■映画のポジショニングが制作のそれとリンクしている奇跡
Contents
■オススメ度
小沢仁志さんのファンの人(★★★★)
ヤクザ映画が好きな人(★★★)
本格的なアクション映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
*Youtubeに公式予告編が見つからなかったため、公式Twitterの予告編告知のリンクを貼ってあります
#BADCITY 予告編解禁しました!
12/9~の福岡先行上映の舞台挨拶回の情報と
1/10の都内での舞台挨拶付き完成披露上映会発売情報解禁#小沢仁志 #坂ノ上茜 #勝矢 #三元雅芸 #山口祥行 #本宮泰風 #波岡一喜 #TAK∴ #壇蜜 #加藤雅也 #かたせ梨乃 #リリー・フランキー #横山剣 #クレイジーケンバンド pic.twitter.com/R7VpDik4bd— BAD CITY 公式ツイッター (@BADCITYMOVIE) November 20, 2022
鑑賞日:2023.1.26(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、117分、PG12
ジャンル:韓国マフィアと公人の癒着捜査を担当することになった特殊捜査官を描いたアクション映画
監督:園村健介
脚本:OZAWA
キャスト:
小沢仁志(虎田誠:勾留中の元強行犯警部、秘密裏に新設された捜査班の班長)
加藤雅也(平山健司:虎田を特殊捜査官に任命する検察庁幹事長)
壇蜜(小泉香:公安0課の警部、特殊捜査班の管理職)
坂之上茜(野原恵:開港警察強行犯係に配属された新人刑事)
勝矢(熊本聡:開港警察強行犯の警部補)
三元雅芸(西崎亮太:開港警察強行犯の刑事)
諏訪太朗(浜中:開港警察署の強行犯係の部長)
中野英雄(中野:開港警察署の刑事)
小沢和義(和:開港警察署の刑事)
永倉大輔(永倉:虎田を担当していた刑務官)
島津健太郎(池田:開港警察署4課の刑事)
かたせ梨乃(マダム:韓国マフィアの首領)
許秀哲(テギュン:マダムの息子)
本宮泰風(パク:マダムの側近)
山口祥行(金数義:韓国マフィアの幹部、マダムの部下)
TAK∴(ハン:金数義の側近)
浪岡一喜(村田:桜田組の若頭補佐)
リリー・フランキー(五条亘:巨大財閥の会長)
桐生コウジ(田村誠:五条財閥の幹部社員)
浜田晃(花村:五条とつるむ謎の男)
圭叶(桜田咲子:桜田組長の前妻との間にできた娘)
前田爽羅(桜田絆:咲子とテギュンの息子)
桑田昭彦(何者かに殺される桜田組の組長)
松永有紗(森美香:テレビ局のレポーター、野原の友人)
■映画の舞台
開港市(架空)
ロケ地:
福岡県:中間市
https://maps.app.goo.gl/uzARYk6RqHftWm1B9?g_st=ic
福岡県:福岡市
牛もつ鍋 よし藤 西公園店
https://maps.app.goo.gl/NTMPtFKdWWbhL1CCA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
犯罪が蔓延る街・開港市にて、地元を牛耳っている桜田組の組長が暗殺されるという事件が勃発する
韓国マフィアの仕業だと思われていたが、手掛かりになるようなモノは見つからず、開港警察署内でも1課と4課で押し付け合いが始まっていた
署の強行犯係に配属されたばかりの新人・野原はいきなりの惨殺死体に現場で嘔吐してしまい、先輩の熊本から「刑事の三箇条」なるものを聞かされそうになる
桜田組長の自宅でも家族が殺されたことが発覚し、自宅の金庫から何かが奪われた形跡があった
街では金銭絡みで裁判沙汰になっていた財閥の五条会長が市長選に出馬するニュースで溢れていたが、彼には韓国マフィアとの癒着も噂されている
そんな中、検事長の平山は公安の小泉を呼び出して、特別捜査班を秘密裏に設置すると言い出す
そして、そのメンバーとして、強行犯係からベテランの熊本、中堅の西崎、新人の野原が選ばれ、殺人事件で収監中の元検事にして警部になった虎田が呼ばれることになった
特別捜査班は検察にも警察にも存在が認知されていない組織で、非合法な捜査を展開し始めるのであった
テーマ:男は寡黙に
裏テーマ:トドメはきちんと
■ひとこと感想
小沢仁志さんの特別なファンではありませんが、還暦記念で映画を作ると聞いて迷いながら参戦
というのも、普段はVシネマはほとんど観ないので、世界観もよくわからずついていけるのかが不安でした
それでも、極道アクションと割り切って観る分には楽しめる内容で、ガチで肉弾戦やっているところがえげつなかったですね
女優さんに蹴りがモロに入っているし、泥臭い組み合いで、サクサク鳴っている効果音が痛すぎて悶えてしまいます
冒頭のモンモン入り混じる浴場の惨劇から始まって、TAK∴さんの不穏なゆらゆら動き、最後は100人相手の大乱闘と、魅せ方が上手いなあと思いました
この手の映画で観たいシーンを凝縮したような感じになっていましたが、それよりも特筆すべきなのは、小沢仁志さんが前に出過ぎていないことだと思います
