■ひと夏の冒険は、本当の自分を見つける旅だったのかもしれません
Contents
■オススメ度
少年少女の葛藤を描くSF系アニメが好きな人(★★★)
ジュブナイルSFが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.9.17(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2022年、日本、120分、G
ジャンル:取り壊される思い出の団地に侵入したら、なぜか海の中を漂流してしまう現象に遭遇する小学生たちを描くSF風青春映画
監督:石田祐康
脚本:森ハヤシ&石田祐康&坂本美南香
キャラデザ:永江彰浩
制作:スタジオコロリド
キャスト:(声の出演)
田村睦心(祖父を亡くし住んでいた団地も取り壊されてしまう小学6年生)
瀬戸麻沙美(兎内夏芽:航祐の祖父の喪失に落ち込んでいる幼馴染)
村瀬歩(のっぽ:鴨の宮団地に現れた謎の少年)
山下大輝(橘譲:航祐のクラスメイト、大柄な少年)
小林由美子(小祝太志:子犬のように動き回る航祐の同級生)
水瀬いのり(羽馬令依菜:勝ち気な性格の航祐の同級生)
花澤香菜(安藤珠理:航祐の同級生、令依菜の親友)
島田敏(熊谷安次/やすじい:航祐の祖父、団地に60年住んでいた)
熊谷靖子(靖子:航祐の母)
熊谷正明(裕太:航祐の父)
水樹奈々(兎内里子:仕事第一の夏芽の母、シングルマザー)
渋谷彩乃(千絵梨:令依奈の友人)
飯沼南実(萌江:令依奈の友人)
橘あんり(航祐らの担任)
遠藤綾(観覧車の女性)
橘潤三(ベテランの工事作業員)
綿貫竜之介(怖がりな新人工事作業員)
■映画の舞台
鴨の宮団地とその周辺
■簡単なあらすじ
祖父・やすじいを亡くしたばかりの航祐は、かつて仲良しだった幼馴染の夏芽との仲が拗れたまま
サッカーチームでツートップで活躍していたのも過去の話で、二人の距離は遠ざかるばかりだった
航祐が住んでいた団地は「おばけ団地」と呼ばれ、取り壊しが決まっていた
中に入ることは許されなかったが、航祐の友人太志は夏休みの自由研究の題材に「おばけ」のことを調べると言って聞かなかった
半ば強引に巻き込まれた航祐と譲だったが、航祐が住んでいた棟にあるやすじいの部屋の押し入れに、なぜか夏芽が寝ているのを発見してしまう
夏芽は頻繁にこの部屋に出入りしていて、ここには「のっぽ」と呼ばれる少年もいるという
険悪なムードの中、みんなは屋上に上がると、その様子を見つけた令依奈と珠理が団地に入ってしまう
令依奈は航祐のことが気になっていて、ことあるごとに夏芽に突っかかっていた
いつものような日常が繰り返されいたところに、突然大雨が襲ってくる
なんとか避難した彼らだったが、雨が止むと団地は大海のど真ん中に置き去りにされていた
慌てふためく航祐たちだったが、夏芽は翌朝起きると元に戻っているという
だが、翌朝になっても元には戻らず、団地はどこかに向かって漂流を始めていたのである
テーマ:記憶と執着
裏テーマ:成長の儀式
■ひとこと感想
団地が漂流するというネタが気になったのと、『ペンギンハイウェイ』の暗喩が気に入っていた記憶が残っていたので何となく鑑賞
大人の階段を登る系ではありますが、そこはかとなく性的な成長というものが根底にあるように思えました
映画は団地が擬人化した「のっぽ」という少年がいて、彼がそこにいる理由に迫るというもので、同時に変わりゆく世界の中で留まりたいと願う夏芽の成長の儀式というものが描かれていきます
団地が海上に浮上している映像とか、他の建物が迫ったり漂ったりする映像は圧巻で、細かな動きもきちんと描かれていましたね
内容は成長につれて忘却したり、見てみぬふりをしてしまうものとの別れを丁寧に描いていて、記憶に対する執着というものの怖さを描いていきます
それほど難しい問題でないと感じるのは大人だからでしょうが、子どもが見ると追体験のようになってしまうのでしょうか
変化を恐れる少年少女というものは、大人になるとその執着を忘れてしまうものですが、そういった過去というものは段階を経て、新しい体験で埋め尽くされてしまうのかなと思ってしまいますね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
