ヒッチコックはかく語りき、と言って良いものかは悩みどころだと思います


■オススメ度

 

ヒッチコック映画をこよなく愛する人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.10.10(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:My Name Is Alfred Hitchcock

情報:2022年、イギリス、120分、G

ジャンル:ヒッチコック自身が自分の映画技法を紹介するというコンセプトで作られたドキュメンタリー映画

 

監督&編集:マーク・カインズ

 

キャスト:

アリスター・マクゴーワン/Alistair McGowan(ヒッチコックの声)

 

アルフレッド・ヒッチコック/Alfred Hitchcock(アーカイブ)

 

他のキャスト&作品については下記のパート(ネタバレあり)で一覧を作成しています

 


■映画の舞台

 

世界各地

 


■簡単なあらすじ

 

アルフレッド・ヒッチコックが自分の映画の技法を解説するというコンセプトで作られた作品

序章、エピローグを含む全8章から構成される内容は、ラストにサプライズが待っている

取り上げられる作品は50作品を越え、100人以上の俳優が登場している

 

マーク・カインズの仕掛けによって語られる「ヒッチコック」と「映画技法」とは何か?

数々の作品を6つのカテゴリーに分けつつも、何度も登場するキームービーがあるのが特徴的になっている

 

テーマ:虚構と現実

裏テーマ:技法によって描かれるドキュメンタリーの正体

 


■ひとこと感想

 

ヒッチコックの作品は『裏窓』ぐらいしか記憶になく、世代も違うのでほとんどの作品を観ていません

それでも、後世に影響を与えたとのことで、ファンが見るヒッチコックの映画技法というものには興味がありました

 

実のところ、先週にも鑑賞したのですが、ナレーションが眠気を誘発し、やむを得ずにリベンジマッチを行うことになりました

ブログのデータ欄がえらいことになりそうだったので、通常とは構成を変えていますが、調べるだけでも他の作品の数倍の労力が要りますね

 

感想に関しては、ドキュメンタリー内で語られる技法をドキュメンタリーにも応用しているという感じで、内容はアレですが、構成や制作意図が面白い作品になっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、ヒッチコックが自分の映画のシーンを使って技法を暴露するというものですが、実際には本作の監督であるマーク・カインズがヒッチコック作品から学んだことが描かれています

それをあたかもヒッチコックが話しているように見せるという感じに仕上がっていて、それは虚構の世界にリアリティを持たせようとした、ヒッチコックの手法の延長線上にあるものだと思います

 

映画は6つの章から成り、「Escape(逃避)」「Desire(欲望)』『Loneliness(孤独)」「Time(時間)」「Fultiment(充実)」「高さ(Height)」という順番で紡がれていきます

引用作品数がかなり多く、登場するキャストの100人を超えてくるのですが、この全てを見ていなくても、映画が伝えようとしていることはわかります

 

ネタバレと言えば、ヒッチコックの声を当てている俳優さん探しに苦労したという裏話などがありますが、ヒッチコック自身の声をどれだけの人が知っているのかわからないので、なんとも言えない感じになっています

私自身もヒッチコックの声を知らないのですが、時代を考えると誰かが声を当てているのは明白なので、てっきり監督の声だと思っていましたね

 


引用作品(わかった分だけ)

 

引用作品:タイトルの後ろの数字はおおよその引用回数(わかった分だけ)

