■あの後、あの安宿はロックダウン対象になったのだろうか


■オススメ度

 

オペラが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.10.11(TOHOシネマズ二条)


■映画情報

 

原題:La boheme: A New York Love Song(ボヘミアンの日々)

情報2022年、アメリカ&香港、95分、G

ジャンル:ある安宿に集まる若者を描いた群像劇的オペラ映画

 

監督脚本レイン・レマー

原作:ジャコモ・プッチーニ『La boheme(1896年初演)』

 

キャスト:

ビジョー・チャン/Bijou Chan(ミミ:貧乏なお針子、ロドルフォの隣人)

シャン・ズウェン/Shang Zwen(ロドルフォ:詩人)

 

ラリサ・マルティネスLarisa Martínez(ムゼッタ:マルッチェロの元恋人、浮気性の女)

ルイス・アレハンドロ・オロスコ/Luis Alejandro Orozco(マルチェッロ:画家)

 

井上秀則(コッリーネ:哲学者)

マルケル・リード/Markel Reed(ショナール:ミュージシャン)

 

アンソニー・ロス・コスタンツォ/Anthony Ross Costanzo(パルピニョール:黒マスクの女、原作では行商人)

イ・ヤン/Lee Yang(アルチンドロ:ムゼッタの今カレ、原作では参議員)

 


■映画の舞台

 

現代、真冬のニューヨーク(原作は1830年代のパリ)

 

ロケ地:

香港のスタジオ

 


■簡単なあらすじ

 

現代のニューヨークの貧相な集合住宅には、詩人のロドルフォ、画家のマルチェッロが住んでいた

2人は暖を取る金もなく、ロドルフォは売れ残りの原稿を暖炉にくべて燃やした

 

そこにミュージシャンのショナールがやってきて、まとまった金ができたから食事にでも行こうと誘いに来る

ロドルフォはマルチェッロとショナールを先に行かせ、作品を仕上げてから合流するという

そこにロドルフォの隣人のお針子ミミがやってきて、火を借りたいと言ってきた

 

火を分けるもののすぐに消えてしまい、その闇の中でミミは鍵を無くしてしまう

必死に探すものの見つからず、2人はマルッチェロたちを追って、食堂に向かうことになった

 

テーマ:愛の火の灯し方

裏テーマ:清貧の中にある孤独

 


■ひとこと感想

 

ミュージカル映画という宣伝だったので、愛し合うカップルが愛の歌を歌う系かなと思っていました

原作のオペラを観劇したことはなく、映画化された作品も見ていないので、原作とどこまで違うのかはわかりません

それでも、時代設定と場所を変えた以外はそのままのようで、アジア系の人々に合ってない名前に違和感が募りました

 

映画は、IMDBに存在すらなく、ウィキペディアすらもありません

しかもパンフレットまで売っていないとあって、映画について調べるのがほぼ不可能な感じになっています

そのあたりの事情は英語版の記事などで調べましたが、「Rumiko Hasegawa」という財団を経営しているオペラファンの人が発起したということぐらいしかわかりませんでした

 

俳優さんたちはガチのオペラ歌手ですが、そのほとんどが無名に近いので、ググっても何も出てきません

主要キャストは6人ですが、脇を固めるキャストも2名しかわからず、あのドラァグクイーンみたいな友人が何者なのかも調べられませんでした

なので、レビュー自体もかなり薄めの内容になっているので、ご容赦くださいまし

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、オペラファンが尽力した作品になっていて、アメリカ&香港の制作なのに日本公開は最初のようになっています

もしかしたら香港やアメリカでも上映されているかもしれませんが、鑑賞後にググった時にはIMDBに存在すらしていませんでした

 

プロデューサーはオペラの普及に尽力している香港の人のようで、この方の経歴もほとんどわかりません

YomiuriのOnlineに有料記事があるようですが、会員ではないので閲覧はできませんでした

 

映画は、古典のオペラをほぼそのまま舞台設定を変えているだけで、ビジュアルと内容の違和感を感じる作品でした

物語も古典なのでそこまで捻りはありませんが、コロナ禍が舞台になっているようで、要所にマスクが登場しています

また、ミミの病気設定の内容も今風に変わっているようで、このあたりは下記の項で深掘りしたいと思います

 


原作「La Bohème」について

 

