていますね
いわくつき(今でもそうなんだろうか)の鴨川デルタで絡み合う男子生徒にイケナイ妄想をする人は間違いなく京都出身か京都で学生生活を送った人のどちらかでしょう
鑑賞後も「やはり絵は苦手だな」と思いましたが、ストーリーがめっちゃ面白いので許容できましたね
食わず嫌いの人はトライしてみても良いかもしれません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
タイムマシンで行ったり来たりする物語なので、物語の途中では何がどう関連しているのか把握するのに個人差があります
劇中の言葉を引用するならば「本をページ順に読まない」ということになっていて、それでも読後には「そのつながりがわかる」という仕組みにはなっています
観ている側が感じる疑問は「私」が一手に引き受け、それを邪魔する人々という構図になっていますが、悪気があるのは小津だけだったりします
でも、彼がただの悪者じゃないってところが面白くて、最後のナレーションは蛇足のような気はしますが、はっきりさせておくのもありなのかなと思いました
ディズニープラスの再編集ということでパンフレットがないのかなと思っていましたが、ちゃんと作られていてホッとしましたね
時系列マップみたいなものがありますが、ぶっちゃけ映画の中の説明の方がうまいですね
パンフ作った人は頑張ったと思うのですが、一枚の紙で表現するには多次元的だったかなと思います
パンフレットが三次元で構成されていたら、時流のうねりによって生じたものも再現できたかもしれません
時系列のパッチワークが脳内でできる人なら、映画を観ながら再構築ができるのではないでしょうか
■タイムマシンの歴史(完成しているとは言っていない)
タイムマシンとは、未来や過去へ行くための架空の機械で、創作史上最古のものはエンリケ・ガスパール・イ・リンバウ(Enrique Gaspar y Rimbau)の作品「アナクロノペテー(El Anacronopete)」と言われています
時間移動が描かれたのは、1889年のマーク・トウェインの長編小説『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』という作品で、この物語には「マシン」は登場しません
一般的には1895年のH・G・ウェルズの『タイムマシン』が初出であると認識されていますね
タイムマシンの研究は思った以上にガチで行われていて、ワームホールを広げて利用するカリフォルニア大学のキップ・ソーン(Kip Stephen Thorne、1988年)であるとか、ロナルド・L・マレット(Ronald Lawrence Mallett)の「素粒子タイムマシン」であるとか、リチャード・ゴット(John Richard Gott)は「宇宙ひも」を2つ利用するなんて方法を研究したりしています
説明すると非常に長くなるので割愛しますが、創作物のテーマだけではなく、実際に研究が行われていたりするのですね
でも、実現に至ったことはなく、また未来人が現代人に接触したという公式の記録はありません
創作の世界だと数多くのタイムマシンが登場し、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をはじめとして、『ドラえもん』などでも活躍します
時間旅行系のセオリーとしては、過去に戻ったらそこで何もしてはいけないというもので、それは現在を変えてしまうから、という理由があります
本作でも「時間旅行をするリモコン」の存在が現在を消滅させるかもという危険因子になっていて、それを防ごうと躍起になっている主人公たちが描かれていました
■運命決定論について
これら一連の流れに対して、明石さんは「運命決定論」的な立場で物事を整理します
運命決定論とは、宿命論もしくは運命論と呼ばれていて、世の中の全ては「あらかじめそうなるように定められていて、人間の力では変えられない」という考え方のことです
現在軸からすれば運命は変えられなくても進んでいくので、起きている出来事は起こるべくして起こっているとしても、それが決定論的に正しいのかを確かめることはできません
本作も一連の行動が全て決まっているという流れになっていて、例えば銭湯オアシスでは「すでに三人がタオルをかぶって息を潜めている」のが初出のシーンでわかります
本作では、このように「決定事項としての現在軸で右往左往する様子」を描いていて、それが決定されていると知らない人間だけが焦って行動をしています
明石さんのセリフにもあるように、運命が決定されていても、当事者はそれを知り得ないので、未来を楽しむことは可能なのですね
