■衝動と理性の綱引きの果てに、青春というものは存在するのかもしれません


■オススメ度

 

思春期の葛藤を描いた作品が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.1.31(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

情報:2022年、日本、93分、G

ジャンル:18歳にして乳癌と向き合うことになった若者を描く青春映画

 

監督:まつむらしんご

脚本:高橋泉

原作:横山拓也の演劇ユニット「iaku」の舞台

 

キャスト:

吉田美月喜(武藤千夏:小説家志望の芸大生)

 (幼少期:網本唯舞葵

常盤貴子(武藤昭子:千夏の母、繊維工場のパート勤務)

 

奥平大兼(川柳光輝:千夏の初恋の相手、同級生)

 (幼少期:萩原嵐?

 

三浦誠己(木村基春:新しく赴任してくる昭子の上司)

前田敦子(花内透子:昭子の友人、同僚)

 

佐藤緋美(水森崇:千夏の幼馴染)

石原理衣(水森麻美:崇の母)

 

矢柴俊博(千夏の主治医)

中嶌大輔(不動産屋)

 

武上陽奈(千夏の同級生)

 


■映画の舞台

 

日本のどこかの港町

 

ロケ地:

和歌山県:和歌山市

雑賀崎漁港

https://maps.app.goo.gl/pBXYUN3fdqNmTGa37?g_st=ic

 

吉田染工(母の勤め先)

https://maps.app.goo.gl/G8dGcLMTYnjpRg6i9?g_st=ic

 

パン・カフェ MINOES(バイト先)

https://maps.app.goo.gl/Yg7emAJ1MwX8owrq6?g_st=ic

 

かに道楽 和歌山店

https://maps.app.goo.gl/7XrLbKCi42T4MBgv7?g_st=ic

 

和歌山県:紀の川市

近畿大学 和歌山キャンパス

https://maps.app.goo.gl/9FkzLNctP4UVHRmYA?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

18歳になった千夏は、芸大に受かり小説家を目指す日々を邁進している

ゼミから出された課題は「初恋」についてのもので、千夏は幼馴染の光輝に想いを馳せていた

 

千夏の母・昭子はシングルマザーで、近所の紡績工場に勤めていて、そこの同僚・透子と千夏は姉妹のように仲睦まじい

千夏にはもう一人の幼馴染がいて、崇は少し風変わりな子で、今度町に来るサーカスで働くという

 

ある日、母の勤め先に木村が新しく赴任してきた

職場に馴染もうと無理する性格で、昭子と透子しか相手にしていない

だが、彼の誠実な面に昭子は惹かれ始めていて、それは透子の目には明らかな変化だった

 

そんなある日、昭子は千夏の部屋で「乳癌検診の再検査の通知」を見つけてしまう

 

テーマ:恋に必要なもの

裏テーマ:大人になるということ

 


■ひとこと感想

 

若い子が乳癌になって、切除手術をするかどうかという選択の中で、母親をはじめとした大人の暴走が始まります

理屈ではわかっていても、18歳という多感な時期に急かされる選択というものは辛いものがありますね

 

乳癌の話が出てくるのは意外と中盤あたりからになっていて、前半は登場人物の掛け合いを楽しむパートになっています

それぞれのキャラの魅力と、噛み合わない会話が主体となっていて、大人たちの価値観を描いていました

 

そうして、千夏の病気の発覚と、それを抱えきれない大人たちの弱さが絡まって、思いも寄らぬ流れの中で千夏自身を傷つけていきました

 

大人の判断と青春期の戸惑いの中で、大人たちが考える必要があるもの

経験と俯瞰の中で出される答えと、一生に一度しかない時間をどう過ごしていくのか

そこには人生に対する価値観の違いがあって、主演の吉田美月喜さんはうまく表現できていたと感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

個人的には妻が乳癌の部分切除で再発という事実を知っているだけに、木村の言うことは身に沁みてわかります

最近でも、職場の同僚の中で乳癌を患った人がいて、背景を知らないので正確なアドバイスをしようがないのですが、事実として「私の周りには別の選択をして、その予後が明確に分かれた」と言うことはお話しさせていただきました

最終的には自分自身の納得のいくかたちで決めていくもので、その価値判断というものは他人がどうこう言えるものではありません

 

本作では、その渦中に放り込まれる18歳を描き、子離れできていない母親を描いていきます

そして、千夏をどん底に突き落とす仕掛けが方々にあって、その絡まり方が絶望的にも思えました

 

でも、ラストシーンの崇が救いになっていて、それが千夏の心を軽くしてくれていました

あのシーンは心に残る名シーンだったと思います

 


乳癌治療の今

 

