■最後の推理が物理学者ではなく心理学者みたいな感じになってるのはどうよ?
Contents
■オススメ度
シリーズのファンの人(エンドロールで泣くかも)
福山雅治さんのファンの人(★★★)
原作ファンの人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.9.16(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2022年、日本、130分、G
ジャンル:完黙を貫いて無罪になった容疑者が再び別の事件の容疑者になり殺害された事件を紐解くミステリー映画
監督:西谷弘
脚本:福田靖
原作:東野圭吾(『沈黙のパレード(2018年、文藝春秋)』)
キャスト:
福山雅治(湯川学:帝都大学工学部、物理学科教授)
柴咲コウ(内海薫:警視庁捜査一課の刑事)
北村一輝(草薙俊平:警視庁捜査一課、警部、薫の同僚)
飯尾和樹(並木祐太郎:料理店「なみきや」の店主)
戸田菜穂(並木真智子:祐太郎の妻)
川床明日香(並木佐織:遺体で発見される並木家の長女、歌手を目指しレッスンを受けていた)
(乳幼児:宮島瑠花)
(幼少期:山田小媛)
(5歳時:有田麗未)
(小学生:米村莉子)
出口夏希(並木夏美:並木家の次女、大学2年生)
田口浩正(戸島修作:食品加工業「トジマ屋フーズ」の社長、祐太郎の親友)
吉田羊(宮沢麻耶:「宮沢書店」の跡継ぎ、なみきやの常連客)
椎名桔平(新倉直紀:音楽プロデューサー、佐織の音楽の師匠)
檀れい(新倉留美:直紀の妻、直紀の元レッスン生)
岡山天音(高垣智也:印刷会社勤務の若者、佐織の恋人)
村上淳(蓮沼寛一:完全黙秘で無罪になりつつも、沙織の殺人事件の容疑者として浮上する男)
酒向芳(増村栄二:廃品回収業者、前科者で蓮沼の友人)
大島美優(本橋優奈:13年前に殺害された女児、蓮沼が完全黙秘を貫いた事件の被害者)
山田キヌヲ(本橋由美子:優奈の死後に自殺した母)
清水伸(本橋誠二:優奈の父、蓮沼の元雇用主)
三浦健人(武藤:警部補)
徳橋みのり(島岡:鑑識課主任)
津田寛治(記者)
■映画の舞台
東京都:菊野市(架空)
菊野商店街
ロケ地:
静岡県:牧之原市
相良本通(菊野商店街)
https://maps.app.goo.gl/SpswXCXR9s37Uy1L8?g_st=ic
茨城県:猿島郡
さくらの森パーク(のど自慢大会)
https://maps.app.goo.gl/UmhAoDgTQppYCnk4A?g_st=ic
神奈川県:鎌倉市
無有館(新倉家)
https://maps.app.goo.gl/8zdM8kmEscj5oJ6d6?g_st=ic
群馬県:前橋市
群馬県立群馬産業技術センター(湯川の研究先)
https://maps.app.goo.gl/8qVwKJJwhVjfY4vu9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
13年前のある日、本橋優奈ちゃんという少女の遺体が見つかり、容疑者・蓮沼寛一は完全黙秘を貫いて無罪となった
その事件を担当していた草薙は、菊野市在住の女子高生・並木佐織殺害事件の捜査本部に呼ばれた
同僚の内海が仕切る中、遅れて捜査本部に到着した草薙だったが、その捜査ボードに貼られていた蓮沼の写真を見て嘔吐する
佐織の遺体は蓮沼の母と一緒に骨となって見つかり、また佐織の血痕のついた作業着が彼の住処から見つかっていたのである
再び殺人事件の容疑者になった蓮沼だったが、警察は13年前の同じ轍を踏むまいと、蓮沼を釈放してしまう
納得のいかない並木家と彼らを支える商店街の人々は憤慨し、彼らが集まる「なみきや」に蓮沼は堂々と現れた
偶然その場に居合わせた物理学者の湯川は、彼らの反応を冷静に分析する
湯川は近くの研究所で実験のために訪れていたが、かつての盟友・内海も草薙と一緒に佐織の事件の調査のために菊野市を訪れていた
内海は湯川に助けを求めるものの、物理学とは縁のない事件だったため協力を拒む
だが、なみきやの騒動をきっかけに「行きつけの食堂の店主が加害者扱いされること」に抵抗を感じ、湯川も捜査に協力することになった
菊野市では仮装パレードが行われる時期で、なみきやの次女・夏美に誘われた湯川は一緒にパレード見学に参加する
無事に終了し、優勝したチーム菊野の祝賀会に参加することになった湯川だったが、そこに「蓮沼死亡」のニュースが舞い込むのである
湯川は内海と草薙と協力しながら、蓮沼の死の真相を探るべく、ある仮説を検証することになった
テーマ:沈黙と多弁
裏テーマ:沈黙がもたらす功罪
■ひとこと感想
ガリレオシリーズはテレビの再放送か何かを見て、福山雅治さんのキャラで持っている映画だなあなどとしょうもないことを考えながら見ていました
そのほとんどを覚えておらず、その流れで映画版に突入した記憶があります
本作は二つの殺人事件の容疑者となった蓮沼を巡るものですが、メインはその蓮沼殺害の真相を辿るというものになります
