■純度の高い本気が体内を駆け巡るとき、人は既視感の中に新しいものを観た感覚を有する


■オススメ度

 

本格的な時代劇を堪能したい人(★★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.2.6(イオンシネマ久御山)


■映画情報

 

情報:2023年、日本、134分、G

ジャンル:仕掛人と呼ばれる裏稼業の人間が依頼を執行する様子を描いた時代劇

 

監督:河毛俊作

脚本:大森寿美男

原作:池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安(1972年、講談社)』

 

※「蔓(つる)」とは「仕掛人に仕事を斡旋する人物」のこと

※「起り」とは、「蔓に仕事を依頼する人物」のこと

※「仕掛人」とは、「蔓の依頼を受けて対象者を始末する暗殺者」のこと

 

キャスト:

豊川悦司(藤枝梅安:腕の良い鍼医者、裏の顔は仕掛人)

 (少年期:田中奏生

片岡愛之助(彦次郎:楊枝作り職人、梅安の友人、裏の顔は仕掛人)

 

柳葉敏郎(羽沢の嘉兵衛:梅安に仕事を依頼する蔓、家具師の元締め)

高畑淳子(おせき:梅安のお手伝い)

小林薫(津山悦堂:梅安の師匠)

凛美(お吉:梅安の妹)

 (幼少期:田中乃愛

 

田山涼成(善四郎:料理屋「万七」の主人)

天海祐希(おみの:料理屋「万七」の内儀、善四郎の後妻、元茶飲み茶屋の娘)

小牧芽美(おしず:梅安の仕掛を受ける善四郎の前妻)

菅野美穂(おもん:梅安が気にいる「万七」の女中)

朝倉ふゆな(お美代:新しくは入ってくる「万七」の女中)

 

大鷹明良(田中屋久兵衛:人入れ稼業の元締め)

八田浩司(留造:久兵衛の手下)

 

小野了(与助:浅草橋場の料亭「井筒」の主人)

 

でんでん(下駄屋の金蔵:梅安の患者)

鷲尾真知子(おだい:金蔵の妻)

 

趙珉和(御座松の孫六:盗賊頭)

六角精児(万吉/浮羽の為吉:大工)

 

早乙女太一(石川友五郎:刺客に追われる浪人、元嶋田家家来)

井上小百合(お千江:嶋田家用人の娘)

若林豪(善達和尚:お千江を助ける「常在寺」の住職)

 

板尾創路(嶋田大学:将軍家後側衆の旗本)

 

石丸謙二郎(伊藤彦八郎:久留米藩江戸藩邸の御用取次役)

中村ゆり(お香:彦八郎の妻)

 

大石昭弘(船頭)

椎名桔平(京の侍)

 


■映画の舞台

 

江戸:品川台町

 

ロケ地:

滋賀県:甲賀市

油日神社

https://maps.app.goo.gl/rac53o32T54gay3x8?g_st=ic

 

滋賀県:大津市

日吉大社

https://maps.app.goo.gl/xRLtC4uHT8dCRdir8?g_st=ic

 

京都市:右京区

梅宮大社

https://maps.app.goo.gl/xqQCXUSEZQAYNMLs9?g_st=ic

 

蓮華寺

https://maps.app.goo.gl/cYJDkghuhVSeZN3s5?g_st=ic

 

京都市:北区

神光院

https://maps.app.goo.gl/X1ojiSqPLXgbRcSF9?g_st=ic

 

京都府:宇治市

萬福寺

https://maps.app.goo.gl/SQsYPoWejwVMGUDA6?g_st=ic

 

京都府:亀岡市

へき亭

https://maps.app.goo.gl/RkwxxN8Vn2rMpg5V9?g_st=ic

 

龍潭寺

https://maps.app.goo.gl/w7zNZmTM1stWcpsNA?g_st=ic

 

京都府:船井郡

質美八幡宮

https://maps.app.goo.gl/5qhre3r7zmEdT7PG9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

江戸の品川で鍼医者をしている藤枝梅安には、裏の顔があり、「起り」から受けた依頼を「蔓」を介して実行するというものだった

梅安には同じ裏稼業をしている楊枝屋の彦次郎と積年の仲を持ち、時には「仕掛」の後に宿代わりとして訪れていた

 

ある仕掛が終わった日のこと、梅安は彦次郎の家を訪ね一泊することになった

翌朝、帰途に向かう梅安は霧のかかった森の中で、浪人が複数の刺客を倒しているところを目撃する

「医者の出番はない」とその場を去るものの、浪人は執拗に梅安の後を追ってきた

 

ある日のこと、梅安の元に「蔓」の喜兵衛が訪れ、「仕掛の依頼」を申し出た

それは、町にある料理屋「万七」の内儀である「おみの」を始末してほしいというものだった

一方その頃、彦次郎の元には「蔓」の久兵衛から依頼も舞い込み、それはかつて盗賊として名を馳せ、今は大工のふりをして身を潜めている万吉という男だった

 