原作の「ラ・ボエーム(La Bohème)」は、ジャコモ・プッチーニGiacomo Puccini)が1893年から1895年にかけて、ルイージ・イッリカ(Luigi Illica)のイタリア語の台本に基づいて作曲した4幕構成のオペラのことを言います

原作となるのは、アンリ・ムルジェ(Henri Murger)の『Scenes of Bohemian Life(原題:Scènes de la vie de bohème)』で、1851年に出版され、1840年代のパリのカルチェタランを舞台にしています

戯曲としての初演は、1896年2月1日にトリノの王立歌劇場で、現在では世界で最も頻繁に上演される作品とされています

 

登場人物は、ロドルフォ(詩人、テナー)、ミミ(お針子、ソプラノ)、マルチェロ(画家、バリトン)、ムゼッタ(歌手、ソプラノ)、ショナール(音楽家、バリトン)、コリーヌ(哲学者、ベース)をメインにして、ブノワ(家主、ベース)、アルシンドロ(州議会議員、ベース)、パルピニュール(おもちゃ屋、テナー)、税関職員(ベース)などが登場します

 

第一幕は、4人のボヘミアンたちがクリスマスイブに屋根裏で過ごすシーンから始まります

ロドルフォとマルチェロは寒さを凌ぐために、ロドルフォの戯曲の原稿を燃やします

そこにコリーヌがやってきて、続いてショナールが食べ物などを持ってきます

ショナールは英国紳士との仕事によってお金を得ていて、それはオウムが死ぬまでヴァイオリンを弾くというものでした

 

はしゃいでいた彼らですが、家賃を徴収に来たブノワによってパーティーは遮られ、ワインを勧めて彼を追い出してしまいます

その後、4人は外出することになりますが、ロドルフォは執筆中の原稿を書き上げてから行くと言います

すると、そこにミミがやってきて、火を与えてほしいと言います

ミミはそこで気を失い、ロドルフォに介抱されますが、その際に鍵を失くしてしまいました

 

ろうそくの火が消えてしまい、2人は闇の中に置き去りにされてしまいます

ロドルフォは彼女と一緒にいたいと思い、鍵をポケットに隠します

そして、ミミの話を聞きたいと言って、彼女の話をじっくりと聞くことになりました

 

第二幕では、多くの人たちが集まるカルチェラタンの様子が描かれていきます

ロドルフォはマルチェロたちと合流し、そこにある露店でいろんなものを買います

彼らがカフェで食事をしていると、そこにマルチェロの元恋人のムゼッタがやってきます

ムゼッタは年配のアルシンドロを連れてきていました

そのやりとりの中で、ミミはムゼッタが本当に好きなのはマルチェロであると気づきます

ムゼッタはアルシンドロを帰らせ、マルチェロとの時間を過ごすことになりました

やがて会計の時間になりますが、ショナールの財布が行方不明になってしまいます

そこでムゼッタはアルシンドロに請求させることにしました

請求書を見たアルシンドロは沈黙し、唖然として椅子に腰を下ろしてしまいました

 

第3幕では、バリエール・ダルフェールの料金所が舞台になります

ミミは激しく咳き込み、彼女はマルチェロを探していました

彼は宿屋の主人のために看板を描いていました

マルチェロと再会したミミは、ロドルフォの嫉妬深さについて、辛い日々について話をします

ロドルフォはミミの病気がことのほか重いことに気づきます

ミミは結核を患っていて、ロドルフォは彼女を救うためのお金を持っていません

ミミはロドルフォと別れる決意を持ちますが、2人は別れることができません

その頃、マルチェロはムゼッタの浮気性が原因で喧嘩をしていました

 

第4幕は、再び場面を屋根裏部屋に移します

マルチェロとロドルフォは失恋し、ムゼッタが裕福な男と一緒になり、ミミは女王のような服を着ていました

ショナールとコリーヌがそこにやってきて、4人は宴会を始めます

そこにムゼッタが現れ、ミミも裕福なパトロンの元から舞い戻ります

ミミはムゼッタにロドルフォのところに連れて行ってほしいと言います

彼女はやつれていて、薬を買うためにムゼッタはイヤリングを売ることにしました

コリーヌはコートを売り、ショナールは気を利かせて、ロドルフォとミミを2人きりにしようと提案します

 

ミミとロドルフォは2人きりになって昔話に花を咲かせます

ミミはそのまま彼の腕の中で眠りにつき、二度と目覚めることはありません

彼らはミミが亡くなったことを知り、彼女にすがり、啜り泣いて幕は降りていきます

 

映画では、この4幕構成とそのまま演じていて、人種と時代背景が改変されていました

ミミがなくなったのがコロナのようになっていて、それ以外は忠実に再現されていたように思います

 


ミュージカル映画とオペラ映画の違い

 

本作は、ミュージカル映画として宣伝されていて、映画のフライヤーでも「ミュージカルに生まれ変わったオペラの最高傑作」とまで書かれています

でも、観ている感覚だと現代劇に変わったオペラを観ているような感じに思え、ミュージカルっぽさというものをほとんど感じませんでした

ミュージカルとオペラは似て非なるもので、セリフを歌えばミュージカルというものではありません

 

オペラとミュージカルの違いとしては、「発声法」「楽曲」「構成」などの各項目で違いがあります

オペラは基本的にクラシック音楽を使用し、歌唱はベルカント唱法によるものです

客席の一番奥まで届くように歌うのですが、マイクは使用されません

一方のミュージカルは、ポップスなどを含む楽曲が使用され、ミックスボイスやファルセットなどのような歌唱法を使用し、時にはダンスが織り混ざったりもします

 

オペラは全てを歌唱で表現するため、ダンスが必要だとダンサーがそれを担います

ミュージカルの場合は、歌だけではなく、芝居、セリフ、ダンスなどを駆使して役柄や感情を使用するため、演者自身が踊ることになります

 

本作の場合は、ダンスこそありませんが、芝居があったりするので、ミュージカルのような感じがします

でも、歌唱が思いっきりベルカント唱法によるものなので、画面的にはミュージカルに見えるのですが、音楽の部分はオペラなのですね

ロケーションなども変わるし、外で撮影したりするので、舞台上で全てが完結していないところもオペラっぽくはない感じはします

 

本作の場合は、『ラ・ボエーム』から派生したミュージカル『レント』の路線になるのですが、演者が全員オペラ歌手というところがややこしい感じになっています

どっちとも取れる感じにはなっていますが、オペラの構成のまま、オペラ歌手に演じさせているので、オペラ映画というカテゴリーの方がしっくりきます

ミュージカルとして演じられる『レント』はベースに『ラ・ボエーム』がありますが、登場人物のキャラ、背景などは全く異なっています

YouTubeで「レント ミュージカル」でググると色々出てきますが、オペラっぽくないと感じるのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、事前情報などがほとんだない作品で、フライヤー1枚の情報と各種映画サイトの紹介記事があるだけでした

普段、オペラを観る機会がなく、ベルカント唱法に関しては趣味のカラオケで挑戦したことはある程度でした(できるとは言っていない)

なので、ミュージカル映画だと思って鑑賞していたのですが、のっけから「これミュージカル?」という疑問符がついてきました

鑑賞後に色んなレビューサイトを観ると、やはり「オペラ音楽だ」と指摘している人が多数いて、オペラとミュージカルの違いがわかる人にとっては、どうみてもオペラ映画という感じになっています

 

個人的にはどっちでも良い派なのですが、映画として見た場合に完成度が低く感じるのは否めません

それは個々の歌唱力という問題ではなく、映画として面白いかという部分によると言えます

本作の場合は、オペラを広めたい一心で、オペラ楽曲が全面に出ているのですが、物語としての完成度は低く思えます

舞台設定を変えた意味がよくわからず、現代のニューヨークで貧乏芸術家が傷を舐め合うという構図自体に無理があると思います

 

また、コロナ禍が舞台になっているためにマスク姿が多いのですが、マスクとオペラ歌唱のミスマッチが凄くて、感染対策しなければならないのに密室で大声で歌うのかい!という壮大なツッコミが入ってしまいます

とは言え、原作も結核っぽい病気で思いっきり歌っているので、普通なら他の人にも移ってしまうと思うのですが、そこはスルーされています

原作準拠で名前も役柄も変えず、ニューヨークが舞台だけどロケは香港の中華街という感じになっていて、なかなか類を見ない作品になっていますね

オペラを堪能するということならOKだと思いますが、ノイズが多い作品なので、没頭できるかどうかは微妙だと思いました

フライヤーのトップ画像も脇役のムゼッタだったりするし、制作サイドと配給の温度差も少しばかり感じてしまうのですが、オペラへの入り口としては問題ないと思うので、リーズナブルな料金で観られる(通常のオペラ鑑賞は最低数万円)と考えればOKなのかもしれません

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

https://la-boheme.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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