■健全な孤独死と、そうでない孤独死があることを知ってほしい
Contents
■オススメ度
孤独死問題について考えたい人(★★★)
『川っぺりムコリッタ』を観た人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.10.4(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
情報:2022年、日本、104分、G
ジャンル:孤独死の後始末に奮闘する役所職員を描いたヒューマンドラマ
監督:水田信生
脚本:倉持裕
原作:ウベルト・パゾリーニ(『おみおくりの作法(2013年)』)
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キャスト:
阿部サダヲ(牧本壮:庄内市の専属「おみおくり係」の職員)
満島ひかり(津森塔子:養豚場で働く孤独死男性の娘)
宇崎竜童(蕪木孝一郎:牧本の住む団地の別の棟で発見される男性)
宮沢りえ(今江みはる:蕪木の元妻、みはる食堂を経営)
片山友希(みはるの娘)
松下洸平(神代亨:牧本に振り回される地元の刑事)
でんでん(下林智之:牧本と共に行動する職員)
松尾スズキ(平光啓太:蕪木の元同僚、魚住食品の従業員)
國村隼(槍田幹二:蕪木の元同僚、炭鉱時代の親友)
坪倉由幸(小野口義久:新しく庄内市に赴任する牧本の上司)
篠井英介(牧本の上司)
小林勝也(ホームレスの男)
嶋田久作(ホームレスの男)
山口森広(蕪木の住居の管理人)
うらじぬの(役所の清掃員)
高田聖子(孤独死男性の娘)
浜谷泰幸(蕪木に顔を切られた男)
吉見征樹(霊園の事務員)
■映画の舞台
山形県:庄内市
庄内町
https://maps.app.goo.gl/fCQ7qhb5qKPzaAjv7?g_st=ic
ロケ地:
山形県:山形市
山形霊園
https://maps.app.goo.gl/KTFwscTZQyUrsYbb6?g_st=ic
(株)大商金山牧場
https://maps.app.goo.gl/ni8jZ19TC5VxG9R5A?g_st=ic
■簡単なあらすじ
山形県庄内市の「おみおくり係」を専任としている牧本は、孤独死で身寄りのない人々の葬式を自費で挙げる風変わりな男だった
刑事の神代を煩わせるほどに自分勝手だが、本人にはその自覚はなく、時折「こうなってました」と自分の世界に入ってしまう
彼は食事を立ったまま、おひつから直接食べ、おかずもフライパンのまま食べ、道路を前にすると、必ず左右を確認して渡る性格をしていた
ある日、彼の職場に新しい局長・小野口が赴任し、彼は「おみおくり係の業務は続けるが専属では置かない」と言い出す
現在の牧本は「蕪木孝一郎」という男性の案件を扱っていて、小野田は「それが最後の案件だ」と彼に突きつけた
蕪木はアパートで発見され、遺留品から警察は身寄りを断定できなかった
だが、牧本は丁寧に残されたアルバムに映った少女が彼の娘ではないかと思い始める
そこで牧本は、蕪木の身寄りを探すべく、手がかりを頼りに各方面へと出向くのであった
テーマ:孤独死
裏テーマ:死と幸福論
■ひとこと感想
孤独死がテーマの作品で、リメイク元の存在をほぼ知らずに鑑賞
予告編だけの情報で、変わり者が担当していることだけは知っていました
そんな彼が担当しているのが「孤独死の後始末」という社会問題化しているもので、それを事務処理することなく、家族の心境の変化を待ちながら、骨壷を大事に保管していましたね
牧本の諦めの悪さが蕪木の過去を追っていくことになり、そこで出会った人々から少しずつ何かを学んでいく様子が描かれていきます
ネタバレしない方が感情が揺り動かされると思うのですが、前半で結構な「伏線」がありますので、「嫌な予感だけはあたる」という内容になっているかもしれません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
牧本が葬式にこだわる理由はなんとなく分かりますが、劇中では彼の背景があまり語られていませんでした
どうやら彼も身寄りがないようで、自分が入る墓を手入れする人がいないという理由で手放したのかなと思います
彼があの墓地を持っていた理由はよくわかりませんが、無縁仏がいつか供養されるのではないかという期待を持っていたのかもしれません
