■出オチ系の炎上商法に乗るかどうかは、あなた次第ですよねえ
Contents
■オススメ度
「それ」のネタバレを観ないで鑑賞できそうな人(★★★)
日本のホラー映画の終焉を肌で感じたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.9.30(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2022年、日本、107分、G
ジャンル:子どもたちの神隠しが起こっている村で、その正体を探ろうとする親子を描いた○○系ホラー映画(ネタバレ回避!)
監督:中田秀夫
脚本:ブラジリィー・アン・山田&大石哲也
キャスト:
相葉雅紀(田中淳一:義父との仲がこじれて田舎で農業を営むことになった男)
上原剣心(赤井一也:淳一の息子、小学生)
江口のりこ(赤井爽子:淳一の元妻)
並樹史朗(爽子の父、会社経営者)
諏訪太郎(淳一の父)
松本穂香(北見絵里:一也の担任の先生)
眞島秀和(綾波武史:地元の警察、刑事課)
松浦祐也(中村良一:地元の駐在所の警官)
山下徳大(丸橋裕志:一也と仲良くなるクラスメイト)
峯岸煌桜(ショウタ:一也を目の敵にするクラスメイト)
潤浩(一也のクラスメイト)
末松えみな(一也のクラスメイト?)
桃山こまち(一也のクラスメイト?)
宝辺花帆美(川瀬麻友:失踪する一也のクラスメイト)
綾乃彩(麻友の母)
吉本菜穂子(「それ」を目撃する母親)
田中悠愛(「それ」を目撃する一也のクラスメイト)
酒向芳(町長)
松浦祐也(中村良一:町の駐在)
野間口徹(湯川大輔:一也の通う小学校の教頭)
松嶋亮太(北見先生の同僚?)
小日向文世(児玉勉:「それ」の目撃者)
尾形貴弘(尾花修司:強盗犯)
中村里帆(野本綾子:修司の恋人)
■映画の舞台
福島県:岩代郡奥宮町「天源森」(架空)
モデルは「千貫森」
https://maps.app.goo.gl/73YQWCnA36XPWhbR7?g_st=ic
ロケ地:
山梨県:山梨市
立石神社
https://maps.app.goo.gl/HaFKo7HrNB3b2pmQA?g_st=ic
山梨県:甲府市
下黒駒
https://maps.app.goo.gl/J4QWGE5Xw8xwMV7q8?g_st=ic
千葉県:東金市
https://maps.app.goo.gl/wBztghHyJ6htdiEi6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
東京で義父の会社を立て直した淳一だったが、兼ねてから折り合いの悪さから離婚を決意して田舎町に移り住むことになった
幼馴染の長尾とともにオレンジ農園を営んでいた淳一だったが、ある日そこに家出した息子・一也がやってきてしまう
元妻の爽子は折り合いの悪さから、「当分の間こちらで預かってほしい」と言い出した
仕方なく、町の学校に転校した一也だったが、クラスでは浮いてしまい、唯一気軽に話せるのがだけだった
祐志は親友の証として「天源森」にある秘密基地を一也に教える
だが、その森には得体の知れない「何か」がいたのである
二人は森の奥で銀色の謎の物体を見つけたが、それは誰にも信じてもらえない
そこで二人は再び森に入り、銀色の何かを写真に収めようと考えた
だが、その矢先、祐志は何者かに襲われてしまう
一也はそれをひた隠し、捜索隊が入った森で、今度は大金と男の死体が発見されてしまうのであった
テーマ:親子の信頼関係
裏テーマ:友情の育み方
■ひとこと感想
「それ」が何かを想像しながら観るタイプの映画ではありますが、よほど鈍感な人でない限り、結構早い段階で「それの正体」に気づくと思います
それを許容できるかどうかは置いておいて、それをホラーのネタにしているのが斬新と言えば斬新なのですが、この映画をホラー映画だと捉えて良いのかはまた別の問題のような気がします
映画は、こじれた親子関係の修復をメインに据えていますが、この回復の流れが完全にノイズになっていて、はっきり言ってここまでレベルが低いストーリーなら「ひたすら追いかけられて戦うだけ」の方がクオリティが上がったのではないでしょうか
本作は「それ」の正体がそのうち拡散されますが、誰も好意的な発信をしないのではないかと思えるぐらいに低クオリティの宝庫でした
おそらく、大半の人が「金返せ」と叫ぶ内容で、褒めるところが一切ないという稀有な映画に仕上がっていましたね