事前情報をほとんど入れていなかったので、蓮沼が死ぬことは知らなかったのですが、予告編とかだと結構ネタバレしている印象があります
映画は上下巻の長編を2時間にまとめるという荒技で、それなりにまとまっているように思えます
捜査の過程とか、登場人物のキャラは最低限理解できるつくりになっていますが、肝心の湯川の仮説(ほとんど推理)に至る部分がやや足早な説明的なものになっていたように思えました
もっとゲスい展開になるのかなと思いましたが、そこまでドロドロとしたものではありませんでしたが、事件の起点と成佐織の行動は賛否を呼びそうな印象がありましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
物理学はほとんど関係ない推理ドラマになっていて、湯川が登場する必要性はあまり感じません
ヘリウムか液体窒素か、という仮説で一応科学的なものは出てきますが、それは湯川が有能というよりは捜査員が無能という印象が強いですね
低酸素による窒息死であるならば、現代の司法解剖だと答えにたどり着いてしまいそうな気がしました
それはともかく、本作でガッカリ感が強いのは被害者・佐織の一連の行動だと思います
妊娠発覚からの歌手やめたい発言は微妙で、留美の嫉妬が原因で起きた事故ならば、実は直紀が手を出していた、ぐらいのところまで踏み込むのかなと思っていました
最終的に直紀は黙秘を辞めて妻を救うことになるのですが、墓場まで持って行ったものがあるような感じがしてなりません
この映画のテーマは「沈黙の功罪」で、「罪を隠すための黙秘」「司法の限界に訴求する黙秘」などがあり、その対極として「雄弁な嘘」というものがありました
これらの「発せられる言葉」というものの重みということを考えれば、ラストは「誰のために罪を隠すのか」というところに至り、それを担うべき直紀には一段と深い沈黙の意味を重ねた方がよかったように思います
この映画では、誰もが全てを話しすぎていて、それがルールのようにも見えますが、実際の人間というものは「死んでも話せないこと」というものがつきまとっていて、それが佐織と直紀の間にあった方がより深みがあったように感じました
■沈黙の価値
本作のテーマは「沈黙」で、当初は「司法への挑戦」のようなものでした
蓮沼が「完全黙秘」したことで無罪になり、それが草薙のトラウマになっています
でも、優奈ちゃんの殺害事件の経過とか残忍性があまり描かれておらず、蓮沼の殺人鬼としてのカテゴリーがわからないのが微妙でしたね
彼が「沈黙」を貫いているのが彼の父の教えだとすると、彼の幼少期のエピソードを映像化した方が深みがあったかもしれません
蓮沼の「沈黙」はやがて次の事件を引き起こし、それは「町民全員がグル」というような感じに展開し、そこで「関わった人のためにお互いが沈黙する」という流れになっていきます
蓮沼は自分のために「沈黙」しますが、彼らは他の人のために「沈黙」することを余儀なくされています
連帯責任のような「自発的ではない沈黙」になっていたのですが、佐織の彼氏の高垣が何の抵抗もなくあっさりと供述したのは笑ってしまいます
彼が沈黙を破る理由が不明瞭で、こんなことをしても佐織は戻らないみたいな軽い理由すらありません
彼らが犯罪リレーをするのは警察にバレないようにするためだと思いますが、パレードの中で行うのなら単独犯の方が成功率は高いでしょう
彼らの計画は「液体窒素で苦しませて白状させる」というものでしたが、「司法の場で沈黙を貫いた蓮沼」という人物に犯罪を白状させるために拷問を行うというのは一般人の考えでは浮かばないと思います
そもそも、誰がこの計画を思いついたのか、という根幹の部分の説明がなく、液体窒素を充満させたら苦しむということを誰が知っていたのかが不思議でしたね
戸島フーズに液体窒素があっても、それは用途が違うので、彼にその知識があったのかは微妙でしょう
湯川がその可能性に近づくのは理解できても、どう見ても化学に疎い連中が、あの方法を思いついたというのが最大のミステリーだったように思いました
「完全黙秘」をした犯人を追い詰めて白状させるという意味はわかりますが、最終的には計画を変更して「白状させる必要もなくあっさりと殺した」となっているので、テーマとうまく噛み合っているかというのも微妙だったのではないでしょうか
■沈黙が選択になり得るか
「沈黙」することで得られるものはたくさんありますが、本作にて「沈黙で何かを得たのは蓮沼だけ」ということになっていました
それでも、一番タチが悪いのは留美で、あの時点で死んでいなかったことが後でわかっても、蓮沼からの第一コールまでに何食わぬ顔して「なみきや」に通っていたという神経は尋常ではありません
彼女は夫たちの計画が失敗することがわかっていたはずで、その失敗はすなわち「蓮沼が白状せずに死ぬ」ということを意味します
もっとも、蓮沼が留美との関係を白状したとしても、それを知った実行犯は「蓮沼を沈黙させるために殺した」と思うのですね
それが「当初の予定では祐太郎だった」というところが留美が夫に白状するきっかけになっています(夫がアンカーなら白状しなかったでしょう)
