アナログの本来の意味は「連続的」だけれど、2人の木曜日は「デジタル(段階)的だった」ように思えました


■オススメ度

 

純愛系ラブロマンスが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.9.6(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

情報2023年、日本、120分、G

ジャンル:携帯を持たない女性に恋をしたデザイナーを描いた恋愛映画

 

監督タカハタ秀太

脚本港岳彦

原作ビートたけし『アナログ(2017年、新潮社)』

 

キャスト:

二宮和也(水島悟:手作り模型や手描きイラストにこだわるデザイナー)

波瑠(美春みゆき:携帯を持たない謎の女性)

 

桐谷健太(高木淳一:悟の小学生時代からの友人)

浜野謙太(山下良雄:悟の小学生時代からの友人)

佐津川愛美(山下香織:良雄の妻)

千野珠琴(山下心愛:良雄の娘)

 

藤原丈一郎(島田紘也:悟の大阪支社の後輩)

宮川大輔(高橋俊和:島田の上司)

 

鈴木浩介(岩本修三:悟の上司)

円井わん(𠮷田:悟の同僚)

今井隆文(坂上:悟の同僚)

 

筒井真理子(椎名順子:悟のクライアント)

 

高橋惠子(水島玲子:悟の母)

坂井真紀(浅井陽子:玲子の主治医)

 

板谷由夏(香津美:みゆきの姉)

猪股俊明(みゆきの父)

 

リリー・フランキー(田宮:喫茶店「ピアノ」のマスター)

 

佐々木新平(コンサートの指揮者)

高木竜馬(コンサートのピアニスト)

 


■映画の舞台

 

日本:東京

広尾近辺

 

ロケ地:

東京都:港区

Nem Coffee Espresso(喫茶「ピアノ」)

https://maps.app.goo.gl/A7bfsXyBgt4Kj5P1A?g_st=ic

 

東京都:新宿区

神楽坂ChouChou(定食屋)

https://maps.app.goo.gl/EcwoCvwRnHZ8zjNeA?g_st=ic

 

東京都:中央区

立呑みマルギン(焼き鳥屋)

https://maps.app.goo.gl/ySqpGvaKGRN8uQDs7?g_st=ic

 

東京都:江東区

志づや(そば屋)

https://maps.app.goo.gl/LbXvXvBwT1LY22yFA?g_st=ic

 

ティアラこうとう(コンサートホール)

https://maps.app.goo.gl/ywoYF8QD4hSiorucA?g_st=ic

 

千葉県:南房総市

原岡桟橋

https://maps.app.goo.gl/vJtGcgQ91cHDKcsy5?g_st=ic

 

神奈川県:大磯町

カトリック大磯教会

https://maps.app.goo.gl/W6FCsYL1Ce15nQbP8?g_st=ic

 

神奈川県:茅ヶ崎市

サザンビーチちがさき

https://maps.app.goo.gl/J5dLcqUWnk924jiB6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

都内で建築デザイン会社に勤める悟は、病弱の母・玲子を気にかけながら、日々の業務に邁進していた

彼のデザインはクライアント受けが良いが、その手柄は上司の岩本がさらっていくものの、悟には出世欲はなかった

 

事あるごと親友の高木と山下と呑みに行き、仕事の愚痴を言い合っていたが、ある日待ち合わせの喫茶店にて、自分のデザインを褒めてくれる女性・みゆきと出会う

みゆきは悟の細かなこだわりに気づいていて、それから木曜日にはこの喫茶店で会うことになった

 

みゆきは携帯を持たない女性でミステリアスな部分が多かったが、時間を重ねるごとに悟の想いは強くなっていく

みゆきも「悟さん」と呼ぶようになり、別れ際にハグをしたりと、その気になっているように思えた

 

高木と山下が焚き付ける中、悟は一代決心をして、ある木曜日を迎えることになった

だが、その日みゆきは喫茶店に現れず、今度は母の訃報にて、悟の方が喫茶店に行けなくなってしまうのである

 

テーマ:愛するということ

裏テーマ:惹かれ合う魂

 


■ひとこと感想

 

ビートたけし原作ということで、どんなヤバい展開を迎えるのかと思っていたら、少女漫画よりも純粋なラブストーリーに驚いてしまいました

携帯を持たない謎の女性に惹かれていくデザイナーを描いていくのですが、お仕事ドラマとしても、その奥深さが描かれていたと思います

 

物語は、予告編の段階で「来なくなる」ということが明言されていたので、いつ来なくなるのかなと思ってしまいましたが、意外と後半寄りになっていましたね

なので、予告編は見ない方が、前半の積み上げをじっくりと堪能できるように思えます

 

