■運命が巡るように、宿命もまた巡るもの


■オススメ度

 

池井戸潤さんの作品が好きな人(★★★)

金融サスペンスを期待している人(★★)

友情ドラマを観たい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.8.30(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

情報:2022年、日本、128分、G

ジャンル:倒産の危機に追い込まれた大企業をかつてのライバル同士が手を組んで救おうと奮闘するヒューマンドラマ

 

監督:三木孝浩

脚本:池田奈津子

原作:池井戸潤(2017年、徳間文庫)

 

キャスト:

竹内涼真(山崎瑛:産業中央銀行の行員、実家は倒産の憂き目にあった山崎プレス工業)

 (幼少期:榎本司、高校時代:椿原彗

横浜流星(階堂彬:産業中央銀行の行員、山崎とは同期、東海郵船の元後継者)

 (幼少期:平野虎牙

 

高橋海人(階堂龍馬:階堂彬の弟、「東海観光」の若き新社長に抜擢される)

 (幼少期:熊谷武尊

 

石丸幹二(階堂一磨:階堂の父、「東海郵船」の社長、長男)

戸田菜穂(階堂聡美:階堂彬の母)

 

ユースケ・サンタマリア(階堂晋:彬の叔父。グループ会社「東海商会」の社長、一真の弟、次男)

片岡礼子(晋の妻)

児嶋一哉(階堂崇:彬の叔父、「東海郵船」グループ会社「東海観光」社長、一磨の弟、三男)

 

杉本哲太(山崎孝造:山崎瑛の父、「山崎プレス」の社長)

酒井美紀(山崎淑子:孝造の妻、瑛の母)

清水心音(瑛の妹、幼少期)

 

江口洋介(不動公二:産業中央銀行・上野支店副支店長)

上白石萌歌(水島カンナ:産業中央銀行の銀行員)

 

奥田瑛二(羽根田一雄:産業中央銀行・融資部長)

徳重聡(立花耕太:産業中央銀行の人事部調査役)

野間口徹(中谷忠文:東海郵船の顧問弁護士)

 

阿部岳明(豊島:産業中央銀行福山支店の部長、瑛の上司)

水橋研二(福山支店時代の瑛の先輩)

 

満島真之介(工藤武史:山崎が高校時代に出会った岩田銀行の銀行員)

 

宇野祥平(井口雅信:山崎の担当取引先「井口ファクトリー」の社長)

馬渕英里何(井口由子:雅信の妻)

磯村アメリ(井口琴音:雅信の病弱の娘)

 

塚地武雅(保原茂久:山崎の実家「山崎プレス工場」の従業員)

 

山寺宏一(沢渡裕行:大日麦酒の事業開発本部長)

山内圭哉(楊浩然:パシフィコリゾートのアジア統括ゼネラルマネージャー)

山村紅葉(向田春子:能登島ホテルの代表取締役)

竹原慎二(梅島茂:梅島水産の社長)

 

津田寛治(宮本清伸:イーストオーシャン下田の総支配人)

矢島健一(難波秀行:東海郵船の経理部長)

アキラ100%(日高典夫:東海商会の経理部長)

 


■映画の舞台

 

東京のどこか

 

ロケ地:

長光山 妙蓮寺(葬儀会場)

https://maps.app.goo.gl/DRKz4q8yKUomSqjK8?g_st=ic

 

料亭 玉家(ベンチャー企業促進プロジェクト会合)

https://maps.app.goo.gl/TmpjUZNAaGU3oCiL8?g_st=ic

 

青山やまと(能登島ホテル)

https://maps.google.com?g_st=ic

 

リゾート伊豆高原(パシフィコリゾート)

https://maps.app.goo.gl/y1cRWW3fpSfBydQY6?g_st=ic

 

川奈ホテル(イーストオーシャン下田?)

https://maps.app.goo.gl/2GbaA6F9VFRUdD7u9?g_st=ic

 

BESIDE SEASIDE(新入社員歓迎会パーティー会場)

https://maps.app.goo.gl/YT9gjt65A6AJDUdG7?g_st=ic

 

大成建設㈱ 本社(産業中央銀行本店、外観)

https://maps.app.goo.gl/12ZqEnExGpXpyxQi6?g_st=ic

 

海ホテル

https://maps.app.goo.gl/TZcXLf5uoqhHUVfL9?g_st=ic

 