留美が夫から計画を聞いた時、作戦通りならば祐太郎が蓮沼を尋問していたでしょう
蓮沼が苦しくなって祐太郎に留美と佐織が揉めていたことを告げたとしたら、その後留美は祐太郎から尋問を受けることになります
でも、祐太郎が蓮沼の自供を信用するかというのがかなり微妙で、蓮沼はあの状況で祐太郎を説得する材料を見せないといけません
単に苦し紛れに適当なことを言っているとしか思えず、それだと祐太郎が蓮沼を殺したあとに留美に真相を聞くという流れになったかもしれません
留美は沈黙することなく、「私とあの男のどっちを信用するのか」ということを嘘泣きしながら平気で言いそうな気がします
祐太郎としても、長年佐織を気にかけてくれていた留美がそんなことをするはずがないと考えるのが自然で、偽証による誘導で事件は終わっていたと思います
映画ではさまざまなアクシデントの末に「妻の犯行を知った直紀が蓮沼を殺した」という展開になり、それが実は勇足だったというふうに結ばれました
この展開になることで、直紀に沈黙の無意味さを説くというシークエンスが生まれるのですが、そもそも妻を助けるために行動を起こした直紀が「沈黙」する確率は相当低いと思います
なので、映画では「二択!(自分が殺人犯になるかどうか)」みたいな感じに盛り上げていますが、彼のこれまでの行動を考えると選択の余地などはなかったと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は結構酷評が多い作品で、その理由の多くは「被害者である佐織の自業自得感がすごい」というところだと思います
おそらくは高校を卒業してからレッスンを受けて歌手を目指すことになったと思いますが、高垣との間に子どもができたことでその道を断念することになりました
そもそも、子どもを産んだら歌手になれないと思うのが短絡的で、しかも「嫉妬していたんでしょ」と留美を煽るのですね
留美としても、金と時間をかけてデビューにまで漕ぎ着けたのに、そんな言われ方をしたらブチ切れるのは普通のことでしょう
でも、留美が直情的に手を出すには、この映画で描かれている嫉妬では弱いのですね
個人的には「直紀との間に子どもができた」のかなと思っていて、留美が不妊治療をしているけど授かれない理由などがあるのかと思っていました
また、直樹が生徒に手を出す手癖の悪さがあったので、それをそのまま「若い芽に向けた」のかなと勘繰っていましたね
その関係性を知っていた留美が「嫉妬しているのでしょ?」と言われたら、「泥棒猫め!」ぐらいの怒りが発動して突き飛ばすということを殺意を持って行ったかもしれません
映画では「歌の才能が」という意味合いの嫉妬ですが、佐織はそもそもデビューすらしていないので、売れなかったとしてもちゃんとCDを出すところまで行っている留美の方が格上だと言えます
佐織が「音楽的才能で嫉妬している」というからには、「留美と比較して抜群にうまい」という比較論評がされていることが前提になっていて、それを行えるのは直紀以外にはあり得ません
直紀がレッスンのたびに「留美よりもうまい」「留美はダメだったけど君なら売れる」みたいなことを延々と言っていたとしたら、それはそれで「嫉妬の怒り」は直紀の方に向かうでしょう
映画の直紀のキャラだと留美を落とすことはしないので、そうなると何かしらの方法で留美のCDを聴いて「下手くそだと思った」みたいなシークエンスが必要になります
そして、驕った佐織が「嫉妬してるんでしょ」とまで言い切ったら、それはそれで留美がブチ切れるかなあと思いました
実際にはそういうことは描かれていないので、音楽的な才能に嫉妬しているというのを「才能を見出した相手に言う」と言う人物だったと言うことになります
それはそれでかなり痛いのですが、この痛さというものしか映画からは伝わらないので、「そこまで相手を馬鹿にして、恩を仇で返されたらやむを得ないんじゃないの」と思われても仕方ありません
そもそも歌手になることを渇望していたのに不用意に妊娠するという性的リテラシーの低さも大概だし、キャラ的に高垣が直接的な性行為を強要するキャラにも見えません
なので、妊娠に至った経緯を考えると、後先考えないビッチ感というものが浮上してきます
そう言ったところを踏まえても佐織が擁護しづらいキャラになっているので、それらを解消するには「直紀が行為を強要して孕ませて、それがバレたら困る直紀が殺した(実は未遂だった)」という方が説得力があるのですね
そうなると、脅されるのは直紀の方になりますが、蓮沼のキャラだと「留美に秘密をバラして動揺させる方が楽しめる感じがする」と考えそうなので、結局は同じことをしていたのかなと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/378060/review/8b69b976-5693-451d-90f0-4f3c3bf349ff/
公式HP:
https://galileo-movie3.jp/