親友たちとのバカ騒ぎのシーンはとても心地よくて、悪意のない意地悪というのが関係性の濃さを表していましたね

後半はネタバレ厳禁ですが、そこまで突飛ではないというのは本当のところ

でも、その後の悟のこだわりは、彼らしくて応援したくなりました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

冒頭でヴァイオリンを奏でるシーンがあって、これがみゆきなんだろうなあとは思って見ていました

このシーンが後半の重要なシーンで登場するのですが、これが思いもよらない想いの共有になっていました

予期せぬ出来事で関係性が変わってしまい、歩みたかった未来が消えてしまったのですが、人は愛ゆえに変われるということを示していたように思います

 

演出次第では感動ポルノに分類されそうな内容ではありますが、本作に関しては過剰な演出がほとんどなく、さらっと描かれていて、空気感で意味を伝えていたように思います

生活感を感じられるように建物の模型を作るこだわりがありますが、それと同じくらい、みゆきとの未来を具体的に描いていたのでしょう

 

ネタバレブログでも結末を書いてはいけないタイプの物語ですが、おそらくは観ている人みんなが観たかったラストになっていて、それがまた引き算の演出になっているところが心地よかったと感じました

 


人生をともに過ごす価値

 

映画は、約束の日にすれ違いが起こった末に、悲劇的な事実が判明するという感じになっています

不慮の事故で半身不随、脳障害も起きている状態とのことで、みゆきの家族は「忘れてほしい」と言ってしまいます

でも、みゆきの残した手帳を読むことで、悟はさらなるこだわりというものを見せることになりました

 

この辺りは予定調和なもので、日記の内容を知る姉は「悟が忘れないこと」を感じていると思います

なので、悟が反対を押し切ってでも、みゆきのそばにいたがるということは想像できます

それを見越した上で日記を見せていると思うし、中途半端な気持ちでうろうろされるよりはマシだと感じたのだと思います

 

結婚をしていない2人ですが、あの日記に書かれていたことは「告白の返答」になっていて、悟の中では「心理的な結婚生活」というものが始まっています

「心理的な結婚生活」は、その意思が確認しあえた段階で始まるもので、儀式的なものは「その関係を周知させる」「覚悟を再確認する」というものに過ぎません

悟の中では日記を読んだ段階で夫婦になっていて、その前段階において「みゆきさんに何があったのかは知りませんが」という前置きをした上で「寄り添いたいと思います」と伝えていました

なので、「何があっても」という部分が悟の誓いとなっていて、儀式的なものを必要せずに寄り添い合える関係になっていったのだと思います

 

人生というのは何が起きるかわからないもので、私の場合も妻は病気で早逝していますし、「何が起きても」という決意を完遂した経験があります

この経験があったので、悟の人生観は重なったのですが、本来ならば悟の年齢だと、この達観には至らないと思うのですね

なので、悟の中に原作者の価値観が棲みついていて、それが世代間のギャップを生み出すことになっていたように思えました

 


不便がもたらす渇き

 

映画の設定として、携帯を持たない女性となっていて、現代劇だと、それを言うならスマホじゃね?と思ってしまいます

このあたりは原作が描かれた年代(2017年)でも違和感がある感じですが、携帯とスマホの保有率が逆転したのが2019年なので、意外とおかしくはないのでしょう

映画では、時代設定がはっきりとは示されていませんが、街の風景、ガジェット、インテリアデザイナーの職場環境などを考えると、2022年〜2023年頃に思えますね

このリモートで仕事が普及したのが、思いっきり去年ぐらいからの流れになっていました

 

とは言え、携帯を持たない理由としては、身バレするからということになっていて、みゆきは世界的に有名なヴァイオリニストだったことがわかります

ピアノの店長は気づいていたようですが、彼女が偽名を名乗っていることに気づいているので、それ以上深くは追求していません

海外在住の著名なヴァイオリニストをクラシックと無縁のデザイナーが知る由はありませんが、どこに行っても身バレしないというのは無茶なように思います

 

映画のタイトルは『アナログ』ということで、実際の意味とは違いますが、連絡を即座に取り合えない関係というものを象徴したような言葉になっていますね

携帯以前に生きていた人ならばわかると思いますが、恋人の自宅に電話をすることのハードルの高さは相当なもので、ポケベルが普及し始めてから、「家」との関係が薄くなってきています

映画はスマホありきの世界で「連絡手段がない」という設定を作っていて、その関係性が紡ぐものは何かというところに言及していきます

コミュニケーションは会うまでできないという設定なので、何かしらのデータプランは自分の中で決めて、相手が喜びそうなことを想像しながら行うことになります

今だと相手の好みをそれとなく探りを入れたり、ダイレクトに聞くということもできますが、「想像を膨らませること自体」はサプライズにつながると言えるでしょう

 