監督が出演する映画(今回は脚本)はたくさんありますが、自分を格好良く見せようとして、出演シーンを多くしたりするのが常なのですね
でも、今回は登場シーンはそこまで多くないけど、要所要所を締めるという絶妙な配分になっていたと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
韓国マフィアにボッコボコにされる日本ヤクザと、韓国マフィアを道具のように使う財閥というテンプレートのような設定ではありますが、元検事の警察官でしかも殺人犯で服役中という味付けは面白かったと思います
受け取った証拠のリレーも面白くて、今風のネットで話題というのも時代性があってよかったですね
犯人が見ただけでわかる親切設計で、その癒着を紐解いていくのですが、鍵になるUSBメモリーに過剰な説明もなくてスッキリしました
この手の記憶媒体奪い合いというのは過剰なまでに脚色されて、それが中心で動くのですが、今回は「そういえば」という感じにうまく背景に溶け込んでいましたね
ガジェットの使い方もさりげないけど、ものすごくわかりやすい振りにもなっていて、思わず「その銃掴め!」って思っちゃう「間」も絶妙でした
もう少しモタモタしているとイライラしてしまうのですが、そのギリギリの線で溜めていたように思います
アクションシーンも効果音で魅せるシーンと、見た目で魅せるシーンに分けられていて、乱闘シーンではしゃいでる村田とかはコメディっぽくなっていましたね
一応PG12はグロの方ということでしたが、エロ要員で女優さんを無駄遣いしないところに時代性を感じてしまいました
■アクション映画の醍醐味
アクション映画と言えば、己の肉体を駆使して肉弾戦を繰り広げるものから、カーチェイス、銃撃戦など色々あります
最近ではワイヤーアクションやカット割り、スピード調整などで効果的なアクションシーンを作ることは可能ですが、それぞれには弱点があります
ワイヤーアクションは浮遊感が出てしまい、重力を無視した動きになるために、ワイヤーアクションなんだとすぐにわかってしまうのですね
カット割が激しいものは見ていて目が疲れるのもありますが、それぞれのシーンが細切れになっているので、一連の動作に見せるには相当な技術が必要になります
スピード調整では、主にスローモーションと早回しの効果的な使用によって、演者のアクションにスピード感を与えますが、やりすぎると嘘くさい感じになってしまいます
また、ボディダブルを使って、スタントマンが演じる場合もありますが、こちらも顔のアップなどでカットが明らかに変わるので、細かく見ているとわかってしまいます
アクションの前後でリアルに起こるのは疲労感で、全てのアクションがキレッキレになるよりも、最後の方は疲れ果ててグダグダになる方がリアリティが生まれます
本作でも、虎田と金のラストバトルは時間が経過するほどに動きにキレがなくなって、体の可動域が狭くなっていきます
この泥臭ささは「体力」というものを描いていて、キャラクターの見た目に合わないとおかしくなるものだったりします
本作だと、虎田も金もそこそこの年齢で、鍛えていても息が上がるのが普通なのですね
ワンアクションを一息が続くまで続けて、そこでカットを入れずにリアルなインターバルを描くことができれば、それだけでリアリティというものに近くなります
これは「人VS人」の場合なので、超人同士みたいな異次元の戦いでは必要がないでしょう
異次元の場合は「人っぽくない」という戦い方を描く必要があるので、いかにして「人間にはできない戦い方をするか」というアイデアが必要になってきます
若者が大暴れする系のアクション映画でも、人が動く以上、疲労をどう描くかという命題はあって、さらに「ダメージ」についても細かく設定していく必要があります
本当に殴って傷を作るわけにはいかないので、特に露出している部分に関しての「ダメージと変化」というものへのこだわりは重要なのですね
よくありがちなのが、女性のアクションシーンで汗ひとつかいてないとかメイクが落ちないとか、汗の噴き方がスプレー噴射にしか見えないとか、ワンパターンの傷の増え方をするなどでしょう
アクションシーンで使われがちな廃屋や打ちっぱなしの工事現場などには「埃やゴミ」がありますので、そういったところで転がったり倒れたりすると、そういった汚れの付着というものは避けられません
これらの要素を再現するというのは非常に困難で、それゆえに本作のようなノープラン長回しという手法が実は一番効果的だったりするのかなと思います
■俳優人生を脚色する作品について
本作は俳優・小沢仁志さんが「自分の還暦を記念して自分で脚本を書いた作品」となっていて、キャラクターの中には「過去の自分」「今の自分」「未来の自分」というものが反映されているように思えます
と言うのも、完全な創作を作ることはかなり困難で、自分もしくは近しい人というものがキャラクターの中に宿らないと深みというものが出ないのですね
人は何層にも重なった人生を歩んでいて、経験値が増えるほどに「驚きがなくなり、戸惑いや怒りというものが少なくなっていく」という傾向があります