横浜税関(東海郵船)

https://maps.app.goo.gl/d6hybEi2NMYYmFUZ6?g_st=ic

 

栃木県議会議事堂(産業中央銀行、内観)

https://maps.app.goo.gl/8JAi6q5R2Uww9Raz7?g_st=ic

 

亀の井ホテル 奥日光湯元(イーストオーシャン、外観)

https://maps.app.goo.gl/y3KFF7RfLtDHeMda6?g_st=ic

 

沼津信用金庫本店ビル(福山支店)

https://maps.app.goo.gl/r4Uxo76E7cyonLKk8?g_st=ic

 

内浦漁業協同組合(梅島水産)

https://maps.app.goo.gl/eseCBAzRSJYj2FKn9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

倒産した町工場「山崎プレス」の社長の息子・瑛と、大企業「東海郵船」の社長の息子・彬は、それぞれが違う人生を歩みながらも、奇妙な縁で産業中央銀行に同期入社した

二人とも優秀な成績で、銀行の儀式でもある「企業と銀行の立場に立って、融資をするか否か」を新入社員の前でプレゼンを行うことになった

 

企業側の経理部長役の彬は、粉飾決済を敢行して、想定外の巨額の融資を申し込む

一方、銀行の融資担当役になった瑛は、その決算書を読み解き、粉飾決済であることを看過して、融資を断った

 

それから二人は「伝説のプレゼン」の立役者となって行内の話題になるものの、二人の行く末は対称的なものだった

「人に金を貸す」ことを感情的に捉える瑛と、冷静に数字だけを見る彬

 

それぞれはトップバンカーへの道を歩むものの、ある工場の融資を巡って瑛は地方へと左遷されてしまう

それは経営者家族を守るために銀行に損失を被せた行為と揶揄された

 

左遷先でもめげずに努力を続けてきた瑛は、数年の歳月を経て本店に舞い戻る

そんな折、彬の父・一磨が病気で倒れ、後継には彬の弟・龍馬がつくことになった

 

だが、龍馬のコンプレックスを刺激して取り込むことに成功した叔父の晋と崇は、暗礁に乗り上げていたリゾートプロジェクトに龍馬を引き入れてしまう

その赤字は徐々に嵩張ってしまい、東海グループは、リゾートプロジェクトの失敗によって破綻の危機を迎えていた

 

テーマ:人情と感情

裏テーマ:理想と確実性

 


■ひとこと感想

 

ダブル主人公が同じ名前という、小説でも混乱してしまいそうな作品がとうとうスクリーンにやってきました

WOWOWでドラマ化済みの案件で、この壮大な物語をどうやって2時間でまとめるのかが気になってしまいましたね

 

結果的にはうまく纏まっていて、かなり端折られているとは思うのですが、映画を観た感じでは違和感を感じるところはあまりありませんでした

率直な感想は「うまいことまとめたなあ」で、物語の内容よりもこの尺に綺麗にまとめたところに驚きを感じました

 

物語は二人の邂逅から始まり、あの日に結ばれた宿命を辿っていくというもの、演技の上手い下手はあるし、芸人に重要なキャラをさせているし、と邦画の悪いところが凝縮していましたが、それほど悪目立ちするところはありませんでした

 

テーマは「銀行は何を持って融資を決定するのか」というもので、感情や人情に左右される瑛を小馬鹿にしていた彬が、感情や人情によって親族内の問題に立ち向かうという構図になっていました

 

ラストの解決策にどこまで「確実性」があるのかはわかりませんが、映画内の説明だと行けそうな気がしましたね

このあたりは会社の決算書とかを観た人の方が、より詳しく突っ込めるし関心できるところなのかもしれません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

予告編から緊張感出まくりで、映画本編も緊張感がほとんど途切れませんでした

展開を読むのが難しい内容でもあり、自分なりにも打開策を考えながらどうするのかなと考えていましたが、なるほど「外部にいる人間なら思いつく発想」というところは見事だったと思います

 

瑛は彬に「情の必要性」を訴え、「救えるのならば救いたい」という瑛の言葉に感化されます

叔父がどうして折れたのかは微妙なラインですが、三兄弟の醜い争いに子どもを巻き込んでいることに罪悪感を感じ、亡き兄の本心を知ったことで、こだわってきたものというものが無くなったからだと言えます

 

この親世代の三兄弟を見て育った彬と龍馬は、同じように激しい衝突を繰り返します

この衝突を利用したのが叔父たちで、自分達も同じ感情に支配されてきたからこそ思いついたのだと言えます

 

