■もしかしたら、百合のタイムスリップも、今の日本を構成した過去なのかもしれません
Contents
■オススメ度
戦争感動系の映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.8(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2023年、日本、127分、G
ジャンル:タイムスリップした戦時下で恋を覚えた女子高生を描いたラブロマンス映画
監督:成田洋一
脚本:山田雅大&成田洋一
原作:汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら(スターツ出版、2016年)』
キャスト:
福原遥(加納百合:1945年にタイムスリップする高校生)
水上恒司(佐久間彰:百合を助ける軍人、特攻隊員)
伊藤健太郎(石丸智志:ムードメーカー的存在の特攻隊員)
嶋崎斗亜(板倉和久:故郷に婚約者を残してきた特攻隊員)
上川周作(寺岡昌治郎:妻子を残して入隊した特攻隊員)
小野塚勇人(加藤:親子三代陸軍の特攻隊員)
津田寛治(「非国民」と罵る警官)
望月拓哉(特攻隊員)
村井崇記(特攻隊員)
松坂慶子(ツル:軍の指定食堂「鶴屋」の女将)
出口夏希(中嶋千代:勤労学生)
天寿光希(食堂の常連客)
中嶋朋子(加納幸恵:百合の母)
坪倉由幸(ヤマダ:百合の担任)
新井舞良(木島カンナ:百合を気遣う友人)
中島瑠菜(津島美月:百合を揶揄うクラスメイト)
■映画の舞台
日本のどこかの地方都市
ロケ地:
静岡県:袋井市
可睡ゆりの園
https://maps.app.goo.gl/Ei1dFJqUWvKXnjbC7?g_st=ic
茨城県:稲敷郡
予科練記念平和館
https://maps.app.goo.gl/SMwUDtnFf5vnErLG7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
シングルマザーに育てられた高校生の百合は、母のことを恥ずかしく思い、家族のためではなく他人のために死んだ父を恨んでいた
今の苦しい生活は全て父の責任だと思っている百合は、大学進学を諦めて、就職しようと考えていた
ある日、大雨の日に母と言い合いになった百合は、そのまま家を飛び出して、雑木林の中にあった洞穴へと身を潜めた
そこは誰かが作った秘密基地のようだったが、疲れ果てた百合はそこで眠ってしまった
目を覚ました百合が外に出ると、そこは一面田んぼの田舎町で、町並みも古めかしく、町行く人が着ている服もおかしかった
昨夜から何も食べていなかった百合は町屋のそばでへたり込んでいると、そこに軍服を着た佐久間彰がやってきた
彼は陸軍指定の食堂「鶴屋」に彼女を連れてくる
食事をしていた百合は、その机に置かれていた新聞を見て愕然とする
そこは、1945年6月15日の、太平洋戦争の真っ只中の日本だったのである
テーマ:特攻の是非
裏テーマ:平和の尊さ
■ひとこと感想
どうみても「感動ポルノ」一直線と言う感じで、戦争を知らない若者が「歴史を知った状態」で戦争中に巻き込まれると言う流れになっています
「愛した人は特攻隊員でした」と言うキャッチコピーのようなものがあり、「戦争に意味はあるのか?」と泣きじゃくる予告編からして、話の内容は大体わかってくると思います
映画は、戦争を知らない世代に「特攻」と言うものがあったことを知らせると言う意味では有益ではありますが、当時の日本人がどうしてその行動を取ろうとしたのかを理解させるまでには至っていません
あくまでも「戦争はおかしよね」レベルの問題提起になっていて、あの空気感を作り上げたものの正体の「影すら踏んでいない」と言えるように思います
物語は、現在パートで「英雄になった父」に嫌気を差している主人公を描きますが、彰の特攻によって、その考えがどう変わったのかはなんとも言えません
とにかく、彼が繋いだ未来を生きていくと言う宣言で終わっているので、思想信条を変えるまでの物語にはなっていないのは残念に思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、現在パートにて「自己犠牲の行動だけ」を批判する百合が描かれていて、結果としての家庭崩壊を嘆いていたりします
それが戦争体験を経て、この些細な日常がどんなに幸せなことかを身に沁みて理解して行く流れになっていました
戦争を知らない世代にとって、戦争に向かうことになった時代の空気感はわからないのですが、日本の閉鎖的な空気感と「一度動いたら死ぬまで止まらない」感覚というものは理解できてしまいます
特攻で戦争に勝てると思っていた人がどれぐらいいたかわからないのですが、「生き恥」という言葉があるように、戦争で死ぬことの尊さという精神性を重要視していたように思いました
国民が一致団結し、天皇のために戦うという名目があり、それに逆らうことで非国民と呼ばれて投獄されていた時代です
戦争に勝つことこそが正義であると信じているとしても、特攻させてまで得る勝利に意味があるとは思えません
劣勢の戦況下において、飛行機に乗れる人材を自らが減らしていくという行為は、その狂気性を相手に植え付けることしかできなかったでしょう
でも、その狂ったものを止めるという大義名分を与えたことで、戦争を通じて実験を許すことになったのは、上層部の落ち度としか言えないと思います
■特攻について
本作で登場する特攻とは、「特別攻撃隊」のことを意味します
太平洋戦争当時に、日本海軍によって命名された特殊潜航艇の部隊に命名されたのを初めとしていて、この部隊は「決死的な攻撃を任務」としていました
その後、1944年10月20日に、戦死前提の特別攻撃を任務とする部隊が誕生し、それが「神風特別攻撃隊」と呼ばれるものでした
