■私の死を世間に知らしめることで、何かが変わると思ったのだろうか


■オススメ度

 

謎の電話で人生を狂わされる映画に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

https://youtu.be/9MtrvAPLg2w

鑑賞日2022.1.1TJOY京都)


■映画情報

 

原題앵커(アンカー)、英題:The Anchor(ニュースなどを視聴者に伝えるキャスターのこと)

情報2022年、韓国、111分、G

ジャンル:放送直前に受けた謎の電話によって、奇妙な出来事に巻き込まれるニュースキャスターを描いたホラー&スリラー映画

 

監督&脚本:チョン・ジヨン

 

キャスト:

チョン・ウヒ/천우희(チョン・セラ:YBCニュースアンカー)

 (幼少期:キム・ジユ/김지유

イ・ヘヨン/이혜영(イ・ソジョン:アルコール依存症のセラの母)

 (若年期:ペ・ダンヒ/배단희

 

シン・ハギョン/신하균(チェ・インホ:精神科医)

チャ・レヒョン/차래형(ミン・ギテ:セラの夫)

 

キム・ヨンピル/김영필ホ・ギジョンYBCの看板アナウンサー)

パク・チヒョン/박지현(ソ・スンア:セラの後釜を狙うYBCの若手記者)

ナム・ムンチョル/남문철YBCのニュース局の局長)

イ・ヘウン/이해운(ハン・ギザ:セラの同僚の記者)

チョン・スンウォン/정순원(チョ:番組プロデューサー)

キム・ヨンア/김영아ハン・ヨンオク教授:番組の解説をする心理学者)

ソ・ジスン/서지승(ユリ:セラの後輩記者)

モク・ギュリ/목규리(ソン:現地レポーター)

 

パク・セヒョン/박세현(ヨン・ミソ:セラに電話をかける女)

ソ・イス/서이수(ヨナ:ヨン・ミソの娘)

アン・ミニョン/안민영(ヨン・ミソの母)

 

イム・ソンジェ/임성재(キム・ギンチョル:刑事)

 

ヤン・マルボク/양말복(取材を受けるヨン・ミソの家の大家)

 


■映画の舞台

 

韓国:ソウル

 

ロケ地:

韓国:ソウル

 


■簡単なあらすじ

 

ソウルのキー局でメインキャスターをしているチョン・セラは、母の期待を一心に受けて表舞台の一線級に上り詰めていた

安定感のあるセラは仲間からの信頼も厚く、後輩のソ・スンアに付け入る隙を与えなかった

 

ある日の生放送直前のこと、セラに名指しの電話が入り、女は「ある男に狙われてる」と言う

話を聞いていても埒はあかず、「私が死んだらセラさんに報道してほしい」と言い出して、セラはイタズラ電話ではないかと勘繰った

 

放送が終わり、気になったセラは女の指定する住所に行くと、そこには浴槽で溺死している子どもの死体と、首を吊っている女の死体が見つかる

セラは警察を呼び、その女性が直前まである精神科医の患者だったことが判明する

 

そして、セラが再び女の家を訪れた時、謎の男が女の部屋を物色しているところに遭遇する

男は女の主治医である精神科医で、患者は具合が良くなったから診療を終了すると告げに来た、と語った

 

テーマ:承認欲求の連鎖

裏テーマ:ある人を導き出す条件

 


■ひとこと感想

 

事前情報をほとんど入れずに見たため、ポスタービジュアルの印象から「訃報を読み上げるキャスターの話」なのかなとか思っていました

いわゆる「彼女が名前を読み上げるとその人物は死ぬ」みたいな話かなと思っていたのですね

でも、実際には「ある電話によって非日常に放り込まれたベテランニュースキャスターの話」でした

 

映画はミステリーの要素も多く、ホラーのような印象もあり、身に迫るスリラー感も完備していました

展開も秀逸でしたが、ある程度のネタバラシが終わってからのグダグダ感というのがもったいなかったかなと思います

 

パンフレットも作られておらず、小規模公開が勿体無い作品ではありますが、もっと力を入れても良いのになあと思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

