■作られた街の中にあるリアルは、虚構に見えてこそ価値があるのかもしれません
Contents
■オススメ度
ウェス・アンダーソン作品が好きな人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.9.1(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
原題:Asteroid City(小惑星の街)
情報:2023年、アメリカ、104分、G
ジャンル:宇宙人との遭遇をコミカルに再現した作劇を作るメタ構造コメディ
監督&脚本:ウェス・アンダーソン
キャスト:(レイヤーごと)
【TV番組のホスト】第一階層:現実パート
ブライアン・クランストン/Bryan Cranston(WXYZ-TVのアンソロジーテレビシリーズの司会者)
【ドラマ制作現場】第二階層:回想パート
エドワード・ノートン/Edward Norton(コンラッド・アープ:伝説的な劇作家)
エイドリアン・ブロディ/Adrien Brody(シューベルト・グリーン:舞台演出家)
ホン・チャウ/Hong Chau(ポリー:シューベルトの妻)
ウィレム・デフォー/Willem Dafoe(ザルツブルク・カイテル:演技教師)
ジェイソン・シュワルツマン/Jason Schwartzman (ジョーンズ・ホール:オーギー・スティーンベック役の俳優)
マーゴット・ロビー/Margot Robbie(スティーンベックの亡くなった妻役の女優、出演シーンカット)
Ara Hollyday(スキップ:ウッドロウ役の子役)
Rita Wilson(ウェザフォード夫人:スキップの母親)
スカーレット・ヨハンソン/Scarlett Johansson(メルセデス・フォード:ミッジ・キャンベル役の女優)
【ドラマ内登場人物】第三階層:虚構パート
ジェイソン・シュワルツマン/Jason Schwartzman (オーギー・スティーンベック:戦争フォトジャーナリスト、ウッドロウの父)
ジェイク・ライアン/Jake Ryan(ウッドロウ:オーギーの息子、スタンリーの孫、ジュニアスターゲイザーの受賞者)
エラ・ファリス/Ella Faris(アンドロメダ:ウッドロウの妹)
グレース・ファリス/Grace Faris(パンドラ:ウッドロウの妹)
ウィラン・ファリス/Willan Faris(カシオペア:ウッドロウの妹)
トム・ハンクス/Tom Hanks(スタンリー・ザック:オーギーの義父)
イヴァン・ロペス/Iván López(ラムレス:スタンリーの秘書)
スカーレット・ヨハンソン/Scarlett Johansson(ミッジ・キャンベル:ダイナの母、有名女優)
グレース・エドワーズ/Grace Edwards(ダイナ:ミッジの娘、ウッドロウとの関係を築くジュニアスターゲイザー受賞者)
ジェフリー・ライト/Jeffrey Wright(ギブソン元帥:ジュニア・スターゲイザー大会の司会者)
トニー・レボロリ/Tony Revolori(ゲン:ギブソンの副官)
ティルダ・スウィントン/Tilda Swinton(ヒッケンルーパー博士:天文台の科学者)
Elvira Arce(メアリー:ヒッケンルーパー博士の助手)
Bob Balaban(ラーキング財団の責任者)
リーヴ・シュレイバー/Liev Schreiber(J・J・ケロッグ:ジュニア・スターゲイザー賞受賞者であるクリフォードの父)
アリスト・ミーハン/Aristou Meehan(クリフォード:J.J.の息子、ジュニア・スターゲイザー賞受賞者)
ホープ・デイビス/Hope Davis(サンディ・ボーデン:ジュニア・スターゲイザー賞受賞者であるシェリーの母)
ソフィア・リリス/Sophia Lillis(シェリー:サンディの娘でジュニア・スターゲイザー賞受賞者)
スティーヴン・パーク/Stephen Park(ロジャー・チョー:ジュニア・スターゲイザー賞受賞者であるリッキーの父)
イーサン・ジョシュ・リー/Ethan Josh Lee(リッキー:ロジャーの息子、エイリアンについて報告するジュニアスターゲイザー受賞者)
ルパート・フレンド/Rupert Friend(モンタナ:歌うカウボーイ)
マヤ・ホーク/Maya Hawke(ジューン・ダグラス:モンタナに興味を持つ教師)
Zoe Bernard(バーニス:ジューンの生徒)
Brayden Frasure(ビリー:食事の祈りを捧げるジューンの生徒)
Preston Mota(ドワイト:ジューンの生徒)
スティーヴ・カレル/Steve Carell(モーテル経営者)
マット・ディロン/Matt Dillon(整備士)
Deanna Dunagan(食堂のウェイトレス)
Vandi Clark(食堂のレジ係)
Pedro Placer(食堂のコック)
Aaron Ziobrowski(バスの運転手)
ジェフ・ゴールドブラム/Jeff Goldblum(エイリアンの中の人)
■映画の舞台
ドラマ内、1955年9月の約1週間
架空の町「アステロイド・シティ(小惑星の街)」