ここまで書いて観に行きたい人は止めませんが、ダメージを極力低くするために期待値は「マイナス1億ぐらい」で想定しておいた方が良いと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
「それ」が「あれ」で、というのは銀色の物体が出た瞬間にわかる仕様になっていて、その後「ご本人登場」は「観たことあるやつ」であると思います
問題はそのクオリティの低さで、ホラー映画なのに全然怖くないのですね
基本的に「いきなり出てくる」「音でビビらせる」という今時のお化け屋敷でもしないレベルの驚かせ方をひたすら貫いていきます
ヒューマンドラマ的な部分も弱いところが多く、業績を向上させた義理の息子をハブる経営者という時点で意味が分かりませんし、家出してきたけど「預かって」と平気でいう母親というのも理解できません
この夫婦が離婚しているかどうかも映画内ではよくわからず、離婚しているなら先生といい感じになりそうですが、そっち方面の色恋沙汰は一切なしという潔さがありました
結構な数の大人が死に、クラスで2名が失踪状態のままなのに、最後は「何事もなかったかのようにサッカーして仲間になっている」し、そのメンタルの方がホラーなんじゃないかなと思ってしまいました
■千貫森について
映画の元ネタになる都市伝説は「千貫森」というもので、UFOの目撃が多いことで知られています
映画は「それ」についてのネタバレが全ての内容なので、「千貫森が元ネタ」ということすら隠されていましたね
場所は福島市から車で20分くらいの距離で、飯野町青木地区というところになります
ここではこれまでに300件以上もの「UFOの目撃情報」があって、「UFOふれあい館」というものもあったりします
宇宙人にちなんだ石像があったり、山頂の展望台があったりと、わかりやすく「UFOで村おこしをしている地域」となっています
千貫森は森ではなく「山」で、円錐の綺麗な形の山となっています
その形状から「古代のピラミッド」であるとか、「UFOの基地」といった民間伝承が数多くあったりします
でも、宇宙人にさらわれた系の情報というのはパッと出てきません
あくまでも出没が多いとされているという感じになっていて、本作のように具体的な被害者がいるというタイプの都市伝説ではないのかもしれません
映画ではガッツリ肉食系の宇宙人が登場して、成長ホルモンを有する子どもを捕食することで、分裂して増えるという内容になっていました
一也と仲良くなった祐志が犠牲になるのですが、一也自身も一度は捕食されてしまいます
そこで登場したのが「細菌入りのオレンジの汁で」、どことなく『宇宙戦争』という映画を思い出してしまいましたね
あっちはじわじわと侵食する感じでしたが、今回の細菌は即死レベルにヤバい細菌だったのは笑わせにきている設定なのだと思います
■勝手にスクリプトドクター
本作はその細菌以上にヤバいシナリオになっていて、ツッコミどころしかない内容になっています
一也と淳一の親子がメインで登場しますが、田舎町に彼らが住み始める取っ掛かりからして意味がわかりません
淳一と爽子の結婚は父が認めていないようなのですが、淳一は義父の会社を立て直した立役者という設定になっています
関係性はよくわかりませんが、そこそこの規模の会社を立て直せるポジションにいるということなので、コンサルトして会社に来たか、新入社員としてメキメキと頭角を表したタイプなのかもしれません
このあたりはざっくりと流しても良さそうですが、この後一也はとんでもない方法で淳一のもとを訪れました
それが「世田谷ナンバーのタクシーで単身でくる」というもので、淳一が会計を済ませているシーンがありました
ちなみに「世田谷→福島市」のタクシー料金は深夜料金などを抜きにして「73000円」で、5時間かかる計算になります
家出してくるのはわからないでもないですが、金を持たずにタクシーで父親の元を訪れるという行動はどうやって生まれるのかが疑問でしたね
おそらくは裕福な暮らしをしていたと推測され、金銭感覚というのはあってないようなものなのでしょう(この時点で共感性はゼロだったりします)
その後は「地元の小学校にいきなり転校」となっていて、元夫に子どもを押し付けて去る母親というものが描かれます
そして、ニュースを聞きつけて「大変なことになっているじゃない! 一也は大丈夫なの?」と捲し立てた挙句、これまた自家用車で福島まで乗り込むという荒技で登場していました(しかも軽?)