国立がん研究センターの情報サービスによると、乳癌の治療には「手術」「放射線治療」「薬物療法」が主体となっているとのことで、「放射線治療」「薬物療法」は、手術を前提に行われるとされています

乳癌の確定診断のために「精密検査」を受け、それによって「治療計画」と言うものが決められます

そして「入院・手術」を経て「病理検査」が行われ、そこから「放射線治療」や「薬物療法(ホルモン治療、分子標的薬)」へと移ります

その後、乳房再建術へと向かいます

 

個人的な話だと、私の妻は36歳くらいで乳癌が見つかり、そこで「部分切除」と言うものを行いました

その後、放射線治療を経て、薬物療法を開始していました

経過は良好で、3年間何もなければ寛解というところまで行きましたが、2年11ヶ月目ぐらいで腰部痛を訴え、本来なら最後の診察日だった日に主治医に訴え、精密検査に至っています

その頃にはフルタイムパートで働いていて、腰部痛は労働による疲労かと思っていましたが、まさかの再発で複数箇所の転移になっていました

3ヶ月に一度くらいの頻度で定期診察を受け、腫瘍マーカーや採血などを行っていましたが、それらしい兆候はなく、障害年金の関係でカルテ開示をしていましたが、カルテ上でおかしな点はありませんでした

 

その後、再発に際しては「複数の臓器」ということで「切除手術は適応外」となり、化学療法を開始、脳への転移なども複数回起こり、こちらは放射線治療を行うことになりました

それから2年ほどは色んな薬を試しては変えるの繰り返しで、再発3年目ぐらいに進行速度の方が上回ったという経緯になっています

その頃には、ほぼ全身転移だったので、緩和ケアの方に移ることになり、最終的には在宅診療を選択することになりました

 

乳癌に限らず、癌にはステージというものがあり、若いほど進行が速いというのは一般的な見方になると思います

「0期=非浸潤癌もしくはバジェット病で、極めて早期の癌」というところから、「2cm以下で転移なし=I期」のように「IV期」までの8段階に分かれています

基本的には「癌の大きさ」と「転移の有無」になっていて、リンパ節」が重要になってきます

乳癌の場合の「IV期」は「他の離れた臓器への転移がある」というもので、妻の場合の再発は「いきなりIV期」という感じに理解しています

 

再発の発見が遅れた理由は色々あると思いますが、まずは乳房への再発がなく、他臓器転移だったことが挙げられます

再発転移の段階で、肺、肝臓への転移がありましたが、日常生活で支障が出るということがほとんどありませんでした

本当に普通に生活をしていて、仕事がフルタイムになったから体が追いついていないのかなという感じでしたね

再発時点ではフルタイムで12ヶ月ほど経っていて、社会保険も自分で払えるレベルの給料は得ていました

 

ケース・バイ・ケースなので難しい問題ではあるものの、部分切除と全切除のどちらが良いかの判断は難しいと思います

母の場合は部分切除の技術がない時代で全切除(+リンパもごっそり)でしたが、そのおかげなのかわかりませんが、再発というものが起こっていません

癌の残存というのは目に見えないものであり、部分切除の場合は必ず放射線治療がセットになっています

妻も同じような流れを汲んでいましたが、それでも再発するし、気づいたら他臓器複数転移ということもあります

再発に至った理由を探す意味はあまりありませんが、個人的に考えているのは「ストレスだった」のではないかと考えています

 


恋愛に胸は必要か

 

映画の主人公は18歳で、恋愛のステージも経験値も低い状態なので、「恋愛に胸が必要か」と聞かれれば「必要」と答えるのが一般的だと思います

若年期の恋愛はセックスに繋がる可能性が高いもので、そのハードルを劇的に高めてしまうのが、身体にメスを入れる行為であるのは言うに及びません

これがある程度の年齢になると、そこまで重要ではないと考えたり、命の方が優先されると言う価値観に移行します

でも、若年期の癌の進行の速度を考えると、個人的には生命優先にならざるを得ないと思います

 

千夏は体に起きていることをあまり理解はしておらず、母は逆に理解しすぎている風で暴走している感じがありました

これらは母の人生における「乳癌を含んだ癌との関わり」がベースになっていて、たとえば「姉が癌で亡くなった」と言うようなことが身近にあれば、もっと切迫した感じになっていたでしょう

でも、映画から読み取れる母の癌との距離は、さほど千夏とは変わらないにも関わらず、相当な距離感があるように見えました

この二人は「どちらもが悲観的」と言う性質があり、物事を悪い方向に考える傾向がありました

 

とは言うものの、乳癌と言われて楽観的になる人などおらず、悪い方向へと物事を考えるのは普通のことだと思います

ただし、悲観的思考の「深度」と言うものは人によって違っていて、千夏の場合は「恋愛に特化して深い」のに対し、母は「人生において広くて浅い」と言う質の違いがありました