映画は『おみおくりの作法』という映画のリメイクで、どうやら牧本のキャラ以外は忠実なように思えます
牧本を発達障害のキャラにした理由はわかりませんが、あの仕事を日本の役所でやらされる可能性をリアルに考えたということかもしれません
映画のテーマは孤独死ですが、それは看取る人がいるかいないかというところが重要に思えますし、また自宅で死ねるというのも一つの幸福のあり方のようにも思えました
■孤独死の現状
孤独死とは、主に「一人暮らしの人が誰にも看取られることもなく、本人の住居内などで生活中に突発的に死亡すること」を指します
孤立死、独居死などとも呼ばれ、1970年頃にマスコミによって作られた造語でした
1995年に起きた阪神・淡路大震災の後から使用が顕著に増えているとされています
起きやすい環境として、「男性の高齢者」「配偶者との死別を含む独身者」「地域や家族との関係が希薄」「経済的困窮」などが挙げられています
死因として挙げられるのが「心筋梗塞」「脳溢血」などの急性疾患で、アルコール依存症や糖尿病、認知症などの慢性疾患などの急変も挙げられ、何らかの原因で衰弱して死亡するケースもあると言われています
阪神・淡路大震災後に使用が頻繁になった背景には、仮設住宅・復興住宅などで1000人以上の孤独死があると日本共産党が主張したことがきっかけで、就労できず、アルコール依存の急増、断熱性のない住居などの劣悪な環境が健康悪化を招いたと推測されています
孤独死が起きるとトラブルが発生し、特に命日がわからないとか、不動産関連では「事故物件扱い」になるケースがあります
宅地建物取引業法では、家主や不動産屋が部屋を貸す際に「重要事項としての説明が義務付けられている」のだが、「孤独死に関しては重要事項に該当しない」とされています
なので、「事故物件」と告知しないケースもあり、行政も「民事上の問題」として介入しないと言われています
■無縁仏はどうなるのか
次に問題になるのが「孤独死遺体の埋葬方法」で、身元がわかるものは「墓地、埋葬等に関する法律」が適用され、身元不明だと「行旅病人及行旅死亡人取扱法」が適用されます
死体の埋葬、火葬を行う者がいないときは、死亡地の市町村長がこれを行うことになります(墓地埋葬法)
孤独死の埋葬費用は自治体の負担となっているのが現状ですね
ちなみに告別式などを行わずに直葬した場合の費用は18万円程度が相場となっています(一般的な葬式の平均値は120万ほど)
内訳は「寝台車代(移動10キロ程度で1万から2万円)」「棺桶代(3万から5万円」「遺体安置費用(1日1万円)」「骨壷代(5千円から)「火葬費用(公営で無料から4万、民営なら3万から5万円)」その他人件費(お坊さんとか)などがかかります
映画の場合だと「遺体安置を警察の安置所に無理やり放置」なので無料で、火葬費用も公営で無料でしょう
寝台車もおそらくは役所の車で移送するならば、実質的には棺桶、骨壷だけで済むのかも知れません
これ以外にかかる費用として、合祀墓への埋葬料で、その費用は10万から30万円とされています
映画のように遺体の引き取りを拒否するということは多くなっていて、引き取り自体が義務という訳ではないことにも起因します
基本的には「故人の遺産相続」と「故人の遺体の引き取り」には関係がなく、相続放棄だから引き取り拒否というのは理由としては薄めだったりします
ちなみに、個人的にこのケースに遭遇したことがあって、それは「30年間音信不通の父」の遺体引き取りの連絡が来たことでした
親の離婚の理由、相手親族との関係などを考慮した結果、引き取りの拒否を選択し、相続放棄をする手続きを取りました
通帳に残高などがあったようで、故人の金銭関係を調べましたが、やはり状況的に不明な預金が発覚し、関わりを極力避けるという方針を貫きました
相続に関わる金融情報は「KSC(全国銀行個人信用センター)」「CIC」「JICC(日本信用情報機構)」などに問い合わせると調べることができます
「KSC」が銀行系のローン(住宅ローンなど)、「CIC」がクレジット系、「JICC」が消費者金融系となります
これを所得すると、現在の債務の残高であるとか、事故歴などもわかり、過去の返済不能になっている債務の状況などもわかります
故人は保護を受けていたようで(保護の照会が何度かあったためそう思っていたが実際には不明)、財産よりも債務の方が重要であると考えました
結果的に「骨の髄まで関わらない」を貫いた結果、真相は闇の中状態なのですが、感覚的には正解なのだと感じています