高速を使うと2時間半で着きますが、移動にストレスがないかのようにちょっと近くまで来たんだけどレベルになっているのは微笑ましいとしか言いようがありません
これらの設定は前座になっていて、本編ではさらに酷いことが起きています
それは「クラスメイトが宇宙人の捕食されて行方不明」という事後に、普通にサッカーをしてかつての敵役とあっさりと仲直りしていることなのですね
そんなに大きくない過疎地の小学校で、3年生と4年生は同じクラスにで学んでいました
この学校では「クラスメイトが最低2人」は死んでいるので、その悲しみに包まれるというシーンは普通にあったと思います
それでも、1ヶ月で何事もなかったかのように再開しているというのは無理があると言わざるを得ませんでした
本作では「一也と対等に接する裕也」と、「一也のことが気になる女子生徒・麻友」が共に犠牲になり、それは「一也自身が有している業」のようなものが、彼と関わった(好意を持っている)二人を無惨な死に追いやっています
映画では、この二人と警官の多く、教頭先生に加えて旅行中の4人家族も殺されています
教頭がマスコミの取材に応じている場面では、地元の報道局以外のキー局、全国紙の記者などがいて、この一連の事件は列島を駆け巡るニュースレベルであると思います(てか、校長はどこに?)
こういったことが起これば、日本では「被害者の敵はマスコミ」という感じになり、ワイドショーで連日取り上げられる格好の餌食になります
子どもたちの生活も激変し、不登校になる生徒もいるでしょうし、教頭が死んでいるので学校の体制も直ぐには再開されないと思います
物語としては、一也を慕った人物が殺され、一也と対抗していた人物と共闘することによって仲良くなっていきます
ひと夏の経験が子どもを大人にするとしても、自分を慕う人間の犠牲の上で成り立たせるというのは悪趣味としか思えません
これらのシナリオはクラスメイト二人が犠牲にならなくても描けることなのですね
わざわざ捕食のリアルな部分を描いていくのは意図的であると考えられるので、脚本家としては「攻めた」つもりなのでしょう
でも、その前後にリアリティを持たせないことで、単に悪趣味だったという印象だけが残ることになっていました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は「それ」をひた隠しにすることで話題性を呼び、それを爆発力にして興収を伸ばそうと考えていたと思います
でも、「それ」の正体がビジュアル的にしょぼすぎ、かつ物語の脆弱性であるとか、その他の様々な減点材料が一気に噴出する感じになっています
ここまでくると「どこまで酷いのか?」で観客の興味を引っ張っているように思え、罵詈雑言が褒め言葉のように感じているのかもしれません
映画そのものが迷惑系ユーチューバーの行動みたいになっていて、それはクオリティを上げて最高のものを作る力量がないから、やむを得ずに炎上を狙っているのかと勘繰ってしまいますね
わざわざ炎上を狙わずともホラー作品としては仕上げられると思うので、根本のマインドの問題なのかなと感じています
予告編では「ピクニックに行った先にヤバい森があった」みたいなテイストになっていますが、むしろこの路線で行ったほうが良かったかもしれません
余計な家族設定とかも不要で、その森で「親子の絆が試される」というほうがしっくりくるし、地元意識との対立構造も描けます
ある程度の興収は上がるものの、そのマーケティング手法は反発を買うタイプのものなので、成功=今後につながるとも思えません
まさに身を切って骨を断つ系の迷惑系とさほど変わらないので、それで本当に良かったのかは疑問が尽きないところですね
出オチ映画でもあるので、初週は数字を稼げるでしょうが、一瞬で消えてなくなると思います
なので、どうしても「地雷を踏みたいんや」という人は、早めに行って、マーケティングが作ったプチ・ムーブメントのお祭りとして楽しんでも良いのではないでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/382120/review/2acc2156-c86a-4487-8c55-1dba3af7bdde/
公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/soregairumori/