アナログ的な生き方(イメージとしての意味です)というと大層ではありますが、会える時間以外にふれあえないという状況は、その瞬間をどう過ごすかということを真剣に考えることに繋がるのですね

この不便にも思える状況は、それぞれの想像や妄想を膨らませていくことに繋がり、その関係性が良好である間はうまく機能すると考えられます

でも、諸刃の刃にもなり得るので、悪い想像が膨らむ時間をも作り出してしまいます

後半にすれ違いが増えて、それぞれがそれぞれの思考で相手のことを思いやっていきますが、それが限界に達した時にどうなったのかはわからない感じになっていましたね

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、木曜日にしか会えないという設定になっていて、それがなぜ木曜日なのかは描かれていません

原作では言及があるのかもしれませんが、未読の状態で鑑賞したので、「体を悪くしていて、木曜だけは近くの大きな病院にくる」とか、そう言ったものが枷になっているのかなと想像していました

実際にどうだったのかは分かりませんが、初めての出会いが木曜日だったこともあって、それがお互いが会いやすい日でもあったということなのでしょう

そこに深い意味や設定を求めることも必要だと思いますが、ランダムに来店して会うということはほぼ不可能なので、「会いたい気持ちが木曜日を指定した」ということで良いのだと思います

 

映画は、連絡手段がないという設定なので、必ず「連絡が取れない時期がくる」のですが、その際に思いつく理由の中では、最もポピュラーなものになっていると感じました

「もともとの病気が悪化した系(父親の病気は自分のことだった)」か、「何かしらのアクシデントがあった系」に分類されると思いますが、アクシデント系も家族関係、自分自身の二択に近い状態なので、そこまでサプライズを用意できるとは思えません

事故のシーンを描くことなく、昏睡状態と対面することになるのですが、現代特有のリサーチ状況は置き去りにしている感じになっていますね

 

あれだけの時間を過ごして、一緒に写った写真がないというのもアレですが、みゆきの写真が一枚でもあれば、「グーグルレンズで検索したら一発で判明する」状況だったりします

それでなくても、友人2人は「素性のわからない女」と思っていた節があるので、友人が騙されていないかを調べたりしそうな雰囲気はあったように思います

 

個人的には「実はすでに死んでいた系」とか思っていたし、初回のデートの時に服装の加減か「妊娠しているように見えた」ので、これ以上会うとバレるということなのかなあとか想像していました

でも、みゆき側が余白を悟で埋めるような悪女にも見えず、お酒も普通に飲んでいたので、考えすぎるのもダメだなあと思っています

この設定でサプライズ的なものを考えるとしたら、「木曜だけ人格が変わるサイコ系」とか、「木曜だけ夫はいないの系」とか、「木曜だけは霊界に通じるカフェだった系」ぐらいしかないと思います

このどれもが瞬殺できるボツ案件ですが、半身不随まで行かなくても良かったように思います

 

また、恋愛ドラマとしてのサプライズなら、「不倫がバレて殺された系」「過去の男に監禁された系」などもありますが、そのどれもが映画の雰囲気にはマッチしません

なので、誰もが想像した「事故か何かに遭って会えないほど顔がやばいことになった系」とかに落ち着いてしまう感じになります

 

これが他の国の映画だと「女優さんに特殊メイクをして原型留めない」ぐらいのことはすると思いますが、邦画で波瑠の顔に特殊メイクを施せるような勇気のある人はいないと思うので、顔以外の身体的欠損に向かうしかないのですね

でも、四肢欠損を描くのはハードルが高いので、表面的には無事で、それでも会えない状況になると考えると半身不随に落ちつくしか無いように思えます

 

会いたい意思がみゆきにはあるので、それを損なう機会となれば「記憶喪失」がメインになってしまいますが、脳障害ということで「彼女の意思とは別の何か」で物語を動かすことができます

そう言った熟慮があったのかはわかりませんが、可能性を追求するとこれしかないという感じになっていて、それは素人考えでも到達できてしまうところが悲しいところなのかもしれません

恋愛の障壁というのはそこまで種類があるわけではないので、無難なところに落ち着いた感はありますが、本作はそのサプライズがメインではないので問題ないと思います

相手がどのような状況になっても、自分の決断を信じられるかどうかというのが命題でもありますので、それを描く上では最適解に近いのかなと思いました

リアルに描くならば、1年も不随の状態で栄養状態などを加味すると、もっと老けた感じになると思いますが、それを邦画で求めるのは配役的にも無理だと思うので、それは致し方ないのかもしれません

このあたりを突破できれば、邦画のレベルも上がってくるのかなと思わざるを得ません

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

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投稿者 Hiroshi_Takata

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