それゆえに、千夏と母の考え方の違いが明白になっているのですが、これはそのまま「人生における恋愛のウエイト」と同じだったりします

映画では言及されませんが、千夏にとっての恋愛は人生の一大イベントで、光輝との恋愛の成就は人生のすべてに匹敵していました

それに対する母の恋愛は人生の一部で、それなのに「恋愛で悩んでいる千夏の前で木村との関係を見せつけてしまう」のですね

母はこの関係に言い訳を用意していますが、それは千夏にとって一番残酷な言い訳だったのは言うまでもありません

 

恋愛に胸は必要かと言われれば、大人の男性としては「人生を投げ打つほどの価値はない」と言ってしまいそうですね

その根底には「胸に傷があるぐらいで萎える相手」はそもそも付き合う価値のない相手であると考えるからです

それでも、実際に行為に及ぶまで何も知らされていなかったら、と考えるとそのままお構いなしに続行できるとも思えません

ましてや、千夏の恋愛対象は同年代であると思うので、18歳前後の男子なら逃げ出す可能性の方が高そうに思えます

でも、不思議なことに、この障壁というのは逆に相手の心情を強くする効果があり、それは「傷を見せてくれるほどに信頼されている」という自己肯定感を生むというところに繋がる場合があります

その際に相手の中に使命感というものが生まれますが、このような関係性は偶発的なものなので、選択できるものではなかったりします

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

恋愛というものは面白いもので、そのモードに入ると目的達成のために何でもできてしまうような錯覚に陥ります

その反面、ものすごく臆病になって、自分の欠点というものが大きな問題に思えてきます

本作では、そばかすがあるという程度(それでも大変なのですが)のものではなく、下手すれば片胸がないという状況まで追い込まれていて、その問題の大きさは人生を左右するほどのものでした

 

自分自身の18歳を振り返っても、男性と女性では感じるところは違うと思います

18歳の男子だった私が同じ状況になっても、おそらくはそこまで問題視しなかったように思います

というのも、隠さない性格なので、「全部開示するけどそれでもOk?」という性格なのですね

でも、もし自分が女性で、同じ状況だとしたら、おそらくは恋愛の方を諦めるのだろうと思ってしまいます

 

そう考えるのは、やはり近親者に癌患者がいたという環境が大きいと考えています

癌の闘病生活と手術後のことを知っていると、生命と引き換えに恋愛を選ぶことはないと思います

個人的には母の乳癌は自分が12歳の頃のことで、母はすでにシングルマザーでした

子どものために死ねないというものが根底にあって、そのために投げ出すものが多くあって、その中に乳癌というものがあったのですね

それを知っていると、18歳と言えども、それどころではないという現実感の方が優ってしまいます

 

本作は非常に優れた作品ではありますが、個人的にオーバーラップする部分がほとんどなく、ブログ自体も夢も希望もないという感じに綴られています

それは仕方のない部分があって、そもそもアラフィフ男性が18歳の女の子の気持ちをわかったつもりで書く方が無理があるし、嘘くさくなってしまうのですね

なので、その視点からこの映画を見たら、という本音の部分で記事は展開させています

 

ほとんど戯言レベルではあるのですが、大人になれば「青春期にすべてだったこと」のほとんどが「ものすごくどうでも良いことだった」と思い返すことになります

私自身も青春期は色々とやらかしましたが、今となっても良い思い出で、ブログのネタになるようなことばかりです

でも、経験を多く積むということは悪くないと思うので、唯一無二の経験ができると前向きに捉える方が健全だと言えます

 

多くの病気の根幹となるものは「ストレス」で、それが積もっていくことの方が怖いことなのですね

心身をできるだけ正常に保つことが、有事に際しても一番効果があるので、そのために何ができるかについて、平時から考えて実行していくことをお勧めいたします

何かを体の中に溜め込むということは物理的に良くないので、それを解消する方法としては「体の中からいろんなものを吐き出す」という習慣を身につける方が良いと思います

 

具体的なところだと「カラオケで大声で発散」「頭が真っ白になるほどの運動で汗をかく」というところでしょうか

ちなみに私のストレス発散は「バイク通勤時にヘルメット爆音で音楽をかけて大声で歌うこと」ですね

エンジン音より大きな声なんて出ないので、一日に一時間程度は「声を出す」ということを習慣化しています

効果がありそうだと思ったら、ぜひ試してくださいね

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/383661/review/b34813bf-a964-4ec9-a81c-c5ab6d5279d2/

 

公式HP:

https://xn--l8je4a1a7e6m7952c.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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