漂流する団地から脱出しようと奮闘する小学生が描かれていて、誰しもがわがままで振る舞うために団結できない様子が描かれていました
このあたりにもどかしさを感じるのは、論理的に映画を見る大人だからでしょうが、子どものリズムで観るとちょうどいいのかしれません
察しの良い大人ならば、のっぽのビジュアルから団地の擬人化ということはすぐわかりますし、彼を擬人化させているものの正体が夏芽の執着であることはすぐにわかるでしょう
航祐には、夏芽の感情がやすじいに奪われていることによる嫉妬があって、それがなかなか解けないもどかしさもありましたね
それは、航祐に第二次性徴が始まっていて、夏芽を女性として見始めているからかなと思いました
映画の最後では、これまでのような幼馴染の関係に戻ろうとしますが、いずれはお互いを異性として意識始めていくのでしょう
そう言った変化の一歩先を行っているのが令依奈ですが、全く相手にされていないというところが切なくもありました
■本当になりたかった関係性
本作は夏休みに非日常を体験して成長するという物語で、その非日常は「取り壊される予定の元々住んでいた団地」になっています
その団地は漂流しなくても非日常になっていて、やすじいの部屋には何も残っていません
この団地がなぜか大海原に漂流してしまうというもので、多くのキャラを乗せるために無駄なシークエンスがいくつもありました
映画では航祐を好きな令依奈がいて、航祐はどうやら夏芽のことを女性として見始めて恋愛感情があるように思えます
それでも明確に三角関係になっているような描写はなく、航祐はどちらかといえば「弟扱いされている」ことに反発しているように描かれていました
夏芽が航祐を男性として意識しているのかは最後までわからず、ずっとのっぽの方に心が向いています
のっぽに対する夏芽の心情は恋愛ではなく同情に近く、それはそのまま航祐への感情に近いのかなと思ってしまいます
彼らは小学6年生なので、一般的な恋愛感情を感じる年頃だと思います
航祐は弟からの脱却を望んでいて、それは一人の男として見てほしいのかもしれません
航祐が考える男性的な考えは「相手を引っ張っていく」というもので、随所にリーダーシップを発揮してカッコいいところを見せたいという願望がチラホラ見えてきます
でも、実際には彼はサポートするのがうまいタイプで、彼らのツートップの役割は航祐がアシストで、夏芽がストライカーというふうになっていました
航祐がリーダーシップを発揮したがるのは、いつまでも夏芽のアシストでいたくないという願望(自立心の芽生え)と、弟みたいに扱われること(対外的な恥ずかしさ)が重なっているからだと思います
航祐の年齢だと精通はしているので、性徴の変化とともに、女性に対する感覚というものを有してくる頃なのかもしれません
彼の男性観は父親とやすじいから受け継がれるものですが、航祐の家庭内の父母のパワーバランスはほとんど描かれません
やすじいに関しても、おばあちゃんとの関係などがわからないのですが、航祐がやすじいの影響を強く受けてアシストになっているとしたら、やすじいの夫婦関係は妻が強かったパターンなのかなと想像してしまいます
対する夏芽はシングルマザーに育てられているので、強くならないとダメだと考えている可能性はあります
本当は甘えたいけれど、母の重荷にならないように頑張る子というイメージですね
でも、実際にはそうではなくて、やすじいに甘えるのが彼女の本来の性質で、それを押し殺してきたことが後半になってわかるようになっていました
なので、本当は航祐がお兄ちゃんみたいな感じになれば良いのですが、そう言った関係にどちらもが望んでいるのになれないというジレンマがありました
■性徴が成長を促していく
本作では「性的な成長に関する具体的なもの」というのはあまり出てきません
恋愛感情が露骨になりつつある令依奈はいますが、夏芽も航祐もそれどころではないという感じで、やすじいの喪失からの脱却に苦慮しています
夏芽は団地が取り壊されることですべてがなくなると感じていて、それは「甘える相手の喪失」というところに行き着きます
母には甘えられず、航祐もアシストタイプなので、彼に甘えるというのもしっくりこないのですね