物語のピークは融資が降りる瞬間でありますが、彬が叔父二人に立ち向かっていった凄みというのはなかなか迫力があったのではないでしょうか

その強気から一転しての土下座攻勢と泣き落としというところに、ある種の昭和ドラマ的なテイストを感じました

 


企業の決算書の基礎知識

 

企業の決算書は「会計年度における会社の利益と損失の財務状態を把握するもの」で、会計年度ごとに作成されます

一般的な企業は4月→翌3月、個人事業主なら1月→12月のような感じで、年単位で作成されます

決算書は「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の3つからなります

 

「貸借対照表」とは、1年間の財務の状態を示すもので、「資産」「負債」「資本(純資産)」という項目に大きく分けられます

これらは「資産=負債+資本」となるため、バランスシートというふうにも呼ばれます

会社が所有している現金や預金などと資産、返済が必要な借入金を負債、資産から負債を引いたもので返済の義務のない資産を資本と呼びます

 

「損益計算書」とは、会社の1年における収益と費用を表したもののことです

会社の業績は「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」というふうに分けられます

「売上総利益」とは、当期中の売上から売上原価を引いた一年間の粗利益の集計のこと

「営業利益」とは、本業で稼いだ利益のこと

「経常利益」とは、経常的な企業活動の結果稼いだ利益のこと

「税引前当期利益」とは、営業と関係ない臨時的な損益も含む利益のこと

「当期純利益」とは、会社が支払う法人税などを差し引いた最終的な利益のこと

映画の東海商会だと、商会の利益(本業)とは別にイーストオーシャン下田の損益が絶賛大赤字という状態で、当期純利益に影響が出ている段階となります

 

「キャッシュフロー計算書」とは、現金の流れを示した書類で、どこに現金が流れたかがわかるものです

水島はこの計算書の支出欄に疑問を持ち、そこからその内容を精査していくと、それが三友銀行からの有利子負債への返済であることが判明していました

おそらくはイーストオーシャン自体でもこれらの書類は作られていますが、東海商会などが連帯保証人になっている状態なので、イーストオーシャン自体が赤字だったとしても、貸している銀行からすれば問題はない状況でしょう

でも、イーストオーシャンの赤字報道によって、商会自体の信用問題になっていて、イーストオーシャンを切り離せないなら一緒に沈んでしまう可能性がありました

商会は郵船への報告書を偽造して、あたかもイーストオーシャンが回っている(大幅な赤字ではない)というふうに見せていたので、郵船側の書類では不透明な支出が残っていたということになると言えます

 


あの融資に確実性はあったのか?

 

実際にこの稟議が通るかどうかは別として、映画内の説明通りにことが運べば確実性はあると思います

この一連の取引で厄介なポイントは、

三友銀行の介入(イーストオーシャンからの連鎖倒産を見越しての債権の早期回収に踏み切る可能性)

大日麦酒への商会の売却(ネックは連対保証の切り離し、晋がOKと言うかどうか)

だったと思います

 

不動が東海郵船を見切ろうと思ったのと同様に、三友銀行も同じように商会を見切る可能性は十分にありました

なので、三友銀行としても利子利益を無視してでも原本回収に動くはずでした

そのタイミングがいつになるのかわからないというところがあって、瑛は少しでも早くケリをつけたいと考えていましたね(実際には商会からの三友銀行への返済不渡が起こった瞬間になるとは思いますが、他の銀行との取引の方が先に起こる可能性もあります)

 

商会の売却に関しては、大日麦酒は条件を提示して確約を取れているので、あとは代表である晋が引くかどうかだけでした

晋としても、自分の一存で商会(実際にはグループ全体)の従業員とその家族を巻き添えにできませんので、感情的な部分を差し引いても引かざるを得ません

商会が株式会社なら、株主総会でボッコボコの案件ですし、また決算書の粉飾によって郵船を巻き込んだ事実が発覚すれば、普通に刑事事件として郵船が商会を提訴することも可能でしょう

裁判になれば確実に負けますし、グループ全体が消滅した上で晋には賠償命令が残る可能性があります

社会的にも経済的にも死にますので、感情云々を除いても、行き場がないことは明白です

そもそものイーストオーシャンの件の発起人が晋なので、自分が始めたプロジェクトで観光と結託し、それで立ち行かなくなって粉飾で郵船を巻き込んでいるので、刑事どころか民事に発展してもおかしくなかったのではないでしょうか