二人はそれぞれの仕掛を遂行するために動きていたが、なぜか「万七」にて再会することになったのである

 

テーマ:因果応報

裏テーマ:仕掛に潜む愛

 


■ひとこと感想

 

普段はあまり時代劇を観ないのですが、本作はイオンが劇推ししていて、池波正太郎の生誕100周年のガチっぽさが気に入って鑑賞を決めました

時代劇といえば『水戸黄門』などに代表される勧善懲悪の物語が多い印象で、殺陣と呼ばれる見せ場があり、そしてはっきりとした結末が描かれるイメージがあります

 

最近は「時代劇風の新解釈」とか、少し気を衒ったものが多いのですが、久しぶりにガチの時代劇を観たなあという印象がありました

時代劇の専門チャンネルが制作に関わっていて、キャストも豊富で、ロケ地も豪華でした

 

物語は、梅安と彦次郎のバディものという印象が強く、それでも前に出ているのは梅安という感じになっています

これは、本作が「梅安の過去」を描いていたからであり、続編は「彦次郎の過去」になるので、ポジショニングが変わってくるかもしれません

 

エンドロール後にガッツリと続編への布石がありましたが、膀胱の容量が厳しいお方が客層でもあるので、告知してあげたら良いのになあと思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

過去に何度も映像化されている作品なのでネタバレもあったものではないのですが、実はテレビも時代劇もほとんど観ない人なので、「仕掛人」が何かしら知らない状態で観ていました

予告編から「殺し屋」であることはわかるのですが、ちゃんと鍼医者であるとか、彦次郎がガッツリ絡んでくるとは全く知りませんでした

 

それゆえに「新鮮な気持ちで物語に臨むことができた」のですが、幼少期に観たテレビの時代劇のイメージがガラッと変わるほどの本気度を感じてしまいました

映倫区分の関係で大人のシーンも匂わせなのですが、豊川悦司さんの色気がヤバすぎて、脱いでいないのにめっちゃヤバめの映像になっていました

 

物語は勧善懲悪系で、梅安が仕掛る相手が妹というのはビックリしましたね

何も知らない特典のようでいて、最後まで「本当に殺しちゃうのかなあ」なんて童心で観ていましたし、「実は、あれ生きてるんちゃうかな」とか思っていました

チープな時代劇でテレビでいいじゃんと思っている層とか、ネタ系時代劇に辟易している層とか、中の人が出しゃばりすぎている時代劇に飽き飽きしていた人には打ってつけの内容だったのではないでしょうか

 


仕掛人とは何か

 

現代の辞書などによると、仕掛人とは「ある目的を実現しようと画策し、働きかける人」のことを言います

「ブームを仕掛ける」みたいな感じで使われるヤツですね

江戸時代でも商売のために「仕掛け」をする商人はいて、ヒット商品を作り出した、なんて逸話もあります

 

この「仕掛人」が裏稼業となっているのが梅安のいる世界で、この世界における仕掛人とは「この世で生きていては仕方のない、生かしておいても人のためにならない人間」を「金で殺す」という稼業をしている人のことを言います

表稼業を持ち、裏稼業で稼いだ金を使う時は、伊豆などの遠方に行き、偽名を使ってお金を使っていたとされています

組織的な殺人で、元締めは「蔓」と呼ばれる「地域の実力者」で、依頼人のことを「起り」と言います

「蔓」は「起り」の対象になっている人物を情報収集役に下調べをさせ、それによって「標的を仕掛人に教える」という順序があります

 

また、「まじない」と呼ばれる「仕掛のための準備」があり、梅安はこれを特に重視していました

「まじない」によって、仕掛ける相手を調べ尽くすのですが、映画ではおもんを手籠にしておみのの情報を仕入れるシーンがこれに当たります

 

ルールも細かく設定されていて、

蔓から仕掛ける相手を聞いた時点で引き受けたことになる

最後までやり遂げる

殺す相手の情報は最低限だけ

相手が身内でも仕掛ける

起りのことを聞かない

というものがあります

これらはすべて、映画の中でそれとなく説明されていました

 

また、蔓にもルールがあって、

恩義で仕掛けを強要させない

後味の悪い仕掛けを依頼しない

期限を急に変えない

というものがあって、梅安が「善四郎の起りで受けた久兵衛の仕掛け」に対して、久兵衛を始末したのにはこのようなルールがあったからだと思います

 


時代劇こそ輸出すべきコンテンツ

 

本作を観ていて思ったのは、時代劇は海外に輸出できる日本独自のコンテンツなんじゃないかなというものでした

ここまで完成度の高い時代劇ならば世界展開できると思うのですね

字幕問題はあると思いますが、「わかりやすい勧善懲悪」と「悪人がはっきりしている」ので、子どもが観てもわかる内容だったりするのですね

でも、ハードルは言語ではなく、「男尊女卑の時代」という一部の団体を刺激するからのようにも思えます

 