夏芽がのっぽに執着するのは、団地(=やすじいとの思い出)の守り人であることでしょう
でも、「のっぽくんのことを放っておけない」と、まるで母性的な性質が突出して、命懸けで彼を一緒に連れて帰ろうとします
この母性的なものが彼女に芽生えているのは、すでに性徴が起こっているからなのでしょう
男女によって性徴の起こる時期は違っていて、いわゆる「第二次性徴」が始まるのは女子だと9歳9ヶ月、男子だと11歳と6ヶ月となっています
第二次性徴とは、女子だと胸が膨らみ生理が始まります
男子だと毛が生えて、性器が露出を始める頃になります
彼らの年齢は11歳なので、夏芽はとっくに始まっているけど、航祐は微妙な年齢なのですね
このくらいの時期になると、精神的には「自立」という概念が芽生え始めます
そして、親離れのステージに足を踏み入れ始めることになります
でも、そこに行くことの恐怖と、まだ子どもでいたいという感情があって、板挟みのまま動けないのが夏芽というキャラだったと言えます
夏芽はやすじいに対する依存度が高かったために精神的な成長は未発達だったのでしょう
航祐はその未発達な部分を感じていて、それを牽引するのが自分の役目なんだと思っているのかもしれません
でも、このような成長は自分の中の変化なので、夏芽はやすじいへの依存、すなわちのっぽくんとの別れを自発的に行うことでしか、その境地には辿り着かなかったということになるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は思った以上に不評なのですが、それは同じような問題が過ぎては繰り返すというしつこさなのだと思います
特に令依奈が夏芽に対して「あんたのせい」ということを言うのですが、これがものすごくクドいのですね
令依奈が口を開けばそのセリフを言っていると感じるぐらいに、彼女がイライラすると同じ展開が待っていると言う感じになっていました
また、団地や大海原のメタファーがあまり効果的ではなく、団地でなくて一軒家だとダメなのかとか、海ではなく空ではダメなのかと言う非日常の設定に深みを感じません
個人的な解釈をするならば、他の建物とぶつかると言う派手な演出をしたかったのかなと感じていて、絵的にも大型スーパーとぶつかったり、観覧車で団地を固定したりと言う、映像的な派手さ言うものを重視したように見えます
海のイメージは「母」なので、海=母=母性と言うことで、夏芽の精神的な状況を暗示していると言う意味になるのかなと無理やり解釈しています
海が荒れると夏芽は感情的になるし、彼らの内紛が起きると天気が荒れていく印象がありましたね
常に活動的な時は激しく、寝ている時などは穏やか
そんな海に浮かんでいると言う不安的さが必要だったのかな、と勝手に解釈しています
団地になっているのは、単純にやすじいとの別離を象徴的に描きたいからなのかなと思いました
団地と同じようにカメラも古いものが登場し、わかりやすい時代の流れというものを演出しています
またカメラはやすじいから航祐に引き継がれるものの代表となっていて、それはそのまま「やすじいと夏芽の関係性」を航祐にバトンタッチするという意味になると思います
ちなみに、航祐に猛アプローチをする令依奈は完全に相手にされていませんでしたね
かわいそうなくらい相手にされていなくて、しかも間近で「イチャラブ」を延々と見せられていて、ちょっと不憫に感じてしまいました
そこですかさずにフォローに入るのが珠理で、彼女なりに「航祐の代理人」になろうとしているのかなと思いました
彼女にその属性があるのかはわかりませんが、メガネを取って(壊れて)からその属性を隠さなくなってきたように思うので、そういった資質が裏設定があるのかなと勘繰ってしまいます
真相は監督の頭の中なのかもしれませんが、同じことを思った人は意外と多いんじゃないかなと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/379121/review/9a24cfa9-6f81-46d3-8d2e-fb87683087ad/
公式HP:
https://www.hyoryu-danchi.com/