前半から「謎のメイクルームにわざわざ出向くシーン」があって、これはひょっとしたら「人格系」かと思いましたが、見事にハマっていましたね

古めかしい建物の一室にあるその部屋の異様さと言うものが際立っていて、セラには何かしらの闇があると言うことはわかりました

 

彼女はアルコール依存症の母と住んでいて、母は出世のために離婚をしろと迫ります

かつて、子どもができたことで人生が狂ったとされる母ですが、実際には「殺したいほど憎くても、母として愛情を注がねばならない責務は感じていた」と言う感じになっています

 

母親は子どもを産んだために花形ニュースキャスターの夢を諦めていて、娘には同じようになってほしくないと言う想いがありました

それゆえに、娘をプロデュースしていくのですが、同時にそれでも満たされないために酒に溺れて行きます

 

セラにはもう1人の人格「ある人」がいて、それは電話をかけてきたヨン・ミソにも見られる傾向でした

それを見逃したためにチェ医師は、彼女が最後に病院に持参した絵本を探しに家を訪れていたのですね

そこに書かれていた「助けて」と書かれた文字を見て、チェ医師は彼女が解離性同一症であることがわかり、それによってセラの「ある人」にもたどり着くことができました

 


「ある人」とは何か

 

映画では「解離性同一症」と診断されているセラですが、この症例はかつては「多重人格」と呼ばれていた疾患のことですね

厚生労働省のHPによれば、「子ども時代に適応能力を遥かに超えた激しい苦痛や体験(児童虐待の場合が多い)による心的外傷(トラウマ)などによって、一人の人間の中に全く別の人格(自我同一性)が複数存在するようになること」を指すとのこと

セラの場合は、「母の将来を奪った原因」として恨み続けられ、「母の夢の代理人」として生きているのですね

セラ自身がキャスターとしてトップになりたいかはわかりませんが、普通に子どもを産んで家庭を持ちたいという願望はあったように思えます

なので、彼女の中に眠っていた別人格は「妊娠発覚後に出現」ではないかと考えられます

 

もともと、母のキャリアを奪ったという因縁をつけられていて、事あるごとに虐待を受けていたと推測されます

首を絞められた経験があり、「生まれて来なければ良かった発言」は浴びせられていたと思うので、その中で「優等生でいる自分(=母親に逆らわない自分)」という人格を作ったのでしょう

そして、相反する「母親に反発する自分」という人格が誕生し、その起因の排除として、母親の自殺を誘発することになりました

 

母親はセラにプレッシャーをかけ続けることで存在意義を持っていて、それが反転するのが「セラが母親と同化した時」であると推測できます

セラは母親を取り込むことによって重圧から解放され、その人格と相対した母親は存在価値をなくしてしまいます

 

これらの反応が起こるのは、ひとえに「生存のため」であり、セラ自身が自分を守るために起こしてきた行動であると思います

幼少期は体力、知力で敵わないために、仮初の従順を演じ、その中で学びを得ていくのですが、過度なストレスは重圧の起因の排除へと向かうことになります

その中で「殺人」に向かわなかったのがセラのインテリジェンスで、母の存在意義を壊すことでおとなしくなるということを学んできたのでしょう

それは「母親の言うとおりにしていると成功している」と言う状況で、母親の出番は「失敗した時に必要になる」と言う関係性に依るものだと言えるのではないでしょうか

 


セラの「ある人」を呼び起こした原因は何か

 

前項でもふれましたが、「ある人」は幼少期から存在していたものの、母親を殺すに至る人格(実際には心理誘導を行える人格)の出現は、「妊娠」がきっかけであると考えられます

エコー写真が見つかったことによって、母親の攻撃性は激しさを増し、これまでの「耐えられた期待値の重圧」から、「許しがたい人生への介入」へと姿を変えていきます

そうした中にあって、「子どもを守るためにはどうすれば良いか」と言うことを考える始め、その対話の中で「母親の排除」を思いつくことになります

 

排除と言っても殺人をすると人生が終わるので、殺人を犯さずに母親を自分の人生の舞台から下ろす必要性がありました

母からの虐待を知るセラとしては、母親の攻撃が止む瞬間と言うものを体感していて、それは「母親の言うとおりにする」と言う瞬間だったのでしょう

そこから導き出した答えが、「母親になりきる」と言うもので、その準備段階として、「母親がメイクをしていた旧館」にて「人格を入れ替える」と言う流れが生まれたのでしょう