過去の改竄によってパラレルワールドが生まれるという考え方もありますが、過去に未来人が来ていることも「現在軸では決定事項」になっているので、そこから派生するものは何もないと考えられます
実際には未来から見た過去は決定されたもので、未来から来た人間が起こしたことも込みの未来になっています
映画では、このカラクリと時系列を完全に再現して、時間移動によって起こったことを整理しながら、そこで湧き立つ疑問を解消していきます
この流れが完璧に再現されていて、ぶっちゃけ「パンフの解説よりも本編の方がわかりやすい」という不思議な現象が起きています
映像で理解するには「脳内で時系列を再構築しながら観る」とか、「細かな描写にどこまで気付けるか」というところがネックになっています
これらの問題に関しても、「あからさますぎるくらいに印象に残る」という描かれ方をされているので、見過ごすことの方が難しいように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画はディズニープラスの再編集版ということで、どれだけのものが端折られるのかなと心配していました
見比べたわけではありませんが、再編集前の5話に加えて、配信限定の6話があるようですね
気になる方は、そちらを視聴してはいかがでしょうか
↓『四畳半タイムマシンブルース』にディズニープラスのページ(会員登録が必要になります)
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/the-tatami-time-machine-blues/6C7HChDy39QZ
物語は映画できちんと完結しているので、その後とか配信限定に興味ある人向けになっているのでしょうか
個人的にはディズニープラスにわざわざ加入してまで観ようとは思いませんが、この手の配信の宣伝のための映画化というのはあまり好きではありません
マーベルシネマティックユニバース(MCU)もそうですが、劇場公開と配信を組み込んで展開するのが昨今の流れになっていて、いずれは「ディズニープラス」を観ていないと意味がわからないという映画も出てきそうな予感がします
その時がMCUの終わりの時で、劇場公開からの撤退の合図なのかもしれません
個人的には「配信で映画を観るのは否定しない」のですが、デバイスのような小さな画面で「大画面で観る前提で作られている映画」を観て堪能できるのかは甚だ疑問なのですね
ホームシアターでも自宅だと100インチ前後が限界で、4Kの画像に対応するためにはコストもかさみます
また、音響と防音を考えると、とてもコスパが良いとは思えません
本作もディズニープラスでスマホで見たらどう感じるのかというところはありますが、劇場公開がされないと「パンフレット」も作られないということが起きますので、それはそれで寂しく思えますね(本作は奇跡的に作られています)
現にNetflixの作品は劇場公開されてもパンフレットはないわけで、その付随情報というものは皆無になってきます
中身がスッカスカのパンフレットも存在しますが、クオリティの高いパンフレットも結構あるので、いずれはウェブ化される未来があるのかもしれません
今年公開された『SABAKAN』では「PDFによる電子書籍」でパンフレットが作成されていました
これもわざわざプリントアウトすることもないので画面上で観ただけですが、データ媒体としては便利だとは思いますが、その時に一度閲覧しただけで再度表示させることもなかったですね
本棚に並ぶわけでもないので、二次的な想起には至らないのは何とも物悲しいように思います
本作とはあまり関連のない話で恐縮ですが、流れで少しだけ愚痴ってみました
3Dバーチャルシステムが進化したりすれば配信の内容も変わってくると思うのですが、現時点ではまだそこにまでは至っていないでしょう
映画館での興行収入も水物で、配信の登録も流動的で、かといって「定額で観るコンテンツ」は映画館の興収よりも低い利益しか上げられないように思えます
1000万人が登録をしてサブスクでお金を払っていても、映画のコンテンツの視聴とは結びつくものではありません
なので、そうなってきている未来で「制作サイドのモチベーション」がどう維持されるのかは制作サイドの人にしかわからない心情なのかもしれませんね
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/382539/review/e81b0a1b-c000-4367-8e16-2c1591aea479/
公式HP:
https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp/