白鍵と黒鍵の間にあるのは、這い上がれない奈落へ続く溝か、人生を見つめ直すために停止線なのかもしれません


■オススメ度

 

音楽映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.10.10(アップリンク京都)


■映画情報

 

情報2023年、日本、94分、G

ジャンル:ジャズの世界で成り上がりたい若者が銀座のクラブを渡り歩く過去を切り取った音楽映画

 

監督冨永昌敬

脚本冨永昌敬&高橋知由

原作南博『白鍵と黒鍵の間に -ジャズピアニスト・エレジー銀座編-』

 

キャスト:

池松壮亮(南:「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を弾いても良い敏腕ピアニスト、モデルは南博

池松壮亮(博:ジャズピアニスト志望の若者)

 

仲里依紗(千香子:博の先輩のピアニスト)

 

松尾貴史(熊野会長:「ゴッドファーザー 愛のテーマ」をリクエストしてもよい男)

高橋和也(三木:銀座のクラブバンドを仕切るバンドマスター)

 

森田剛(あいつ:「ゴッドファーザー 愛のテーマ」をリクエストする謎の男)

 

クリスタル・ケイ(リサ:アメリカ人ジャズシンガー)

松丸契(K助:サックス奏者)

 

川瀬陽太(曽根:クラブ「リージェント」のマネージャー&ギタリスト)

杉山ひこひこ(門松:クラブ「スロウリー」のマネージャー)

 

中山来未(Y子:「スロウリー」のホステス)

福津健創(島原:キャバレー「みずうみ」のプレイヤー)

尾本貴史(北川:キャバレーの店員?)

日高ボブ美(小春:キャバレー「みずうみ」のボーカリスト)

福田雄一(キャバレ「みずうみ」のドラマー)

𠮷田電話(キャバレー「みずうみ」のギター)

 

佐野史郎(宅見:博のピアノの先生、モデルは宅孝二

洞口依子(博の母親)

 

柴田知明(白方:ジャズバンドのドラマー)

北島友心(神田:ジャズバンドのパーカッション)

 

大友律(大沢:?)

 


■映画の舞台

 

東京:銀座

 

ロケ地:

神奈川県:横浜市

大衆酒場

https://maps.app.goo.gl/pkFokQKGznLiGsV3A?g_st=ic

 

東京都:中央区

銀座NB CLUB

https://maps.app.goo.gl/KycProT4oph2ULtz5?g_st=ic

 

KOKU HOTEL 築地銀座

https://maps.app.goo.gl/yS6nBkFicq7pk21f7?g_st=ic

 

東京都:町田市

Caffee&Jazz NOISE

https://maps.app.goo.gl/rtTPDFH5EonQSTbeA?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

銀座のキャバレーでお面を被りながらピアノを演奏している博は、ジャズを習いたくて現地で修行をしていた

ある夜、彼の元に「あいつ」と呼ばれるヤバい男がやってきて、「ゴッドファーザー愛のテーマ」を弾いてくれと言われる

マネージャーが止めるものの、その理由がわからない博は、リクエストに答えてピアノを弾き始めた

 

その噂は銀座界隈に広まり、ある男の耳に届く

それは、クラブ「スロウリー」をはじめとして、銀座界隈の演奏家を取りまとめているバンマスの三木で、こともあろうに彼の店に銀座の主・熊野会長が来てしまう

 

この街では、「ゴッドファーザー 愛のテーマ」をリクエストして良いのは熊野だけで、それを弾いてもいいのはスロウリーを中心に活動しているピアニストの南だけだった

南は三木からの要望で「スロウリー」を訪れた熊野をその曲で出迎える

 

一方その頃、曲をリクエストした「あいつ」は、クラブ「リージェント」を訪れていた

「リージェント」のマスター・曽根は、慌てて三木にそのことを告げ、「あいつ」をそちらに向かわせると言い始める

熊野と「あいつ」には因縁があり、出会えば一触即発は免れないと思われていたのである

 

テーマ:成長と決意

裏テーマ:未来を阻む壁

 


■ひとこと感想

 

ジャズが軽快に流れて、おしゃれな雰囲気の音楽映画だと思っていましたが、実はピアニスト南博の自伝の映画化で、彼の銀座の駆け出しの頃を振り返るものになっていました

しかも、銀座初心者時代と熟練時代が同時に存在する世界観になっていて、普通の回想録にもなっていません

 

映画は、音楽好きならハマりますが、この時系列ごちゃ混ぜの構成を受け入れられるのかはわかりませ

映画を見慣れているとそこまで気にはなりませんが、音楽を聴くという状況としては、集中できないので不要だと思ってしまいます

 

予告編からは想像もつかない内容なので、少しばかり構えるか、構成に関しては考えずに音楽を楽しむ方に切り替えるかの決断が必要かもしれません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、ある時間軸の2人が同時に存在している世界ですが、白いシャツ=遠い過去、グラサン=近い過去というふうに判別することができます

時系列を並べ直すなら、「みずうみ」「スロウリー&リージェント」「路地裏」という感じになりますね

主演の池松壮亮が実際に弾き、原作者の南博も参加していて、拙さと完璧さをピアノでも表現するような感じになっていました

 

物語は、「もしも」の世界を描いていて、「スロウリー(銀座界隈のバンドマン)の専属になっている未来」「留学をしている未来」「銀座に囚われて出られない未来」というふうに大別されます

後半のホームレスのシーンも彼が演じていて、この世界も訪れたかもしれない世界になっています

そこで目覚めて、実際に進んだ世界に向かうのですが、その転換点におけるパラダイムシフトを描いていると言えるのではないでしょうか

 

個人的には、この手の入り組んだ構成はあまり好みではなく、音楽を楽しむ時間だと「途中から」割り切ることにしました

デモテープを取る際の演奏を観れただけでもOKという感じですが、映画全体としての評価が高くなるかは別物という感じになっていますね

 


時間軸を重ねる理由

 

本作は、南博の自伝小説を映像化したもので、主に3つの時間軸(世界線)が同時に存在している作品になっています

ひとつめは「駆け出しの頃の博」、ふたつめは「熟練時の南」、みっつめは「外国に行かなかった未来の南」ということになります

外国に行かなかった未来はラストの路地裏のみで登場し、それまでの駆け出しと熟練が同時に存在しています

これは「熟練が初心を想起している」というものと、「駆け出しが銀座で成り上がっている憧憬」が同時に存在し、熟練が初心を思い出した結果、外国に行くという選択をしていることになります

 

これらを混在させるか、回想録で示すかは監督および脚本家の匙加減ではありますが、今回は「混在」を選択していましたね

この選択が良かったかどうかは何とも言えず、映画を見慣れていない人にとっては、構成がわかるまでに時間を要する感じになっています

逆に、映画を見慣れている人からすれば、「面白いことやってるなあ」となっていて、制作側は熟練なので、後者の視点で映画を作っていることになります

それ故に、レビューサイトでは真っ二つに評価が分かれるのですが、本来ならば見慣れていない人にもわかりやすい方を選んだ方が良いと思います

 

今回、同時が選択されたのは、おそらくですが、初心と熟練の心理を同時に描きたかったからでしょう

この二つの時間軸には共通する過去があり、それが宅見先生からアドバイスを受けたシーンになります

博はその言葉を胸に「実地(キャバレー)」に向かい、南はそれを思い出して「外国」に行くことを決意します

でも、この2つの精神には揺らぎがあり、それが「もしも」の世界を描き出すことになっていました

 


未来のために優先すべきこと

 

本作は著者の自伝であり、彼の経歴を知っている人ならば、最終的にバークリー音楽大学に進んだことを知っていると思います

映画では、その決断に至る心理的過程を描いていて、その時に自分自身に起こったことというのを想起していることになります

原作は、南博の青年期のジャズに魅せられたところから、小岩のキャバレー、六本木のバー、銀座の高級クラブを渡り歩いている頃が描かれています

なので、キャバレー時代と高級クラブ時代を同時に描いていることになります

 