でも、あの電話によって、これまでにルーティン化された儀式に雫が落ちてしまい、自己暗示が解けてしまいます

あり得ないミスを連発して周囲を驚かせ、そして、その失態は母親の存在意義を強める結果になりました

 

母親としても、これまで完璧だったセラがどうして失態を犯すのかと言うことを考え、当初は夫の存在だと思い込んでいました

でも、本当のセラを呼び起こした存在(=妊娠)に気づくことによって、その排除へと攻撃性を高めていきます

そうした先にあった「母親になりきると言うセラの行動」によって、用済みになったと悟った母が行方をくらますことになったのではないでしょうか

 

このあたりの描写は「催眠療法」によって、自分の隠された過去を旅することで見えてきたものであり、それは「本当のセラ」が内側から見ていた世界だっといえます

過ぎた過去として、取り返しのつかないもので、そのことを別人格が完全に封印していました

母親と同化したセラは、それでも報われない人生に反発し、母親の人格を強化した結果、スンアを殺害すると言う行動に出ています

この時の映像が母親の姿になっているのは、母親の人格が全面に出ているためで、催眠によって「セラ自身が刺した」ことがわかり、また防犯カメラなどの客観的な証拠が残っていました

セラは犯罪者として退職することになりましたが、新しい命だけは無事だったと紡がれています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

催眠の中で、母を殺したのが自分であると言う認識を得たことで、セラは母親になりきる人格と決別することになります

それは、彼女が受けてきた重圧が消え去り、人生を支配する者がいなくなかったからです

でも、社会的には死んだも同然で、後輩の殺人未遂で裁かれる人生を迎えることになりました

ニュースキャスターへの復職は絶望的で、ある意味セラにとってはハッピーエンドだったと言えるかもしれません

 

問題はセラの人生を夫が支えられるかと言うところで、夫が望む子どもが誕生したけれど、社会的には「殺人未遂犯の夫」と言うレッテルが貼られ、現在の仕事を失った可能性はあります

二人とも失職ということになれば、生活レベルを下げざるを得ず、それに夫側が耐えられるかどうかはわかりません

この関係性に関しては、夫が妻と結婚した理由に付随するので、花形キャスターだから結婚したと言うようなマインドだとあっさりと離婚に至るような気はします

妻の横でうなだれている感じを見る限りは、その心配はなさそうに思えますね

 

映画は多重人格ものであると知っていて観てもあまり面白味は感じられず、ネタバレなしの状態で「二転三転する」展開を楽しむ方が良いと思います

それを考えれば、内容と全く関係ないチラシの絵はありと言えばありなのかもしれません

一つだけ不思議なのは、電話をかけたヨン・ミソが「あの人」を認知していたことですが、おそらくはヨン・ミソが見た「あの人」はそのまま「前日に絵本を探しにきたチェ医師」なのだと思います

チェ医師としても、不可解な変身に疑問を持ち、彼女は抱えていた絵本に何かヒントがあると考えたのでしょう

 

多重人格もののセオリーとしては、人格が眠っている間のことは覚えていないと言うもので、客観的な証拠(映像など)を見ないことには「自分の中にもう一人の自分がいる」と言うことは認知できないのですね

でも、一度何らかのきっかけで「別人格の認知」が起こると、その際は「人格同士の会話」みたいな展開になることは多い

所謂「出てくんな」みたいな設定の物語なのですが、本作ではその展開になる前に「別人格を殺している」ので、永遠に対話は起こらないのかもしれません

夫は見聞きして知っていますが、本当のことを知っているのは、意外と生まれてきた赤ん坊だったりするのかも

そうなると別の映画になりそうですが、殺したはずの人格が赤ん坊を支配していたら、それはそれで怖いことだなあと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/385343/review/0d8c2c33-5349-4bc0-b4eb-4ad2b403c5a3/

 

公式HP:

https://klockworx-asia.com/anchor/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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