かつての日本は完全なる男性社会なのですが、実はその社会であることで女性の優位性というものがありました

いわゆる「男は立てとけばOK」というスタンスで、うまいこと転がせる女性というのは確かにいます

転がされているとも知らずに大きな顔をしていて、本作だと善四郎がその典型のようになっています

女性に対して手をかけようとする(仕掛け以外)のもこの男だけで、それが罰される世界なら受け入れらるのかもしれません

 

そもそもが他国の過去の文化に対して、現在進行形で文句をいう方が馬鹿げています

そういう時代があって、それが社会の変容の中で受け入れられなくなったことで時代は動いているのですね

なので、今の風潮を作った基礎というものがこの映画の中でも描かれていました

それは善四郎がおみのを殺して、自分は生き存えるという世界線でした

それが成し得なかったのは、ひとえに「仕掛人を怒らせたから」という単純なものではありますが、掟に逆らい「世の中のためにならない人を殺めるのではなく、私利私欲のために仕掛人を使ったから」という性根の腐った生き方をしていたから、だと言えるでしょう

 

善四郎が仕掛人を利用して世に蔓延る世界は、仕掛人が権力者の思いのままに動くという世界になります

公にはならなくても、要人に有利な流れが生まれ、権力者がその地位を安定なものにする

どこかで観たような過去ではありますが、権力者の犬に信念がない世界だと、そのような世界に近づいていきます

男が男を転がしているのですが、そう言った流れが生まれると「男尊」はより強固になり、暴力性の解放によって、犠牲になる女性が増えるというのは目に見えた「予想可能な未来だった」と言えるのでしょう

 

時代劇の多くは「腐敗した権力」と戦うか、権力者が善人というファンタジーがベースになっているので、世界共通でウケる可能性はあります

問題は、日本語独特の戦国時代の世界観をどのような字幕にして、諸外国でアピールするかというところに尽きるのかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

良質なコンテンツにはいくつかの特徴があって、その特徴が制作者と観客のそれぞれの思惑と合致した時にムーヴメントが生まれます

わかりやすく言えば「観たいものを想像以上のクオリティで観ることができた」「観たいものと違ったけど、新しい視点で満足できた」の2点だと言えます

本作は前者の「観たいものを観れた」というもので、これには「相対的に引き合いに出される作品」というものがあったりします

具体的な作品名を挙げるのは控えますが、「観たかったものが観れなかった」という鬱憤が「ここ数年の時代劇映画で連発された」と事実は否めないと思います

 

このような事態にどうしてなったかと言えば、「これまでに映像化されたものでは既視感があって満足しない」という前提(思い込み)があって、あの手この手で「観たことない視点探しをする」という状況を生み出していました

「藩の金銭問題」「戦国武将の夫婦問題」「解釈を交えてパロティにする」などのように、「時代劇の持つ強みだけでは勝てない」と判断されて企画が生まれたのだと思います

その流れが悪いのではなく、結局は小手先で王道を避けたが故に、生まれたもの中に何かが足りなくて失敗に繋がっているようにも感じられます

 

目先を変えた「戦国時代あるある系」はネタ探しが大変で、英雄に華のある俳優を配置、もしくは「売り出し中の若手をブッキング」という「事務所主導の俳優のプロモーション動画」になることもあります

そう言ったものが積み重なり、テレビでは観られない時代劇を求めるファンの声は増大していきます

そんな中で生まれた王道がここにあって、それはこれまでに何度も映像化されてきたはずの時代劇でした

それなのに、近年の時代劇の中では無類の満足度を誇っています

 

この映画で新しいことが行われたという実感はなく、ただ画作りにこだわり、妙役を配し、実直に物語を紡いだ結果、専門性と質の高い作品になっています

時代劇でありがちな用語の解説も普通にあるし、派手な立ち回りもあるし、女中を口説く俗世のシーンもあるし、情けない男と気取った女、無口な仕事人など、これまでに何度も描かれてきたものだと言えます

それなのに評価が高いのは、「観たい内容の質をとことんまで磨き上げた」からなのでしょう

スクリーンから伝わる本気度というものを言葉で表現するのはなかなか難しいのですが、そこには「仕掛人はかくあるべし」という美学があって、制作サイドのプライドが凝縮しているのかなと感じました

 

本作では、作る側にも「積み重なった鬱憤」があるような感じがして、過去のいくつかの迷走は必要悪だったのかもしれません

そうした経験値が積み重なって、どこかで「違う」と思ったものがあって、それが飽和してぶつかった

その先に生まれたものは「本物を作る」という骨子を作り、それがそれぞれの魂と共鳴しあった

そういったものがスクリーンの中と外で手を握り合ったのが本作なのかもしれません

実に良いものを観せていただいたというのが正直な感想で、この作品に関わったすべての人に敬意を表したいと思います

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384157/review/dd5ab919-da09-4369-ae5e-02c8e7e855ae/

 

公式HP:

https://baian-movie.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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