 

ちなみに粉飾決算は有価証券報告書虚偽記載罪に該当するので、商会が上場企業なら投資家への被害が出ますが、今回の場合は郵船を騙すために郵船に見せる決算書を偽造しているので、表沙汰にはならない可能性が高いように思います

でも、郵船がガチで提訴したら、イーストオーシャン絡みの内容が公開されるので、いずれは破綻していたように思えました

 

これで全てが解決したわけではなく、東海郵船は商会と観光を子会社化し、イーストオーシャンを抱き抱えます

イーストオーシャンの負債がそのまま産業中央銀行に移っただけで、商会を50億で大日麦酒に売却しても、返済額90億はグループに残ったままです

イーストオーシャン自体を健全化させる以外に方法はないので、おそらくは劇中で出てきた旅館再生に経営を任せる形になると思います

保有はしないが運営はするというスタンスでしたので、「ホテルのプロ」が運用開始をするのならば、今よりはマシになると思いますが、同時に外部委託の運用コストもかかってきますね

このあたりは契約次第でなんとでもなる感じがする(固定か割合かなど)ので、手を上げる可能性は高く、外資が入る可能性もあるでしょうね

後々、カジノ解禁で誘致できるような政治力があれば、お荷物どころか莫大な利益を上げる可能性は否定しませんが、晋たちの手腕および政治力ではそこまでのことは無理だと思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作のテーマは「宿命」で、幼少期に出会った御曹司と倒産工場の息子が大人になって共闘するという流れになっていました

それぞれが相手のことを覚えておらず、でも最後に同じエピソードが登場したために、お互いが「あの時」を認知することになりました

この辺りは「作り込みすぎ」感は否めませんが、あのまま郵船が破綻していれば、立場が逆になっていたと考えると、人の因果というのは恐ろしいものだと思います

 

父の会社が倒産したという過去について、不動は「無駄じゃなかった」と言います

彼は確実性を最重視しますが、瑛の父は経営者でありながら、確実性を怠ったために破綻してしまいました(実際には様々な要因があると思いますが、映画上の説明だとリスクヘッジが弱かったと言う印象を持ちました)

全ての企業が確実性で経営ができるわけではありませんが、映画の情報だと瑛の父の工場はベアリング加工の特許技術とか、シェアなどが優秀だった可能性もあり、倒産の前に何らかの措置を取ることは可能だったと推測できます

父は経営者として、技術者としての知識が脆弱だったが故に、なす術もなく倒産しましたが、当時の取引銀行の行員が無能だったということも運がなかったと言えます

 

この過去の出来事で銀行の存在を憎む瑛ですが、その後に出会った岩田銀行の若い銀行員との出会いを経て、もし自分が銀行員になっていたら、父の会社の倒産を救えたのではないかと考えるようになりました

実際に勤め先の銀行員との話し合いで稟議書を作成して、それによって倒産を免れたような描写がありましたね

自分の会社を潰した経験から非協力的でしたが、結局は力を貸すことになっていて、この時に瑛は「銀行員だけが優秀でも、経営者だけが優秀でもダメだ」ということを肌感覚で理解したように思えました

 

この過去が「銀行員と経営者の共闘」というものが経営に不可欠だと考え、瑛はそのような関係性を築こうとします

井口ファクトリーの件ではそのような関係性を築き上げ、個人が別口座に移していた預金を保護させるという口添えをします

これによって銀行の損失を増やすことになったので左遷されましたが、よく左遷で済んだなあと率直に思いましたね

また、別の銀行の口座まで仮差押さえができることの方が正直怖かったなあと思いました

 

映画は美談で終わりを告げますが、彬にはイバラの道が待ち構えています

でも、彬には瑛という銀行のプロがいるので、頼もしい関係性が築けているので未来は明るいでしょう

問題は瑛が同期のよしみで目が曇らないかだけでありますが、彬の方が瑛の感情を利用するほど冷酷ではないと感じるので、そういったことにはならないでしょう

銀行員出身として、粉飾が見破られた瞬間全てが終わることは知っていると思うので、馬鹿なことを考えることはないと思います

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/380198/review/e76674b1-e01b-4f2e-af59-1f512e45afa3/

 

公式HP:

https://akira-to-akira-movie.toho.co.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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