特攻は「体当たり攻撃」とも言われ、航空機による特攻を「航空特攻」と言い、回天(人間魚雷)や震洋(小型ボート)などの特殊兵器による特攻を「水中特攻」と呼んでいました
この他にも、敵軍基地に強行着陸して爆撃機の破壊や搭乗員の殺傷を目的として「空挺特攻隊」というものもいて、映画における彰たちは「航空特攻」を行っていたと思われます
1945年1月25日までの「フィリピンでの航空特攻」は「機数=海軍420機、陸軍202機」「戦死者=海軍420名、陸軍252名」で、「沖縄への航空特攻」は「機数=海軍1026機、陸軍886機」「戦死者=海軍1997名、陸軍1021名」となっています
特攻隊は主に「現役士官」「将校」「予備役士官」「准士官」「下士官」で構成されていました
最年少は西山典郎の16歳で、最高齢は沖縄に突入して行方不明になった宇垣纏の55歳だったとされています
基本的には志願だったとされていますが、最終的には航空隊=特攻隊のような扱いになっていましたね
それでも志願兵の不足には困らなかったと言われています
■戦争に意味はあるのか
映画の中で、警察に刃向かった百合が「この戦争に意味はあるのか」と問い詰めるシーンがありました
その答えに苦慮する警官は明確な答えを用意できないのですが、これはどの戦争でも言えることのように思えます
戦争に意味を感じているのは決行を決めた一部の人でしょうし、その意味を広めているのはマスコミだったりします
でも、太平洋戦争に限らず、貧困からの脱出の際の誘導装置としてうまく作用していたことは否めません
それで豊かになると信じていても、実際にはさらに悪化していったのですが、それを倹約とかで乗り切るという国民性があったように思えました
当時の戦争と今の戦争は意味が違いますし、太古の戦争も時代によって意味が変わっていきます
戦争というのは国家の在り方を示すものであり、太平洋戦争の場合は欧米諸国に対するNOだったということになります
とは言え、一般人にその気持ちがあったとは言えず、連日のように流される情報を鵜呑みにして、当時の空気感が醸成されたというのはあると思います
今では、SNSを中心に個人の情報やリークが飛び交うので、大本営発表のようなものは通用しません
マスコミの偏向報道ですら通用せず、プロパガンダを起こそうにも長続きはしないのですが、瞬間的な火種を作ることはできます
映画は、戦争の結果を知っている人間が思う「戦争の意味」であり、それは「戦争に向かう空気を知らない世代」の思考回路になっています
現場の人は結果を知らず、欧米諸国に負ければ、兵士は奴隷となり、女子どもも酷い目に遭うと思い込んでいます
そう思うことは自然なことであり、その恐怖から「奴隷になるよりは役に立って死んだ方が良い」と考えるのも理解できないことではありません
でも、そう言ったことが起こらない(実際には起こっているけど知らないことの方が多い)と思い込んでいる側からすれば、その杞憂というものに命を張る意味は理解できないのですね
もし、戦後の日本がアメリカのわかりやすい奴隷となり、多くの戦後犯罪が明るみに出ていたなら違ったかもしれません
百合の祖母などが戦争時に米軍の慰み者になって、男たちは見せしめのように殺されまくったという歴史があれば、そんな考えも浮かばないというのが本当のところなのかなと思いました
ただし、そうなった過去があったとしたら、物理的に死亡者数が増えていたことは明白なので、百合は生まれていなかったと考えられます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、若年層を中心にSNSでバズっていて、それによる動員が顕著な作品となっています
その要因の一つが「主人公と同じ目線で戦争を見ているから」であり、百合を自分に重ねやすいからだと思います
とは言え、原作の中学生設定が高校生になっているために、この恋が初恋なのは遅すぎるやろ〜という外野の声はわからないでもありません
でも、恋愛にガツガツしている感じでもなく、家族問題を抱えてそれどころではないという環境だったので、恋愛するぐらいなら勉学、貧乏すぎるから就職という感じで、視野が狭くなるのは理解できると思います
映画は、戦争の結果を知った主人公がタイムトリップをするのですが、これまでに歴史の授業やドラマなどで知っていた内容よりもよりシビアなものに感じていたと思います
特攻隊員は志願兵であり、天皇のための軍隊であり、という感じの風潮は今では理解し難いものであり、戦後に大きく変わったもののひとつだったと言えます
現代人の知る天皇というのは、象徴であり、国の行事に参加する人たちという印象で、天皇関連のニュースだけはキャスターの言葉遣いが違うという特徴があります
天皇の在り方が変わっている今は、戦争に対する考え方が違うのは当然で、その価値観のまま、あの世界に放り込まれたら、ほとんどの人が同じことを言ってしまうのだと思います
原作では、現代に帰ったラストにて、彰と思わしき人と再会するという流れになるそうですが、このラストの改変は良かったと思います
現代に戻って、あれは夢だっただろうかと自問する中で、彼らの手紙を見つけることで、あの時に感じた全てのことというものがリアルに再現されていきます
もう百合は「特攻を無駄だ」とは言わないでしょうし、あの行為があったからこそ繋がっている命があるという実感もあったと思います
後世から見れば意味のないように見えることも、実際には全ての事象に意味があります
そう言った意味において、彼女がタイムスリップしたことも、現代を構成する一つの要素になっていると言えるのかもしれません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/ano-hana-movie/