サイコPsycho (1960))』4

めまいVertigo (1958))』4

『第十七番(Number 17 (1932) )』2

バルカン超特急The Lady Vanishes (1938))』2

逃走迷路Saboteur (1942))』2

『白い恐怖(Spellbound (1945))』2

ハリーの災難Trouble With Harry (1955))』

リングThe Ring (1927) )』3

裏窓Rear Window (1954))』2

『ダウンヒル(Downhill (1927))』

『殺人!(Murder! (1930))』4

『下宿人(The Lodger (1927))』3

引き裂かれたカーテンTorn Curtain (1966))』2

トパーズTopaz (1969))』

The Birds (1963))』3

マーニーMarnie (1964))』4

ロープRope (1948))』3

汚名Notorious (1946))』3

『巌窟の野獣(Jamaica Inn (1939))』2

『快楽の園(The Pleasure Garden (1925))』

レベッカRebecca (1940))』4

『農夫の妻(The Farmer’s Wife (1928) )』2

恐喝Blackmail (1929))』

ダイヤルMを廻せ!Dial M for Murder(1954))』2

スミス夫妻Mr. & Mrs. Smith (1941)』

『見知らぬ乗客(Strangers On A Train (1951))』

『疑惑の影(Shadow Of A Doubt (1943))』

『第3逃亡者(Young And Innocent (1937))』

パラダイン夫人の恋Paradine Case (1947))』

知りすぎていた男The Man Who Knew Too Much (1956))』

『山羊座のもとに(Under Capricorn (1949))』

『シャンパーニュ(Champagne (1928) )』

『マンクスマン(The Manxman (1929) )』

『ジュノーと孔雀 (Juno and the Paycock(1929))』

『リッチ・アンド・ストレンジ(Rich And Strange (1931) )』

『ウインナー・ワルツ(Waltzes From Vienna (1934))』

暗殺者の家Man Who Knew Too Much (1934))』

三十九夜The 39 Steps (1935))

サボタージュSabotage (1936))』

海外特派員Foreign Correspondent (1940))』

断崖Suspicion (1941))』

救命艇Lifeboat (1944))』

『舞台恐怖症(Stage Fright (1950))』

私は告白するI Confess (1953))』

泥棒成金To Catch A Thief (1955))

間違えられた男The Wrong Man (1957))』

北北西に進路を取れNorth By Northwest (1959))』

フレンジーFrenzy (1972))』

ファミリー・プロットFamily Plot (1976))』

 


登場したキャスト(わかった分だけ)

 

出演作品としてまとめていますが、実際に映画内で引用されたかまでは確認できていません

 

ショーン・コネリー/Sean Connery『マーニー』

ポール・ニューマン/Paul Newman『引き裂かれたカーテン』

ジョン・ウェイン/John Wayne『捜索者』

シャーリー・マクレーン/Shirley MacLaine『ハリーの災難』

ジャネット・リー/Janet Leigh『サイコ』

ジュリー・アンドリュース/Julie Andrews『引き裂かれたカーテン』

ジェームズ・スチュアート/James Stewart『ロープ』『裏窓』『知りすぎていた男』『めまい』

イングリッド・バーグマン/Ingrid Bergman『裏窓』『めまい』

グレース・ケリー/Grace Kelly『ダイヤルMを廻せ』『裏窓』

カレン・ブラック/Karen Black『ファミリー・プロット』

ケーリー・グラント/Cary Grant『北北西に進路を取れ』

アンソニー・パーキンス/Anthony Perkins『サイコ』

キム・ノヴァク/Kim Novak『めまい』

ローレンス・オリヴィエ/Laurence Olivier『レベッカ』

エヴァ・マリー・セイント/Eva Marie Saint『北北西に進路を取れ』

エドマンド・グウェン/Edmund Gwenn『ハリーの災難』

グレゴリー・ペック/Gregory Peck『白い恐怖』

ヘンリー・フォンダ/Henry Fonda『間違えられた男』

ティッピ・ヘドレン/Tippi Hedren『マーニー』

ブルース・ダーン/Bruce Dern『マーニー』

モーリン・オハラ/Maureen O’Hara『巌窟の野獣』

アン・バクスター/Anne Baxter『私は告白する』

ジェームズ・メイソン/James Mason『北北西に進路を取れ』

ドリス・デイ/Doris Day『知りすぎていた男』

ジェシカ・タンディ/Jessica Tandy『鳥』

ピーター・ローレ/Peter Lorre『知りすぎていた男』

レイ・ミランド/Ray Milland『ダイヤルMを廻せ!』

レオ・G・キャロル/Leo G. Carroll『レベッカ』『白い恐怖』『パラダイン夫人の恋』『見知らぬ乗客』『北北西に進路を取れ』

シルヴィア・シドニー/Sylvia Sidney『サボタージュ』

キャロル・ロンバード/Carole Lombard『スミス夫人』

クロード・レインズ/Claude Rains『汚名』

モンゴメリー・クリフト/Montgomery Clift『私は告白する』

マーティン・バルサム/Martin Balsam『サイコ』

ジョーン・フオンテイン/Joan Fontaine『レベッカ』『断崖』

マーガレット・ロックウッド/Margaret Lockwood『バルカン超特急』

チャールズ・ロートン/Charles Laughton『巌窟の野獣』『パラダイン夫人の恋』

ジョセフ・コットン/Joseph Cotten『山羊座のもとに』『疑惑の影』

パトリシア・ヒッチコック/Patricia Hitchcock『サイコ』(ヒッチコックの娘)