彼自身がジャズに魅せられて師匠に従事し、そこから実地訓練をしていくわけですが、銀座のフィクサーに気に入られて、このまま専属として生きていくことも可能だったかもしれません

実際にこのような生き方が続けられるのかとか、クラブを渡り歩いての収入がどんなものかはわからないのですが、身なりなどからすれば、生活に困るということはないと思います

それでも、音楽で生きていくことが、「クラブの背景のままで良いのか」という葛藤は常にあると思うので、高みを目指すのならば、このままではダメだという葛藤はあったのだと思います

フィクサーに気に入られていても、彼が不在になればその地位と言うものは一瞬にしてなくなるので、別の支配者が同じように彼を扱うかどうかはわからないところがあります

 

映画では、音楽の初心に立ち帰り、実地で学ぶ意味を想起するのですが、それと同時に「熊野無き銀座の未来」と言うものも仄めかされていきます

南は熊野のお気に入りではあるものの、その専属性は彼を雇うクラブの意向が生み出しているものです

なので、熊野が去っても、クラブがそのまま南を雇い続けることは可能でしょう

ある種の永続性はそこにあるものの、それでもホームレスになる恐れを感じていると言うのは、精神的な部分が色濃く反映されているからだと言えるのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、ジャズ音楽を堪能できる映画で、主演の池松壮亮が特訓して演奏をされている作品でした

劇中では「ノンシャラント(nonchalant)」と言う言葉がキーワードになっていて、これはフランス語で「のんきに、何気なく、のんびりと」と言う意味があります

この言葉は師匠から発せられ、南の中にずっと残っていた言葉で、その言葉の意味を理解したのかはわかりませんが、行動を変えることにつながっていました

言葉を単純に捉えるならば、「心のままに」と言う感じで、その前提として「楽しい」と言う修飾語が必要なように思えます

 

映画のタイトルは「白鍵と黒鍵の間に」と言うことで、その間には何があるのかと言うことを描いています

白鍵は楽音(A、B、C、D、E、F、G)を示し、黒鍵は半音間隔の音を示しています(実際にはEとFは全音差になります)

白鍵7つ、黒鍵5つでオクターブを示し、その隙間にあるのは「溝」で、音がない世界であると言えます

実際にはその溝を弾くことはできないのですが、12音は連なっているように見えて独立していると言う意味に捉えられるのではないでしょうか

 

鍵盤を人生に例えると、全部で7のステージと5つの待避場所があることになります

生まれたところが「C(ド)」として、人生は半音ごとに溝を超えていくイメージになります

白鍵が順調さだとしたら、黒鍵はトラブルのように捉えられますが、実際には転機あるいは待避場所であると考えられます

なので、溝こそがトラブルであると思うのですね

 

人生になぞらえるなら、CDEが若年期で、FGが青年期、ABが壮年期と言う感じになっています

それぞれに「溝」はあり、それを超えていくことでステージが変わるのですが、稀にその溝にハマったまま次の鍵盤に行けない人や、溝に落ちてしまう人もいます

本作の場合は、DからEに移行する溝を描いている感じがしますね

黒鍵は「待避」のような意味合いがあって、若年期に2つの黒鍵があるのは、社会人に出るまでの待避がふたつあると言うことになり、この回避は若年期最後の待避ということになります

 

EからFへの移行は、誰もが寄り道をできない時期になっていて、それはEの時期に培われたものがその後を決めることにつながるからでしょう

なので、最後の待避場所であった「D#(E♭)」に何をするかによって、「E」の時期が決まることになります

そして、「E」が決まれば、次に待っているのは待避場所のない「F」への直行ルートになります

 

本作は、人生にとって、かなり重要な時期を描いていて、その選択を南博自身が振り返っているのだと思います

そうした中において、あの時「溝に落ちなかった自分」「待避場所がバークリー入学だったこと」によって、今の自分があると伝えているのではないでしょうか

映画は、かなり奇怪なテイストになっていますが、この人生の振り返りをどのような視点で見るかは「現在の選択」にかかっています

そういった意味において、DからEへ向かう人に向けてのバイブル的な映画になるのかもしれません

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://hakkentokokken.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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