ロケ地:
スペイン:マドリード
Chinchon/チンチョン
https://maps.app.goo.gl/VYFKEiPiGwVvShYn9?g_st=ic
アメリカ:アリゾナ州
■簡単なあらすじ
架空の町アステロイドシティでは、ジュニアの宇宙大会が行われることになっていた
だが、この物語は劇作家コンラッド・アープが作った作劇で、その作品をテレビのパーソナリティが紹介するという構造になっていた
アステロイドシティに向かうスティーンベック一家は、息子のウッドロウが受賞候補で、彼の他にも4人の天才科学者たちが発表を待ち望んでいた
さらにジューン・ダグラス教授が率いる小学生軍団も参加し、華やかな発表会になりそうな予感がしていた
発表会が始まり、その後のクレーター内での天体観測にて、ウッドロウは「地球外生命体」を感知してしまう
そして、そこに宇宙船が飛来し、エイリアンがコソコソと降りてくるのである
さらに宇宙人は展示されていたアステロイドを持ち去って消えてしまった
この事件を受けて、アステロイドシティは隔離されることになり、そのニュースは全世界に広まってしまうのであった
テーマ:作り出された虚構
裏テーマ:夢の中にある現実
■ひとこと感想
ウェス・アンダーソン監督の最新作で最高傑作というふれ込みがありましたが、あまりにもとっ散らかった話に「何を見せられているのかわからない」という状態になってしまいました
とにかく群像劇で人が多すぎて、しかもひたすら喋っているだけで、字幕を追うだけの作業になってしまいます
1955年という設定があるので時代背景を知らないと意味不明な感じになっていて、あの時代の宇宙へのロマンとか胡散臭さというものを体感した世代向けの作品になっていました
映画は、架空の町アステロイドシティで行われるジュニア天体研究会を「舞台で再現する」という意味のわからない展開になっていて、それは「かつての宇宙ブームを再現しているパロディ」のようにも思えます
アート的な面白さはあるものの、「だから何?」感が強い作品になっていて、観た後に食事をしたら忘れるレベルでヤバい感じになっています
モノクロシーンが現実で、カラーシーンが再現というわかりやすさはあるものの、作り込まれた世界をどう楽しむかという感じになっています
ぶっちゃけ、個人的には全く合わなかったので、観る映画を間違えたなあと思ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
何がネタバレなのかわかりませんが、アステロイドシティに宇宙人がやってきて、過去に落ちた隕石を回収するという展開を迎えていました
その瞬間を撮ったことによって、そこらへん一帯が閉鎖されるということになっていますが、ゆるゆるコメディみたいなものなので、緊張感というものはありません
映像的な美しさとか、世界観の作り込みは好きですが、物語はあってないようなものなので、かなり退屈に感じました
そこまで長い映画ではないものの、いつ終わるのかな感がすごくて、前日の多忙からの2連チャン(1本目は『スイート・マイホーム』)で疲労がピークになっていましたね
観た瞬間から記憶が消えていく感じになっていて、でも覚えておく必要もほとんど感じませんでした
色んなサイトであらすじ&ネタバレを眺めてみましたが、意外と覚えていましたね
それくらい単純な内容だったということなのかもしれません
■時代背景と宇宙開発
映画内ドラマの舞台である1955年と言えば、アメリカのヴァンガード計画(Project Vanguard)によって人工衛星の打ち上げ宣言を行った年でした
これはアメリカ海軍が主導した宇宙計画で、1957年の人工衛星打ち上げを中心としたもので、打ち上げられたロケットの名前に由来しています
ソ連との宇宙開発が加熱していた時期で、ヴァンガードの後にソ連のスプートニクが打ち上げられ、その直後にさらに追加で打ち上げを宣言する事態になっています
ロケットの歴史としては、開発自体は19世紀から始まっていますが、実際に宇宙に到達したのは、1942年のドイツのA-4ロケットになります
これは射程距離300kmに達し、積載可能な弾頭の重さが1トンとされていて、世界大戦中に武器として多くの連合国軍に打ち込まれる事態になっています
第二次世界大戦が終わり、ドイツのロケット開発の研究施設の研究者や技術の奪い合いが始まり、「ペーパークリップ作戦(Operation Paperclip)」によって、多くのドイツ人研究者がアメリカに移送されることになりました
冷戦の時期に入ると、アメリカとソ連はスパイ活動やプロパガンダを通じた戦いに突入し、衛生技術を偵察機への運用に移行させようと開発を進めていきます
同時に核爆弾の性能向上の研究も続けられていました
映画では、この冷戦時代の宇宙開発と核兵器の実験が行われている現場が舞台になっていて、将来の研究者を育てる下地を作っていました
財団が援助し、それによって未来の研究者を育てるための奨学金が与えられるのですが、これらの背景は調べなくてもなんとなくわかるように作られていました
■作劇で再現する意味