事故情報も離婚当時のものも判明しましたが、この履歴に載らない借金の存在も認知していた(兄弟から借りていたなど)ので、全容がわかる訳ではありません
個人間とか、闇金の借金などは相手が名乗りでないとわからないものが多いのですね
このように「疎遠」という言葉の中で、「金銭状況が不明」という問題が一番根深いと思うので、葬儀代云々以上に真剣に向き合う必要が出てきます
個人的な感覚だと、「0か100か」という感じで、曖昧な状況が一番ヤバいと感じます
なので、家族には悪いとは思いましたが、信用情報の照会と過去の履歴や事故状況などを加味した結果、相続放棄と併せて遺体の引き取りも拒否するということを即断することになりました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では「血縁関係を探す」ことがメインになっていましたが、蕪木の金銭関連に関しては完全にスルーになっていましたね
映画の本質とは関係ないし、遺体の引き取り(実際には葬式の参加)がメインになっていて、それと相続関連は別の問題なのでこれで良いと思います
蕪木の人生が牧本が辿ったものと規定するならば、彼がややこしい借金を抱えるタイプではないことはわかります
どちらかといえば、色んな女性が出てくるのと、スナックで踏み倒しているというのがあったぐらいでしょうか
関係性にもよりますが、遺体の引き取りができるに越したことはないでしょう
問題は「残された側」がどう思うかであって、映画のような蕪木のような人物だと「引き取るに値しない人物」とまでは言えないと思います
引き取らないという選択をすると、それに付随する情報はすべて消えてしまいます
それを許容できるかどうかというのは、故人に関わるその人でしかわかりません
なので、正解はないけれど、それを拒否したことを咎めるということもできないでしょう
個人的な経験から言えば「借金」「不倫」「犯罪」のどれか一つでも懸念されるならば、関与しないことをおすすめいたします
私の場合はトリプルコンボだったので、30年疎遠の状況で引き取る人の方が稀であると思います
実際には、「それでも引き取る」という人がいるとは思いますし、その感情や判断を否定しません
映画の牧本は「亡くなられた方の思いはどうなるのですか」と言いますが、彼自身が遭遇した孤独死というのがどちらかと言えば健全な部類のものだったからと言えるかも知れません
世の中には色んな人間関係があって、様々な状況があると思います
それぞれのケースによって、孤独死の扱われ方は変わってきます
今後の日本ではこのような状況が増えてくると思われるので、より一層事務的に進めなければ埒が開かない状況を迎えるのではないでしょうか
現在では年間の孤独死は「2万6000人(2018年)」もいて、今後も「高齢者の独身男性」の数は増えていきますので、加速度的に増加するでしょう
自分自身の問題でもあると考え、そのような状況になりそうな人はある程度の準備をしておく必要があるのかなと思います
ちなみにかつて働いていた会社では「故人宅の整理をする」という仕事もしていて、遺族からの依頼で家一軒丸ごと遺品整理をするということもありました
処理費用と買い取れるものとの相殺になっていましたが、この作業は恐ろしく大変でしたね
私は孤独死の現場の整理には携わりませんでしたが、一定期間人が足を踏み入れていない空間(故人が病院で亡くなったケース)でも特殊な状況になっていますね
回数を重ねると「匂い」には慣れてくるのですが(メンタム使ったことありますよ)、花粉症だったので埃がダメでしたね
あのような感じで業者に依頼せずに済むようにはしたいと思いますが、いかんせん急に死んだらどうしようもありません
なので、不要なものは即捨てるという習慣を身につけておく方が最適解に近づけるのかも知れません
ちなみに私の妻は生前整理をガチで行っていて、動ける間にほとんどのものを処分して、どれを誰に譲るかを決めていましたね
整理しすぎて逆に困りましたが、それぐらいでちょうど良いのかも知れませんね
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/381573/review/17623984-67ec-4f3e-a14f-b7a193d781ce/
公式HP:
https://www.iammakimoto.jp/