ジョン・フォーサイス/John Forsythe『ハリーの災難』『トパーズ』

ロバート・カミングス/Robert Cummings『逃走迷路』『ダイヤルMを廻せ』

ロバート・ニュートン/Robert Newton『巌窟の野獣』

ロバート・モンゴメリー/Robert Montgomery『スミス夫妻』

ファーリー・グレンジャー/Farley Granger『ロープ』『見知らぬ乗客』

タルラー・バンクヘッド/Tallulah Bankhead『救命艇』

ジョン・ドール/John Dall『ロープ』

セルマ・リッター/Thelma Ritter『裏窓』

リチャード・トッド/Richard Todd『舞台恐怖症』

アイヴァー・ノヴェロ/Ivor Novello『ダウンヒル』

ジョエル・マクリー/Joel McCrea『海外特派員』

マイケル・レッドグレイヴ/Michael Redgrave『バルカン超特急』

ロバート・ウォーカー/Robert Walker『見知らぬ乗客』

ロバート・ドーナット/Robert Donat『三十九夜』

オスカー・ホモルカ/Oscar Homolka『サボタージュ』

ジュディス・アンダーソン/Judith Anderson『レベッカ』

バリー・フォスター/Barry Foster『フレンジー』

バーバラ・リー=ハント/Barbara Leigh-Hunt『フレンジー』

プリシラ・レイン/Priscilla Lane『迷走迷路』

ハーバート・マーシャル/Herbert Marshall『殺人!』『海外特派員』

セドリック・ハードウィック/Cedric Hardwicke『断崖』『ロープ』

ウェンディ・コルレイ/Wendell Corey『裏窓』

バリー・フィッツラルド/Barry Fitzgerald『ジュノーと孔雀』

マデリーン・キャロル/Madeleine Carroll『三十九夜』

マイルズ・マンダー/Miles Mander『殺人!』

アン・トッド/Ann Todd『パラダイン夫人の恋』

ジョン・ホディアク/John Hodiak『救命艇』

ブライアン・エイハーン/Brian Aherne『私は告白する』

ジュディス・イヴリン/Judith Evelyn『裏窓』

レスリー・バンクス/Leslie Banks『巌窟の野獣』

アンソニー・ドーソン/Anthony Dawson『ダイヤルMを廻せ!』

ポール・ルーカス/Paul Lukas『ダイヤルMを廻せ!』

アルマ・レヴィル/Alma Reville『リング』『殺人!』『第十七番』『サボタージュ』『第3逃亡者』『巌窟の野獣』『疑惑の影』『舞台恐怖症』

ミルドレッド・ダンノック/Mildred Dunnock『ハリーの災難』

ノヴァ・ピルビーム/Nova Pilbeam『知りすぎた男』『第3逃亡者』

ジェスリン・ファックス/Jesslyn Fax『裏窓』

カルメン・フィリップス/Carmen Phillips『マーニー』

ジョン・ローダー/John Loder『サボタージュ』

イアン・ハンター/Ian Hunter『リング』

デリック・デ・マーニー/Derrick De Marney『第3逃亡者』

サラ・ベルナー/Sara Berner『裏窓』

リナ・ケドロヴァ/Lila Kedrova『引き裂かれたカーテン』

ダグラス・ディック/Douglas Dick『ロープ』

パーシー・マーモント/Percy Marmont『リッチ・アンド・ストレンジ』

サラ・オールグッド/Sara Allgood『恐喝』

ヴァージニア・ヴァリ/Virginia Valli『快楽の園』

エドナ・ベスト/Edna Best『知りすぎていた男』

ドン・ロス/Don Ross『サイコ』

イディス・エヴァンソン/Edith Evanson『ロープ』

サム・ハリス/Sam Harris『海外特派員』『サボタージュ』

ジェシー・マシューズ/Jessie Matthews『ウィナー・ワルツ』

エドワード・チャップマン/Edward Chapman『殺人!』

ジェイムソン・トーマス/Jameson Thomas『農夫の妻』

フィリス・コンスタム/Phyllis Konstam『脅迫』『殺人!』

ゴードン・ハーカー/Gordon Harker『リング』『農夫の妻』

ベティ・バルフォア/Betty Balfour『シャンパーニュ』