映画だと、新人・野原は初めて死体を見て吐きますが、他の先輩たちは見慣れていて、死体を見たという事象に対する反応というものはほとんどありません
この「反応」というものの積み重ねが人物描写には必要で、それを全て想像で賄うのは限界があります
本作だと虎田には小沢仁志さんの何かが宿っていますし、野原には坂ノ上茜さんの何かが宿っています
脚本を書いた本人は自分の内面を掘り下げていくことができるのでリアリティのある反応を描くことは可能でも、小沢仁志さんに新人だった頃があっても女性ではないので、その反応にリアルを持たせるのは想像だけでは厳しいと思います
こう言ったときに、当て書きという手法が取られ、これまでの本人との関わりの中で見てきたものというものが落とし込まれていくのですね
そして、その観察眼が鋭いほど、演じた本人は役に憑依できるし、作り上げていく中で本人の意見を吸収していって、さらにリアルな人物描写が行われることになります
これらの緻密な作業は「普段の信頼関係」によって左右されるのですが、それは「あなたのことをこう見てきましたよ」という一方的な他者視点を許容できるだけの関係が必要だったりします
なので、その信頼関係がない状態で当て書きを押し付けると、それは悪い意味ではレッテルを貼っている状態になります
でも、そう見えているという面は否定できなかったりするので、その見方に対するフォローというものが必要なのですね
当て書きというのが成功している時は、この信頼関係が抜群で、一方的な見方に対して、本人が肯定的であるという状況にあると言えるのではないでしょうか
本作では、これまでに見てきたもの(過去)で当て書きをされているキャラクターもいれば、実はこの方が面白いんじゃないかと考えてこれまでにない人物像(未来)になっている場合もありました
この未来視点になるには、これまでのその人物の過去(プライベートと仕事のいずれか)に対して細かな観察眼を持ちながら、それらに対するリスペクトを持って、それでも殻を破って欲しいという愛情が必要なんだと思います
個人的にこの映画を見て思ったのは、それぞれの演者さんがイキイキと演じていて、とても楽しそうに映画を作っているということなんですね
それがどうして生まれたのかというのは、一言で言えば人徳ということになるのでしょうが、それだけ人を愛し、人に愛されたからこそ、相互作用の生まれる人間関係というものができたのではないかと勝手に思っています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の特徴的なところは、俳優さんが脚本を書いているのに必要以上に前に出ていないところだと思います
これまでに「監督=主演」という映画をたくさん観てきましたが、必要以上に出番が多かったり、全てを自分の手柄にしたりと悪目立ちが多い作品が多かったように思います
でも、本作の虎田というキャラクラーは常に他のキャラクターの後ろにいるようなイメージなのですね
最終的には決戦の場において誰よりも前に出るのですが、彼が前に出るシーンは「手本を見せる」というメンター的な場合が多かったように思います
チームを作るのは平山の思惑で、チームをまとめるのは小泉の役割で、虎田というキャラクターは「過去の経験則と独自の情報網でチームの行き先を修正していく」という存在理由がありました
このキャラクター像というのは、そのまま映画の制作現場の小沢仁志さんの存在に近いのかなと思ったりもします
それぞれの役割において現場を任せ、そこに口出しすることはなく、自分のシーンにおいてはやるべきことをして、それによって問題点を隠さないという手法
これが本作の特徴的な構図になっていて、それゆえにそれぞれの現場において最高の仕事をしようという心意気が生まれているのだと思います
実社会においても、たとえば企業の上司として部下と関わる場面であるとか、学校の先生が生徒と関わる場面であるとか、親が子どもに接する場面などにおいて、どれだけ「結果に関わらず、その人が考え動いたことを信頼できるか」というのは試されている場面が多くあります
経験則からアドバイスという名の方向指示になっていたり、自分の敷いたレールに誘導したり、思考や行動そのものを制限したりと、言葉を飲み込まなければならないシーンにこそ「自分」というものが出ます
そう言った意味において、本作で行われていることは「それぞれの主体性を発揮した上でチームとしてまとまりつつ、結果を出すという方向性が徹底していた」ので、それゆえに完成度というものが高くなっているのかなと思います
これが意図されたものか偶発的なものなのかはわからないのですが、狙ってできるものではないと思うので、おそらくは映画の神様からのギフトなのでしょうね
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/383483/review/d955d7e9-582d-4094-bfe5-51e8984e29df/
公式HP:
https://www.badcity2022.com/