本作は、スターゲイザーの授賞式とその時に起こった宇宙人との接近との出来事をドラマ化したものになっていて、そのドラマを作っている様子も描いていきます
階層で言えば3層構造になっていて、表層にあたるのが「司会者がドラマ撮影の舞台裏を紹介する番組」になっています
中間層にあたるのは、「ドラマ撮影の現場」になっていて、劇作家と俳優の恋愛であるとか、子役交代の顛末、カットされたシーンの登場人物などが登場しています
そして、最下層にあたるのは「ドラマ本編」となっていて、スティーンベック一家がアステロイドシティに来てから帰るまでとなっていました
映画内映画を作る様子を紹介するテレビ番組という構図になっていて、舞台裏とされるシーンは唐突に登場します
プロローグとしての舞台設定の説明、本編は1〜3幕とエピローグの4幕構成で、それぞれのACT(幕)にシーンがありました
ACT1は17シーン、ACT2は10シーン、ACT3はおそらくワンシーンで、最後にエピローグという構成になっていました
本編の舞台は1955年ですが、TV番組の放映がいつなのかはわかりません
一応、白黒映像というものが時代を映しているとしたら、そこまで時代に差異はありません
アメリカでは1947年にカラー放送が開始されているので、本編自体はカラー放送されたものという感じになります(実際に一般家庭に普及し始めたのは1970年代になってからになります)
でも、その後日譚となるTVでの紹介シーンはモノクロで、舞台裏もモノクロになっていました
このあたりの階層の色使いの理由まではわかりませんが、作劇の中身(=本編)というのは、劇作家の頭の中の世界と考えても良いかもしれません
その想像を再現しているので、本編はカラーですが、リアルワールドはモノクロになっていても不思議ではないのですね
本作では、演じている俳優が自分が何を演じているのかわからないと苦慮し、眠る演技指導をするシーンとか、カットされたシーンなどが登場していました
このあたりもリアルワールドなので、モノクロになっているのだと思われます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、たくさんのモデルが登場するメタファー映画で、その全てを解説するのはほぼ不可能なほどに引用がされています
モデルになった人物に関してはパンフレットなどで紹介されていますが、その全てを網羅するのは無茶じゃないかと思ってしまいます
戦場カメラマンのオーギーはユージン・スミスを彷彿とさせるし、女優のミッジはマリリン・モンローのように思えます
劇作家や振付師、テレビの司会者もモデルがいると思いますが、そこまで詳しくないので解説は省きます
映画は、ジュニアの天才を集めた表彰式が舞台になっていて、その日が隕石が落ちてから記念すべき日になっていました
そこで天体観測をするのですが、ウッドロウだけが一つ多くの光を見てしまうのですね
宇宙船が颯爽と現れ、謎の宇宙人がコソコソとアステロイド(隕石)を持っていくというシュールな場面が描かれていきます
後半に彼は隕石を返しに来るのですが、本当にこの行動は謎で説明がありません
おそらくは、宇宙人の行動は地球人には理解できないということを描いているのだと思いますが、それ以外にも「劇作家の書くシナリオ」がキャストには正確に伝わっていないのですね
演技に困るキャストも出てくるのですが、後半に演技で困るのが出会いで意気投合したオーギー役のジョーンズ・ホールというところがおかしかったですね
このズレが生じたのは、キャラ設定をジョーンズが理解しても、その行動すなわち劇作家のコンラッド・アープの思考変化までは理解できなかったということを意味しているのだと思います
合致したはずの想いは作劇が進むにつれてズレていくのですが、おそらくはミッジが演じている劇の練習をしていくうちに、キャラ設定が混同していったのではないでしょうか
劇作家の手の中で踊らされるのが演者ではありますが、オーギー自身を理解できても、ミッジのキャラや背景までは理解できないのですね
なので、そこで起きた微妙なズレと、ミッジ役のメルセデス・フォードとの関係性の変化によって、混乱してきたのかなと感じました
映画は、面白いかどうかは微妙な感じで、その理由は階層構造になっていることと、リアルの劇作家である監督自身の頭の中が全て再現されていないからだと思います
いわゆる「表現の背景」をどこまで読み取れるかという問題に行き着くのですが、最終的には監督以外は理解できないゾーンというものがあるのですね
そこに通じるためにウェス・アンダーソンの全作品を見るだけでは足りないというところがあって、それがそれぞれの解釈を生みながら、蛇行しているように思えてきます
個人的には、虚構の作り方とか悲哀を描く中での苦労話のようなものが盛り込まれている気がしました
それが面白いかは微妙な感じにはなっていますが、随分と遊んでるなあというのが正直な感想になると思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://asteroidcity-movie.com/