ジョン・スチュアート/John Stuart『快楽の園』

ジューン・トリップ/June Tripp『下宿人』

ジョニー・ロングデン/John Longden『恐喝』

リリアン・ホール=デイヴィス/Lillian Hall-Davis『リング』『農夫の妻』

カルメリータ・ジェラティ/Carmelita Geraghty『快楽の園』

ハンスイェルク・フェルミー/Hansjörg Felmy『破れたカーテン』

カール・ブリッソン/Carl Brisson『リング』

クレア・グリート/Clare Greet『リング』『殺人!』『知りすぎた男』

フェルナンド・フォン・アルテン/Ferdinand von Alten『シャンパーニュ』

マシュー・ボールトン/Matthew Boulton『サボタージュ』

フレデリック・パイパー/Frederick Piper『知りすぎた男』『サボタージュ』

チャールズ・ペイトン/Charles Paton『脅迫』『知りすぎた男』

ジャン・ブレンディン/Jean Bradin『シャンパーニュ』

レオン・M・ライオン/Leon M. Lion『第十七番』

ハーヴェイ・ブラダン/Harvey Braban『脅迫』

エスメ・V・チャップリン/Esme V. Chaplin『殺人!』

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、ドキュメンタリーでありながら「虚構」であるという珍しい作品で、ヒッチコック自身が手法を解説しているように見せかけている内容になっています

通常は、事実を編集して意図を作り出すのがドキュメンタリーなのですが、本作の場合は「映画という事実」から解釈したものを編集して意味を作り出しています

実際にヒッチコック自身が6つの章に見られるような技法のカテゴライズをしていたかもわかりませんし、もっと細やかなものだったり、理路整然としていたり、感覚的だったかもしれません

 

ヒッチコックが残した映画技法は今でも根付いているものが多いのですが、影響を受けたものもあれば、いずれは発見されたものだったかもしれません

そのあたりは映画の黎明期における技法の進化の過程において、どれだけパラダイムシフトを見せてきたかによると思います

個人的には、黎明期の映画というものをほとんど知らず、その系譜がどのようにしてルーツとなったかまでははっきりとは知りません

今ある映画技法がどの段階で生まれたかというものまではわからないので、古典から映画の世界を知っている人ほど、ヒッチコックが為したものというのが理解できるのだと思います

 

本作は、ヒッチコックの映画から学んだものでドキュメンタリーを作るという変わった構造をしていて、本来ならばドキュメンタリーというカテゴライズはされないものだと思います

取材対象はこの世におらず、残されたものから想像しているという感じになっていて、それでも黎明期にヒッチコック作品を観ていた世代としてのテーゼのようなものなのかなと感じました

映画の観賞後に「ヒッチコックがこのような考えで映画を作っていたんだ」と思わせればOKという内容で、最後にネタバレをしてひっくり返すのですが、冷静に考えれば「そりゃそうだよね」というものだと思います

肝要なのは、鑑賞中に冷静にさせないほどに巧妙な作りになっているかということで、ある種の劇場的なものを脳内に作り出せているかどうかなのかなと思いました

 

映画は虚構をいかにして本物に見せるかということが命題で、「大きな嘘を一つだけつく」と言われています

本作の場合は、ヒッチコックが語っているというのが最大の嘘で、これを本物だと思わせられるかどうかということになります

個人的には、半分成功しているとは思うものの、この手法が良いのかは何とも言えません

それぞれが映画から学んだものは色んな形になると思うのですが、本人が言ったかどうかわからないものを作り出すことの功罪は計り知れないと思います

そう言った意味において、本作は結構な禁じ手だったのではないかなと感じました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

https://synca.jp/hitchcock/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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